2016年05月05日

「人や子供が、笑顔で集まってくる空間づくり」 とは ?



仙田 満著 「人が集まる建築」 (講談社現代新書 900円+税)

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私は1級建築士に囲まれて仕事をしてきた。
私の周辺には1級建築士様が、常に30人から40人は ゴロゴロしていた。 建設省住宅局や住宅金融支援機構の技術者をはじめとして、民間で 「建築士」 を 「業」 として食べている 諸氏は住宅会社の内外には無数にいた。
ご存知の通り、私は学校で建築学を学んだことはない。 したがって建築士の資格は、なかなか簡単には取れない。
資格がないのに、ツーバイフォー工法という新工法を 日本建築史上で最初にオープン化をさせるには、それなりの勉強と、1級建築士が持っている技術と常識を身につけている必要があった。
日本に無数の1級建築士さんがいる。
だが、誰一人として 北米やオセアニア諸国で100%の普及を見せている、プラットフォーム工法という耐震性の強い床盤工法や、206の通柱で吹抜空間を造るバルーンフレーミング工法を、日本へ紹介しょうとしてこなかった。
それだけではなく、防火性に優れた厚い石膏ボードで天井と壁を包むと言う 「ドライウォール工法」 を日本へ導入して、木質構造の致命的な欠陥である防火性能を、画期的に改善すると言う快挙を成し遂げようとする人材が、一人もいなかった。
自分の 「設計力」 の売込みという些事にかまけて、一番大切な仕事を放棄してきた。
これが 「1級設計士」 という名の、日本の個人主義者群。

よく冗談に、「私は特級建築士だ」 と言ったが、それは満更ウソではない。
というのは、「消費者の意見をよく聞いて プランを作成して、施主の予算枠内に見事に金額を抑えてきたので、契約になる確率がやたらに高かった。 無数に居る本物の設計士に依頼するより、ツーバイフォーのunoに依頼した方が、はるかに 契約が得られる」 ということを全ての営業マンが知っていた。 このためやたらに営業マンに引きまわされることになったが‥‥。
つまり消費者は、ツーバイフォー工法と在来木軸工法のメリットやデメリットは 何一つ知らなくてよい。「unoに任せておけば、耐震性と防火性で卓越したプランが、理想的な価格で得られる」と言うことが知れわたっていった。
とくにアパート建築においては、2階の床に38ミリのシンダーコンクリートを打ってくれるので、防火性だけではなく、2階の遮音性という面でもすぐれていて、クレームが皆無になるだけではなく、「価格はRC造よりも2割も安い」 という実績が知れわたって行き、ツーバイフォー工法 での受注はウナギ登り。
つまり、ツーバイフォー工法を武器に、どんな建築士にも 絶対に負けないという実績を積んでいた。 決して、オープン化に功績があったから、成約率が 高かったのではない。 設計士としての基本である 「施主の希望を100%を守ったから成約率が高かった」 のであり、そんな設計士がごく一部を除いて ほとんどいなくなってきている事実を嘆きたい。

何か、年寄りが昔の手柄話をしているようで、気分が冴えない。
そんな時、偶然にも4人の1級建築士が書いた本が出版された。 個人的に感心しなかった順に著書を並べると、次のようになる。
◎石井大一朗著 「これから面白い建築士の仕事」 (中央経済)
◎五十嵐太郎著 「日本建築入門」 (ちくま新書)
◎倉方俊輔・吉長森子・中村勉編著 「これからの建築士」 (学芸出版)
◎仙田 満著 「人が集まる建築」 (講談社現代新書)
このうち 建築士に関する2冊は、4月13日のネットフォーラム欄で 取上げている。 石井氏のものはコーディネーターとしての成功した自慢話で、それほど面白いものではなかった。 面白いのは4月15日の 「2×4協会が日本で最大の業界団体だった」 のブログ欄でも取上げたNOP法人・チームテンバーライズの11人の発言。 これは一読に値する。
五十嵐氏の 「日本建築入門」 は、資料を丁寧に調べていて 好感は持てるが、それ以上の期待を込めることは出来ない。
これに対して、抜群に面白かったのは、仙田氏の 「人が集まる建築」。
正直なところ、建築士が書いた本では 「血が騒ぐ」 ほどのものは得られないと諦めていた。
ところがこの本には、魂が吸いとられてしまった。

