2013年11月15日

温度だけではなく結露の予測も読み取れるドイツのWUFIシステム


有名なドイツのフラウンホーファー建築物理研究所では、建築物に単に温度条件だけを入力するのではなく、湿度条件も入力することにより、結露の発生を事前に予測出来るシステム 「WUFI」 を開発し、日本でも実際的な運用を図るために、さる11日から13日までの3日間、有料のセミナーを開催した。

WUFIセミ.JPG

初日の11日は、お茶の水大を卒業してフラウンホーファー研究所の熱・湿度部門に在勤している田中絵梨さんが、「湿気の影響と熱・湿気に関する評価システムの概要」 と題して、延べ3時間余に及ぶ基調講演があったので聴講してきた。
2日目と3日目は、受講者がウィンドウのノート型パソコンを各自持参しての実習研修。
両日ともメイン講師はミュンヘン工科大卒で、フラウンホーファーの熱・湿度部門の部長代理のダニエル・チルケルバッハ氏。 田中絵梨さんが通訳兼補佐役。

2日目の内容は、「WUFI使用のための基礎知識と操作方法の指導」
つまり、・建材の基本データ ・空気層の設定 ・気象条件および初期条件 ・高性能木造住宅での計算と判定方法の実演 ・カビの成長 ・日陰の計算 ・水に接する地下室の壁の実習、という延べ7時間の特訓。
さらに3日目は、「高度な操作や分析方法」
・建材データの編集 ・熱と湿度の発生と消失 ・外断熱外壁の実演 ・内断熱の実演 ・断熱改修工事の計算方法 ・屋上緑化などの実習。
かなり、本格的なトレーニングを伴う実習セミナー。
しかし、私は初日しか出席していないので、システムのデティールや操作について言及する資格は一切ない。 
どこまでも、初日の概略説明と質疑応答を通じて得られた点から、主観的に判断したものを、出来るだけ分かりやすく説明したいと考えている。
私の判断は、例によって 「独断と偏見」 に満ちたもの。 
したがって、かなりの間違いがあるかもしれない。 最初から、眉唾のところが多いと疑いながら読んでいただきたい。

フラウンホーファー研究所は、湿気によるドイツでの建築物の損傷額は、年間約5000億円に及ぶと予測している。 被害を受けている主な部位は、地下部分が全体の52%、外壁が56%、屋根が54%にも及ぶという。
日本の人口はドイツの約1.6倍、住宅の総戸数は1.2倍程度だから、ドイツ流に表現すれば日本の湿度による建築物の年間損傷額は、6000〜6500億円前後になると言える気がする。 しかも、日本は持家の比率が60%以上に対して、ドイツは40%以下。 
だが、日本では居住スペースの大きさを構造体の芯で表現するのに対して、ドイツはどこまでも有効スペースでの表示。 いくら外壁が300ミリと厚くなっても、生活スペースは決して狭くはならない。 しかも、ドイツでは戸建てにしろアパートにしろ、原則として全戸に地下室物置が付いている。 その地下室はプラス・アルファのスペースで、居住スペースには加算されていない。 
さらに、都市生活者のほとんどが近郊に300uのクラインガルデンという家庭菜園を持ち、ラウベと呼ばれる30u程度の小屋を持っている。 このため、ドイツの方が人口が少ないのに実質的な居住スペースは日本を上回っているようにさえ感じる。 
その上ドイツでは、100ミリのロックウールとペア・サッシによる中高層アパートの断熱改修工事が 急ピッチで行われている。 こういった諸点を考えると、やはり日本の方が結露などの被害が多いのではないかと考えてしまう。 
日本では、一部の超高層マンション以外に地下室が無く、しかも冬期の寒さはドイツの方がはるかに厳しいのに‥‥。

湿度の影響は、いろんな形で現れる。
まず、建物の外観が汚れることと、藻などの菌類が発生すること。
そして寒いドイツでは、壁や屋根材に浸透した水分が凍結して建材の強度を破壊させるとともに、木材などを腐らせる。
それよりも大きな被害は、結露によるもの。 結露が起こると金属は錆びるし、その他の建材の場合は必ずと言ってよいほどカビが生える。 このカビが、建材の性能を落とすだけでなく、室内の空気質も大きく落として 喘息やアトピーなどを併発する。
ここまでの説明は、改めて言われなくても熟知していたこと。
しかし、「RC造などは、含水率の多寡によってU値が月毎に変わります」 と言われたのにはびっくりした。 
たしかに、水分の多寡は熱伝導率やエンタルピに影響することは知っていた。 しかし、もっぱら人工乾燥材による木造住宅に特化していたので、U値は当初からほとんど不変と考えていた。
だが、RC造は5年経たないと安定したU値が得られない。 U値というのは、決して固定したものではないということ。 
つまり、気密性能が低い建築物の場合は、劣化が進むと同時にU値も劣化するということ。 固定概念は捨てねばならない。

