CLT (クロス・ラミネーテッド・ティンバー) が最近やたらと注目されている。
昔人間の私は、「木質構造の PC 版のことですね‥‥」と言ったら、建築関係の若い人の全員が 「?」 と、黙り込んでしまった。
「つまり、木造のプレキャスト・コンクリートのことですね‥‥」 と糺したのたが、プレキャスト・コンクリート版のことを知らない人がいたのにはビックリ。
あわてて、ネットで 「PC版」 を開いてみた。
そしたら、出ているのはすべてネット関連の用語ばかり。 プレキャスト・コンクリートのことは1つも出てこない。
つまり、わざわざ 「プレキャスト・コンクリート」 と打ちこまない限り、今どき若い人は 「PC 版」 と言われても、ネット関係の用語しか頭に浮かんでこなくなっている。
いまから20年前は、PC版 (プレキャスト・コンクリート版) のことを知らない建築関係者は皆無だった。 公団住宅や公営住宅だけでなく、中高層のビルの外装にもほとんど PC 版を採用して、建てられていた。
たしかに、現場で合板の型枠を組むよりも、何回となく鋼板の型枠が使えるし、コンクリートの精度もはるかに高度なものが得られる。 したがって、防火を目的とした現場打ちの RC 造よりは、PC 造の方がはるかに公的住宅や中高層の建築には適していた。
ただし、PC 版には問題点があった。
と言えば、誰しも耐震性だろうと感じるはず。 ところが鉄筋は現場で溶接できるので、中層建築においては、CLT 建築ほど問題になることはなかった。
一番問題になったのは防水性。
シーリング材で防水工事を行う以外に、これはという名案が得られなかった。 これが PC 版の泣きどころ。
CLT というのは、2.5センチ厚程度の無垢の木の板を、繊維方向を交互に交差させ、接着剤で合板のように接着して一体化する。
6〜7年前より日本へも紹介され、関係者の間ではその存在は深く知られていた。 たしかに面材としての強度はあるが、木そのものが熱橋になるので、高性能住宅での採用が躊躇されていた。
もっともオーストリアでは、約20年前から接着剤を使わずに木のダボで、乾燥した無垢の板を圧着して製造しているトーマ社 (THOMA) がある。 同社の日本総代理店「自然の住まい社」は、10年前より床・外壁とも17センチと厚い一体パネルを採用して、日本の認定機関から壁倍率の8倍程度の認定を得ている。
ただ 坪単価が100万円前後と高いために、年間せいぜい数棟程度しか受注していない。 だが土壁を塗るなどしてQ値を高め、性能的には日本一と言っても良いほどのすぐれた内容を持っている。
ともかく、接着するにしろ圧着するにしろ、厚みが合板のように7〜9ミリというものではない。
120〜170ミリもあるのだから、ともかく面材としての耐震性はやたらに強い。
ただしこれは、日本では低層住宅に限った話。
一方、地震のないヨーロッパや北米大陸の東海岸では、この CLT で7〜8階建の高層建築が認可されてきている。 だが、地震の多い日本では耐震面では面材としては問題ないにしても、接合部分の強度が大きな問題になってくる。
「木造は、どんなにリキンでも剛にはならない」 と日本では言われてきた。
つまり、「CLT がいくらリキンでも、鉄骨造か PC 造にオンブしないかぎり、小手先の金物では高層建築としては使えない」 というのが建築業界の常識。
しかし、日本の山にスギやヒノキを植えるために沢山の国家予算を使ってきた林野庁。 そのスギ材が適齢期を迎えているので、なんとしてでも消化しなければならない。
このため、なんとか国交省を巻き込んで、「国内材利用のロードマップ」 を造らせたまでは良かった。 しかし、国交省は今までの認可の関係からも、林野庁のために建築基準法の骨格までを変更させることは出来ない。
それで焦った林野庁は、経済産業省や文部省を巻き込んで、「地域再生」 という大義名分で、国交省の考えを変更させるべく秘策を練っているとも聞く。
私個人は、木造が住宅だけでなく、大型建築に普及してゆくことには諸手を挙げて大賛成。
現に老人養護施設などに、ツーバイフォーで何千坪と言う建築物が建てられている。
そして、肝心な防火性能は、厚い石膏ボードを2枚以上も使って、高齢者が安心出来る建築物を提供している。 つまり、ツーバイフォー協会が造った国際的な安全基準は完全に守っている。 それでいて、RC 造に比べて、施工価格が20%程度違うので、「木質構造大歓迎」 という空気が老人養護施設関係者の間には広がっている。
この姿勢こそ、役所が守らねばならない基本原則だと思う。
しかし、ごく最近木造校舎が、完全に全焼してしまうという、まったくみっともない実物大燃焼実験が行われた。
あの実験の記録映画を見た消費者は、自分の大切な子供を 火災から守れないような校舎へ、敢えて送り出そうと考えるだろうか‥‥。
私の個人的な感想としては、あのような惨めに全焼してしまう地スギを使った校舎へは、自分の子供や孫を、絶対に送り出したいとは考えない。 そんな、子供の命を軽視する学校には、そもそも受験をさせない。 これこそが、親の愛というものではなかろうか。
ということで、国産材を使った大型で、高層建築物に地スギやヒノキを無理矢理に採用することに対しては、賛成出来かねている。
つまり、地震国日本では、パネルの緊結金物の開発は大変な手間がかかり、防火性をもたせるための石膏ボードの厚さをどれだけにしたら1時間耐火とか2時間耐火性能が得られるのか?
その性能実験こそ、最優先させるべきだろう。
林野庁は、今までの固定概念の延長線上でしか国産材の利用を考えているとしか考えられない。
つまり、CLT の普及こそが もっとも手っ取り早くて、最善だと考えている節が見え見え‥‥。
しかし、緊結金物に問題があって高層建築として使うには耐震性に難があり、防火性でも実験の裏づけがともなった結論が得られていない。 その CLT を、やみくもに後押しすることが本当に正しいのだろうか?
たしかに、地スギをツーバイフォー材として挽かせることには、国際価格と言う面と強度という面から問題点があることは十二分に理解している。
同じことで、地スギで作った CLT の強度も問題になってこよう。
「総論には賛成だが、今の林野庁の動きには賛同出来かねる」 というのが、私の取材した範囲内の結論だったように感じた。