氏は、1968年に26歳の若さで「環境デザイン研究所」を起業している。
最初は、1級建築士の 誰もが考えるように、「自分の作品を作りたい」 との意慾で、菊竹清訓事務所で設計の方法論を学んで起業。 そして、起業するまでの26年間を 第1期と呼んでおり、1994年までの26年間を第2期、そして2020年までの26年間を第3期と呼んでいる。
現時点で74歳だが2020年には78歳になっている勘定。
その間、氏は単なる1級建築事務所ではなく、環境デザイン研究所として研究を重ねてきている。
とくに面白いのは、表紙に書いてあるように 「こどもの研究」 で実績を上げてきていること。
アメリカでは早くから、環境デザインの中心として取上げられてきたのが、「こどもの ための環境デザイン」。
建築はもちろんのこと、都市・造園・遊具・おもちゃなど すべての空間デザイン造りがその中心になっている。 筆者は、最初はモノや空間が主役だと考えていた。 ところが、途中から 主役はどこまでも生きているこどもであり、大人を含めて 人間を社会の中心に据えたデザイでなければと考え、「遊環構造」 と呼称するデザイン手法を開発。
氏が社会的に注目を集めはじめたのは、設立から18年経った 1980年代のことであり、「環境デザインとは社会に貢献するものでなければまったく意味がない」 と自覚したのは、第2期の終わり頃になってから‥‥。 50歳を過ぎてからだったと告白している。
この告白こそ、本著を単に自慢話に終わらせず、「環境デザインの指針」 としての異才を放っている由縁。

この著は、環境デザイン研究所が、発足以来48年間に亘ってデザインしてきた 各種の建築物の内容が、詳しく述べられている。 そのデザインの範囲は多岐に亘っている。 広島市民球場 をはじめとした 各種のスポーツ施設、ショッピングセンター、ドーム、医療施設、図書館、文化会館、科学館、博物館など23施設にも及ぶ。
しかし、その中で光っているのは、著者がこども施設造りのプロ と自称するだけあって、少年自然の家や児童センターや各種の幼保園。 こうした こども関係の環境デザインが7施設と、なんと3割も占めている。
私としては、こども関係の施設に絞って紹介したいところだが、それだと 「環境デザインは、こども関係だけだ」 と捉えられかねない。 これでは この著を紹介する意味が狭まるので、著者の選択にしたがって、@新広島市民球場、 Aゆうゆうのもり幼保園、 B秋田の国際教大図書館の3つに絞って、簡単に 「遊環構造」 なるものを 紹介したい。 舌足らずの点は、本著を読んで補管して頂きたい。

新広島市民球場
同氏は2004年に「こどものあそび環境」の講師として広島市へ訪れた。 終わった後で市役所の職員から 「球場を見てほしい」 と頼まれた。 老朽化している球場を建替える構想があり、ついでに専門家の意見を参考に聞きたいというまでのこと。 視察後、「この場所で建替えるとなると、250億円程度の費用がかかりますよ」 と答えただけ。
その後、建替えは無理と分かり、駅から600メートルの場所に新球場が建設されることになり、関わりの関係上コンペへ参加したら、21作品の応募の中の最優秀作品に選ばれた。 新広島球場の7つの遊環構造とは、抽象的だが次のようになる。
@回遊性があり、循環できること。  Aその循環が安全で、変化に富んでいること。 Bシンボル性が高い空間、つまり場があること。  Cその循環の中に、めまいを体験できるところがあること。 Dその循環は一様ではなく、ショートカットができる近道があること。 E循環には大きな広場かついていること。 F全体に無数の穴が空いていて、どこからでも入り込めるし、また逃げだせる空間であること‥‥。
これだけでは、大変に分かりづらい。
具体的には、3塁側はJRの線路に面はしており、外壁が低くなっているので、新幹線や在来線の乗客は、11秒間はグランドを除き込めることが可能。
また、この球場は公式戦がやっていない年間の1/3は市民に無料で開放されている。 ジョギングや散歩コースにもなり、また グランドが見えるので、試合がなくても一周するだけで満足感が得られる。 そして、「今度は試合がある時にこよう」 ということになる。
もう一つ気を付けたのは、プレキャスト・コンクリート版 (PC版) を多用して、コストを90万円で上げたこと。
こうした相乗効果で、かつては90万人と言われた広島球場は、新球場になったら200万人の観客をコンスタントに集め、新球場の経済効果は年間200億円に及ぶと言われている。

