2015年12月27日

2015年下半期  読んで面白かった本のベスト10 (下)


(これは、本来だと12月30日に掲載されるもの。 しかし、それだと正月休みに突入して、正月休みの読書を楽しみにしておられる方には、遅すぎる発表になります。「すでにベスト10が完成しているのなら、早めに公開して欲しい」 という意見が寄せられました。 そこで、昨年からは最終号に限って繰り上げて発表することにしていました。 昨年は28日でしたが、今年は1日早い27日の発表になりました。 少しでも、皆さんの参考になれば幸甚です。 どうかよいお年をお迎えください)


今期は読書の数が多かったので、12月早々で下半期のベスト10を締め切った。
今年 下半期の1位と2位を決めるのには、やはり迷った。
なにしろ、■印のトップ10候補が105点もある。
その中から、どれをトップ10にもってくるかで 大変に悩まさせられた。 
そして、当然トップ10に入ると思っていた ●中田亮著 「理系社員のトリセツ」 ●井上功著「なぜエリート社員がリーダーになるとイノベーションは失敗するのか」 ●垣畑光哉著 「これからの会社でしょ」 ●高野秀行著 「異国トーキョー漂流記」 ●池井戸潤著 「ロスジェネの逆襲」 などが、ベスト10から姿を消してしまった。


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◆10位
10位は高野秀行氏の 「異国トーキョー漂流記」 にするか、それとも佐々木喜樹氏の 「家は買うものでもなく つくるものでもなく 育てるもの」 にするかで迷った。 佐々木氏の題名は気に入ったが、内容は残念ながら私の意に沿うものではない。
これに対して、高野氏の筆致は 快調そのもので、歯切れがよい。 どうしても高野氏に残って欲しいと願ったが、何しろこの欄は住宅屋の書評欄。 住宅・建築業界から無理をして16点を ベスト10候補に上げたほどだから、文章力の面白さだけで高野氏を選ぶわけにはゆかない。
かといって、佐々木氏の提案に納得したわけではない。 いや 本音を言うと、佐々木氏に代表される陳腐な議論には、聞き飽きていた。
それなのに、佐々木氏を選んだのは、このところ住宅業界のイノベーション不在。 これはと言えるほどのモノが見当たらない。
そういった事情から、やむを得ず佐々木氏に軍配をあげたのだが、いまだに迷走は続いている。


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◆9位
この著書は、10月20日付のこの欄で紹介している。
それを読んで頂くのがベストだが、多忙の方のためにとりあえず概略を説明しておきたい。
イ―ロン氏は南アフリカ生まれで、ペンシルベニア大で経営学と物理を学んでいた。 そして、卒業した時はインターネットブーム。 大学に残るよりも実践で発言力をつけることが先決だと考えた。 そこでZip2を立ち上げルと共に、Xドットコムも成功して 31才にして180億円を手に入れたというから、並大抵の手腕ではない。
そのカネで宇宙産業を開発することにしたが、3回連続でロケットの打上げに失敗して4回目でやっと成功。 けれども、180億円のうち100億円を注ぎ込む破目に‥‥。 しかし、使捨てロケットではなく、回収可能なロケットの開発と3Dプリンタによるロケットエンジンの開発で、費用はNASAの1/100の低価格で、2020年には100万人の人間を火星へ送り出す計画という。
一方、電気自動車も快調で、5000億円を投資して発電用のギガ・ファクトリーを稼働させ、2020年には350万円の大衆用電気自動車を発売するという。
どこまでが本音かは分らないが、アメリカの経営者というのは、やたらに前向きの姿勢を保っているには感動させられた。


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◆8位
小説のベスト10入り候補は、38点と一番多かった。 その中から急遽 池井戸潤の昔の小説を選んでしまった。 さすがにこのムリ押しのままでは、皆さんの冷たい視線を感じて居心地が悪い。 そこで、如何にも小説らしい小説として、表記を併せて選んだ。
私は、山本一力氏の作品はかなり読んでいる。 それなりに最後まで楽しく読ませてくれるのだが、かと言って特別に印象に残っているものはない。 そこいら新人作家のように、1/3も読んだら我慢が出来ず、思わず投げ出すようなことは一切なかった。 何を読んでも、最後の1ページまで、律義に付合いたくなってくる。 これが、実力と言うのだろう。
しかし、その中にあってもジョン万次郎の生涯を描いた作品は、著者にとってもライフワークと言ってよく、丁寧な取材が目立つ。 私も一気に5巻までを読んだが、まだ万次郎は 船長のはからいで 航海術の専門学校に入学したばかり。 したがって、当分は続編が出されることだろう。 とくに、この5巻の立志編はなかなか読ませる。
「この著書の、どこが魅力か?」 と問われれば、「やはり ジョン万次郎の人生そのものの魅力に惹かれたのですかね‥‥」と答えるしかない。 筆者がジョンマンの魅力に迫っているのは間違いない。 よい主人公を選んだものだと感心。


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◆7位
この著書は、今年の7月20日と25日に、このブログ欄で紹介している。
著者の嶋田洋平氏は1976年生まれと言うから、ギリギリの30才台。 ライオンズ・ファンの祖父が、北九州市で開いていた食堂に 「らいおん食堂」 という名をつけていたので、独立した時の設計事務所名を 「らいおん建築士事務所」 と命名したのはいただけない。
筆者は東理大建築卒。 恩師の小嶋先生は 「君たちか社会人になった頃には、日本ではバリバリ頑張るほどの仕事はもうない。 したがって、海外へ行って勉強しろ!」 と言うのが口癖。 それが証拠に、それまで160万戸あった新設住宅戸数が、1900年の後半には半減している。
実際、著者が独立するまでの仕事や、独立してからも請負ったはすべてリノベーション。
リノベーションというのは、リ・イノベーションのこと。 既存の価値やアイデェアを、新しい技術革新によって創り直すという作業。 具体的な内容はリフォーム業。
父が地下に入居していた北九州市のRC造の貸しビルで、「4階建の地上部門を借りていた婦人服専門店が不況で店を閉じることになった。 なんとか大家さんの相談に乗ってやって欲しい」 と電話があったことからこの物語は始まっている。 そして、そのRC造4階建と、木造2階建てを分割して若者に貸して、“若者のまち”に大改革できたことで、筆者は有名人に‥‥。
しかしこの著書は、本人が書いたものではなく、劇作家をゴーストライターに起用しているので話が大変に理解しづらい。 だが、新築時代が去った これからの住宅業界の在り方を考えるには、示唆に富む面も多い。 そういった意味で参考になろう。


