私は、一条工務店に対抗するためには、地場ビルダーはどうあらねばならないか、についてこの稿を書き始めたはずだった‥‥。
私の立場は、どこまでも顧客第一主義。
3月20日付の (2) で、ピーター・ドラッカーの 「企業の存在目的は、どこまでも顧客の創造にある」 という言葉を借りて、今までになかった顧客の目線に立脚した 「新しい需要を如何にして創造するか」 という点を強調した。 少し、青っぽすぎるが‥‥。
日本にツーバイフォー工法をオープンな形で導入出来たので、耐震性と耐火性に優れた木質構造住宅を消費者に提供し、新しい顧客を創造することが出来た。
また、カナダのR-2000住宅、およびドイツのパッシブハウスという画期的なコンセプトを導入し、今まで日本になかった画期的な省エネ住宅の普及を図ることは、これまた新しい顧客を創造するという面では最有力な手法だと確信している。
大手住宅メーカーが 気密性能でオタオタしているのは、地場ビルダーにとって絶好の好機だと強調してきた。
それぞれの企業が、どのような顧客を創造するかは自由。
超高気密・高断熱に特化して、高額物件の顧客のみを対象にしても良い。
また、知識層に的を絞ってもよい。 賢明なご婦人方のソフトな感覚に訴えてもよい。
ビルダー側にも、顧客を選ぶ権利がある。
こうした中で一条工務店がとった手法は、ツーバイフォーのパネル化で性能と価格面のメリットを立証しようというもの。
ドイツのパッシブハウスに比べると、一条工務店のそれは気密性能と換気システムではかなり見劣りがする。 だが、高断熱では最高級に近い性能を確保し、太陽光発電搭載費の一切をメーカーの負担で行ない、ゼロ・エネルギー住宅を普及しようとする意欲は立派。
ベストではないが、消費者サイドからは歓迎すべきベターなイノベーション。
たしかに、一条工務店が高気密・高断熱の需要を独占すれば、地域社会や地場企業の育成という面から問題が多いのは事実。
わが女房殿は、「ユニクロなどがやたら普及したので、私が懇意にしていた洋品店や小物店の商店が軒並み潰れてしまった」 といつも不満タラタラ。
たしかに、ユニクロの新商品開発力と、中国などアジアの低賃金で生産される商品には、国産メーカーや商店が逆立ちしても対抗出来ないのは事実。
これは何も洋装品に限ったことではない。
日本のほとんどメーカーは生産拠点を海外に移し、電機をはじめとした大手メーカーは、かつての 「輸出企業」 から、軒並み 「輸入企業」 に大変貌している。
これは、メーカーだけに限った現象ではない。 多くの総合商社も資源以外の分野では、アフリカなどの拠点は縮小傾向にあるらしい。
松村美香著 「アフリカッ!」 という小説は非常に面白い。
かつては家電をはじめあらゆる商品を売込むために、アフリカ各地に支店網を張り巡らせていた総合商社。 ごく一部の家電や衣料品では、日本製品の高いスペックが貴重品として評価され、それなりのマーケットを形成していた。
しかし、1人が日に1ドルで生活している国々。
家電や衣料品は、日本の1/10の価格の中国産の粗悪品に荒らされ、今ではアフリカは完全に中国の独占市場になってきている。
中国の電球は、1ヶ月も経つと壊れると分かっていても、人々は中国製の粗悪品に走る。
そして、かつては最大の援助国だった日本の政府開発援助 (ODA) に伴う商売のチャンスが失われてきている。 この小説は、その実態が見事に描き出している。
その中にあって、無形のエンタメ産業を商売にしょうという奮闘している若手商社マンの活躍振りが、大変に新鮮で愉快。
LIXILのサッシにしろ、パナソニックの設備機器、あるいはダイケンのフローリングにしても、国産の建材・部品・設備は少なくなり、ほとんどがアジアでの海外生産品に。
したがって、中国やミャンマーでの生産なら良くて、フィリピンの生産はダメだという論理は成り立たない。
前回、3月30日付の (4) で紹介したように、フィリピンの1人当たりの GDP は2,612ドルと中国の6,071ドルの半分以下。
そのフィリピンに、飯田・浜松市議が言うように、25万坪の敷地に15万坪の建屋を持っているということは、一条工務店にとって大変なメリットだと私は考えていた。
HRD は、一条工務店の完全な系列会社だと、つい最近まで考えていた‥‥。
しかし、3月25日 (3) の高田公雄氏のブログ 「一条工務店の法人税更生処分等取消請求事件」 で、2005年9月29日付の名古屋地裁の判決文によると、HRD の株99.99%を握っているのは、一条工務店の創業者・大澄賢次郎氏の長男だと明言。
もし、これが事実だとしたら、一条工務店は HRD という個人資産会社の、完全な系列会社にすぎないことになってしまう。
つまり、研究・開発・生産という住宅会社の根幹を HRD が完全に抑えている。
ユニクロとは全く異質の、いまどきの日本では珍しい親族支配の 「古い商人型資本主義」 ということになるのではなかろうか。