ゆうゆうのもり幼保園
ご存知の通り、保育園は厚生省の管轄で、幼稚園は文部省の管轄。
ところが、横浜の「ゆうゆうのもり幼保園は、2つの機能が合わさった幼稚園でもあり、稚児が通う保育園でもある。
3歳児で1日当り1万3000歩程度歩くことが理想と言われているが、都会の子は 500歩ほどしか歩いていない。 こどもは8歳時になるまでに、遊びを通じて5つの機能を充実させる。
@つは身体機能。 こどもは群れで遊ぶことによって、体力と運動能力を発達させてゆく。
Aつは社会性を身につける機能。 アメリカの作家のフルガム氏は、「人生に必要な知恵は すべて幼稚園の砂場で学んだ」 と言っているそうだが、ケンカや仲直りの大切さを学ぶのことも大切な社会性。
Bつは感性という機能。 こどもの遊びの基本は、自然の中で生物の採集。 つまり、自然の変化や生死に出会うことによって、感性を育ててゆく。
Cつは創造性。 遊びは楽しいもので、常に繰りかえされる。 その繰り返しの中で、偶然新しい発見や発明がある。 それが創造性というオマケ。
Dつは挑戦性。 道端に丸太が転がっておれば、それに飛び乗り、バランスをとってどこまで行けるか挑戦する。 失敗しても何度も挑戦して、征服した時の喜びは絶対に忘れない。
ともかくのこどもの施設には、ワクワクする仕掛が大切。 1階の園児を庭に出られるようにするのは簡単。 問題は2階の園児。 大型遊具を設置して、滑降りられることも考えてやる。
さらに、内部の吹抜けを活用して、2階に大きくて丈夫なネットを敷いて、2階と3階の小屋裏を立体的に繋いである。 猫のように歩く場所と、思い切り転べる場所がある。
1階の保育園の園児は、ワクワクした気持ちで幼稚園児を見上げている。

秋田の国際教養大図書館
秋田市の郊外に、県が買収した国際教養大 (AIU) がある。 在校生は1000人位だが、90%の学生はキャンパス内で暮らしている。 外人は毎年100人程度で、銀行・商社・政府関係からの応募も多く、就職率は100%。 したがって秋田以外の府県から応募も多くて、地元に在りながら秋田県人には遠い存在であるらしい。
この図書館を、著者の環境デザイン研が請負ったのは2008年。
設立母体の当時の寺田県知事は、「秋田杉を使って建築すること」 を唯一の条件として課した。
著書の表紙の写真を見ればよく分かるように、木造建築で直径22メートルの半円形で、天井が12メートルと高い平屋建。
スウェーデンのオーデンプランによく似ているが、オーデンプランは円形であり、半円形の方が構造的に難しいとされている。 構造設計は若手の山田憲明治氏。 積雪1.5メートルの荷重に対抗するために、6本の秋田杉の太い傾柱を建て、15センチ角材を合わせた梁を2重に架けて、2段のフラット・ルーフを載せている。 野地には 3センチの厚い構造用合板を使って、なんとかギリギリながら鉛直荷重をクリアー。
そして、著者は図書館と書庫は原則としてフラットであるべきだとしていたのに対して、敢えて高低差90センチの段床を4段も設けている。 その必然性を滔々とのべているが、残念ながら私には理解出来ない。 そして、扇状に広がる大きな書庫を配置している。
蔵書は洋書が約5万冊に対して、和書が約2万7000冊という。
雑誌は105冊で、新聞は10紙。視聴覚資料は約3300点。 365日、24時間オープンが売り。
学生だけでなく、地域の消費者にも貸出を行っており、年間の図書館の利用者は、延べで約25万人という。 
学期末には深夜の0時から朝の8時まで、平均300人/日が利用しているというから、かなりの賑わいと言うことになる。


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2014年12月10日

地震関係で、新しい情報を網羅していて たまらなく面白い本


島村英紀著「油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識60」(花伝社 1200円+税)

