私は今、2つの件で かなり怒っています。
1つは、学芸出版社刊「初めての建築環境 2014年改訂版」。
ホルムアルデヒドが国会でも取上げられて大問題になったので、国交省は2003年7月1日から@クロルピリホスの全面禁止 Aホルムアルデヒド建材の使用制限 B24時間機械換気の義務化‥‥など、住宅の換気に関する建築基準を全面改正し、施行している。
それなのに、2014年に改訂されたこの本の換気に関する記述は、1996年の初版のまま。 そこで担当編集者を呼び出して、強く文句を言ったのだが気分が納まらない。
18年余前に出版された時、私は基礎的な知識を身につける必要上から、この本を買った。 そして気象条件、日射、音環境などについて それなりに学ぶことができた。
その時、日本の居室換気の基準は、床面積の1/20以上の開口部を持っておれば良し、と定められていることを知った。 「ひどく、遅れている!」 との印象。 それが改訂されていない。
この稿を書くために、どのように改訂されているかを確認するため、3つの図書館を漁って改訂版を借りてきた。 ところが、あれほど騒がれて施行された建築基準法の内容が、この本では一つも触れていない。 怒りたくなる理由が分かっていただけよう。
もう1つは、ある施主から見せられた某社のQ値計算表。 このQ値計算が正しいかどうかを判断をして欲しいと言うもの。
施主名と会社名を特定出来ないように、実際の延面積とQ値は意識的に改竄してある。 そのことをまずご了解いただきたい。 会社名をA社と呼び、施主名をB氏と呼ぶことにする。
B氏の自宅の延面積は、総2階建の40坪 (132.23u)。
つまり、この住宅の気積は約331.0m3。 そして用いられる換気の熱回収率は、S邸と同じ90%とのこと。 そうすると、プロに計算して貰ったように空気容積比熱をかけ、定められた換気回数を掛けると、換気の熱損失は約17.4Wとなる。
ところが、A社の熱計算表を見ると、換気の熱損失は17.4Wの1/3以下の5.4Wだという。 40坪の住宅で、5.4W という換気熱損失は、初めて聞く小さな数値。 そんな数値が世の中に通用するの?
この住宅はトリプルサッシを使っているので、床・外壁・サッシ・天井という躯体の熱損失は102.0Wだという。
つまり、102.0+5.4=107.4Wが総熱損失量。
107.4W÷132.23u=0.81W。 つまり、Q値は0.81W/uだと公称。
しかし、私が計算した17.4Wという熱損失だと、102.0+17.4=119.7W。
これを132.23uで割るとQ値は0.91W/uとなってしまう。 たった0.1Wの違いではないかという意見もあろうが、0.81Wと0.91Wでは、かなり大きな差として受止められる。
したがって、私はA社の換気熱損失は何かの間違いではないかと考えているが、この数値を得意げにB氏に公表していることに、漠然とした怒りが‥‥。 換気の熱計算方法を示さずに、当てずっぽうな数値だけを見せびらかす行為は、止めてほしい。
さて、横道にそれたので、話を機械換気に戻そう。
機械換気にはご案内のように3つの種類がある。 1つは給気側と排気側に2つの送風機を持った第1種換気。 給気側だけに送風機を持つ第2種換気。 それと排気側だけに送風機を持った第3種換気。
しかし、私は今まで第2種換気は見たことがない。 知っているのは第1種と第3種のみ。
何度も書くことだが、ヨーロッパの雨期は冬。 夏は乾期。
冬は雨期なので、毎日雨が降っているか、曇天で寒い。 したがって、早くから温水によるラジエーターのパネル方式の暖房が普及。 なぜ温水による床暖房が普及しなかったのか?
