阪神淡路大震災以降、急速に注目を集めたのが 「剛構造」 か 「柔構造」 か、という議論。
日本における最初の超高層ビル・霞が関ビルの完成以来、高層建築では圧倒的に 「柔構造」 が優勢になってきている。 しかし、長周期地震動で、大阪では6メートルのヨコ揺れの危険性もあると、最近の新聞は伝えており、柔構造+制震技術が求められている模様。
超高層建築では軽量建設が主体になり、その大きなヨコ揺れを防ぐためにも、制震技術とか免震技術開発の花が一斉に開いた。
注目されたのは、この 「柔構造」 を大前提とした制震・免震の技術が、単に高層建築だけではなく低層の木造建築にも有効だと考えられ、阪神・淡路大震災以降に、三井ホームや一条工務店などが積極的にこの手法を採用しはじめた。
その結果、低層住宅においては日本は世界とは桁違いの制震技術の普及大国になった。 このことは、大変に喜ばしいことだと考えていた。
実は、故人になった兄が、東京でこの制震技術を採用した住宅を 市部で建築中で、「時折でいいから現場を視察して、問題点があったら教えてほしい」 と依頼されていた。
ちょうど、中越地震を視察した直後だったので、現場を見て確信はなかったが、何となく違和感を覚えたのは事実。
それは、川口町で聞いた ある主婦の体験報告による‥‥。
「ちょうど、食事をつくるために台所に立っていた時でした。 最初に、地下から突き上げるような衝撃がきて、15センチほど飛跳ねさせられたのです。 その後は激しいヨコ揺れが来たので、あわてて火を消して逃げました‥‥」
最初に、突上げるようなタテ揺れがあったのは事実。
それが15センチも飛跳ねるほどの大袈裟なものではなく、せいぜい数センチ程度だったのではなかったかと推測している。 しかし、仮に数センチだっだとしても、上下動が最初に来たので 主婦はびっくりして、大袈裟な表現になったのだと思う。
直下型地震では最初に上下動が来るとすると、「ヨコ揺れを大前提に開発された低層住宅の制震技術は、本当に機能してくれるのだろうか‥‥」 という率直な疑問。
私が川口町だけでなく、六日町や十日町という震度6強と言う町の倒壊現場で見てまわった。
ダブル配筋のコンクリートの高床には、どれを見ても亀裂らしい亀裂が1つも入ってなかった。
1階高だけの高床式鉄筋コンクリート造の 「剛構造」 は、やたらに地震に強かった。
弱かったのは、その 「剛」 なる鉄筋コンクリート造の高床の上に鎮座していた 「柔構造」 の木造部分。
そして、六日町や十日町の震度6強地域でも、外壁に構造用合板を使用していたスーパーウォールは、外観上はほとんど被害が見られなかった。
しかし、内部に入ると、石膏ボードに打たれていたクギがボード用クギではなく、しかも出隅の部分や窓回りには 幅が45〜90ミリという端材が、やたらに使われていた。
その端材が、ヨコ揺れでほとんどが剥がれ落ちて、散乱。
それだけではない。 合板や石膏ボードが木軸同様に柱芯から張出されていたので、ほとんどの開口部の4隅部のボードに亀裂が入っていた。
つまり、細い間柱を前提とした在来木軸工法では、石膏ボードがほとんど構造的な耐震効果がなかった。 間柱は、単なるクロスを張るためのボードの受材としてしか 工務店や大工さんに理解されていなかった。
このため、倒壊していないスーパーウォールでも、ビルダーによる補修工事は 予想を上回るものがあった。 そして、川口町では、内壁に入れた太いスジカイが、ことごとく面外挫屈を起こして 石膏ボードを吹き飛ばしていた。
こうした現実を見て、「剛」 なるコンクリート基礎に乗っかっている木造は、宙づり状態に出来ない以上は、出来るかぎり 「剛」 にすべきだ、というのが私の結論。
この中越地震から学んだのか、その後三井ホームは制震のことは言わなくなった。 あれほど 「制震」 で売っていた一条工務店も、鳴りを潜めてしまった。
