2015年06月30日

2015年上半期  読んで面白かった本のベスト10 (下)



先々週で、上半期のベスト10を締め切った。
今年上半期の1位と2位を決めるのには、かなり迷った。 最初は、相場英雄氏の 「共震」 を1位にもってくるつもりだった。 というのは、私はそれまで経済小説ファンでありながら相場英雄氏の作品は読んだことがなく、東日本大震災に焦点を当てたこの 「共震」 は 徹底した被災地の取材がなされており、ミステリー仕立てだが最後まで一気に読まされて、大変な感動を覚えたから‥‥。
そこで、あわてて氏が書いた著書を10冊近く読んでみた。 そしたら、2005年に、「デフォルト (債務不履行)」 で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を獲っており、その受賞小説も新聞記者と捜査当局が同時に問題を追及するという舞台装置。 つまり、設定条件は 「共震」 と全く同一。 そして、翌年ダイアモンド社から刊行された 「株価操作」 は、そういっては悪いけど 余りにも下手クソな作品だった。
そこで、日本の農業問題に大胆な提案を行っている 「コメをやめる勇気」 と 「ゆめのちから」 を第1位に持ってきたという次第。

なにしろ、トップ10候補が71点もある。
そのどれを、トップ10にもってくるかで大変に悩まさせられた。 
そして、当然トップ10に入ると思っていた ●アル・ゴア著 「未来を語る」 ●竹沢尚一郎著「西アフリカ王国を掘る」 ●蝉川夏哉氏の小説「異世界居酒屋 のぶ」 ●クレメンス・G・アルヴァイ著「オーガニックラベルの裏側」 ●マーティン・プランク著「携帯電話と脳腫瘍との関係」 ●遠藤美希著「子どものネット依存」 などが、ベスト10から姿を消すことになったのは、残念。

◆10位

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高野秀行といっても、知っている人は少ないはず。 実は数年前に 「アジア新聞屋台村」 と言う滑稽で洒脱な本を読んで、一気に同氏のフアンになってしまった。 しかし、その後どこの本屋へ行っても同氏の著作を見かけなかった。 このため、高野秀行の名はすっかり忘れてしまっていた。
たまたま図書館で、「未来国 ブータン」を借りてきた。 何しろ高野秀行の名はすっかり忘却していたので、題名に釣られて借りてきたまで‥‥。 そして経歴を見たら、あの滑稽洒脱の筆者ではないか。 そして、筆者の著作は集英社文庫に10数点収録されていることを知って、東京駅近くの丸の内書店で数冊買い求めてきた。 いずれも探検記で、滑稽洒脱本ではない。
この本も、真面目に取材されて書かれたもので、私が読んだブータンに関する著作の中では傑出している。 
「幸福度」という訳のわからない基準。 それが、この本を読むことによって納得されるから、貴重。 出来の良いルポ物としての価値がある。

◆9位

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この著書は、今年の5月20、25、30日の3回に亘ってこの欄で紹介したもの。 この著でいうところの 「やばい」 とは、「危ない」 という意味ではなく、若者言葉によく出てくる 「すごい」 という意味だと知らされてびっくりした。 
この題名の意外さが、そもそも紹介したいと思わせた第一の理由。
この著書に登場する3氏はいずれも総合商社の出身で、現役として第一線で活躍しているバリバリの経済人。 山口正洋、山ア 元、吉崎達彦の各氏。
そして、3人が手分けして書いたモノではなく、最後まで鼎談によるもの。 
内容は、「日本経済編」「アメリカ経済編」「中国経済編」「新興国経済編」「マネー編」 と多彩。 そして、新興国とし挙げられている国にはロシア、インド、インドネシア、タイ、シンガポールが含まれている。 
部分的な話は、今までも何回とはなく聞かされてきたことばかり。 新鮮味はないが、具体的な商売を通じての現役人の発言内容には、納得すべき点が多々ある。

