2015年08月10日

このままでは日本の自然が大きく損なわれてゆくと言う警告 



山田 健著 「オオカミがいないと、なぜウサギが滅びるのか」 (集英社インターナショナル 1300円+税)

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この本を読み始めたら、大変に面白い。 そして、どこはかとなく 以前に読んだ本に酷似していることに気付いた。
筆者の略歴を見たら、東大卒でサントリーへ入社。
1年前の5月25日のこの欄で紹介した 「水を守りに森へ」 (筑摩書房) を書いた人だと直ぐに分かった。 ご存知のように、サントリーという会社は代表的な 《地下水依存会社》。 良い地下水を入手して、酒をはじめとする飲料水を提供するメーカー。
このために、2015年現在で全国に約8000ヘクタールの 「天然水の森」 を自発的に整備・管理している。 山手線の内側の面積が6300ヘクタールだから、その約1.27倍の天然水の森を管理しているということ。
そして、協力を得ている全国の大学の先生方は40名にもおよぶという。 それだけの協力者を背景に書かれた本だから、なかなかの説得力を持っている。
本来は、3回に亘って紹介するだけのボリュームと内容がある。
しかし、住宅を主力としている本ブログ蘭で、環境問題だけに3回もつぶすことは許されない。 1回だけに止めざるを得ない。 したがって関心のある方は、本著を入手して じっくり読まれることをお薦めしたい。

著者はまず、鹿の大発生という大きな問題を取上げている。
環境省は、奈良市に代表されるように 「鹿が可愛い」 ということで、今までは一貫して鹿の 「保護」 に力を入れてきた。 このため、環境省の調査によると、今から26年前には35万頭程度にすぎなかった鹿が、現在では300万頭から最大650万頭にも及ぶと考えられるまでになってきている。 最多予測の650万頭がいたとしたら、なんと1年間で83万頭も増え、1000万頭を超えるのは時間の問題になってきている。
このため、環境省では2014年になって やっと重い腰を上げ、「保護」 から 「管理」 に切替えて、やっと民間企業の参入を認めた。 役人仕事の代表と言ってよい ノロマ振り。
鹿がここまで増えたのは、@日本国土から鹿の天敵となる狼を駆逐した。 A銃刀法の取扱いを厳しくして、若い猟師を積極的に育成してこなかった B地球の温暖化が進んで、冬期でもエサにありつけ、簡単に鹿が死ななくなった‥‥ということに原因がある。
昨今は、「鹿が増えすぎたのだから、天敵の狼の再導入を図ったらよい!」 という単純な意見も聞かれるが、600万頭を越す鹿を撲滅させるためには何万頭もの狼が必要になる。 それだけの頭数を揃えることは不可能。 
また、狼を増やすことによる損害の多発も懸念される。

鹿が増えたことによって、一番被害を受けているのは鹿自身。
好きな草から食べて、順番に草を絶滅に追いやっている。 そして、最近ではあの猛毒の 「トリカブト」 まで食べはじめているという。
昔の人がヤジリに塗って狩りをしていた あのトリカブトですぞ!
そして、冬期は木の皮をかじり、春先は木の若芽を食べてしまう。 環境省はその被害総額を調査していないようだが、樹木の被害だけでも膨大なものになろう。
そして、本著の題名が物語っているように、狼がいなくなって増えすぎた鹿に草を喰われてしまうために、野生のウサギやネズミが激減しているという。 その数字も発表されていないために、イマイチ切実感が持てないでいるが、野兎の減少はかなりのものらしい。
つまり、増えすぎた鹿を銃殺するなり、生け捕りして、人間が食するしか方法がない。
銃殺したり、生け捕りするためにどんな手法と政策が必要であるかについては、本著では具体的に触れていない点が、何とも物足りない。
また、脂味の少なくて、ヘルシーだと言われている鹿肉を全国的に普及させる方法や、レシピについてもほとんど触れていない。
折角、全国の知識人を統括しているのだから、そういった各界のトップによる創意工夫が発揮されていないのは片手落ち。 まことにもって残念。

ただ、本著では 「水中の鹿」 と同じ悪さをしている 「鯉」 の存在を取上げているのが大変に参考になった。
かなり前から、全国の川や湖に放流されている輸入魚のブラックバスが、在来魚を喰い荒して大問題になってきている。
ところが、筆者によるとブラックバス以上に、全国の川や湖を荒らしている魚が存在することを指摘している人は皆無。  その魚の名は鯉。
鯉は鑑賞魚として、庭の池や水槽という閉鎖された場所で飼われている分には、何1つ問題が発生しない。
ただし、川や湖へ放されると、大きな鯉は全ての魚を喰い荒してしまう。 それどころか、自分が生んだ卵や、子どもの稚魚までも食って、巨体を維持しているという。
まさしく、水の中の鹿そのもの‥‥。
鹿の駆逐を問題にする場合は、ブラックバスの前に川や湖に棲む鯉の駆逐を同時に叫ぶ必要がある、という指摘には驚いてしまった。 思わぬところに盲点があった。

この著書では、第2章で 「土壌」 について触れている。
黄河やナイル河が氾濫したため、豊かな収穫が得られた。 しかし、ダムで水がとめられ、土壌は豊かではなくなってきた。 そして、今収穫を上げているのは科学肥料のおかげ。
アメリカの大穀倉地帯では、「1トンのトウモロコシを得るために、毎年1〜2トンの土壌を失っている」 と言われている。 いつまでも、化学肥料に頼っていてはいけない。
そして筆者は、未曾有に存在する有機肥料として、「糞尿や食物の残渣」 を上げている。 この提案は素晴らしいものだが、これまた詳細な検討がなされていないので未消化のまま。
このあと、第3章で、「日本の森の土壌はどうなっているか」 を検討し、第4章では、「手間暇のかからない有機栽培技術」 などを取上げている。
単に観念的に取上げるのではなく、各大学で実践した成功例を紹介するとともに、著者自身の体験談を織りまぜていて、非常に参考になる。
その細部を紹介したいと考えたが、紙数が尽きた。
やはりこの著は、3回ぐらいに亘って紹介すべき内容のもの。


posted by uno2013 at 08:40| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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