それに、WUFIの優れている点は、畜熱や保熱を含めて、定常計算によるのではなく、非定常計算によって結露や熱移動の計算をしてくれている。 
しかも、そうした非定常計算にによる解析が、実際の数値と合っているかどうかを実物を研究所内に建て、実測して計算値と常に比較している。 その結果、「熱と湿気の同時解析の結果の妥当性が示された」 と豪語。
そういう意味では、新しい建材の開発や、RC造、鉄骨造の場合は、WUFIを最大限に活用することは 大いに意味がある。 そういった面で、設計事務所とか建材メーカーの技術屋さんにとっては、このWUFIは有力な武器として使える。

しかし、木造住宅では、パッシブハウスが求めているような50パスカル時に 換気回数が0.6回転/時という気密性能をコンスタントに出しているのはまだほんの一部。 だが、日本の進んだ地場ビルダーは、0.7〜0.9回転は常時出してきている。 
C値で言うなれば、0.3〜0.5cu/u程度という数値。
日本の遅れた工務店や鉄骨プレハブは、未だに2.0cu/u以下という情けない数字でもたもたしていて、気密性を省エネ基準から外してくれと住宅局に泣きついた。 そして、三井ホームなどの大手ツーバイフォーメーカーでも、うまくいって1.2cu/u程度。 ともかく大手でコンスタントに1.0cu/uを切っているのは、一条工務店の i-cube と j-smart の0.6cu/uだけ。
0.5cu/uの気密性能が確保されれば、つまり石膏ボードの下のべバーバリアさえしっかり施工されておれば、冬期に異常乾燥に襲われる表日本では、冬期の壁内結露は100%と言ってよいほどクリアー出来ている。
冬期に湿度が高く、冬期にダニ・カビの発生に脅かされているヨーロッパの冬の嘆き節は、日本では北海道をはじめとした先進的なビルダーの場合には一切聞かれない。
ドイツの住宅展示場や住宅メーカーの工場を見てびっくりさせられたのは、外壁のすべてが透湿材料でつくられていること。
ともかく地震のない国。 
建築物は鉛直荷重に耐えられればよく、水平荷重は無視しても許されている。

このため、構造用合板とかOSBが採用されているのは皆無で、ほとんどがMDFなどの透湿性のよいチップボード系が用いられている。 そして、仕上げのモルタル材にしても塗装までも、透湿性が最優先に考えられている。
そして、考案されたのが、「インテロ」 というべバーバリア。 冬期は湿度を透さないが、夏期には湿度を透す。 
もし、冬期にインテロというべバーバリアから壁内に湿度が漏れても、その湿度は壁内にとどまることなく、透湿性の良い建材から壁外に排出される。 そこまで考えないと、冬期が雨季のヨーロッパでは、冬期のカビ・ダニの発生が防げない。
しかし、このインテロをドイツと同じ流儀で日本で採用すると夏期に問題が発生するということがわかった。 
hiroさんと鎌倉のパッシブハウスの建築現場を見に行った時、「これだと夏期には換気と同じ量の湿度が天井面や壁面から入ってくる」 とhiroさんが叫んだ。
そこで、インテロ本社の工学博士のMoll社長に連絡をとってもらい、日本ではどう対処したら良いかを聞いてもらった。 博士は、ドイツの建材試験センターに研究を委託した結果として、次のような報告をしてくれた。
「日本では、外壁の外側にOSB並の非透湿性の建材を用いた方がよい」 と。
地震国ニッポン。  そこで最優先しなければならないのは、外壁に構造用合板ないしはOSBを最優先で採用すること。
ただしこの場合、日本では夏期に石膏ボードの壁内側に逆転結露が起こる可能性があることが20年前から指摘されていた。

