2014年07月30日

著者は小泉元首相と共に確信的“脱原発派”だった‥‥(上)


大下英治著「自然エネルギー革命‥‥脱原発へのシナリオ」(潮出版社 1600円<消費税込>)

エネルギー革命.JPG

大下英治というと、大宅壮一のマスコミ塾の出身で「週刊文春」のトップ屋として鳴らし、政界や経済界、あるいは芸能界などの人物に焦点を当て 「小説 田中軍団」 に代表される三百数十冊に及ぶ著作がある。 
そのうち、経済畑を中心に、政治家、大学、経産省などをテーマにしたものを30数点を面白く読ませてもらった。 優秀なスタッフライターを抱えていて、取材は丁寧、なかなか読ませたが、思想的なバックボーンがなく、いま1つ物足りなさを感じさせられてきた。 
そして、最近はあまり新刊案内を見かけなかったので、どちらかと言うと過去の人になったのかな と感じていた。
たまたま図書館でこの著書を目にしたのだが、どうしても著者名と題名が一致しない。 あの人が 「自然エネルギー革命」 などという本を書くはずがないという先入観。 どうせオチャラカシで、読み物としては面白くても感動するところはないはずと考え、期待度はゼロ。
正直な話、今回はホンダで26年余、サムスンで8年余勤めあげ、フットプリントや電動工具など民生用リチウムイオン電池で先駆的な役割を演じた技術屋・佐藤登著 「人材を育てるホンダ ・ 競わせるサムスン」 が大変に面白く、住宅業界でも学ぶべき点が多かった。 したがって、この著をメインに取上げ、大下英治の著はどこまでも副次的に使う予定だった。
ところが、たいしたことはないと思って読み始めたこの著書が、自然エネルギー革命に関しては、今まで読んだどの学者先生の本よりも 説得力を持って迫ってきた。 つまり、小泉元首相と同じ“脱原発”の確信犯だった。

脱原発を叫ぶかどうかは、個人の自由。 
しかし、ほとんどの日本人は、「もう日本では原発の新設は考えられない。 いきなり脱原発を叫ぶより、現存の原発を安全なものに改良して、寿命が来た時点ですべてを廃炉にしてゆく。 その間に、原発に変わるエネルギーを、精力的に開発して行くべき‥‥。 いきなり全部の原発を廃炉にすると やたらに電気料金が高くなる。 現在でもkWh当りの家庭用電気料金は、米ドル換算でアジアの中では日本が一番高くて、0.2ドル。 次いでシンガポールの0.18ドル、上海・北京が0.12ドル、韓国に至っては日本の1/3以下の0.06ドル。 こういった諸事情を考えると、電気料金の値上げはあらゆる面で日本の国際競争力が弱め、弱体国家化に拍車をかけるようになる。 それでは困る」 と考えているのではなかろうか‥‥。

2050年までに、100%を自然エネルギーにするというシナリオが、環境エネ政策研の 「自然エネルギー白書2014のグラフ図集」(全48ページ) をダウンロードすると 39ページに掲載されている。
http://www.isep.or.jp/jsr2014

私の考えは既に述べてきたとおり。 
まず、「今までの原発関係者と地震学者の責任を明らかにし、最低60〜80ガルという直下型地震に耐えられるように原発を根本的に改造する。 そして、これからも10万年間以上は大きな地震がないと考えられるロシアの地層に、日本の技術力と資金で共同の原発の最終廃棄物貯蔵庫を建設すべき。 この完成には最低でも30年の時間がかかろう。 その努力を今から始めないと間に合わない」 というもの。
そして、この著書を読んで、長期的に有力なのは、@地熱発電、A洋上風力発電、B海洋温度差発電、Cマグネシウム発電‥‥が挙げられることを知った。 そして、発電そのものではないが、D水素燃料電池、E砂漠地帯で発電したのを大型蓄電池に蓄えて日本へ運ぶ、F新しい藻から石油を開発する‥‥など、眼からウロコのプロジェクトの存在を気付かせてくれた。

日本では、再生可能エネルギーというと、手っとり早い @太陽光、A陸上風力、B地熱、C小型の水力、Dバイオマス しか考えられていない。
資源エネルギー庁が決めた 平成26年度 (2014年度) の固定価格買取制度の買取価格と期間は以下の通り。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/kakaku.html

しかし、この固定買取価格制度は、ドイツで大騒動が起こったように、問題点が多い。 
日本も自然エネルギーと言うと手っとり早い太陽光を選ぶ。 そして太陽光による固定価格買取制度は、リスクが少なくて確実に利益が見込める。 このため、投機資本と不動産資本が乱入して、この制度を食い散らかしている。 このため、あっという間に家庭用電気代が値上がりして大きな騒動をドイツにもたらした。 
先に書いたように、日本の家庭用電気料金はアジアで一番高い。 その事実を無視して、ソフトバンクの孫社長は強制的に家庭用電気料金を上げるように画策した。 日本の家電の料金が、韓国とか中国並だったら決して反対はしない。 一番高い電気料金を払っている国民に、更なる負担を強要しょうとしている態度には、どんなに贔屓目に見ても納得出来ない。

