もう1年以上も前のことになる。
仲間に頼まれて、東京の夏期と冬期の許容絶対湿度、および快適絶対湿度に関して、体験的な数値を発表したことがある。
大きな図を縮小したので、大変見難い写真である点はお許しあれ‥‥。
写真のように、「空気線図」 のコピーの上をなぞったもの。
この空気線図から、乾球温度と それぞれの温度における露点温度と、露点温度を100%とした90〜10%の相対湿度と、絶対湿度 (乾燥空気1kgに含まれている水分の重さ: kg) と、エンタルピ (空気が持っている熱量) が分かる。
しかし、実際問題として私が使ったのは、もっぱら何℃かという温度と、何%かという相対湿度。 それと、その温湿度は、絶対湿度では何グラムに匹敵するかという簡単な数値。 一番価値があったのは、この絶対湿度。
それ以外では、それぞれの温度における露点温度を暗記する必要があった。
温度と絶対湿度が接続している25℃→20グラム、17℃→12グラム、14℃→10グラム、9℃→7グラム、4℃→5グラム、1℃→4グラムは、結露防止に必然的な数字として頭に叩き込んだ。
なかでも 1℃→4グラムと、4℃→5グラム、それと25℃→20グラムは、必然的に暗記を強要させられた。
エンタルピの横軸と縦軸は、顕熱と潜熱の計算には欠かせないと習ったように覚えているが、実際には使ったことがない。
さて、この空気線図に慣れていたので、これ以外に絶対湿度があるなどとは考えたことがなかった。 そして、横浜・都筑区のK邸を測定したら、室温が25.1℃で、相対湿度が57%、絶対湿度が11グラム強だった。 5月なのに異状に暑い数値なので 記録したまで。
そしたら、25.1℃で相対湿度が57%だと、絶対湿度は13グラムではないかという意見が寄せられた。 13グラムだと、空気線図から言うと相対湿度が65%にもなってしまう。
上の写真にあるように、夏期の許容最低線が13グラム。 そのことがなかったら騒いだりはしなかった。 もっとも室温が25.1℃で、相対湿度が60%以下であったので、K邸は夏期でもクレームになることはない。
クレームが発生するのは、室温が26℃を突破してからだと、体験的に明らかになっている。 したがって無視してもよかったのだが、のめり込んでしまった。
いろいろ調べた結果、私は今後とも住宅の場合においては 空気線図を採用してゆくべきだと考えている。 変える必要は、一切ないと痛感している‥‥。
多少 脱線したが、話を夏期と冬期の許容絶対湿度と、快適絶対湿度へ戻そう。
夏期の温度は26℃を超えないかぎり、クレームとしては上がってこないと書いた。 相対湿度は60%以下。
上の写真の絶対湿度13グラムの緑の線。 この絶対湿度だと、26℃だと相対湿度は60%だが、30℃になると50%にまで下がってしまう。 したがって、30℃近くまではなんとか我慢出来るのではないかと推測した。 だが、それ以上の高温には耐えられないはず。 したがって、夏期の許容絶対湿度を13グラムとした。
2011年の8月15日と20日号のこのブログ欄で、一条工務店の八王子モデルの床冷房の体験談を掲載している。 その時の室温は26.5℃で、相対湿度は58%。 絶対湿度は12.6グラム。
この時の印象は、「ベストではないがベター」 だった。 部屋の中にいて、暑いとか湿度が高いとは感じなかった。 床冷房という難しい実験だったが、完全に成功例だと感じた。 つまり、24〜25℃の普通の水を回しているだけなので、裸足でも痛くはなく、体感は悪くなかった。
しかし、夏期の快適絶対湿度は10グラムではないかと考える。
室温は26〜29℃まで。 絶対湿度はいずれも40〜50%。 これだと、女性の場合でも肌が荒れる心配はないく、熱中症の懸念もなくなってゆく。 したがって、夏期の絶対湿度は10グラムを目指すべきだと書いた。
これは、決して夢物語ではない。 S邸では、数年前に実現している。 真夏でも、家の中に入れば汗が引いてゆく住宅が現存している。
しかし、夏期に絶対湿度が9グラムの住宅作りが可能であれば、Q値が0.8W程度の高気密・高断熱住宅だと、関東地区でも冷房設備がなくても良いかもしれない。 つまり、除湿が安く上がることが可能であれば、その除湿設備だけでよいと考えた。
ところが、さすが9グラムで済む設備を備えた住宅は存在していない。 このため、除湿機を買ってきて、私の仕事部屋で20時間余に及ぶ実験を行った。
9グラムと言うのは、27℃で相対湿度が40%ということ。 いやはや、その快適さと言ったら想像以上であった。
そして、クーラーを止めて絶対湿度を9グラムに維持したまま、室温が32℃にまで上げた。 当然相対湿度は30%にまで下がってきた。
正直言って、私は室温が32℃で、相対湿度が30%の方が一番快適に感じた。
男の私だったから、肌荒れのことは心配していなかった。 だが、女性の場合は、矢張り絶対湿度を10グラムにして、相対湿度を40〜50%に維持することが、ベターではなかろうか。
そして、32℃以上で、相対湿度が30%を切る実験はやっていない。 おそらく、日本では誰一人として夏期のそういった実験はやっていないはず。
私が横浜・都筑区のK邸の実験に期待しているのは、冬期に暖房施設がなく、夏期に一切のクーラーを入れていない住宅だから‥‥。
ただ、どのような結論が得られるかは、正直なところ不明であり、結果待ちの段階。
さて、私が夏期の快適絶対湿度が10グラムと設定したのは、ダイキンの家庭用デシカがかなり安価な価格で入手出来そうだという情報を数年前にキャッチしたから。 このため、快適絶対湿度は10グラムで、それを上回る9グラムの実験まで行った。
しかし、最近の雲行きは怪しい。
除湿機能を安く入手出来る見通しは、限りなく小さくなってきている。 パナソニックはデシカに変えてハイブリッド商品を出してきているが、イマイチ信用ができない。
創建社の不凍液による7℃による結露による除湿システムも実験段階であり、どこまで信用して良いかが分からない。 ともかく、高温多湿の夏とカラカラに乾燥した冬を持つ表日本では、除加湿工事こそ最優先させて開発すべき技術体系。
そして、冬期の加湿もさることながら、今すぐにでも欲しいのが夏期の除湿機。 冬期の加湿は
洗濯物を家の中で干すとか、浴槽のフタを空けるとか、観葉植物や簡易加湿器でいざという時は何とか対処出来る。 しかし、梅雨から秋にかけての高温多湿の除湿に対しては、価格的に対応出来ないでいる。
何とか、日本の技術者に期待したい。
一方、冬期の許容絶対湿度。 本来は相対湿度40%台を選ぶべき。
そうすれば、インフルエンザ疾患の心配がなくなるだけでなく、造作材がトメ部分が口を開けたり、壁紙が剥がれるというクレーム工事が皆無になってゆく。
だが、妥協して相対湿度を30%台に設定した。 これに対しては、いろいろ批判があろう。 それは黙って聞きおきたい。
そして、冬期の快適絶対湿度を40〜50%においたことは、我ながらあっぱれだったと思っている。 つまり、冬期の快適絶対湿度は8グラム。
これを守ることこそ、住宅を長持ちさせる最良のコツ。
そういった意味で、この除加湿は住宅産業界に課せられた課題として、真剣に検討して頂きたいと心から願っている。