そこで、解決策を生みだしたのが北海道の通気層工法。
これは、冬期にべバーバリアから漏れた湿気が、いざという時は合板裏に縦胴縁で作る通気層があれば、壁内結露が防げると考案されたもの。 それが夏期の逆転結露にも効果があることが知られ、広く日本全土に普及した。
私は、築5年以上の、グラスウールを充填した外壁と、ウレタン現場発泡の外壁を それぞれ3 体以上調べている。 ボードを外して見ると、いずれの壁も木材は新築時の鮮度と色を保っており、グラスウールにも一切の変色が見られない。 逆転結露の懸念が皆無だった。 
べバーバリアの施工が完璧で、R-2000住宅の気密テストに合格した物件であれば、通気層さえあれば冬期の結露も、夏期の逆転結露の心配も不要だ、との結論を出した。
しかし、これらの実態調査は、いずれも10年前以上のもの。 昨今の温暖化が進んている時に、「R-2000住宅の気密性と通気層があれば、関東地域では逆転結露は心配ない」 と言い切れるかどうか?
逆転結露の問題に関しては、9年前の坂本雄三氏の論文で、議論が停止している。
「本州以南で、夏期の壁内結露が確認されているものの、晴天日の日中にしか発生しない現象であることも確認されている。 結露水量は微量で、木材の腐朽被害の報告はない。 カビがあっても、それが《実害》と言えるかどうかは分からない‥‥」。

今年の夏は暑かった。 温暖化が進んでいると実感できた。
そんな中で、9年前の議論で停止していて良いのかどうか‥‥。 
私は、外壁に構造用合板を張った上で、べバーバリアはインテロ機能を持つ物に変えてゆかざるを得ないのかもしれないと考えている。
そして、こここそは WUFI の出番だと思った。 
だが、発表されたデータは鹿児島の気象条件下で、ドイツの透湿性のよい外壁の非定常の計算例だけ。 たしかにこれだと、壁体内部には結露は生じていない。しかし、室内は多湿でやりきれなくなるはず。 その肝心の報告がなかった。
つまり、日本の実態に沿ったシミュレーションではなかった。 この点は、至急本部で確認したデータを出すようにと、注文を出しておいた。 
いくら優れたシステムであっても、日本の実態を理解していないと、宝の持ち腐れになってしまうという好例。

WUFI は、このほかに空気層が挟まった2重断熱材に対応できる WUFI-2Dがある。
また、部位の熱・湿度計算だけでなく、室内で使用するエネルギー量まで計算出来る WUFI-プラスがある。
さらには、パッシブハウスに温度面だけではなく湿度面でも対応可能な WUFI-Passive もある。

そこで、田中さんが、「パッシブハウスの条件の1つとして、50パスカル時に換気回数が0.6回転以下であること」 と言ったので、その根拠を聞いてみた。
しかし、これは彼女の本業でないので答えられなかった。 
たまたま4年前に 「ドイツのエネルギーパス制度」 に関する著書を翻訳出版していたアンドレアさんが同席していて、代りに答えてくれた。
「これはエネルギーのロスよりも、結露防止を目的にして定められた規定だと考えます」 と。

いよいよもって 日本の住宅局の間違えが、炙り出されそうな雰囲気に‥‥。


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2013年08月25日

《木づかいフォーラム》で得られた鮮度の高い感動


私は半年間、安藤塾でいろいろ勉強させていただいてきた。
そのほかに、先生の講演は2〜3回は聞いている。
したがって、他の人よりは《安藤理論》なるものを、理解しているつもり。
しかし今回は、安藤先生が一方的に喋るのではなく、どちらかというと司会役。 つまり、参加者から意見を引き出す役として 《絶妙な技》 を見せていただいた。
もちろん司会者として、フリーアナウンサーの八塩圭子女史が選ばれていた。 なかなかのベテラン。だが、農林水産大臣と林野庁長官が列席するとあって、農林省の担当役人はかなりハッスルせざるを得なかったよう。

林農林大臣.JPG

最初に登壇した林農林水産大臣。
20分の基調講演という名の 差しさわりのない一般論。
どうせ林業白書の焼き直しに過ぎないだろうとタカをくくり、何一つ期待していなかった。
ところが、新しい需要開発として、いきなりヨーロッパで注目を集めている CLT (クロス・ラミネート・ティンバー) が出てきたのにはびっくり‥‥。 もちろん、林野庁のレクチャーを受けての発言だろうが、自分なりに消化して、自分の言葉で発言しているのには感心した。
この CLT 発言により、基調講演は俄かに面白いものに‥‥。 林業白書の焼き直しから完全に脱皮。

しかし最初の計画では、林芳正大臣は基調報告をしてもらって、さっさと引き揚げてもらうはずだった。
ところが、本人は 「トークショーを最後まで聞きたい」 との希望を出した。
役人の発言は毎日聞かされている。 そうではなく、消費者や学者のナマの発言を聞きたいという態度には好感が持てる。
そこで、「折角大臣が残るのなら、トークショーにも出てもらったら‥‥」ということになったらしい。
なにしろ、日経新聞が共催し、500人が集まるフォーラム。
大臣が出席している席で、下手な発言を誘導されて農林省の基本方針がへし曲げられ、ケチをつけられたのではたまったものではない。
そこで、事情に精通した安藤先生を引っ張り出し、綿密な打合わせを役所は行ったらしい。
「最後は、徹夜作業だった。 しかし役所は、黙って任せるべき」 と安藤先生が嘆いた理由が、なんとなく理解出来る。