その理由が、奈辺にあったかは私には分からない。
ただ、一条工務店が、制震に変わって、i-cube とか i-smart などのツーバイフォーまがいのプレハブを大々的に売り出したことには、心から賛同。
しかし、内部の石膏ボード工事を見ると、当初はそこいらの在来木軸工法と変わらなかった。
出隅部と開口部回りに端材が使われていた。 今は解決されていると思うが、耐力壁でない石膏ボードのクギ打ち間隔は、外周部は200ミリピッチだったのには泣きたくなった。
また、公庫の標準仕様書を読み違えて壁先張りで優先させており、天井ボードが後張りになっている図を添付して、指摘してくれた消費者もあった。
さらに、床や野地合板の千鳥張りをやっていない現場とか、全熱交で浴室・トイレから熱回収もせず排気しているのに、Q値が高いのは納得出来ないという意見も散見された。
つまり、住宅性能を最前面に立てて商売したのは、日本の大手住宅メーカーでは i-cube や i-smart が最初。
それなのに、在来木軸・プレハブ手法にこだわりすぎて、ツーバイフォーの革新的な技術体系を学ぼうとする意慾が欠落していたのではないかとの指摘。
一条工務店は、すべて日本の認定機関の認定を得ている。
それなのに、私があえて 「一条工務店のツーバイフォー工法は、まがいものだ」 と指摘したのは、同社が憎いからではなく、三井ホームに変わるツーバイフォー工法の本当のエースになってほしいと願うから。 最近の三井ホームにはイノベーションが欠けているように見られる。 せめて、地方のツーバイフォー業者のパネル工法の欠点を補うために、金物工法へのアプローチで積極的なリードが欲しい、などの声が聞かれる‥‥。
さて、低層住宅で、耐震性と防火性と言う点で見るならば、抜群に優れているのが RC造 (鉄筋コンクリート造)。
しかし、RC 造は重く、施工価格は木造に比べて20%も高い。 それに何と言っても断熱性能があまりにも低すぎる。 ちなみに、主要建材の熱伝導率は以下。
◆モルタル 1.6W/mk
◆石膏ボード 0.22W
◆木材・合板 0.12〜0.16W
◆高性能グラスウール (32K) 0.036W
◆高性能硬質ウレタン 0.023W
モルタルの熱伝導率は、合板の1/10にすぎない。 私が推奨している 高性能硬質ウレタンに比べると、なんと1/70。
しかし、RC 造は気密性がよい。 一般的で雑な木軸工法に比べると 20倍近い気密性能を持っており、素人の消費者は木造よりもマンションの方が暖かいと勘違いしている。
このように、鉄筋コンクリート造には耐震性と防火性には魅力があるが、あまりにも問題点が多すぎるので欧米、とくにアメリカでは徹底的に木造の耐震性と防火性能を上げて、これを採用してRC造を極力減らそうと努力している。
私は、原則的にアメリカの動きに大賛成。
私が以前に勤めていた会社では、RC部の売上が30%近くを占めていたので、RC 造が木造に比べて何故原価が高くなるのかを それなりに理解しているつもり。 まず、何と言っても基礎工事が木造と比べ物にならないくらい頑丈。 重い荷重を支えるために、基礎の深さは2倍以上で、配筋数もやたらに増加。
2階建なのに、木造住宅では信じられないくらいの基礎工事。
最近のツーバイフォー協会の 「1時間耐火構造」 による幼稚園や大型の高齢者福祉施設を見ると、両面に9ミリの合板を張り、その上に21ミリ以上の強化石膏ボードが 両面ともに2枚張りになっている。 大変な 「剛構造」。
ここまでやっても、最近は型枠工の極端な不足で、建築価格が暴騰している RC造に比べると、 ツーバイフォーの価格が20%も安いという。 したがって、大型の有料老人ホームはツーバイフォー造に変わってきている。
それなのに、昨年の学校建築の実物大防火試験は、このような1時間耐火構造の原則を全く無視したものであった。 あの実験は、一体何だったのだろうか?
