2014年10月05日

建設業界における極端な人材不足の実態を描いた好著!



日経アーキテクチュア・日経コンストラクション編 「人材危機‥‥‥建設業から沈む日本」 (日経BP社 1600円+税)

人材危機表紙.JPG

この著書はかなり前に読了していたが、住宅業界の実態を少しでも書き添えたいと思ったので、1ヶ月以上も紹介が遅れたことをお詫びしたい。

職人さんは、「この業界に見込みがない」 と考えると、自分の将来のことを考えて、さっさと転職してしまう。 
かつて、日本の新設住宅戸数は150万戸を超えていた。 それが1998年には120万戸を切った。 一気に25%も需要が減退した。
その時、大工さんをはじめ多くの職人は住宅業界を見限って、タクシーの運転手をはじめとして他産業へ転出してしまった。 そして、その後においても何回か120万戸を超える年があり、人材不足で労務費はアップしたが、転出した職人は再び戻ってくることはなかった。

住宅メーカーや地場ビルダーが、必死で需要を確保し、「職人さんの雇用を必死で守ってくれている良心的な会社だ」 と実感出来ないかぎり‥‥‥つまり簡単にリストラをする経営者にすぎないと、その本性が分かった時点で、職人さんは逃げる。 
腕の良い職人さんほど、キッパリと逃げる。 
今は、全ての産業界が人手不足。 リストラするしか能のない経営者とはに付き合ってはおれない。 逃げないとわが身が危ない。

今の、建設業界の人材不足は、あのリーマンショックの時に、簡単に職人の首を切ったゼネコンの人事政策のあくどさの反映にすぎないということ‥‥。

建築物着工面積の過去10年間の推移は下記の通り。 (含む住宅着工面積)
  2004年度    18,277万u
  2005       18,568
  2006       18,761
  2007       18,269
  2008       15,722
  2009       11,320
  2010       12,228
  2011       12,729
  2012       13,545
  2013       14.846

ともかく、リーマンショック前は、日本の新設建築物の着工面積は1万8000u以上あった。
ご案内の通り、リーマンショックとは2008年9月にリーマン・ブラザーズが倒産し、アメリカの金融資本のいい加減な金融商品の実態がが表面化して、世界を大恐慌におとしいれた事件。 
このため、08年の秋から新築着工が落ち込み、09年にはなんと07年比で38%と、日本の建築着工面積が大幅にダウン。
このシワ寄せは、当然のことながら下請業者に転嫁された。 子請・孫請制度に依存していたゼネコンは、平気で発注の差止めを行い、単価の切下げを実行した。 
このため、鉄筋を組み立てる 《鉄筋工》 とか、コンクリートの型枠を作る 《型枠大工》 は仕事がなくなったばかりではなく、平方メートル当りの単価が500円という 「ワンコイン型枠大工」 が出現するようになってきた。 
特殊な技能を持っているのに日当は1万円にも満たないというので、建築技能労働者のゼネコン離れが本格化したのである。

上の表を見ると一目のように、2010年ごろから、徐々に着工面積は回復している。 
しかし、この著によると、東北で建設工事労務者の人手不足が表面化したのは、東日本大震災の復興工事が始まる1年前の、2010年の8月からだったという。
型枠大工の業界団体・日本建設大工工事業協会宮城支部が10年8月、会員企業向けに行ったアンケート調査によると、09年には1568人いた型枠大工が10年には1202人に‥‥。 
つまり、1年に23%以上の366人も減っていた。
国交省によれば、それまで年間約48兆円あった建設投資が、リーマンショックによる3年間で5兆円以上も減少。
当然のこととして、民間工事を中心にゼネコンの価格競争が激化。 安値受注のシワ寄せが専門工事業者に押し付けられ、 「ワンコイン型枠大工」 の出現となった。

このため、多くの型枠大工が転職したり、引退を早めた。 職人が激減した段階で、建設需要が徐々に戻り始めた。 しかし、頭書に書いたように、転出した職人は再び戻ってくるということは絶対にあり得ない。 覚悟して転職している。
かくして、建設業界では東日本大震災の復興工事と、2020年の東京オリンピックの開催で需要が急増している分、人手不足が目立ってきている。 
テンヤワンヤの事態になってきている。
そこえ、円安問題も加わって建築資材が高騰し、労務費が急騰している。 
このため、本著では単に官需だけでなく、民間需要でも入札不調が続いている実態を明らかにしている。
その典型的な例として挙げているのが、東京都が計画している築地市場の豊洲への移転計画。 
13年11月の入札では鹿島JV、清水建設JV、大成建設JVのいずれも辞退。 このためメイン施設3件とも不調に。 このため、価格を60%も上げてやっと落札へ。
この1.6倍高という入札を見た豊島区の西部地域複合施設は、東京オリンピック終了まで建設を凍結することを決めた。 約23億円の予定価格は2回とも不調。 3回目は約10億円上積みして提出したが、応募された最低価格は当初の2倍以上と高い47億円。 これでは話にならないと、オリンピックの後まで長期にわたる建設の凍結を決めたもの。
こうした官需だけではなく、民間のマンション受注にも大きな影響が出はじめており、郊外から新築住宅が消える怖れも出てきていると書いている。

ともかく、当面の鉄筋工の不足、型枠大工の不足に対応するため、鉄筋コンクリート造をやめて鉄骨造に設計変更するとか、鉄筋コンクリート造の設計は変更しないが、工場での加工を増やしてプレキャスト版に切替えるとか、鉄筋トラス付きのデッキ工法の採用など、さまざまな事例が紹介されている。
それよりも心配されているのは、優れた技能者不足による完工物件の工事レベルの低下。 この技能レベルの低下による建築物の性能低下が、大変に懸念されている。
それ以外にも、国交省が指定する主任技術者や監理技術者の不足で、入札不調現象まで起こってきている。 
リーマンショック以降、新卒の採用とその社員教育訓練を手抜きしてきたツケが、一気に噴出したということであろう。

しかし、こうした人材危機に対して、各社とも採用期間に限定のある外国人の採用で補うことには、否定的な考えを示している。 2〜4年程度では優れた技術者、技能者は育成出来ない。 
「折角の技術ノウハウが、拡散してしまうだけ」 という考えが強いようだ。 
やはり時間がかかっても、新卒をじっくりと育て上げ、職人の待遇改善図ってゆくしかないと考えているようだ。

ともかく、ゼネコン各社が取組もうとしている89の新工法の紹介もあり、なかなか読ませる内容となっている。 しかし、肝心のゼネコンに対する責任追及の声が弱すぎる。
そして、住宅業界が抱えている問題点とはかなり異なる。 
そういった諸点をもっと取上げたいと考えていたが、残念ながら紙数が尽きた。 住宅業界の人材危機については、別の機会とすることにしたい。


posted by uno2013 at 10:56| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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