理由は2つ考えられる。
1つは、かなり早くから断熱工事が普及していて、寒いのは床ではなく開口部。 この開口部からの冷気を防ぐには、開口部直下にパネルラジェーターを設置するのが、最も合理的。 そして、昔は熱回収率の高い第1種換気が開発されていなかった。 換気の主流は第3種だった。
トイレ、浴室、台所というダーディゾーンから24時間機械排気されていたが、給気は専らパッコンなどによる自然給気。 そのパッコンが開口部の上に付いている。 つまり、外の冷気はパネルラジェーターの上から給気されるので、自動的に暖められたて取入れられた。
パネルラジェーターは輻射暖房で快適。 その上、音がしない。 しかも、冬期は給気を温めて供給してくれる。 これほどの優れ物はなかった。
そして2つ目の理由は、もし給湯管が故障しても、現わしのパネルラジェーターだと簡単に修理出来る。 これに対して床暖房だと、いざ故障となると大げさな工事になる。
このため、ヨーロッパでは数十年間に亘って、給湯によるパネルラジェーター暖房と、これに付随する形で第3種換気が全面的に普及を見せていた。
冬のことは分かった。 しからば、夏はどうしているのか?
ドイツのミュンヘン郊外に、60棟の低層木造住宅だけを集めた展示場がある。
6年余前にこの展示場を訪れた時、どのモデルハウスにもクーラーが1台もなかった。
変わりに全戸に、外ブラインドが必ず付いていた。 直射日光さえ遮ることさえ出来れば、カラリと乾燥した空気は心地よく、夏を心からエンジョイすることが出来た。
それどころか、夕方の西日はドイツ人にとっては大歓迎すべきものだった。 夕方の西日を浴びながら、外でバーベキューをすることこそが、最大の楽しみだと異口同音に語ってくれた。
そして、これはドイツだけの現象ではない。 北欧各国もイギリスやフランス、イタリアも原則的に同一。
イタリア北部ののベネチアは、ブラインドが誕生した地域として有名。 ともかく、夏はカラリとしているのだから、日陰に入るだけで涼しい。 したがって、どの国も日射遮蔽をすることには神経をとがらせてきた。 ただ、最近は温暖化の影響で、ビルなどに日本製のクーラーが目立つようになってきているのは事実。
しかし、東京でも除湿をして相対湿度が30%台になると、温度が30℃でも全く気にならない。
いざという時は、扇風機があればことが足りる。
スペインやポルトガルという南欧は必ずしも一緒には出来ないが、しかし、夏の爽やかさは日本では絶対に味わえないもの。
このヨーロッパが10年前から大きく変わった。
それまでは問題にしていたのは第1種換気と第3種換気の電気代の差。 第3種は月1000円程度に対して第1種は1700円程度。 当然第3種はその安さを自慢していた。
ところが、40坪程度の第3種換気だと、温水で温めた空気を、毎時166u程度も外部へ捨ててしまっている。 これに対して第1種ば80%近く熱回収をしてくれる。 つまり、外へ捨てるのは33u程度で133uは回収してくれる。
つまり、第1種換気はイニシァルコストが40%近く高くても、数年で償却してくれ、第1種換気がはるかにメリットが高いということが誰の目にも明らかになってきた。
これで困ったのがデックス社の石原社長。 スウェーデンのメーカーは、どこも委託生産をしてくれなくなってきた。 このため、2年前に店を閉めざるを得なかった。 余りにも、第1種換気の悪口を言い過ぎたがための自殺行為‥‥。
かくて、ヨーロッパも顕熱交換機による第1種換気の時代に突入した。
しかし私は、冬期が雨期で、夏が乾期のヨーロッパの暖房換気システムは、そのまま日本へ持ってくることは難しいと考えている。
日本では、夏の高温多湿という大問題と、冬期の異常乾燥に対する加湿システムが不可欠。
一度、個別クーラーにパッコン換気を近づけて、大失敗をやらかした。
暑い外気は、なるべくクーラーの近くで給気した方が消費者に喜ばれると考えてやったら、クーラーにビッショリ汗をかかせてしまった。
矢張り日本では、出来るだけ容量の小さなセントラル空調換気システムで、風を全然感じさせないシステムが一番。 しかも、除加湿システムを完備が理想。
その理想形に、未だに到達出来ないでいるのだが‥‥。
水配管ありの除加湿器に戻った方がまだ近道かも