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◆6位
この著は、あの 「北海道の家具屋のニトリ」 から、「日本のニトリ」 へ、さらには 「世界のニトリ」 へと、今まさに脱皮しようとしているニトリ会長・似鳥昭雄氏が、今年の4月に日経新聞の 「私の履歴書」 に書いたもの。 自叙伝を書くくらいだから若くはなく、71歳に。
それでも現在は第2次30ヶ計画の真っ最中で、店舗数3000店、売上げ3兆円を目指して頑張っている。 週刊書評では10月9日号で紹介済み。
樺太生まれの著者は、父がシベリアへ抑留され、母は札幌へ引上げた時にはヤミ米屋で生計を立てていた。 決して恵まれた家庭ではなく、勉強も出来なくていつもビリ。 それなのに、北大の経済学部へ進学しているから七不思議の1つ。
北大を卒業したが仕事がなく、コンクリート屋をやっていた父が 不況で工場を畳むという。 その工場跡地に、近所になかったという単純な理由で家具店を開いたが、主人公は口下手で商売にならない。 だったら、商才に長けた奥さんを貰うべきだと言われ、現在の百々代さんと結婚して2号店が出せるまでになった。
似鳥氏にとって 画期的な出来事は、ペガサスクラブの故渥美俊一氏との出会い。 そこで、徹底的に企業教育を受け、72年には第1次30ヶ年計画を発表している。 30ヶ年で100店舗、1000億円を目指すというもの。 1年遅れで達成出来、そして現在は第2次30ヶ年計画を推進中。 当然アメリカや中国における支店網も考慮に入れている。 国内は白井社長に任せて、中国やアフリカなどを飛び回っている筆者のバイタリティには頭が下がる。


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◆5位
今年早々に、中公新書より 「地方消滅」 という大きなアドバルーンを打上げた筆者は、「地方を消滅させないためには、具体的に何をしなければならないか?」 という超難しい疑問に対して、全国10ヶ所に及ぶ成功例を示したのが本著。 この本は、9月の25日のこの欄で紹介しているので、余裕のある人は読んでいただきたい。
筆者は、「これからの地方創設ビジネスのカギを握るのは、若者、ヨソ者、ITパワーだ」 と断言している。 この著を読めば読むほど、筆者の言わんとすることに納得させられてくる。
そして、それは地方創設だけに必要な案件ではなく、わが住宅業界にとっても不可欠な必要案件だと気付かさせられる。 ともかく、全国10ヶ所の成功例の全てをここに紹介するわけにはゆかない。 項目だけを挙げておくから、後は各人で調べて頂きたい。
・今治タオルの奇蹟の復活。 これについては、昨年12月26日付の週刊書評を参照。
・山形・鶴岡市の大学バイオ・ベンチャーの 「ハイテク蜘蛛の糸物語」。
・宮城・山基町の、「新市場を切り開くIT高級イチゴ」。
・福井・鯖江市の、「メガネのまち」 から 「オープンデーターのまち」 へ。
・栃木・宇都宮市の、「道の駅再生」 や 「大谷石採石跡地を利用したツアーやレストラン」。
・熊本・山江村の、「献上クリのブラインド復活作戦」。
・和歌山・北山村の、「日本一人口が少ない村が 《じゃばら》 で大儲け」。
・岡山・西粟倉村の、「森林・仕事・人を育てる森の学校」。
・北海道・ニセコ町の、「観光協会の株式化」 と 「カリスマ外人の活躍」。
・島根・海土町の、「Iターン組が人口の10パーセントを占める離島」。


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◆4位
「遺伝子組換え作物は、場合によってはガンに罹るおそれがあるので、なるべく食べないようにしょう!」 などと、私は無責任にも考えていた。 いや、「まともに考えたこともない」 というのが、正しい答えかも知れない。
ところが、「遺伝子組換え作物がガンになると証明出来たら、それはノーベル賞ものだ」 と言われれると、考えこんでしまう。 それよりも 食料油や家畜のエサとして、大量の遺伝子組換え作物が日本でも使われており、何一つ問題が日本でも世界でも生じていない。 むしろスーパーなどが 「これは遺伝子組換え作物ではありません」 と、高く売りつけていることが問題 !?
この著書は、日本で初めて「遺伝子組換え作物の正当性」を真正面から捉えた力作。
著編者の小島氏は毎日新聞の記者で、左翼かぶれで初期は遺伝子組換え作物反対派の論客。 それが2002年にアメリカの遺伝子組換え作物の現場を取材して180度考えが変わった。 そして 第1部で 「なぜ誤解が続くのか」 との解説を書き、第2部では学者、生産者、報道関係者 14人の寄稿を得て客観性を立証しているし、第3部では アメリカを中心とする17人の研究者、作付農家、評論家、企業人を動員して、その正当性を訴えている。
特徴的なことは、学者・研究者は最初から遺伝子組換え作物の正当性を理解しているが、それ以外の人々は、最初は 「遺伝子組換え作物の反対派」。 それが途中で現実を知って、著者同様に賛成派に鞍替えしている。 私と同様に 最初はまともに考えておらず、アンチ遺伝子組換え反対派の情報に踊らされていたにすぎないようだ。
確かに、アメリカでは遺伝子組換え作物のタネは3割も高い。 しかし除草のための労働は極端に減少して、収穫量は飛躍的に増加しており、農家の支持が厚い。 現状が続けば、日本は中国に置いてゆかれる。 この著書の発刊を機に、日本の意識改革が変革されることを期待したい。