最近の講演会にしろ、トークショーやパネルディスカッションにしても、写真や分かり易い図がないと人々は感動してくれない。 文字だけを羅列したものには、誰も関心を示してくれない。
講演会の場合は、話す内容を裏付けるデータ集めは、それほど難しくはない。
しかし、トークショーやパネルディスカッションの場合は、参加する人の考えにマッチした写真や図を揃えるのは容易なことではない。 本人の考えと行動を事前に正しく把握していないと、それこそミスマッチになってしまう。
しかも、発言の途中にそれらの写真や図を、タイミングよく写さねばならない。
つまり、経済や社会問題の司会者は、各人に適宜に発言を求めてゆくだけでよい。
ところが、建築や家庭、オフィスにおける新しい 《木づかい》 ということになると、具体的な絵や写真がないと、500人の参加者に納得してもらえない。 観念論ではダメ。
このため、八塩圭子とは別に、安藤教授にも司会役を兼ねてもらうようになった。 そのほかに、映像送りも一任。 そして、トークショーとパネルディスカッションの出席者も兼ねるという 文字通り1人4役という激務‥‥。
脚本家、兼監督、兼舞台装置づくり、兼主役ということに相成った。

スシと木と.JPG

最初のトークショー 《木の魅力の再発見 !!》 の主役は、モデルでタレントの「はなさん」。
(上の写真の右から安藤教授、はなさん、林農林水産大臣、司会の八塩さん。写真の写りが悪いのはご容赦あれ。 何しろ日経の講演会や討論会は、撮影と録音は厳禁。 カラー写真付きのレジメが資料として配布されているのなら我慢が出来る。しかし、最近はレジメのないものが多すぎる。したがって、フラッシュを焚かずに、デジカメで撮影をさせてもらっているが、これは聴く方の正当防衛だと思う。それにしても、フラッシュを焚かないと 恥ずかしいほど写りが悪い‥‥)

はなさんは、林野庁の最初の《木づかい》のポスターのモデルに選ばれ、好評だった。
自身の趣味は、木彫の仏像鑑賞。小さな木彫の仏像を一杯集めており、仏像の話だと延々と続く。
それとお菓子作りを含めた料理づくりが得手。 その料理の一貫として、はなさんは寿司のにぎりを学習した。バックに写っているのはその時にぎった寿司。
この寿司の写真を見て、「この寿司こそが、日本の農林水産業そのものだ」 と痛感させられた。
コメとお茶という日本を代表する農産物。 マグロをはじめとした海産物。 そして、それを載せて供する木のカウンターと寿司下駄は林業。 まさしく林大臣の守備範囲であり、日本人の生活に如何に深く根ざしているかが伺える。

木のお菓子入れ.JPG

また、はなさんは木の加工品が好きで、産地に行く度にお椀などの小物を買ってくる。 バック写真は柿の木で作られた大きなお菓子入れ。 取っ手が柿の枝を表してしるのがよい。 木の蓋は湿気を遮断してくれる。

家事用木の小道具.JPG

次は、はなさんの家の台所にある木で出来た料理用の小道具類。
金属は温度を伝えて熱いし、熱で伸び縮みする。 しかし、木は温度で伸び縮みはしない。 そのものが断熱材になるほどで、箸をはじめとしてどの小道具も熱を遮ってくれる。
木を収縮させるのは、《温度ではなくて湿度》。

胴管の束.JPG

上の写真は木の断面を顕微鏡で拡大したもの。
木の幹は、地下の水を葉っぱにまで届ける導水管の集合体。 つまり管を束ねたものだということが良く分かる。 この管の構成物質によって重さとか用途が変わってくるが、温度より湿度が木に影響を与えるという理由が良く分かる。
今年の初夏にバイオリニストの千住真理子さんが、日経新聞に次のような随筆を発表していた。
「この季節が一番辛い。 バイオリンは湿度が50%を越えると機嫌が悪くなり、60%を越えるとガラガラ声。70%を越えると剥がれて修理が必要になる。ヨーロッパの夏季は何一つ問題がないのに、日本では温湿度計を持ちこみ、バイオリンも2台持ち込んで除湿を徹底せざるを得ない。そうしないと良い音を聞いてもらえない。 これは何もバイオリンに限ったことではなく、ピアノも同じで、湿度による調整の失敗が 演奏を台無しにする例が枚挙にいとまがない」 と。
こうしたバイオリニストや、日本古来の数寄屋造などに拘らない湿度に敏感な女性のインテリアコーデネィターなどかこのトークショーに参加して、その苦労談を披歴してくれたら、木づかいの大切さがもっと浮かび上がっただろう。