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読書が趣味の私は、年間800冊以上を読んでいる。 今年の下半期はとくに乱読で、その中に地震関連の本が5冊もあった。 高嶋哲夫著 「首都崩壊」 という小説も含まれているので、必ずしもすべてが建築関連本というわけではない。 
ただ、商売柄 「地震から生命と財産を守ることこそ、住宅人がやらねばならない最低の義務」 と言ってきたので、「地震」 と名のつく本に出逢うと、素通り出来なくなってきている。 したがって、今までに50冊以上は読んでいるはず。 
その中で、一番面白かったのがこの本。 いや、面白いと言うよりは、今まで知らなかった情報を分かりやすく、数多く提供していてくれていてためになる。  筆者は東大卒で、北大教授をはじめ北大地震関連長を歴任してきた大ベテラン。 地震関係の著書も多い。 
とくに私が面白く感じた10点だけを抜き出して、紹介したい。

●太陽と月の引力がはるかに大きい  
2013年の7月下旬に、水星、金星、木星がほぼ直線状に並んで見えた時があった。 これを惑星直列と呼んでいるが、ノストラダムの予言のように何か悪いことが起る凶事のように言う予言者が後を絶たない。 惑星が並ぶことにより、引力の影響で地球が歪むはずだと言うのだ。
たしかに太陽や月の引力で、場所によっては海水が数10センチから数メートルも干満する。 しかし、すべての惑星が一列に並んだとしても、海水の移動は1センチの1/10000程度。 占い師の言うほどの影響は、絶対にあり得ない。

●地震か生み出す新しい土地   
地震は悪いことだけをする疫病神のように思われているが、新たな陸地を生みだしてくれる創造神でもある。 羽田到着の飛行機からは、房総半島の南端の西部にある館山市から東側の千倉まで30キロにわたって5段階の段差が見える。 93年前の関東大震災の時は1.8メートルの隆起に過ぎなかったが、311年前の元禄地震ではなんと5メートルも隆起した。 5回の地震で増えた陸地は、東京ドーム300個分にもなるという。
しかし、元禄地震以外の古い地震の記録は残っておらず、3回の地震がいつ起きたかは正確に分かっていない。 今から約3000年前と約5000年前、それと約7200年前に、元禄地震並の大地震が起こり、房総半島を大きくしてくれたことは間違いない。

●建物の倒壊が多かった神田神保町   
地震には、「海溝型」 と 「直下型」 がある。 よく言われるように、日本には太平洋プレート、北米プレート、フィリピン海プレートの3つが潜りこんでいるので、海溝型の地震がやたらに多い。 93年前の関東大震災も海溝型。 この地震では大火が起こったので、実際の倒壊率はどの程度だったかがよく分かっていなかった。 
それが、近年になってから、倒壊率が最も高かったのは神田神保町の交差点から水道橋の駅に至る帯の地点だということが分かってきた。 周りは震度5程度だったが、この帯地帯は震度7。
江戸時代までは、ここに日本橋川が流れていた。 江戸城を洪水から守るために、この川の大改修が行われ、現在の中央線や総武線沿のお堀の流れに変えられた。 この埋め立てられた神田川の跡地が脆かった。 東北地震で浦安で大規模な液化現象が起きたと同じことが、神保町から水道橋までで起こっていたらしい。

●あいまいな「立川断層」 の危険度   
埼玉の飯能市から東京の青梅市、立川市を経由して府中市に至るまでの34キロにも及ぶ立川断層。 2009年に、マグネチュード7.4にも及ぶ大地震が起こる可能性があると報告されて、一躍注目されるようになってきた。
2012年に、日産自動車の工場跡地で大規模な調査が行われ、自然の岩が過去の地震で切断された欠片が発見されたとの報告があった。 ところが、これは基礎杭の欠片で、活断層による被害のものではなかった。
立川断層による地震が起こったのは、400〜500年前だというのなら話が分かる。 それが最後に起こった地震が、1万3000年から2万年前のことだという。 1万年以上の活動間隔を問題にすべきことなのだろうか?
立川断層で、地震が起きたと言う古文書は未だに発見されていないという。 だとしたら、いつまでも消費者に心配をかけさせる必要はないと考えるのだが‥‥。