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◆3位
弱肉強食が動物の世界の論理。 これに対して、植物の世界は平和的に共存しており、私共に 安らぎを与えてくれる。 森林は 素晴らしい酸素を与えてくれるし、美しい花を咲かせる路上の草。 どれ1つとっても争いのない世界。 イスラムのような憎しみもテロもない世界。
こんな風に、私は植物の世界をロマンチックに見てきた。
ところがこの著書によると、植物相互間の競争は激しいし、植物とバクテリア、植物と昆虫の争い、さらには植物と動物、植物と人間との争いは凄いものだという。 ただ、植物が声をあげないからわれわれは感じていないだけ‥‥。
36億年前までは、地球も火星や金星と同じように2酸化炭素に囲まれていた。
そこへ登場したのが あらゆる生命の元になった水中プランクトン。 太陽光を利用して光合成というシステムを手に入れ、2酸化炭素と水を利用してエネルギーと生命を生み出した。 その時に廃棄物として酸素を吐き出し、これが次第に溜まって太陽の紫外線を遮断するオゾン層になり、やがて病原菌となるバクテリアとか昆虫という強敵を育てることになった。
病原菌の存在を察知した植物は、細胞壁を厚くするなどの抵抗物質の生産を始めたが、時間がなくて病原菌を細胞内に入れてしまった。 この時、植物細胞がとった手段は自爆。 植物も死ぬが病原菌も死ぬ。 しかし、その後ポリフェノールやビタミン類の抗酸化物質の開発で、植物は微生物との共存関係を構築してゆく。 そして、これは何も 微生物とは限らず、昆虫類や動物との共存関係も構築してゆく。
しかし、最後まで共存関係が出来なかったのは、植物同志の光を巡る争いと人間との共存。
植物は光合成をするために少しでも大きくなり、葉っぱを拡げようと必死。 このため幹をいい加減にして蔓で葉っぱだけを成長させたツタやアサガオなどが生まれた。 また、乾燥地で水分の上昇を防ぐサボテンのようなトゲの葉も生まれてがた。
そして、山を荒らしている人間は植物との共存を放棄して、唯我独尊の道を歩み始めている。


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◆2位
上位4位までは、いずれも 「独善的週刊書評」 で取りあげている。 1 位は12月7日、2位は11月13日、3位は11月27日、4位は10月15日と言う具合に。 したがって、週刊書評とダブル点があることを前もってお断りしておきたい。
ご案内のように 筆者は岐阜の生まれで、慶大を出て三菱銀行に入り、2011年に 「下町のロケット」 で直木賞を受賞した売れっ子の経済小説家。
私は著者のファンで、書かれたものはほとんど読んでいる。 ところが、この小説だけは 見逃していた。 どうでもよい内容だったら、知らぬ顔で頬被りが出来る。 ところが、この小説はなみある作品の中で、面白さでは抜きん出ている。
たしかに 重厚さという点では、「ロスジャネスの逆襲」 などの方がよく構想等が練られており、小説の価値としては上位にランクされよう。 しかし、小説としての面白さは、この方がはるかにすぐれている、と私は感じる。
著者が 「あとがき」 の中に書いていることだが、この小説は銀行マンからは不評のようだ。
いわく、「今の銀行には、こんな臨店チームなどの存在はあり得ない」
またいわく、「女だてらに、上司にたてつく銀行ウーマンは見たことがない」 など。
筆者は、そんな批判は 折込済み。 それよりもエンターティメントとして楽しむことが先ではないか! 空想の世界に羽根をひろげることこそ、小説が果たさなければならない仕事ではないか!、と問うている。
この小説は 8つの物語からなっている。 いずれも、かつての部下だった花咲女史‥‥別名 狂咲君の武勇伝。 その面白いことと言ったら‥‥。


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◆1位
私は建築業界人。
したがって、世界最古で 巨大な石造ピラミッドの建造物には、無関心で居られるわけがない。
しかし、今までのピラミッド論争は、何のために建てられたのか、それは本当に 墓が目的であったのか、また こんな巨大な石造のためにどれだけの労働力が必要であったか‥‥ということに集中していて、社会的背景が無視されていた。
かつてテレビでは、エジプト学の権威者として、吉村作造早大名誉教授が やたらにもてはやされていた。 私もテレビをよく見たが、吉村理論には納得できない点も多かった。 吉村論も ナイル河の西側にピラメッドが多いのは、西が死の世界であり、建造した労働者も管理した人間も 河の東側に住んでいて、毎日10キロもギザの現場まで歩いたと考えられていた。 それどころか、石材までもが東側で加工されてから運んだ‥‥というドグマが支配していた。
ところが、20世紀の末になってアメリカのマーク・レーナー博士が、最大とされているフク王のピラミッドのすぐ河西の脇に、ピラミッドを創るために建造された都市‥‥ピラミッド・タウンを発見するという偉業を成し遂げた。
レーナー博士は、石材を発掘し、それを加工したり、積みあげる直接労働者だけで4000人は必要と考えた。 そして、石を掘ったり、加工したり、運んだり、積みあげるための道具・工具を作る人や、食料や必要品を手配する人、さらには食事を作る人までを含めると2〜3万人の人が必要になる。 2〜3万人というと、古代では立派な都市となる。 その都市はフク王のピラミッドの近くにあり、しかも石材も河の西で用意された、という仮説に立って測量師だけをつれて、フク王のピラミッド近くを測量し、6メートルにおよぶ発掘現場を特定した。
そして1989年から本格的な発掘に取り掛かり、世界20ヶ国からの研究者の協力を得て、ピラミッド・タウンの全貌を発掘。
著者は、このプロジェクトに1992年から2008年までの16年間に亘って加わり、発掘作業に携わっていた。
ただし、そのプロジェクトも、2010年に起こった 「アラブの春」 の勃発で、ギザの発掘は中断。 惜しまれるマラソン発掘は、一段落となっている。



posted by uno2013 at 12:14| Comment(0) | 半年間の面白本ベスト10 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月25日

