最近の私は、住宅性能面で 0.5cu/u以上の気密性能 (C値) と、1.0 W 以上の断熱・省エネ性能 (Q値) を求めている。
しかし、それ以上に求めているのは、耐震性能であり、防火性能。
ご案内のように、建築基準法で求めている耐震性能は、「震度5強の中規模地震ではほとんど損傷を生じることがなく、極めて稀にしか発生しない震度6弱以上で震度7までの地震には、傾くことはあっても倒壊することはないものにすべし」 というもの。
非常に常識的な判断だと考えられる方も多かろう。
最近は直下型の震度7という地震はほとんど聞かない。 しかし、阪神淡路と中越地震という直下型で震度7という地震が、10年余前に連続して起こった。
そして、「30年以内に東京で震度7の直下型地震が起こる可能性が非常に高くなってきている」 と言われている。
「東京の震度7の直下型地震に対処するにはどうしたらよいか」 という大きなテーマを抱えて、神戸と川口町の現場を訪れた。
さすがに神戸への視察者は多かった。 しかし、「大阪周辺へは大きな地震はやってこない」 という伝言に踊らされたのか、神戸の耐震性能の低さには呆れるほどのものだった。 無筋の基礎工事を多く見たし、柱や梁なども3寸と細いものが圧倒的で、ほとんどの住宅は最初の一揺れで通し柱が折れ、1階がぺシャンと潰れてしまっていた。
そして、1階で寝ていたお年寄りを中心に、7000人以上が圧死してしまった。
正直言って、あの地震の加害者は、木材関係者や建築業者。
ツーバイフォー工法は、ほんの一部の大手の住宅メーカーの住宅が潰れただけだった。 これに対して、在来木軸業者の住宅は、軒並みに潰れていた。
神戸の被害を見た多くの人は、「これで、在来木軸は完全に死んでしまった」 と考えた。
私には、「在来木軸の根本的な解決策」 が何一つ浮かんでこなかった。
神戸の場合は、「潰れて当然」 と言えるものだった。
これに対して、中越地震の時は、私は翌日には震度6強の六日町に入り、知人のトピアホームを中心に取材をしていた。 最初の頃は中越地震での倒壊数は400棟と言われていた。 そのうちに激震地は川口町だと分かり、倒壊戸数も3000棟に近いことが判明してきた。
トステムが、スーパーウォールの代理店・川口町の渡部建設の被害状況を調査するために調査団を派遣することになったと聞いた。 その調査団に同行して渡部建設を訪れられるようトステムに依頼した。 それ以外にも2度に亘り同社をを訪ねて取材を続けた。
渡部建設は町から依頼されて、全被害地域の基本調査を行っていた。 その調査で、同じ川口町でも被害がひどかった地域が4ヶ所あることを渡部社長は語ってくれた。 ご案内のように、震度6までは強と弱がある。 しかし震度7には強弱がない。 一率に震度7で統一。
ところが、渡部社長が案内してくれた烈震地の1つの武道窪では 17棟のうち16棟が潰れ、倒壊していなかったのはスーパーウォールの1棟だけ。 その1棟も、仏壇が部屋の中央まで動き、内壁の石膏ボードはほとんどやられ、外壁の構造用合板もかなりやられていた。 そして何よりも強調しなければならないのは、気密性が完全に失われていたこと。
「今までは、前の坂道を昇る自動車の音は全然気にならなかった。けれども、今はうるさくてやりきれない。 確かに倒壊しなかったことには感謝しているが、失われた気密性と騒音は、どうしてくれるのでしょうね‥‥」
建築基準法から言うと、倒壊しなかったのだから、建築業者が問われる理由は1つもない。
もう1ヶ所、渡部社長が案内してくれた激震地は田麦山。
約100棟ある住宅のうち、倒壊を免れたのはたったの10棟だけ。 倒壊率9割という凄さ。
つまり、震度7の川口町でも震度7弱と震度7強の地域があたことが歴然。
このことを、各大学をはじめ気象庁も調査をしているはずだが、学会の発表会でも各報道機関でも、なに1つ触れていなかった。
それに新潟の豪雪地で、プレハブ住宅が1棟も建てられていなかったので、各住宅メーカーもほとんど調査をやっていない。
豪雪地なので、ほとんどの住宅は高床式。 つまり、1階基礎と天井はダブル配筋をして、1階は車庫や物置として使用。 そして豪雪時は、2階から出入りする。
この田麦山の100棟をすべて見て回ったわけではない。 主に渡部建設が建てたスーパーウォールを中心の視察になったが、驚くことに倒壊した住宅のすべての高床は、ほぼ無傷で残っていた。 そして、スーパーウォールで目撃したのだが、なんとホールダウン金物の先のネジになっている部分で、ネジが千切れていた。
つまり、ダブル配筋のコンクリートの床は無傷だったが、それとホールダウン金物で結んでいた木構造部分がやられていた。 基礎を丈夫にしただけではダメだと立証してくれていた。