なお、この席上で、林大臣から、国交省の太田大臣に、「CLTを国策として早くオープンに使えるように、告示という形での立法化を依頼している。通常は6年かかるところを3年間以内にして欲しいと頼んでいる」 というトピックニュースの発表があった。
林野庁の意気込みが痛感された一幕。

パネルメンバー.JPG

さて、最後はパネルディスカッション 《木づかい。都市から日本の森づくり》。
(上の写真の右から三井物産・木下専務。イトーキ・末宗Econifa開発室長。凸版印刷・今津CSRチームリーダー。日経BP・ビズライフ局長。林野庁・沼田長官。それとトークショーからの連続登板の安藤先生と八塩さん)

物産の私有林.JPG

まずは、主催者の三井物産の森林事業の概要の発表。
物産が、林業と製材業に手を染めたのは、鉄道線路が全国に延びた時、枕木の提供がスムーズに行かなかったから‥‥。そして、現在では全国74ヶ所に延べ44,000haの私有林を持つ民間では3番目の山林地主。しかし、所有地の7割は北海道にあり、私も道の物産の担当者と話をしたことがある。
その44,000haのうち、特別保護林として将来に亘って開発を行わない保護林が4ヶ所ある。
1つは福島・田代山林。国定公園に指定された尾瀬の一環で、トチノキや美しい高山植物の保護のため。

保護林・福島.JPG

2つは、新潟・南葉山林。
全山水源涵養保安林の指定を受けている。 ブナを主体とした広葉樹林で、川に向かって幹が曲がっている姿勢が美しい。

保護林・新潟.JPG

3つと4つは北海道の宗谷山林と沙流山林。
宗谷山林は、1〜1.5メートルにもなる日本最大の淡水魚 《イトウ》 を保護するため。
また、沙流山林はアイヌ文化を保護するため、アイヌ協会平取支部と協定を結び、記念植林を行っている。
このように、保護すべき山林はきちんと保護し、そのほかの人工林は適宜伐採して、若木を育て、CO2の吸収を図るとともに、伐採した木を都市で使い、どこまでもCO2の固定化に役立てて行こうと全社的に努力している。

保護林・宗谷.JPG

保護林・沙流.JPG

その中で、驚いたのはあのスチールデスクでお馴染みのイトーキ社が、スチールではなく木で床などの内装材を施工し、ウッド家具の生産に乗り出していたこと。
Coniferという針葉樹という単語とEcoをドッキングさせて、Econifa という造語の開発推進室をつくり、下記の物産本社のオフィスや応接室を一変させてきている。

物産のオフィス.JPG

この設計を担当したのがアメリカのデザィナー。
木の家具にしても北欧はデザイン力で抜きんでている。 日本の針葉樹の良さを活かすには、このようなデザイン力が不可欠。
つまり、いくら口で「オフィスにもっと木を‥」と叫んでも、デザイン力がそなわっていないと焼け石に水。 高価な北欧の木製家具が、デザインというソフトな技術力で売れていることを忘れてはならない。

各種カートカン.JPG

これに匹敵するくらいに面白かったのは、凸版印刷が開発した新しい飲料容器のカートカン。
コーヒーとかビールなどはアルミかスチール製の缶に入っているものだという先入観がある。しかし、これを木の繊維に置き換えて行こうと言う試みが10年ぐらい前から続けられていた。
言うならば特殊な紙を開発し、コーヒーやジュースをその中に入れようと言うもの。
日本の外材輸入の半分をしめているのが紙の原料としてのパルプ。 このパルプの一部の国産化を図って行こうとする狙いが込められている。
凸版が開発したカートカンの場合は、間伐材の利用を含めて国産材の比率が30%まできている。 しかも、売上の一部は森林育成事業に寄付されている。 そして、業務用は何回も再利用が出来るし、家庭から出たカートカンは、トイレットペーパーとして再利用される。
文字通り、リサイクルの優等生だが、カートカンそのものがなかなか普及しなかった。
しかし、物産はセブンイレブンに対して発言権を持っている。そして、コンビニでも採用されるようになり、年間1臆7000万本を売れるようになったという。
まだまだ、1家庭では年間3本という需要に過ぎないが、これからはコーヒーやジュースという飲料には限らず、ヒールなどの酒類にも進出してゆける技術的見通しが得られたという。
また、スープやお汁粉など食品関係の開発も予定している。
私は、当日に初めてカートカンのお茶を飲んだが、悪くはない。 皆さんも、是非コンビニでカートカンを探していただきたい。