2015年下半期  読んで面白かった本のベスト10 (上)



恒例の、独善的面白本のベスト10。
毎回同じことを書くが、日に200冊も出版される本を、一人で選択しょうとすることが、そもそもムリな相談。 自分で書店を開いておれば、片っぱしから読んで選択も出来るだろうが、偏っていることを最初から認めざるを得ない。
下期は、乱読気味だった上期よりも4冊も多い455冊。 2.49冊/日というハイペース。 

その中で、レベルに達していると私が感じた本だけを紹介しているが、これがなんと142冊と31%にもなった。 上期は司馬遼太郎の43点が含まれて161冊になったが、それにしても甘い。
中で、ベスト10候補に上げられるものには■印をつけているが、これだけでも105点と前回の71点に比べて48%も増加‥‥。 これにはいささか反省。 

△印は、1年以上に前に出版されたもの。 ただし、文庫本では今年の出版であっても、単行本は3年以上も前に出版されたものが多いので、文庫と断ってある本には要注意。

上期の中では、何と言っても圧倒したのが小説の38冊。
前期は34冊の紹介だったから、4冊も増えた。 なかでも、古いもので、まだ読んでいない小説を重点的に読んだら、これはという面白いものに多く遭遇出来た。 小説は 時間を忘れさせてくれるので、たまに小説がトップになるのも悪くはない。

次いで多かったのが 「経営・経済・政治」。
小説よりは1点足りなかっただけでが、今期は37冊と大活躍。 前期は25冊と3位に後退しただけに、久々の躍進には期待が持てそう。
 
次いで多かったのは 「ノンフェクション・旅行」 の19冊。 前期は司馬遼太郎関係著作がやたらに多かったのだが、これが定位置というところ。 
逆に落ち込んだのは、「環境・農林水産・食品・医療」 の17冊。
今まで必ず20冊以上を占めていたのだが、最近環境問題とか、農林水産関係に目立った新技術の動きがなくなっているセイかもしれない。 しかし、医療関係では新しい動きが目立ってきているので、巻返えしに期待しょう。

そして、いつもビリだった 「住宅・建築」 が、今期は16冊と、「科学・教育・技術」 の15冊をたった1冊ながら上回った。 しかし、住宅関係では新しい技術関係の著書に見るべきものが少なく、エクスナレッジ関連の雑誌系統が伸びているのだから、あまり褒められたものではない。

そして、「科学」 関係が伸びが鈍い。 これは前回も書いたことだが、残念ながら私はITには弱く、読書の範囲が限られる。 悔しいが、それが強く反映しているのだと思う。


【環境・農業・食品・医療】 17冊
・牛と土                              眞並恭介  集英社
・異常気象と地球温暖化                鬼頭昭雄  岩波新書
■ゆびさきの宇宙                      生井久美子  岩波現代文庫
■農業で成功する人、うまくいかない人     澤浦彰治  ダイヤモンド社
■隔離の記憶  ハンセン病と命と希望と   高木智子  採流社
■わたしの畑の小さな世界                木村秋則  ブラフィス
■笑う避難所                          頓所直人  集英新書
■「玄米」のエビテンス               渡邊昌外10人の医師  キラジェンヌ
■地域に希望あり                      大江正章  岩波新書
・炭水化物を食べ過ぎ早死をしてはいけません 江部康二  東洋経済
■ヒトはこうして増えてきた                 大塚柳太郎  新潮選書
■地方創生ビジネスの教科書                 増田寛也  文芸春秋
■パーマカルチャー事始め                   臼井健二・明子  創森社
■誤解だらけの遺伝子組換え作物             小島正美 エネルギーフォーラム
■古世代                           川崎悟司  ブリックマン
■里海資本論                      井上恭介・NHK取材班  角川新書
■なぜドイツはエネルギーシフトが進むのか   田口理穂  学芸出版


【科学・技術・教育】 15冊
■猫はなぜ二次元に対抗できる唯一の三次元なのか 斉藤環  青土社
・空想科学「理科」読本                   柳田理科雄  大和書房
■アーキテクチャーの生態学               濱野智史  ちくま文庫
■風はなぜ吹くのか、どこからやってくるのか   杉本憲彦  べレ出版
■IQは金で買えるのか                     行方史郎  朝日新聞出版
・わたしの土地から大地へ              セバスチャン・サルガド  河出書房
■未来世代の権利・地球倫理の先覚者Y・クストー 服部英二編訳  藤原書店
■進化するプラットフォーム・角川ネット講座J  出井伸之監修  角川学芸出版
■次の本へ (2014)    苦学堂編  苦学堂
■理系社員のトリセツ                    中田亮  ちくま新書 
■なぜ人は宇宙をめざすのか              宇宙人間学研編  線文堂新光社 
■子どもはみんな天才だ!                  ひすいこたろう  PHP  
■史上最強のCEO イ―ロン・マスクの戦い      竹内一正  PHP新書
■イカの不思議                         桜井泰憲  北海道新聞
■アリスの奇蹟                 キャロライン・ステジャンジー  悠書館