上の資源エネルギー庁の買上価格をみて、気がつくのは10kW以上のメガソーラが異常に優遇されていること。 価格が32円+税で、期間は20年間。
これに対して、10kW以下の家庭用太陽光は37円だが+税がなく、期間は半分の10年間。
メガソーラーが32円+8%の税とすると34.56円。 32円+10%の税だと35.2円。 しかも期間が20年ということだと、住宅を建てる人はムリをしても延40坪以上の住宅にして、片流屋根で1.5寸勾配を選び、何としてでも10kW以上の太陽光を搭載したくなってくる。
景観とかデザインを無視させる方向に、資源エネ庁の政策が作用している。
役人は、自然エネルギーの成果を上げることが、求められている。 本命となる地熱発電とか海洋風力発電、バイオマス発電などは軌道にのるまでにどうしても調査などの準備期間が必要。 このため、いろんな矛盾を無視して、当面は太陽光を優遇して見た目の成績を上げることに注力せざるを得ない‥‥というのが現状だと思う。 せめて蓄電池とパッケージなっておれば良いのだが、太陽光発電の設備利用率はたったの13%。
これは非常に重い桎梏となって、消費者に襲いかかってくる。 ともかく経産省には、消費者視点がなさすぎる。

さて、前置きはこの程度にして、著作の内容紹介に移ろう。
最初に登場するのは地熱発電。
この本は9章から成り立っている。 有効ページ数から割りだせば1章に使えるのは25ページ程度。 ところが、地熱発電に20%のスペースを割いている。 しかし、それだけ紙数を使いながらも、地熱発電では目覚ましい成果が未だに上がっていない。 この事実こそ、自然エネルギーの難しさであり、私の筆者に対する信頼度が一気に増すことになった。
話は39年前の1975年。 ツーバイフォー工法がオープン化した翌年。 出光興産の天坊会長がサンディエゴのセミナーで、「世界の利用可能の地熱の25%が日本にある」 との話を聞いた。 第一次オイルショックの後だったので、この言葉が天坊会長を捉えた。 そしてつぶやいた。「日本には地熱に関する法律がない。 法律作りから始めねばならない大変な仕事だ」 と。
日本には、過去2回地熱ブームがあった。 第1次ブームは1966年で、松川 (岩手) や大岳 (大分) が続いた。 第2次ブームはオイルショックの後。 1990年代に9基、32万kWが開発された。
出光興産はいくら地熱を開発しても電気事業法で縛られ、九電が蒸気を買ってくれない限り事業化が出来ない。91年にやっと蒸気購入の合意が出来、95年に着手し、96年に2.5万kWが稼働開始している。
しかし、1980年代に原発の方向へ大きく舵が切られ、97年には原発保護のために地熱発電は新省エネの対象から外されてしまった。 日本には原発23.5基分に相当する地熱発電ののポテンシャルがあると言われている。 しかし、開発されたのは2348万kWの、たった2%の54kWに過ぎない。
それ以降は、放置されたままになっていた。

転機が訪れたのは2011年の原発事故。 2012年には調査費として180億円の予算が付けられた。
カネだけではなく、地熱発電の適地の80%は国立特別保護区にある。 このため、環境省は法律の改正に動いてくれた。 しかし、地熱発電を軌道に乗せるには、ともかく優良事例を出して、地域の人々に納得してもらうことが基本。 
その具体的な優良事例として期待されているのが福島県・磐梯朝日国立公園内の 「福島地熱プロジェクト」。 
名乗りを上げているメンバーは出光興産、石油資源開発、三菱マテリアル、三菱ガス化学、国際石油開発帝石、三井石油開発、住友商事、三菱商事、日本重化学工業、地熱開発の10社・グループで最強。 そして、日本最大となる出力27万kWの地熱発電所計画。
これだけのメンバーが揃い、政府の全面的な支援があれば、絶対に成功するはずだと私のような素人は考えてしまう。 しかし、開発予定地は福島市、郡山市、猪苗代町など6市町村にまたがっている。 その中には温泉業者や自然保護団体の関係者も居る。 温泉業者と地熱発電は各地でウィンウィンの関係にあるが、疑問を持つ人も多い。
環境省が試算した経済効果は、1000億円の投資で2000億円の波及効果と1.6万人の雇用創出効果があるという。 観光客の増大も期待される。 しかし、運転が始まれば、原発のような多くの雇用は期待できない。 これは太陽発電にしても同じで、地元の雇用は増えない。
調査井の掘削場所を選定し、採掘して事業計画の絞り込むまでに2〜4年。 それが済んでやっと蒸気生産井と熱水還元井の掘削が始まり、噴気試験などを行うまで7年。 その後に環境アセスメントを実施すればこれに4年間。 最低でも発電開始までには10年はかかるというプロジェクト。
太陽光発電のメガソーラの投機的な動きに比べると、あまりにもリスクの多い事業。 正直いって、これほど困難で、悲痛な事業だとは考えてもいなかった。

天坊会長の寝食を忘れた必死の努力を見て、孫社長はどのように感じているのだろうか?



posted by uno2013 at 07:03| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。