この大切なポイントを、建築学会をはじめほとんどが見逃していた。
もちろん、コンクリートの高床は無傷だったが、駐車しておいた車は壁に当たって大破していたり、1階床に立ちあげていたエコキュートが倒れて、使いものにならなくなっていた。
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一方、こうした激震地以外の、いうなれば震度7強ではなく、震度7弱の町中のスーパーウォールの被害状況も数ヶ所見せていただいた。 こうした住宅は、外から見ていると全く被害がないように見えた。 しかし一歩中に入ると、ひどいものだった。
天井から下げていた電灯は暴れてあちこちに傷を付け、クーラーは脱落していた。 夜間電力を利用する蓄暖は、壊れてバラバラ。
それに、ほとんどの家は1ヶ月以上はたっているというのに、未だに片付けが終わっておらず、足の踏み場もないという住宅にもあった。
そして、豪雪地なので使われている柱は最小でも4寸角。 中には5寸角の柱も見受けた。
内部に使われているスジカイはその1/2から1/3。 つまり最低でも厚は40ミリから75ミリ厚。
そのスジカイが横からの力で圧縮され、面外へ挫屈していた。 このため、内壁に張られていた石膏ボードが、1枚残らず吹飛ばされていた。 全く想像も出来ない姿。 これを見て、スジカイ擁護論者の顔を見たくなった。 なんと言うのだろうか?
その川口町の中の倒壊率は、全体的には30%程度と言われていた。
多くの読者は、「また川口町の話か‥‥」 と眉を寄せていることと思う。 しかし、私以外に誰1人として川口町の実情を正しく伝えてくれていない。 折角の教訓が活かされていないと思うから、少し焦っているかもしれない。
初めての方で、もっと川口町の詳細を知りたい人は、2004年11月4週から2005年の1月4週にかけて、このブログ欄で9回に亘って掲載しているので、それを読んで頂きたい。
こうした神戸や川口町の実情を見て、私は在来木軸工法に対して、消費者視線から救いようがないと考えていた。 ところが、日本には知恵者がいるのですね。 タツミが中心になって通し柱が折れない 「金物工法」 を開発してくれたではないですか。 日本の在来木軸にがっかりさせられていた私も、この金物工法で救われたと感じた。
しかし、金物工法によって通し柱が折れる心配は皆無になったが、同時に古くて弱い木軸工法も息を吹き返してしまった。 消費者視点を無視して、再び大工さんや棟梁の勝手が通るようになってきた。 スジカイや火打ちが素晴らしいことのように伝えられ始めている。
そして、期待していた金物工法の普及率は、贔屓目にみて20%と聞く。 大手の住宅メーカーの全てが金物工法に変わったのに、未だにこの数値だという。
この最大の理由は、金物工法がツーバイフォーに比べても材積が20%近く余分にかかっている。
つまり価格が高いので、おいそれとは使えない。 耐震性や防火性、さらには省エネ性能でも劣るのに、古式の在来木軸の存在を許している。
金物工法は、柱と集成梁によるラーメン構造にその基本がある。
このため、3尺ごとに柱を建て、3尺ごとに集成梁を入れるという剛な形が基本となっている。
私は、ラーメン構造を決して否定していない。 木質構造としては、絶対必要な技術だと考えている。 しかし、やたらにラーメン構造に拘るのはいかがかと考える。
私が以前から提案しているのは、北海道の一部で広く採用されている金物工法とツーバイフォー工法とのドッキング。 すべてをそれに変えろと言っているのではない。 価格的に対応出来ない層に対して、そうした選択も大いにありうると強調しているだけ。
具体的には606の通し柱を2.5間〜3.0間に入れて行く。 その間に206で組んだパネルを入れてゆく。 内壁は204材のパネルでよい。
そして、肝心なことは、出隅部分に45ミリ強といった端材を絶対に使わないこと。 出隅から約500ミリのスタッドから3×8尺、ないしは3×9尺の合板と石膏ボードを張出す。 そうすると、開口部周りは合板や石膏ボードがコ型に抜かれることになる。 このため、耐震性能は飛躍的にアップして、開口部周辺から亀裂が入るということはほとんどなくなる。 もちろん欧米で流行っている4×8尺の合板、石膏ボードの横張りは大歓迎。
と同時に、通し柱を挟んでその部分だけを建築現場で合板を打ち付けるようにすれば、パネルとパネルが完全に一体化してしまう。 これは大変な魅力。
金物工法の欠点は、3尺ごとに柱を入れるから、間柱は20ミリ厚程度のものにならざるを得ない。 このため合板や石膏ボードのクギがあまり効かず、耐力壁の強度が落ちてしまう。 これを206材に替えることによって、パネルの強度が上がり、当時に省エネ力 (Q値) も大幅にアップすることが可能になる。