【経済・経営・政治】 37冊
■豆腐バカ                           雲田康夫  集英社文庫
■もしも社長がセキュリティ対策を聞いてきたら  蔵本雄一  日経BP
■日本の財政「最後」の選択                伊藤隆敏  日経出版
■プレゼンは「目線」で決まる              西脇資哲  ダイヤモンド
・ポィントサービス戦略                    菊池一夫  アスペクト
・スターバックス物語                      梅本龍夫  早川書房
■企業戦略                          鈴木貴博  KADOKAWA
■プレゼンは「目線」で決まる                西脇資哲  ダイヤモンド
・ポイントサービス戦略                     菊池一夫  アスペクト
■日本スターバックス物語                   梅本龍夫  早川書房
■企業戦略                            鈴木貴博  KADOKAWA
・血で血を洗う「イスラム国」殺伐の論理      小瀧透  飛鳥新社
■中村修二劇場                       日経BP特別編集班  日経BP
■台湾人と日本精神                        蔡焜燦  小学館
■タレントの時代                         酒井宗男  現代新書
■琉球王朝のすべて                   嘉納大作・上野隆央  河出書房
■三重スパイ・イスラム過激派を監視した男     小倉孝保  講談社
■話し方より大切な場の空気の説得術           松下周平  KADOKAWA
・石油と日本                          中嶋猪久生  新潮選書
■「強欲チャンプル」沖縄の真実              犬高未貴  飛鳥新社
・地域再生の戦略                       宇都宮浄人  ちくま新書
■新自衛隊論                       自衛隊を活かす会  現代新書
■小さな革命・東ドイツ市民体験            ふくもとまさお  言叢社
■ルポ過労社会                          中澤誠  ちくま新書
・400円のマグカップで4000万円のモノを売る方法  高井洋子  ダイヤモンド
■運は創るもの                         似鳥昭雄  集英社文庫
■なぜエリート社員がリーダーになるとイノベーションは失敗するか 井上功  ダイヤモンド
■これからの会社でしょ                    垣畑光哉  ダイヤモンド
■世界から戦争がなくならない本当の理由       池上彰  詳伝社
■検証 大阪維新革命                  上山信一・起田馨  ぎょうせい
△オバマ「黒人大統領」を救世主と仰いだアメリカ  越智道男  明石書店
△2020年の産業                        野村総研  東洋経済
■△社長の心得                       小宮一慶  ディスカバー21
■△住んでみたドイツ・8勝2敗で日本の勝ち     川口マーン恵美  講談α選書
■△戦後史の正体                        孫崎享  創元社
■△日本の問題 (イタリア人記者の見た3.11)    ビオ・デミリア  幻冬舎
■△そうだったのか! アメリカ               池上彰  集英社文庫


【小説】 38冊
■繭と絆・富岡製糸場物語                植松三十里  文芸春秋
・ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ        佐藤賢一  文芸春秋  
■マッサン (下)                         羽原大介  NHK出版
・タルト・タタンの夢                    近藤史恵  創元社推理文庫
・ノベル11、ブック18                 ターグ・ソールスター  中央公論
■ジョン万 5、立志伝                     山本一力  講談社  
■COU HOUSE                           小路幸也  ポプラ社
■分解日記                            大山淳子  講談社
■負けるもんか・正義のセ                 阿川佐和子  角川書店
■あしながおじさん                      ウェブスター  光文社
■アニバーサリー                        窪美澄  新潮文庫
■亡国記                              北野慶  現代書籍
△団塊の秋                             堺屋太一  詳伝社
△怪物商人・大倉喜八郎伝                 江上剛  PHP
△約束の海                             山ア豊子  新潮社
△ザ・エクセレント・カンパニー            高杉良  毎日新聞
■△デフォルト                        相場英雄  ダイヤモンド
■△正義のセ (3)                        阿川佐和子  角川書店
■△ロスジェネの逆襲                    池井戸潤  ダイヤモンド
■△七つの会議                          池井戸潤  日経出版
■△儲けすぎた男・小説安田善次郎           渡辺房男  文芸春秋
■△かまさん                            門井慶喜  詳伝社
■△恩はあだで返せ                       逢坂剛  集英社
■△隠蔽指令                            江上剛  徳間文庫
■△ベトナムの桜                         平岩弓枝  毎日新聞
■△武田信玄 (1〜5)                       新田次郎  文春文庫
■△天使の報酬                           真保裕一  講談社
■△炎の経営者                           高杉良  文春文庫
■△海賊とよばれた男 (上)                  百田尚樹  講談社
■△不祥事                           池井戸潤  実業之日本
■△レッドゾーン (上) (下)                 真山仁  講談社
■△草の記憶                           椎名誠  集英社文庫
■△おれたち花のバブル組                   池井戸潤  文芸春秋


【ノンフェクション・旅行】 19冊
・アヘン王国潜入記                       高野秀行  集英社文庫
・定食ツアー・家族で亜細亜                 今柊二  亜紀書房 
・遠野物語拾遣                     柳田国男・京極夏彦  角川文庫
・絶景の飛行機 (写真集)                         エクスナレッジ
・武士はなぜ腹を切るのか                  山本博文  幻冬舎
・そうだ、高野山がある                    片山恭一  バジリコ
■キラキラネームの大研究へ                伊東ひとみ  新潮新書
■吉祥寺「ハーモニカム横町」物語           井上健一郎  図書刊行会
■山ア豊子スペシァルガイドブック           林真理子外多数  新潮社
■人質460日                    アマンダ・リンドハゥト  亜紀書房
■地球の仕組みと生命の進化 46億年           西本昌司  合同出版
■誰も知らない東京スカイツリー               根岸豊明  ポプラ社さら
■瀬戸内の海賊・村上武吉の戦い               山内譲  新潮選書
■ピラミッド・タウンを発掘する               河江肖剰  新潮社
△絵のある自伝                          安野光雄  文芸春秋
△人妻魂                         嵐山光三郎  マガジンハウス
■△巨流アマゾンを遡れ                    高野秀行  集英社文庫
■△異国トウキョウ漂流記                  高野秀行  集英社文庫
■△さらば東京タワー                     東海林さだお  文芸春秋