ドーム.JPG

秋田出身の麓さんは、自分が誕生した時に両親が植えた大きな森林と、大館市の木製の大ドーム 《大館樹海ドーム》 などを紹介した。

間伐・前後.JPG

そして、林野庁沼田長官は、豊富な資料を駆使して説得力のある説明を行った。
中でも上の、間伐前には光が差し込まない暗い森が、間伐後は下草が生えている明るい森に変身している写真が、参加者の心に強い印象を残した。
そして、戦後は日本の山は禿山。 木の使用の制限が叫ばれ、建築学会は今から61年前の1952年に、公庫の木造の標準仕様書が出来た時点で、「木造よさようなら !  RC造・鉄骨造よこんにちは !!」 という大転換を余儀なくされている。
以来、木造は大工さんの勘任せで、いい加減な住宅の提供がなされてきた。
この木質構造に科学の光を当てたのがツーバィフォー工法。 杉山英男先生を中心にスパン表などの重要性が再認識された。 1974年にツーバィフォー工法はオープン工法として日本で採用され、木質構造全体の見直しが始まった。
しかし、円高で国産材は割高ということもあって、日本の山の木は伐採されず、おかげで日本は世界で3番目の木材資源所有国になった。

CO2固定.JPG

そして、木材重量の半分はCO2。
この木材を構造材として、また造作材などの内装材、あるいは家具や調理などの道具、さらにはカートカンとして採用され続けば、CO2がそのまま固定した形で残る。
例えばチップとして燃やしても、元の状態に戻るだけで新規にCO2を増やしているのではない。いわゆる 《カーボン・フリー》 として世界的に容認されている。
日本は、いよいよ本格的に、伐って、使って、植えるという時代を迎えている。
とくに伐って、大都市で使う、ということが最重要。
その使うと言うことで、いくつかの新しい動きが見えた。
これが、今回のフォーラムの最大の成果であった。










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2013年03月10日

中央官庁の観念的スマートシティ vs 具体的なプラチナ社会


今日の札幌は湿った雪と強風で大荒れとの予報。 北日本海側全体が寒冷前線の通過で雪に見舞われるとか…。
これに対して、昨日の東京は23℃を超えるバカ陽気。この陽気に誘われて、小平の早咲きの桜が早くも1厘咲き。 春なのですね…。

桜3.JPG


さて、皆さんはICTをご存じか ?
スマートシティの講演を聞いているとしきりに出てくる単語。
帰ってネットでICTを調べたら、テレビの監査委員会、インテリアコーデネィター、列車制御システム、テニスクラブなど多様な略称が重なっている。
スマートシティの論客が用いているのは、今までの「IT (Information Technology)」の情報通信システムではなく、ICT (Information & Communication Technology)。
同じ情報通信システムでも、後者は Communication が加わり、社会的な重みが増したITということになろうか…。

さて、スマートシティとは、今までの都市とは全く異なる新しい機能を持った都市のことを言うのだろうか ?
このスマートシティの定義付けがハッキリしていない。
各氏の発言や諸官庁の意見を総合して考えれば、次のように言えるのではなかろうか。

「化石燃料に対する依存度が低い電力をはじめとしたエネルギー供給網、 上下水道網、CO2の発生が少ない交通網、 通信網、 行政サービス網、 働く職場の確保、 教育・娯楽サービス網、 医療・保険サービス網、 防犯・危機管理網、 ショッピングなどの流通網、 住みやすく省エネ性の優れた住宅・建築などのインフラが効率的に整備されており、総合的に地球にやさしい都市づくり」 のこと。

そして、ハード面では、地震や津波で壊れない堅牢なデータセンターを中心に構築されるITC都市と考えて良かろう。
人間に例えれば、データセンターが頭脳であり、血管。
そして、神経に匹敵するのがインターネット。
内臓などの各器官はセンサーであり、アクチュエーターと呼ばれるエネルギーを機械的な仕事に変換するモーターやシリンダー。そのようなネットワークが過不足なく構築されている。
そして、停電が起きても機能が麻痺しないように発電や蓄電という心臓機能も持ち、ある程度自立出来る都市のこと、と考えても良かろう。

そもそも経済産業省が当初考えていたのは、あくまでも次世代のエネルギーを中心とした社会システムの再構築にあった。
図は大変分かりにくいが、従来の電力形態の外に地域の電力システムを補完させ、全体をエネルギー・マネージメントシステムとして、どのようにまとめ上げてゆけば良いかという単なる叩き台にすぎない。