●常識以上のガル (加速度) の発生と対応の遅れ   
加速度と言うのは地球の引力のことで、980ガルという単位で表示される。 もし地震の揺れが980ガルを超えたら、地面にある岩が飛び上がることになる。 日本の地震学者は、まさか980ガルを超えることはないと考えてきた。 建築学界も500ガル程度を目安にしてきたし、原発は450〜600ガルで十分だと考えていた。
ところが、2004年の中越地震の川口町では2516ガルを記録し、激震地の田麦山では90%が倒壊していたし、武道窪にいたっては25棟の内倒壊していないのが1棟だけ。 筑波大や信大の先生方は倒れた家だけを見て、倒れていない住宅の調査をやっていない。 そして、2500ガルを突破していたのに、その危険性の注意の喚起も怠った。 それで、私は怒った。
豪雪地川口町では、一階はダブル配筋の高床式。 この高床のコンクリート造はほとんど被害を受けていなかった。 柱も最低4寸角で、5寸角が多かった。 しかし、残ったのは外壁に合板を張ったスーパーウォールだけ。 後は見事に倒壊。 外壁の構造用合板が倒壊を防いでいた。
しかし、内部の石膏ボードはスジカイの面外挫屈で全部吹飛ばされ、柱は軒並み床からはみ出していた。 全ての柱の足元の補強と、スジカイの排除が最重要課題だと物語っていた。
そして、2008年の岩手・宮城内陸地震では、一関市厳美町で4021ガルを記録。
原発や超高層ビルの設計基準が、500ガルていどだとしたら、一斉に補強工事をすべきではないかと、部外者の私は考える。

●「緊急地震速報」 と 「予知」 の違い   
気象庁は2007年から 「緊急地震速報」 を出している。 この原理は単純なもの。 遠くで雷が光って、しばらくしてから音が聞こえるように、張り巡らせた地震計が地震のP波を感じたら 「地震速報」 を発表する。 しかし、せいぜい10秒前の速報。 これでは250キロで走っている新幹線が急ブレーキをかけても間に合わない。 魚沼トンネルは目茶目茶に壊れてしまったが、3分前にとき325号が通過していて助かった。 しかし、このとき325号は脱線して傾いた。 だが、155人の乗員の命は助かった。
日本の新幹線は、大事故を起こしていないことで有名。 しかし、何回となく今一歩で、偶然の幸甚で助かっているだけではなかろうか。 
新丹那トンネルは7959メートルは活断層を突っ切っている。 50メートル離れたところに7804メートルの丹那トンネルがある。 この時は、活断層のことが分かっておらず、工事は難工事。
しかも1930年に直下型のマグネチュード7.3の北伊豆地震に遭遇し、トンネルが活断層部で2.7メートルもずれてしまった。 現在もS字型に曲がったままだが、誰もこのことを知っていない。
このため、眠ったままの人が多いが、筆者は新丹那トンネルを通る度に冷汗をかく。

●3大地震多発地と地震のない安心な場所   
年に50回以上地震を感じている日本の3大地震多発地がある。1つは釧路から根室、帯広にかけての太平洋岸。 太平洋プレートと北米プレートがぶつかっている世界でも最も地震多発地の千島海溝。 
北海道は2000万年前は、西と東は別の島だった。 それがプレートの動きでぶつかり、中央に日高山脈と言う地震地帯も出来た。 このため、十勝を中心に地震に強いツーバイフォー工法が普及したということになる。
もう1つは、和歌山市周辺の狭い地域。 ここは大きな地震は起きないが、小さな直下型地震が良く起こる。
もう1つは、茨城南西部から千葉の北部にかけての地域。 ツーバイフォーの石田ホームやかつてのフジタホームの地元。 3つのプレートが衝突しているので、地下で歪みが溜まりやすい。
逆に、地震の心配がないところは、北海道の東北のオホーツク沿岸。 流氷が押し寄せる寒いところ。しかし、ここだけは、日本で唯一地震が起きそうにもない地域だという。

●ダムよりも大きなシェールガスの採掘   
人間が造った構造物で、今まで問題になったのはダムと人造湖。 ダムによる地震で有名なものはインド西部のコイナダム。 貯水が始まった5年目の1967年にマグネチュード5を超える地震が2度起こり、その後にマグネチュード6.3の地震が起こり、死者約200人、負傷者2300人を出した。
その後もマグネチュード5の地震を数回経験。
このほか、世界の人造湖やダムによる地震発生の報告は枚挙にいとまがない。
アメリカでは、西海岸のカリフォルニア州とアラスカ洲以外では地震が発生しないと言われてきた。
ところが、水圧破砕法によって取り出すシェルガス・ブームで、今まで地震がなかったオクラホマ州、ァーカンソー州、コロラド州、ニューメキシコ州、テキサス州でもマグネチュード3〜4の地震が2011年の時点で20世紀の6倍以上も発生している。
とくにオクラホマ州は、2014年は6月19日の時点で207回を記録し、カリフォルニア州の140回を上回ったと言う。 したがって、カリフォルニア州で普及を見せはじめている ツーバイフォーをより完全に地盤に固定するために開発されたアンカー・タイのシステムが、全米に普及するかもしれないというのが、私の個人的な感想。