【住宅・建築】 16冊
・日本の名作住宅の間取り図鑑           大井隆弘  エクスナレッジ
・日本インテリアの歴史                 小泉和子  河出書房
・まちづくり学への招待                 オオバ技術本部  東洋経済
・定本 パースの教科書         ジョン・モンタギュー  パイインターナショナル
■建築の大転換                  伊東豊雄・中沢新一  ちくま文庫
■ぼくらのリノベーション まちづくり    嶋田洋平  日経BP
■光と影で見る近代建築                 近藤存志  角川選書
■よみがえれ! 老朽家屋               井形慶子  ちくま文庫
・緑と暮らす家                            エクスナレッジ
・常識破りの「空き家不動産」投資術     村上祐幸  ビジネス社
・ノコギリ木工のすべて                 杉田豊久  オーム社
■世界の美しい階段                          エクスナレッジ
■イングランドのお屋敷              トレヴァー・ヨーク  マール社
■実家の処分で困らないために           高橋正典  かんき出版
■昭和の公団住宅 (写真集)               長平田一平  智書房
■家は買うものでもなくつくるものでもなく、育てるもの  佐々木善樹  エクスナレッジ



posted by uno2013 at 08:28| Comment(0) | 半年間の面白本ベスト10 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月30日

2015年上半期  読んで面白かった本のベスト10 (下)



先々週で、上半期のベスト10を締め切った。
今年上半期の1位と2位を決めるのには、かなり迷った。 最初は、相場英雄氏の 「共震」 を1位にもってくるつもりだった。 というのは、私はそれまで経済小説ファンでありながら相場英雄氏の作品は読んだことがなく、東日本大震災に焦点を当てたこの 「共震」 は 徹底した被災地の取材がなされており、ミステリー仕立てだが最後まで一気に読まされて、大変な感動を覚えたから‥‥。
そこで、あわてて氏が書いた著書を10冊近く読んでみた。 そしたら、2005年に、「デフォルト (債務不履行)」 で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を獲っており、その受賞小説も新聞記者と捜査当局が同時に問題を追及するという舞台装置。 つまり、設定条件は 「共震」 と全く同一。 そして、翌年ダイアモンド社から刊行された 「株価操作」 は、そういっては悪いけど 余りにも下手クソな作品だった。
そこで、日本の農業問題に大胆な提案を行っている 「コメをやめる勇気」 と 「ゆめのちから」 を第1位に持ってきたという次第。

なにしろ、トップ10候補が71点もある。
そのどれを、トップ10にもってくるかで大変に悩まさせられた。 
そして、当然トップ10に入ると思っていた ●アル・ゴア著 「未来を語る」 ●竹沢尚一郎著「西アフリカ王国を掘る」 ●蝉川夏哉氏の小説「異世界居酒屋 のぶ」 ●クレメンス・G・アルヴァイ著「オーガニックラベルの裏側」 ●マーティン・プランク著「携帯電話と脳腫瘍との関係」 ●遠藤美希著「子どものネット依存」 などが、ベスト10から姿を消すことになったのは、残念。

◆10位

ブータン.JPG

高野秀行といっても、知っている人は少ないはず。 実は数年前に 「アジア新聞屋台村」 と言う滑稽で洒脱な本を読んで、一気に同氏のフアンになってしまった。 しかし、その後どこの本屋へ行っても同氏の著作を見かけなかった。 このため、高野秀行の名はすっかり忘れてしまっていた。
たまたま図書館で、「未来国 ブータン」を借りてきた。 何しろ高野秀行の名はすっかり忘却していたので、題名に釣られて借りてきたまで‥‥。 そして経歴を見たら、あの滑稽洒脱の筆者ではないか。 そして、筆者の著作は集英社文庫に10数点収録されていることを知って、東京駅近くの丸の内書店で数冊買い求めてきた。 いずれも探検記で、滑稽洒脱本ではない。
この本も、真面目に取材されて書かれたもので、私が読んだブータンに関する著作の中では傑出している。 
「幸福度」という訳のわからない基準。 それが、この本を読むことによって納得されるから、貴重。 出来の良いルポ物としての価値がある。

◆9位

日本経済.JPG

この著書は、今年の5月20、25、30日の3回に亘ってこの欄で紹介したもの。 この著でいうところの 「やばい」 とは、「危ない」 という意味ではなく、若者言葉によく出てくる 「すごい」 という意味だと知らされてびっくりした。 
この題名の意外さが、そもそも紹介したいと思わせた第一の理由。
この著書に登場する3氏はいずれも総合商社の出身で、現役として第一線で活躍しているバリバリの経済人。 山口正洋、山ア 元、吉崎達彦の各氏。
そして、3人が手分けして書いたモノではなく、最後まで鼎談によるもの。 
内容は、「日本経済編」「アメリカ経済編」「中国経済編」「新興国経済編」「マネー編」 と多彩。 そして、新興国とし挙げられている国にはロシア、インド、インドネシア、タイ、シンガポールが含まれている。 
部分的な話は、今までも何回とはなく聞かされてきたことばかり。 新鮮味はないが、具体的な商売を通じての現役人の発言内容には、納得すべき点が多々ある。

◆8位

ベイジン下.JPG

いまさらと笑われるだろうが、6年前に出版されたこの本を取上げることにした。
真山 仁は新聞記者上がりで、2004年に 「ハゲタカ」 でデビュー。  
もちろん私も読んだが、それほど感動はしなかった。 それよりも面白いと思ったのは今年の4月10日付でこの欄で取上げた「コラブティオ (汚職・政治的腐敗)」。 これは4年前に出版された原発もの。 
ところが、今から7〜8年も前に東洋経済に連載されていたのが、「ベイジン (北京コンセンサス)」という小説。 恥ずかしながら、こんな小説が発表されていたとは知らなかった。
2008年に北京オリンピックが開催された。 このオリンピックの開催式に併せて、世界一の規模の原発が計画され、オリンピック会場へ送電することが国家的な大目的となったとの仮設。
そして、日本から技術顧問として派遣され、世界一の原発開発のトップ技術者として活躍しているのが田嶋氏。 しかし、中国の労働者は自分のことしか考えず、田嶋の部下の現場監督はストレスが溜まる一方。 一触即発の危機を何回かも回避‥‥。
一方、中国側は市長をはじめとして賄賂を稼ぐことしか考えない。 
そして、中央共産党から権力者として派遣されたのがドン中央規律検査員。
このドンは、田嶋の反対を押切って、こともあろうにオリンピック開催当日、原発を稼働させてしまった。 その結果は、福島原発を上回る大事故となり、田嶋の不眠不休の働きが続く‥‥。