◆8位

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いまさらと笑われるだろうが、6年前に出版されたこの本を取上げることにした。
真山 仁は新聞記者上がりで、2004年に 「ハゲタカ」 でデビュー。  
もちろん私も読んだが、それほど感動はしなかった。 それよりも面白いと思ったのは今年の4月10日付でこの欄で取上げた「コラブティオ (汚職・政治的腐敗)」。 これは4年前に出版された原発もの。 
ところが、今から7〜8年も前に東洋経済に連載されていたのが、「ベイジン (北京コンセンサス)」という小説。 恥ずかしながら、こんな小説が発表されていたとは知らなかった。
2008年に北京オリンピックが開催された。 このオリンピックの開催式に併せて、世界一の規模の原発が計画され、オリンピック会場へ送電することが国家的な大目的となったとの仮設。
そして、日本から技術顧問として派遣され、世界一の原発開発のトップ技術者として活躍しているのが田嶋氏。 しかし、中国の労働者は自分のことしか考えず、田嶋の部下の現場監督はストレスが溜まる一方。 一触即発の危機を何回かも回避‥‥。
一方、中国側は市長をはじめとして賄賂を稼ぐことしか考えない。 
そして、中央共産党から権力者として派遣されたのがドン中央規律検査員。
このドンは、田嶋の反対を押切って、こともあろうにオリンピック開催当日、原発を稼働させてしまった。 その結果は、福島原発を上回る大事故となり、田嶋の不眠不休の働きが続く‥‥。

◆7位

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この 「トッカン (特別国税徴収官)」 シリーズは、3冊からなっている古い本。 2冊目が 「トッカンVS勤労商工会」 で、3冊目が 「おばけなんていないさ」。
国税の特別徴収官・トッカンと呼ばれる存在が、世の中にあるとは知らなかった。
そこのエリートの徴収官で、鬼より怖い上司の鏡氏。
そのもとに派遣されて、いつも言葉につまり 「ぐー‥‥」 と言うところから、鏡トッカンからは 「ぐー子」 と呼び捨てにされているトッカン見習いの女の子。 
この2人を中心に物語は展開する。
税務署というと、すべての国民から嫌われる。 しかし、鬼になって国税を集めないと、国が回ってゆかない。 本来なら、憎まれ役に過ぎないトッカンだが、内情を知れば知るほど同情したくなってくるから不思議。
しかし、同情するのも1冊まで‥‥。 まさか、3冊まで一気に読まされるとは考えていなかった。 それほど、人物が描けていて、面白い。 
経済小説ファンの私が、まさかこの本を推薦するとは信じられない出来ごと。 それほど小説としてはまとまっていて面白い。 面白くない小説は、小説ではないと断言することにしょう。

◆6位

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これは、今年の5月15日のこの欄で紹介している。 (《技術・商品情報》から、ドイツの脱原発を探して下さい)
著者は、講談社α新書から、「住んでみたドイツ、8勝2敗で日本の勝ち」 が売れたので、2匹目のトジョウを狙って、「住んでみたヨーロッパ、9勝1敗で日本の勝ち」 という本を出している。 私も読んだが、単なる世間話に毛が生えた程度のもので感心出来ない。
その著者が、「ドイツの脱原発がよく分かる本」 を出したからと言って、信用出来ないだろうと考えたのは当然。 期待もせずに読み始めたら、ドイツの太陽光政策の失敗談と、脱原発のためにドイツは褐炭を持っている。 それなのに、褐炭も石炭も持たない日本がドイツを真似て再生可能エネルギーに切替えると、日本は世界一の惨めで貧しい国になってしまうと、筆者は心の底から心配して警告してくれている。
よく言われるように、電力は夜間と日中の最盛期では2倍もの必要電力量差がある。 そして、電力には @ベース電力と、Aミドル電力と、Bピーク時電力が必要。
日本は今まで、@ベース電力として原発と水力を用いてきた。 Aミドル電力としてLNG、LPGを用い、Bピーク時用として揚水式電力と石油を用いてきた。 それが、原発をやめて全部再生可能な風力や太陽光にすると、雨で風が吹かない日があるので2倍もの設備投資が必要に‥‥。
そして原発1基分の電力をメガソーラで賄おうとすると、山手線内側全部の土地が必要になる。
ドイツはいざという時は褐炭をベース電力にすると考えているが、褐炭も石炭もない日本ではベース電力になるものが皆無。
だからといって、10万間も貯蔵可能な原発の最終処理場は、地震国日本にはない! 嗚呼!