●地震ではノーマークだった中越
2004年に中越地震が、2007年にはいずれもマグネチュード6.8という中越沖地震が起こっている。
とくに中越地震は2500ガルを突破した直下型地震で、私は3回に亘って川口町の調査に出かけた。
当時は、地震の原因は不明だった。
しかし、著者は両方の地震の中心地から20キロ離れたところにあった 「南長岡ガス田」 で、地下500メートルで高圧水を注入して、岩を破砕してしてガスを入手していた。 この水圧破砕法の導入で生産を8倍に増やしていた。
その後温暖化が問題になり、経産省の環境産業技術研が、2003年からこのガス田跡に二酸化炭素を圧入する実証実験をやっている。 地下約1100メートルに、20〜40トン/日、合計1万トン以上の二酸化炭素を圧入する実験を‥‥。 
この実証実験は2003年度と2004年度で終わっており、現在は地上設備も撤去されている。
筆者は断言していないが、この水圧粉砕法と経産省の二酸化炭素注入実験が、ノーマークだった中越で2つの大きな地震を引き起こした原因ではないか、と問うているように私には思える。
二酸化炭素の地中埋設は、一つの理想形として語られてきたが、この著書を読むと疑問視したくなってくる。

●阪神淡路は明石海峡の橋脚工事が原因?   
もう1つノーマークの阪神淡路大震災。 基礎に鉄筋が入っていないのを見て、「これじゃ、直下化型の震度7には耐えられない」 とつくづく思った。 そして、被害を受けたのは無防備な木軸だけでなく、鉄骨造や鉄筋コンクリート造も弱かった。
ツーバイフォーは抜群の耐震性を見せていたが、耐力壁を無視した間口の小さいM社の住宅は倒壊していた。 工法が優れていても、約束事を守らないと倒壊するという良い教訓。
この神戸の地震の原因が、明石海峡の海の中に造られた橋脚が原因ではなかったかと筆者はこっそりと問うている。 
水圧破砕法は、何もシェルガスだけに使われる技術ではない。 日本では、地熱開発に多用されるはず。 そして、明石海峡では、主橋脚の一つを海中で造っている。 海底に穴を開け、岩盤をさらに掘り下げて橋脚の基礎をつくっていた。 
この技術が、阪神淡路大震災の直接の原因だという根拠はない。
しかし、便利さだけを追求する技術は、往々にして落とし穴が待っているかもしれないと、筆者は指摘している。


posted by uno2013 at 10:23| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月10日

高さ6mで、30℃の温度管理がなされたシロアリの巣の林立!



写真インゴ・アルント 「建築する動物」 (スペースシャワーネットワーク 2800円+税)

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今回は写真集。
写真家インゴ・アルントは、2年間もかけいて世界を一周して、動物たちの素晴らしい巣造りという建築物を撮りまくった。

いま、「バイオ・ミミクリ―」 ということが叫ばれている。 
「バイオ」 は生物のことで、「ミミクリ―」 とは真似るという意味。 物造りに、自然界の生物の素晴らしいアイデェアと知恵を学んでゆこうという新しい学問体系。
ジェイ・ハーマンが書いた400ページにも及ぶ 「自然をまねる、世界が変わる」 というやたらに面白い本を読んだ。 本来だとこの欄で紹介するところだが、先に 「週刊書評」 へ原稿を投稿してしまった。 掲載されるのは1ヶ月先。
その代わりに この欄では、同じ系統の本著を掲載することにした。
ジェイ・ハーマンの著書では、驚かされた点が数多くあったが、中でも次の3点には腰を抜かさんばかりに驚かされた。