次世代エネルギー.JPG

この実証事業を推進するためのモデル都市を2010年1月に公募を開始、応募のあった20都市から4都市をプロジェクト都市として選定した。
その4都市とは神奈川・横浜市、愛知・豊田市、京都・けいはんな学研都市、福岡・北九州市。
この4都市で2010年から2014年までの5ヶ年計画のマスタープランが発表され、現在進行中。

この経済産業省の動きに触発されて、上記4都市以外の日本全国各地で、より優れたスマートシティ構想がガンガン進められている。
その中心になっているのが三菱総研の理事長で東大総長顧問の小宮山宏氏が唱える「プラチナ社会のネットワーク構想」。
何しろ48都道府県のうち6割の29都道府県が参加し、市町村単位では83市町村 (うち政令市は11市)、東京23区のうち10区が参加。 なんと参加している自治体の人口が日本の総人口の2/3を占めるまでになっている。
この外に企業会員73社、特別会員39と一大勢力に…。
このプラチナネットワーク構想では、単に次世代エネルギーシステムをいかに構築するかという問題を超越し、地域をいかに活性化して行くかとか、宮城県のように災害地では如何に10ヶ年計画で復活を図って行くかという具体的な動きが目立っている。
おそらくこのプラチナ構想は、道州制などともからんで、中央官庁の枠を逸脱する動きとなって展開してゆくであろう。

このように、経済産業省を嚆矢とするエネルギー問題が中心の観念的なスマートシティと、 プラチナ構想ネットワークによる具体的なスマートシティ構想が入り混じっている。
このために、スマートシティそのものが大変に分かりにくくなっている。
私は、経産省とか国交省など中央官庁が唱えるスマートシティは、大手住宅メーカーや不動産業者の既得権擁護を前提に考えた不純なもので、小宮山氏の唱えるプラチナ構想こそ本来のスマートシティだと考えている。
中央官庁が唱えるスマートシティには、省エネ化に対して自分の身を削る具体案がなく、ポリシーもない。 HEMSなどで小手先を弄して、大手メーカーは餌だけを奪って逃げ出そうとしているように感じられる。

それでは、小宮山氏のプラチナ構想によるスマートシティネットワークとは、具体的にどんなものを目指しているのか。 同氏の基調講演とシンポジウムから見て行こう。
しかし、最初にお断りしておかなければならないことがある。 それは、残念ながらこのシンポジウムを主催した日経は大変に不親切。
如何に無料のシンポジウムだからといって、講師の基調報告のレジメが一つも用意されていない。 カラーがムリであれば、白黒の写真でよいから準備するのが主催者としての最低義務だが、それを果たしていない。 ひどいと思ったがどうしょうもない。
また、会場では一切の録音と撮影が禁止されていた。
このために、多くのデータとグラフに基づく小宮山氏のポリシーを簡単明瞭に伝えられないことが非常に残念。 読みづらい文字に付き合っていただきたい。

小宮山.JPG

氏が唱えているのは、社会の基本的な変革。
最初に起こったのは1000年以上前の農業革命。 この革命によって自ら労働しなくても搾取による不労所得で生きて行ける貴族階級が生まれた。しかし一人当たりのGDPは各国とも低く、300年前までの平均寿命は先進各国とも30才台に過ぎず40才をこえていなかった。
そして、一人当たりGDPを変えたのは工業化と言われる産業革命後だった。
この産業革命をなし得た国は一人当たりGDPを伸ばし、100年前からは先進国の平均寿命は40才後半から50才台へ近づいてきた。
そして、戦後の化石燃料を大量に使用する量産体制の確立によって人々のGDPは異常なまでに高まり、平均寿命は70才の後半から日本では80才台となってきた。
一般人が高齢化を勝ち得たということは、プラチナ社会到来以外の何物でもない。
そして、後進国と言われていたアジアをはじめとする全ての国も、産業革命と言う名の工業化を進めており、いずれもプラチナ社会になってゆく。
自動車は、人口当たり0.45〜0.5台で頭打ち。つまり国民2人に1台しか必要ではない。
12年に1回買い替えられるだけ。 車を中心とする総需要は 中国にしてもインドにしても、それほど遠くない将来に頭打ちになる。
つまり、衣・食・住・移動・情報・長寿を一般市民が手にする社会が21世紀前半に世界に行きわたる。
たしかに、現在でも飢餓が叫ばれているが、実際には世界の人々の健康を脅かしているのは「飢餓」ではなくて「肥満」。
このように、世界は「量が満たされてゆく」。としたら、次にくるものは「質」。