◆5位

街道をゆくアイランド2.JPG

今回は、司馬遼太郎の 「街道をゆく」 全43巻を追加した。
ご存じのように司馬氏は大変な勉強家。 人によっては、書かれた43巻のすべてに■印を付けたくなるはず。 しかし、戦国時代や明治時代以前の日本史には、私はほとんど興味がない。 というよりは不勉強で、恥ずかしながら司馬氏の偉大さがよく理解出来ない。
これは、何も日本国内だけの話ではない。 中国、韓国、モンゴル、台湾、南蛮、オランダ、ニューヨーク紀行にしても、目新しくてハッとなるものが少なさすぎる。 つまりは、司馬氏でなくても、誰かが既に述べていることの学術的な裏付けを行っているにすぎない記述ばかり。 
いや、司馬氏が発掘した新事実も、数十年すぎたら業界の常識となってしまい、私のような者もその恩恵を受けて、新鮮さが感じられないのかもしれない。
そうした中で、新鮮で驚きの連続だったのが、「愛蘭土紀行 (アイルランド紀行)TU」。
ご案内のように、アイルランドはイギリスによって国ごと盗まれ、植民地にされて身ぐるみ剥がされ、徹底的に搾取されてしまった。 イギリスに対する恨みは強いなどと言う物ではない。
16世紀に、カトリックから新教のプロテスタントが生まれる。 そして、支配者であったイギリス人のほとんどが新教のプロテスタントに変わった。 これに対して、貧しかったアイルランド人の90%はカトリックのまま。 
このカトリックはプロテスタントから攻撃を受け、アイルランド人は 「プロテスタント野郎」 と罵り、両者の間には宗教的対立も持込まれて、今でも対立が続いているという。 これは、世界史の常識かも知れない。 しかし、私にとっては司馬氏の 「アイルランド紀行」 で初めてそのことを知った。 したがって、「愛蘭土紀行TU」は、私にとっては永遠の教科書。

◆4位

写真医と人間.JPG

これは、6月9日にこの欄で紹介したばかり。
iPS細胞、ロボット治療、先制医療など最新の医療論文6編と、現場からの新しい報告が5編紹介されている。
この中で、山中京大所長の言う通り、iPS細胞は再生医療技術開発の重要さもさることながら、創薬研究の分野に活動範囲を拡げる必要があろう。
そして、山海築波大教授が強調するように、日本における先端技術開発としては、医療と福祉こそ最優先すべき分野かもしれない。
また、井村先端技術財団理事長が称える通り、胎児のうちからきちんとフォローすることこそが、国民の健康問題の根本かもしれない。 
そういったことを考えさせてくれる貴重な論文であることは間違いない。

◆3位

地方消滅.JPG

これは、1月9日付の週評でいち早く取上げている。
中公新書で、増田寛也前総務長官が取上げたのは、このまま放置しておくと、日本の人口は2050年には約9700万人になり、85年先の2100年には5000万人を切り、2100年のピーク時に比べると100年間で約40%程度になってしまう。 つまり、明治の末くらいの人口になってしまうと警鐘を鳴らしていることが第1点。
第2点は、第2次産業が人件費の安い低開発国への移転を余儀なくされ、地方へ工場の移転が難しくなってきた。 バブル景気の中で、金融業、情報産業、流通業、不動産業の比率が次第に増え、第2次産業から第3次産業への主役交代が行われて地方が光を失い、東京などへの人口移動が再び始まった。
とくにその中でもポイントになるのは、出産可能な女性の大都市圏への移動。 若い女性の移動こそが、日本の人口構成を根本から変えてしまう、というもの。
この人口減を抑えるためには、政府は多面的な施策を用意するとともに、地方では 「地域中核都市構想」 なるものを早期に立案して、若者に働く場を用意してゆかねばならない。 と警鐘を鳴らしている。
この人口問題は、大都市圏の高齢者に対する養護者の人口問題にも飛び火して、要養護高齢者人口の地方移転問題として議論されてきている。
高齢者問題は、「住宅の超高気密・高断熱化問題とイコール」 とドイツなどでは割り切り、中高層住宅を含めた建替運動を10年以上前から始めている。 
それなのに、大手プレハブメーカーや一部工務店の鼻息ばかりを伺って動きが鈍い国交省住宅局。 地方へ養護高齢者を移転させるには、まず断熱やサッシの建替えを行い、光熱費が少なくて暖かく、夏は湿度を除去出来る住宅を供給するしかない。 こんなイロハが判らない住宅局に対して、なぜ日本では国民運動が起らないのだろうか?