◆7位

トッカン.JPG

この 「トッカン (特別国税徴収官)」 シリーズは、3冊からなっている古い本。 2冊目が 「トッカンVS勤労商工会」 で、3冊目が 「おばけなんていないさ」。
国税の特別徴収官・トッカンと呼ばれる存在が、世の中にあるとは知らなかった。
そこのエリートの徴収官で、鬼より怖い上司の鏡氏。
そのもとに派遣されて、いつも言葉につまり 「ぐー‥‥」 と言うところから、鏡トッカンからは 「ぐー子」 と呼び捨てにされているトッカン見習いの女の子。 
この2人を中心に物語は展開する。
税務署というと、すべての国民から嫌われる。 しかし、鬼になって国税を集めないと、国が回ってゆかない。 本来なら、憎まれ役に過ぎないトッカンだが、内情を知れば知るほど同情したくなってくるから不思議。
しかし、同情するのも1冊まで‥‥。 まさか、3冊まで一気に読まされるとは考えていなかった。 それほど、人物が描けていて、面白い。 
経済小説ファンの私が、まさかこの本を推薦するとは信じられない出来ごと。 それほど小説としてはまとまっていて面白い。 面白くない小説は、小説ではないと断言することにしょう。

◆6位

005.JPG

これは、今年の5月15日のこの欄で紹介している。 (《技術・商品情報》から、ドイツの脱原発を探して下さい)
著者は、講談社α新書から、「住んでみたドイツ、8勝2敗で日本の勝ち」 が売れたので、2匹目のトジョウを狙って、「住んでみたヨーロッパ、9勝1敗で日本の勝ち」 という本を出している。 私も読んだが、単なる世間話に毛が生えた程度のもので感心出来ない。
その著者が、「ドイツの脱原発がよく分かる本」 を出したからと言って、信用出来ないだろうと考えたのは当然。 期待もせずに読み始めたら、ドイツの太陽光政策の失敗談と、脱原発のためにドイツは褐炭を持っている。 それなのに、褐炭も石炭も持たない日本がドイツを真似て再生可能エネルギーに切替えると、日本は世界一の惨めで貧しい国になってしまうと、筆者は心の底から心配して警告してくれている。
よく言われるように、電力は夜間と日中の最盛期では2倍もの必要電力量差がある。 そして、電力には @ベース電力と、Aミドル電力と、Bピーク時電力が必要。
日本は今まで、@ベース電力として原発と水力を用いてきた。 Aミドル電力としてLNG、LPGを用い、Bピーク時用として揚水式電力と石油を用いてきた。 それが、原発をやめて全部再生可能な風力や太陽光にすると、雨で風が吹かない日があるので2倍もの設備投資が必要に‥‥。
そして原発1基分の電力をメガソーラで賄おうとすると、山手線内側全部の土地が必要になる。
ドイツはいざという時は褐炭をベース電力にすると考えているが、褐炭も石炭もない日本ではベース電力になるものが皆無。
だからといって、10万間も貯蔵可能な原発の最終処理場は、地震国日本にはない! 嗚呼!

◆5位

街道をゆくアイランド2.JPG

今回は、司馬遼太郎の 「街道をゆく」 全43巻を追加した。
ご存じのように司馬氏は大変な勉強家。 人によっては、書かれた43巻のすべてに■印を付けたくなるはず。 しかし、戦国時代や明治時代以前の日本史には、私はほとんど興味がない。 というよりは不勉強で、恥ずかしながら司馬氏の偉大さがよく理解出来ない。
これは、何も日本国内だけの話ではない。 中国、韓国、モンゴル、台湾、南蛮、オランダ、ニューヨーク紀行にしても、目新しくてハッとなるものが少なさすぎる。 つまりは、司馬氏でなくても、誰かが既に述べていることの学術的な裏付けを行っているにすぎない記述ばかり。 
いや、司馬氏が発掘した新事実も、数十年すぎたら業界の常識となってしまい、私のような者もその恩恵を受けて、新鮮さが感じられないのかもしれない。
そうした中で、新鮮で驚きの連続だったのが、「愛蘭土紀行 (アイルランド紀行)TU」。
ご案内のように、アイルランドはイギリスによって国ごと盗まれ、植民地にされて身ぐるみ剥がされ、徹底的に搾取されてしまった。 イギリスに対する恨みは強いなどと言う物ではない。
16世紀に、カトリックから新教のプロテスタントが生まれる。 そして、支配者であったイギリス人のほとんどが新教のプロテスタントに変わった。 これに対して、貧しかったアイルランド人の90%はカトリックのまま。 
このカトリックはプロテスタントから攻撃を受け、アイルランド人は 「プロテスタント野郎」 と罵り、両者の間には宗教的対立も持込まれて、今でも対立が続いているという。 これは、世界史の常識かも知れない。 しかし、私にとっては司馬氏の 「アイルランド紀行」 で初めてそのことを知った。 したがって、「愛蘭土紀行TU」は、私にとっては永遠の教科書。

◆4位

写真医と人間.JPG

これは、6月9日にこの欄で紹介したばかり。
iPS細胞、ロボット治療、先制医療など最新の医療論文6編と、現場からの新しい報告が5編紹介されている。
この中で、山中京大所長の言う通り、iPS細胞は再生医療技術開発の重要さもさることながら、創薬研究の分野に活動範囲を拡げる必要があろう。
そして、山海築波大教授が強調するように、日本における先端技術開発としては、医療と福祉こそ最優先すべき分野かもしれない。
また、井村先端技術財団理事長が称える通り、胎児のうちからきちんとフォローすることこそが、国民の健康問題の根本かもしれない。 
そういったことを考えさせてくれる貴重な論文であることは間違いない。