日本はプラチナ国。 なかでも長寿の先進国。
この日本が求める「質」とは何か。
私 (小宮山氏) は10年前にエコハウスを建てた。
Q値は残念ながら1.6WとR-2000住宅にも及ばず低い。
しかし、エコキュートを採用し、最新のCOPの高いエアコン、冷蔵庫、洗濯機を揃え、LED照明を採用した。
この外に、太陽光発電3.6kWを搭載し、ハイブリッド自動車を買った。
このため、家庭と輸送で使う、わが家のエネルギー消費量はそれまでに比べて80%も減少している。
しかし、私のエコハウスはもう古い。
今、もし新しい住宅を建てるとしたら、Q値は0.9W以上でセントラル空調換気システムを選び、太陽光発電は5kW以上を搭載したい。 そして蓄電池を兼ねて電気自動車を選ぶであろう。
そうすれば、家庭と輸送で、ほぼゼロエネルギーハウスが達成できる。

1970年における日本のエネルギーの消費量は66.2%が産業用であり、運輸15.2%、業務8.5%、家庭10.1%を含めても33.8%に過ぎなかった。
それが2010年には産業用が42.8%と激減して、運輸23.8%、業務15.1%、家庭18.3%と産業用以外が57.2%と逆転して多く消費している。
つまり、これからは家庭の省エネ化、ビルや商業施設などの省エネ化と運輸の省エネ化が大きな課題になってくる。
中でも大切なのは、住宅やビルの断熱化であり、気密化であると思う。
そのポイントを忘れてはならない。

そして、これからはますます都市化が進む。
200人に1人が農業をやるだけで良くなる。遠隔地の過疎化が進むであろう。
一方、安倍総理が言っているように、「国土の強靭化」 と言うのが大きな課題になってくる。 農地を集約化してグローバル化に耐え得るような農林水産業を育成していかなければならない。
50年前の産業化、工業化の過程で、農林水産業は補助金を与えて切り捨てられてきた。しかし、これからの孫の時代には、スマートシティと共に農林水産業の復活を果たしてゆかねばならない。とくに断熱住宅の強化ということになると、資源の面からも雇用の面、あるいは健康、バイオエネルギーという面から見ても、「良い住宅と森林再生の好循環」 は必須の要件となってくる。
そのためには、現在の農林水産物の加工に携わる人材を育てる農業学校の授業内容を、根本的に変えてゆく必要がある。 つまり、経営者としてバランスシートが読め、資金繰りとか人材育成といった「経営」が分かる人材を育成して行かねばならない。 それが今の学校教育ではなされていない。

2050年目標.JPG

そして、プラチナ社会の実現のためには、2008年のエネルギー消費量を2050年には45%へと半減以下にして行かねばならない。
その第一歩は先に上げた断熱・気密性能の優れた住宅とビルを選ぶこと。そして太陽光発電と電気自動車の蓄電によって、ムリなくこの目的を達成すること。
この行動を、全国民の合言葉にして行かねばならない。
そして、現在に比べて55%もの省エネを図る一方、現在は水力を含めても持続可能なエネルギーの比率は18%に過ぎないが、2050年には70%が再生可能なエネルギーに切り替えてゆかねばならない。
こうしてこそ、下記の資源の高い自給率が達成される。

・水資源        100%
・木材資源       100%
・食  料        70%
・エネルギー       70%
・鉱物資源        70% (主として回収資源による)

それと同時に、どうしても達成しなければならないことがある。
それは、やたらと医療費を使う医療施設を増やすことでもなければ、診断システムのICT化を大胆に進めることだけではない。
それを充実させることは、確かにスマートシティの大きな目的の1つであり、その意義を認めるのにやぶさかではない。
それよりも大切なことは、90才になってもピンピンとした元気な老人の比率を増やしてゆくこと。
現在では、90才になっても健康でピンピンしている老人の比率は11%。
72才までは元気だったが70〜80才台になると徐々に健康が悪化して行く人が70%。
そして、問題は60才台という比較的若い時期に健康を損ない、長期医療が必要な人が19%も占めていること。
日本の医療費の5%が、重症糖尿病患者の透析が占めている。

ともかく喫煙とメタボは国民の義務として自制してゆかねばならない。
医療費のやたらな増大を防ぎ、子や孫に負担をかけないヘルシーでスマートボディを維持し、「ピンピンコロリ」 こそが、日本の国民の義務として全うする気概が不可欠。
90才になってもピンピンとして、行動的な老人の比率を50%に高めるという難しい課題にトライしてこそ、「課題先進国・日本」 の取るべき姿。 
そして、ピンピンコロリと生きるためには、家の中に温度差があり、いつ心臓や脳がやられるか分からない家に住んでいてはならない。 省エネで健康な家に住む。 それこそが、スマートシティの最大の目的でなければならない。






posted by uno2013 at 12:43| Comment(0) | 展示会・シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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