◆2位

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大和新聞東京本社の遊軍記者宮沢賢一郎は、以前は仙台総局の遊軍記者だった。 時は2008年から2010年にかけて‥‥。 その時に「東北麺食いシリーズ」を立ち上げ、記者・大沢賢一郎の名で数冊の単行本を出版していて、地元の食い物屋やグルメの間では隠れた有名人。
そうした土地勘があったので、東日本大震災の折は居ても立ってもおれず、仙台総局への異動を申請して、「ここに生きる」というコラムを立ち上げた。
そして、毎日現場を取材していると、自衛隊や各国からの暖かい必死の支援が見える一方で、東北の震災復興を食い物にする悪質な動きも目立つようになってきた。
その中で、県職員の早坂順也の活躍が目立った。 どの収容所へ行っても本気で避難民を支援しており、早坂に対する信頼は絶対的なものがあった。 その早坂が、避難民の中に怪しい人間の存在に気が付き、内定で調査しているらしいという噂が、宮沢記者にも聞こえてきた。
そんなある日、その早坂が東松島の仮設住宅で毒殺されるという事件が発生。
宮沢記者は、現地に飛んだ。 その時、盲目の一人の男が宮沢に近づいてきて言った。
「記者さんですね‥‥」
「そうだが、どうして判った?」
「なんとなく気配で判りました。 実は私 昨夜、仮設住宅から走ってくる足の悪い人間の革靴の音を聞いたのです。 慌てている様子が足音で判った。 おかしいなと思っていたら、今朝になって仮設住宅で殺人事件があったという。 時間手間にも合っているし、私はあの革靴の足音こそが犯人だという気がします‥‥」
殺人事件と言うので、警視庁捜査2課の広域知能犯担当の田名部キャリアに、出動命令が出された。 以来、宮沢記者と田名部キャリアが中心になって、震災を利用して悪事を働いていたNPO法人代表者の犯行を暴いてゆく‥‥。 
トリックそのものは古いが、東北地域の震災事情をキチンと取材しており、感動的な物語になっている。

◆1位

ゆめのちから.JPG

コメやめる.JPG

今回の1位は、2つの作品からなっている。
1つは、今年の3月17日にこの欄で紹介した吉田忠則氏の 「コメをやめる勇気」。
もう1つは、5月29日に週評で取上げた盛田淳夫氏の 「ゆめのちから」。
前者は、米価の極端な値下がりと、兼業農家の高齢化から、耕作放棄地が全国に広がり、想像以上にコメ造り農家が衰退している実態と、土地の集約化が予想以上に進んでいる実態を詳しくリポートしてくれている。 
ただ、著者は 「人手のかからないソバ栽培とか放牧こそが、これからの日本農業を救う」 という結論を出しているが、これは違う気がする。 
確かにコメ造りをやめる、という勇気は必要であろう。 しかし、国土を活かして、自給率を高めてゆくということは、ソバ栽培や放牧だけでは救えない。 しかし、大きな問題を提起してくれたことには感謝したい。
一方の食パン。 
この業界の圧倒的なシェアを占めているのがご存じのヤマザキパン。 60%近くのシェアを持っていると言われている。
このヤマザキの後を追うのがシェア15%と言われている敷島製パン。 パスコという商品名でお馴染み。 その敷島製パンの盛田社長が音頭をとって、北海道産の《ゆめちから》という小麦で、食パン需要を国産麦で賄いたいと、全社的な取組みを始めている。
なんとか北海道の生産者の顔ぶれが揃い、地元の製粉業者も育ってきつつある。 まだまだ、日本の食パンを道産小麦にすることは出来てはいないが、その目的と高い意欲を示した中間報告としての意義は、認めるべきであろう。


posted by uno2013 at 11:41| Comment(0) | 半年間の面白本ベスト10 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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