すべてのツーバイフォー建築が、1時間耐火を求められているのではない。
アメリカの現場で徹底していて驚かされるのは、内壁と天井面に12.5ミリ厚の石膏ボードの施工するとともに、ドライウォール工事を義務化していること。
今さらドライウォール工事の凄さを書くまでもなかろう。 アメリカの住宅の建築現場で受ける印象は、ドライウォール工事の前と後では 180度も変わってしまう。
「アメリカの住宅の建築現場は、これほど垂直・水平がとれており、これほどまで綺麗であったのか?」 と、誰しもが感嘆の声を上げる。 それほどの威力を持っているのに、何故か日本では低い評価しか与えられていない?
12.5ミリの石膏ボードの耐火時間は約25分。 木は、直接炎を当てると250℃で燃えあがる。 しかし 炎を当てなくても450℃に焼けた石を当てると、発火してしまう。 したがって木造の防火を防ぐには、石膏ボードの裏面温度が450℃以下にすることが絶対条件。
何故、石膏ボードは耐火性を持っているのはか?
それは石膏ボードの中に21%の結晶水が含まれているから。
この結晶水が火に当たると熱分解をして水になり、12.5ミリ厚の石膏ボードでは25分間、霧を発散し続けて裏面温度450℃以下に抑えてくれている。 同じ原理で、1時間耐火には片面21ミリの強化石膏ボードが2枚必要になってくるのが、2×4協会が得た特認仕様の内容。
しかし、大都市では25分以内に消防車が駆け付けてくれるし、たとえ 消防車の到着が遅れても、サッシが閉まっていると室内のカーテンや家具を焼いた時点で酸素不足になり、自然に鎮火してしまう。
私は2×4協会の火災実験をはじめとして、4件の実物大火災実験に立会ってきた。
その結論を先に書くと、4件とも部屋の中央に薪を山のように積み、灯油をかけてから火をつける。 するとメラメラと火は拡がり、カーテンを焼いてあっという間に部屋中に拡がる。 ドアが閉まっていないと家中が火の海になる。 しかし、気密性能が0.5〜0.9cu/u以下だと、次第に酸欠状態に陥って、自然に鎮火してしまう。
しかし、簡単に自然鎮火したのでは、わざわざ遠くから見学に集まった人には面白くない。
そこでサッシを空けて、新鮮な酸素を供給する。 すると、鎮火していた火は再び勢いを取り戻し、掃出窓のガラスを破いて、バルコニーから2階の部屋に延焼する。
そして、1時間余も燃え続けて、実物大火災実験は終わりとなる。
こんなデーターがある。
25年前の資料だか、アメリカと日本の火災の発生率と損害額を比較した数字。
なんと日本人は火災の発生に気を配っていているので、火災の発生回数は4.5回。
これに対して、アメリカ人はだらしがないというか、めったに全焼にならないことを知っているせいかどうかは知らないが、日本の約31倍もの火災発生率。 なんと138回に及んでいる。
この4.5回対138回という数字に呆れてしまった。 アメリカへ行ったら、何はさておいても火災の発生に最大の注意をすべきだと‥‥。
ところが、1件当たりの被害額をみると、日本はほとんど全焼になるせいか286万円に対して、アメリカは1/10以下のたった27万円。 これだと、致命的な被害とは言えない。
そして、アメリカの住宅を見て回った時に、この火災の発生率の大きさと、1戸当たりの被害額の少なさは、内装に必ず12.5ミリ以上の石膏ボードを使っているせいと、ドライウォール工事が徹底しているせいだと知らされた。
一番見事だったのは、開口部のない内壁に石膏ボードの上に 仕上げとして無垢の木製品を張っていたこと。 現わしの木材を使う時、下地に石膏ボードを張り、しかも外壁を避けて 開口部の少ない内壁を選んでいたケイガンには、感心させられた。
このデーター数値が、25年経った現在ではどのように変化しているかを、知りたいもの。 おそらく日米の差は、かなり縮まっているはずだと信じたいのだが‥‥。