◆3位

地方消滅.JPG

これは、1月9日付の週評でいち早く取上げている。
中公新書で、増田寛也前総務長官が取上げたのは、このまま放置しておくと、日本の人口は2050年には約9700万人になり、85年先の2100年には5000万人を切り、2100年のピーク時に比べると100年間で約40%程度になってしまう。 つまり、明治の末くらいの人口になってしまうと警鐘を鳴らしていることが第1点。
第2点は、第2次産業が人件費の安い低開発国への移転を余儀なくされ、地方へ工場の移転が難しくなってきた。 バブル景気の中で、金融業、情報産業、流通業、不動産業の比率が次第に増え、第2次産業から第3次産業への主役交代が行われて地方が光を失い、東京などへの人口移動が再び始まった。
とくにその中でもポイントになるのは、出産可能な女性の大都市圏への移動。 若い女性の移動こそが、日本の人口構成を根本から変えてしまう、というもの。
この人口減を抑えるためには、政府は多面的な施策を用意するとともに、地方では 「地域中核都市構想」 なるものを早期に立案して、若者に働く場を用意してゆかねばならない。 と警鐘を鳴らしている。
この人口問題は、大都市圏の高齢者に対する養護者の人口問題にも飛び火して、要養護高齢者人口の地方移転問題として議論されてきている。
高齢者問題は、「住宅の超高気密・高断熱化問題とイコール」 とドイツなどでは割り切り、中高層住宅を含めた建替運動を10年以上前から始めている。 
それなのに、大手プレハブメーカーや一部工務店の鼻息ばかりを伺って動きが鈍い国交省住宅局。 地方へ養護高齢者を移転させるには、まず断熱やサッシの建替えを行い、光熱費が少なくて暖かく、夏は湿度を除去出来る住宅を供給するしかない。 こんなイロハが判らない住宅局に対して、なぜ日本では国民運動が起らないのだろうか?

◆2位

共震.JPG

大和新聞東京本社の遊軍記者宮沢賢一郎は、以前は仙台総局の遊軍記者だった。 時は2008年から2010年にかけて‥‥。 その時に「東北麺食いシリーズ」を立ち上げ、記者・大沢賢一郎の名で数冊の単行本を出版していて、地元の食い物屋やグルメの間では隠れた有名人。
そうした土地勘があったので、東日本大震災の折は居ても立ってもおれず、仙台総局への異動を申請して、「ここに生きる」というコラムを立ち上げた。
そして、毎日現場を取材していると、自衛隊や各国からの暖かい必死の支援が見える一方で、東北の震災復興を食い物にする悪質な動きも目立つようになってきた。
その中で、県職員の早坂順也の活躍が目立った。 どの収容所へ行っても本気で避難民を支援しており、早坂に対する信頼は絶対的なものがあった。 その早坂が、避難民の中に怪しい人間の存在に気が付き、内定で調査しているらしいという噂が、宮沢記者にも聞こえてきた。
そんなある日、その早坂が東松島の仮設住宅で毒殺されるという事件が発生。
宮沢記者は、現地に飛んだ。 その時、盲目の一人の男が宮沢に近づいてきて言った。
「記者さんですね‥‥」
「そうだが、どうして判った?」
「なんとなく気配で判りました。 実は私 昨夜、仮設住宅から走ってくる足の悪い人間の革靴の音を聞いたのです。 慌てている様子が足音で判った。 おかしいなと思っていたら、今朝になって仮設住宅で殺人事件があったという。 時間手間にも合っているし、私はあの革靴の足音こそが犯人だという気がします‥‥」
殺人事件と言うので、警視庁捜査2課の広域知能犯担当の田名部キャリアに、出動命令が出された。 以来、宮沢記者と田名部キャリアが中心になって、震災を利用して悪事を働いていたNPO法人代表者の犯行を暴いてゆく‥‥。 
トリックそのものは古いが、東北地域の震災事情をキチンと取材しており、感動的な物語になっている。

◆1位

ゆめのちから.JPG

コメやめる.JPG

今回の1位は、2つの作品からなっている。
1つは、今年の3月17日にこの欄で紹介した吉田忠則氏の 「コメをやめる勇気」。
もう1つは、5月29日に週評で取上げた盛田淳夫氏の 「ゆめのちから」。
前者は、米価の極端な値下がりと、兼業農家の高齢化から、耕作放棄地が全国に広がり、想像以上にコメ造り農家が衰退している実態と、土地の集約化が予想以上に進んでいる実態を詳しくリポートしてくれている。 
ただ、著者は 「人手のかからないソバ栽培とか放牧こそが、これからの日本農業を救う」 という結論を出しているが、これは違う気がする。 
確かにコメ造りをやめる、という勇気は必要であろう。 しかし、国土を活かして、自給率を高めてゆくということは、ソバ栽培や放牧だけでは救えない。 しかし、大きな問題を提起してくれたことには感謝したい。
一方の食パン。 
この業界の圧倒的なシェアを占めているのがご存じのヤマザキパン。 60%近くのシェアを持っていると言われている。
このヤマザキの後を追うのがシェア15%と言われている敷島製パン。 パスコという商品名でお馴染み。 その敷島製パンの盛田社長が音頭をとって、北海道産の《ゆめちから》という小麦で、食パン需要を国産麦で賄いたいと、全社的な取組みを始めている。
なんとか北海道の生産者の顔ぶれが揃い、地元の製粉業者も育ってきつつある。 まだまだ、日本の食パンを道産小麦にすることは出来てはいないが、その目的と高い意欲を示した中間報告としての意義は、認めるべきであろう。


posted by uno2013 at 11:41| Comment(0) | 半年間の面白本ベスト10 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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