1つは、人体の心臓血管系。 全長はなんと9600キロメートルにも及ぶと書いている。 東京と大阪間が500km。 
したがって9600メートルの間違いではないか思ったが、その身体の隅々まで血液を送り届けているエネルギーが、寝室に取付けられている常夜灯の1.5ワットでしかないという。 50〜100ワットという数値ではなく、わずか1.5ワット。
これほど効率の良い機械は、世の中には1つもないのではないかという。

2つは、その血管をはじめとして、自然界には直線がないということ。 普通だと、われわれが最大の効率を考えると、設計図を引く時は必ず直線を選ぶ。 しかし、自然界には直線はあり得ず、直線は人々の神経を苛立てる。
そのことを、最初に教わったのが40年前のアメリカの郊外の開発地。 車道にしろ遊歩道にしろ、全てが曲線で出来ている。 日本の真四角な碁盤状の区画とまるっきり異なる分譲地。 そのためには、専有地を出来るだけ少なくして、共有地を多くする。 つまりオープンスペースの多い 「オープンスペース・コミュニティづくり」 が、全米で流行していた。 言ってみれば住環境を守るために、土地の共有化という社会主義的な手法を採用していた。
その素晴らしいランドプランニングの技術を日本に紹介し、三井不動産の3000坪程度の端材の団地数ヶ所で、「オープンスペース団地」 を設計してあげたが、古い意識の幹部を説得出来ず、オープンスペース団地は、日本では夢物語に留まってしまった。
次に注目したのは、スペインのアントニ・ガウディの建築物。 10年近く前にスペインを訪ねた時、曲線で建築物や公園を開発しているガウディのグルエ公園、カサ・ミラなどに感動した。 
ともかく中層の住居なのに、壁や床までに曲線が取り入れられており、それがなんともしっくりしていて嬉しい。
そして、建築途中のサグラダ・ファミリアの超高層建築の曲線には圧倒された。
しかし、ガウディを語る建築家は日本に多いが、伊東豊雄以外の建築家で、意識的に曲線を取上げている人物にはお目にかかれない。 情けないことだと思う。
だが、そのポイントをジェイ・ハーマンが取上げてくれているのには、嬉しくなってきた。

3つ目は、オーストラリア北部に群立しているシロアリの巣というか塚。 細部のシステムは良く分からず、未だに人間の手によって実用化が図られていないが、内部は常に30℃に維持されており、どの塚でも電気代ゼロで快適な空間を造っているという。
一度、別の記事でも読んだことがあり、何とか探求したいと考えていた。
ところが、この写真集にはそのシロアリの塚の驚くほどの林立ぶりと、その個々の威容、ならびに無数のシロアリの築塚の様子が、大きな3枚の見開きな写真を含めて12ページにも亘って紹介されている。 
私が欣喜雀躍したのはもちろんのこと、皆さんにもその写真の一部を見て頂きたくて、この欄で取上げたという次第。


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まず、上の写真を見て頂きたい。
オーストラリア北部の広大な原野。 ここに磁石シロアリの塚が写真のように密に林立している。 その数についての記述はない。 おそらく数万から数十万にもおよぶのではなかろうか。
誰か、その数を調査して欲しい。


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そして、これ等の塚の高さは平均すると3メートル。 そして、写真のように高さ6メートルにも及ぶものがあるという。
その中に200万〜300万匹のシロアリが生活している。
この塚は、正確に南北向きだという。 つまり、細長くて、細長い部分が南北を指している。
これは、真昼の熱い太陽光を避けるためで、東西面が広いのは、朝と夕方の熱を取入れるためらしい。 
この塚は、自然の換気システムと空調システムを備えていて、塚内の温度は30℃に保たれているという。 しかし、一日中の室温や年間を通じた室温の推移、またどのようなシステムになっているのかについて、空調換気メーカーや専門学者が詳細に調べたデータはないよう‥‥。

これは、どこまでもド素人の推測。
おそらく日本の東京以西だと、この塚は夏は蒸し暑くて住めたものではない。
しかし、北オーストラリアの乾燥地だと、温度が30〜33℃でも、カラリとしていて大変にすごしやすいはず。 温度と換気管理だけに配慮したシロアリの塚で、気持ち良い生活が保証されているはず。
日本の空調換気メーカーさん。 一度丸1年間に亘って、自社の技術者と大学の専門家を北オーストリアへ派遣して、この塚の謎に挑んで頂きたいと、心の底からお願いしたいのだが‥‥。






posted by uno2013 at 11:22| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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