さて、前置きが長くなりすぎた。
どれぐらいの耐震性を日本の低層住宅に求めたらよいか、という本題に戻ろう。
もし、貴方が直下型の震度7強の地震がきても、実質的な被害が皆無であり、以前と同じ気密性能を求めているとしたなら、まず耐力壁が7倍以上の剛なる木質構造体を選ぶべき。
具体的には、耐力壁が7倍以上の特認をとっている 「自然の住まい」 社の外壁本体の壁厚が17センチと厚い 「クロス・ラミネート・ティンバー」 か、外壁本体の壁厚が15.6センチと厚く、両面に9ミリのOSBを張り、0.023Wという高い熱伝導率で固い硬質ウレタンを、工場で充填しているA&M社の大型パネル etc. を選ぶべき。
そして、家具やテレビなどを、金物で完全に壁に固定して絶対に移動させないこと。 さらには、なるべく簡単にドアなどが開かない家具類を選別することも重要。
当然のことながら、内壁及び天井は、最低でも12.5ミリ厚以上の石膏ボードで全面的に覆い、ドライウォール工事をこれまた全面的に採用すること。 と同時に、類焼に強い不燃材を外装に採用し、ガラスは割れない配慮が必要で、燐家との距離を一定以上に空けること。
さらに言うなれば、土石流や津波の畏れのない地域とか、あるいは盛土をしていない固い地盤を選ぶとか、地盤改良工事を完全に行うことが絶対的条件。
大変厳しい要望だが、震度7強の直下型地震で、実質被害が気密性を含めて0であることを求めるのならば、建築基準法を守っているだけではラチかあかない。
もっと厳しい条件が必要になってくる。
果たして、こうした条件を満たすことが可能な人は、どれだけいるだろうか?
そこで、次善策が求められる。
住宅の大きさが30〜40坪程度で、やたらな我がままを言わないことで坪当り70万円台で上がる住宅。 つまり、総建築費が2200〜3000万円強の予算で済む住宅。
これで、Q値は0.9W以上で、震度7弱の直下型地震がきても倒壊することがなく、地震の後でも気密性能が1.0cu/uの線を守ることが、消費者としては必須条件。
ということは、プレハブメーカーなど施工部門を外注に依存している大手は、一条工務店を除いてすべて失格。 なぜなら、地震が来ない前に 大手の気密性能の実態は、よくて2.0cu/u程度というスカスカ状態。 つまり、マンションよりも性能が悪く、RC造よりも暖かくない住宅がゴロゴロしている。
それを黙認している国交省や大学教授。
それでいて、「エネルギーがゼロ住宅」 などを唱えているのだから、普通の神経の持ち主ではない。 片腹どころか両腹が痛くなってくる。 ともかく、気密性能をキチンと謳っていない大手は、絶対に相手にしてはならない。
そして、次に重要なことは、スジカイや火打ち材などにオンブしている業者を拒否すること。
耐震性は、厚い面材でないと絶対に得られない。 面材を否定する者は耐震性を語る資格がない。
このことは、中越地震でイヤというほど教えられた。 そして、石膏ボードの端材を使っている業者もシャットアウトすべき。 願わくば、ドライウォールの経験者を間接的でいいから知己に持っていることも、欠かせない条件の1つになってくる。
ついでに言うならば、確認申請上は耐力壁が足りていても、石膏ボードの外周のクギ間隔を10センチを守っていない業者も締め出したい。 普段から10センチピッチを守れない業者は、いざ耐力壁だと言われても、粗いクギピッチになってしまうことは、世界の建築業界の常識。
これは、それを容認している現在の日本の認定機関と、世間知らずの学者に対する抗議そのものなのだが、そうした機関が信用出来ない以上、民間の良識に期待するしかない。
そうした民間の良識が、消費者の願望を汲み上げてくれることを、心の底から期待している。