私は、名古屋地裁が一条工務店の実態を見ずに、古い 「フランチャイズ契約書」 を重視したがために、9年前に誤った判決を言い渡したのだと考えている。
名古屋地裁が、大澄一族だけでなく一条工務店グループ全体に間違えた判断を許し、以来 HRD の独走を許す体質を残してしまった。
つまり、折角与えられた体質改善のチャンスを、自ら踏みつぶしてしまった。
そして、「この古い体質のまま行っても、世間は許してくれる」 という免罪符が与えられたと 関係者は勘違いしてしまった‥‥。
たしかに、創業者・大澄賢次郎氏は、商人としての独自のすごい触感を持っていたよう。
早くから、フランチャイズシステムを研究し、10数社の工務店を巻き込んでいる。
そして、法人税が一番安いシンガポールに目を付け、フランチャイズ制度の要となる HRD の本部をシンガポールに設立している。
と同時に、どんなツテがあったのか不明だが、フィリピンに25万坪という工業団地を入手して、安い人件費を活用して一大生産拠点を築いてきている。
しかし、商人としての資質は見事ではあるが、「ものづくり」 という面ではたいした才能はなかったというのが私の認識。
和風住宅も、洋風住宅も田舎のお大尽様しか手を出さないものであった。 ミサワホームなどに比べるとあまりにも泥臭かった。
このため、大都市の若いご夫人から見向きもされなかった。
そして、10年前に大自慢していた免震工法。
これも私に言わせれば、横揺れには効果があるけれども、上下に激しく揺れる直下型の地震に対しては それほど有効だとは考えられなかった‥‥。
これを採用するのなら、プラットフォームで一体床のツーバイフォー工法とか、木軸の金物工法の方がましだと考えられた。
床には3尺角の合板を貼っており、構造的にも納得できなかった。
そして在来時代の悪い癖で、いまでもやたらに偏心率に拘っている。
したがって、数年前までの一条工務店には、魅力らしいものは皆無と言っても良かった。
その一条工務店が、ツーバイフォーを採用し、i-cube という高気密高断熱住宅で、短時間に一皮も二皮も剥けるとは誰一人として考えてもいなかった。
i-cube に続く i-smart の開発とインテリアの一新。 そして、太陽光発電パネル工場の完成と一条工務店の資金による太陽光搭載費用の捻出‥‥この画期的な開発によって、あれよあれよという間に一条工務店はツーバイフォーメーカーのトップに躍り出ただけでなく、大手住宅メーカーのトップ5も狙える好位置にまで突き進んできた。
そこで、改めて問題になってきたのが、HRD が一条工務店を支配しているという古い体質。
ここまで有名になると、もはや HRD の存在を隠すことは出来ない。 かと言って、公にすると、集中的な批判を浴びかねない。
困り果てているのが一条工務店の現状ではないかと、外野席からは伺える。
ここは、思い切った体質改善を断行するしかないと言うのが私の意見。 つまり、一条工務店の株を公開して、その資金で HRD を M&A するしかないというのが前回の提案。
ただし、この提案は一条工務店の経営内容が画期的に優れているというのが大前提。
一条工務店の快進撃の原動力は、どこまでも HRD であって、一条工務店は単なるフランチャイジーだというのでは、絵の描きようがない。
さて、一条工務店のプレハブの i-cube とか i-smart は、先に指摘したようにパッシブハウスに比べて気密性能と換気システムに問題点を残している。
それと、ドライウォール工法を良く理解しておらず、ドライウォール工法では欠陥工事とさえ言えるものもある。
ただし、ユニクロは国内に本社があり、主に中国で生産している。
これに対して、HRD の本社はシンガポールで 法人税が安く、工場は人件費が中国の半分のフィリピンにある。
そして、単に工場労働者だけではなく、日本の何分の一かという安い人件費で、CAD などの図面を描いてくれる設計士も十二分に雇っている。
さらに言うならば、日本では現場の若い職人不足のため、建設労働者として外人の雇用が大問題になってきている。 この問題に対して、HRD ではフレーマーとしてフィリッピン人の研修を すでに終えて配置している。
つまり、ユニクロよりも、HRD の方があらゆる面で先行しており、資金力と価格競争力は腐るほどあると考えるべき。
一条工務店ではなく、 HRD の実力を侮ってはいけない。
そして、HRD を上回るシステムを築き挙げるには、ビルダーだけの力では到底及ばない。 資材業者を巻き込んだシステムを、全国的に創り上げてゆかねばならない。
同時に、名古屋地裁のように HRD の存在を今のまま容認する体制を打破するために、消費者と地方の行政機関を巻き込んだ運動を展開してゆかねばならないだろう。
それこそが、一条工務店を真の日本企業へ蘇生させる唯一の手段だと外野席で考えるのだが、根本的な勘違いを犯しているかもしれない‥‥。 (完)