2014年06月20日

ノルウェー等の漁業が復活しているのに、日本だけが1/3に激減



小松正之著 「日本の海から魚が消える日」 (マガジンランド 1463円+税)

日本の海から魚.JPG

4年前に、イギリスで製作されたドキュメンタリー 「海から魚が消える日」 が放映された。 そして、同年秋と翌2011年夏に再放送された。 
内容は、「養殖漁業が盛んになってきているが、エサになるイワシ5kgから獲れる養殖サケはたった1kgでしかない。 つまり庶民の5人分の魚が、たった1人分の高級魚になってきているのが実態。 また、20世紀後半の50年間で、マグロ、タラ、ヒラメなどの大型捕食魚は1/10に激減した。 このままでは世界の海から魚が消えてしまう」 という強い危機意識で製作されたものだった。
小松氏の新しい著書に接した時、「題名も内容も、4年前の二番煎じゃないか!」 と思ってしまった。 つまり、読みたいという意欲がものすごく低かった。
筆者はエール大・経営学卒の経営学修士であり、東大の農学博士でもある。 そして、水産庁の漁場資源課長として国際的に活躍し、各国の漁村の実態にも明るい。 
その一方で、日本全国の漁村を訪ねている。 そこには、将来に対する希望が持てない漁業者が、若い世代に跡を継がせる意慾が薄れている現実に遭遇し、危機感を覚えている。 それを解決するには、具体的に日本のシステムをどのように変えるべきかを明言。
そのポイントだけを紹介するから、騙されたと思って読んで頂きたい。

ご存じのとおり、今から37年前の1977年に200海里の排他的経済水域が設定され、日本の漁船は世界の200海里から締め出された。 日本の遠洋漁業は壊滅的な打撃を受けた。 そして、ピークの1982年には1,282万トンの水揚げを記録したが、2012年には486万トンへ。 つまり30年間で1/3に激減してしまったのである。
日本の水産地は、どこも疲弊している。 とくに島々では、嘆き節しか聞くことができない。
「地元の水産業が衰退し、子供や若い人は都会に出て行った。 学校・病院・役場・農漁協が統合され、島からすべてが消えてしまった。 漁獲高は1/5で、もはや生きる望みはない」 と。
ところが、ノルウェー、アイスランド、オーストラリア、ニュージランド、アメリカのアリューシャン列島の島々を巡ってみると、どこも水産業は一頃の乱獲から脱却して、生産性が上がり、収入も増えて、水産業は若者の人気が高い職業になっている。 つまり、繁栄を極めている。
彼吾の この大きな格差に著者は立ちすくんでしまった。
と同時に、改革の意欲をたぎらせてきている。

日本の政府は、何もしなかった訳ではない。 200海里の排他的水域が設定された1977年に、「水産加工施設法」 を成立させている。 つまり、日本の広い200海里内で獲れるイワシやサバを原料に、養殖漁業を確立しようと考えて立法した。 
いいですか、農業と同じように、日本の水産業にはドッサリと補助金が注ぎ込まれたのです。 ところが、農業と同じように、水産業は自立することが出来なかった。 期待された養殖業は、2000年頃には134万トンの生産高があったものが、2012年には104万トンへと30%も減ってきている。 先進国の中で、養殖業の生産高が減っているのは、日本以外にはどこを探しても見当たらないと筆者は言う。 
この根本原因は、水産業に対する新規参入が抑えられている 「漁業権」 そのものにあるというのが筆者の見立て。
漁業には、海で行う《海面漁業》と河川や湖沼で行う《内水面漁業》に分けられる。
そして、《海面漁業》は、小さな船で可能な《沿海漁業》と、中型船が前提の《沖合漁業》と、大型船での《遠洋漁業》に分けられる。 
日本の漁業に関する基本法は、今から65年前に制定された、沿海漁業を中心とした漁業法。
この法律の目的は、「経営の自立」 でもなければ、「消費者に対する安定した魚の提供」 でもない。 法律の根幹的な目的は、「漁業の民主化」。

戦前の《網元》と言われる一部の人間が漁業権を独占していたことを考えると、農地解放と一緒で、沿海漁業の漁業権が漁業協組に与えられた意義を否定する考えは毛頭ない。 しかし、65年も経ると、日本の水産資源を自分達のものだと勘違いして、経営の自立化を考えず、単に利権の巣窟になっている漁業協組そのものにメスを入れねばならない。
現在、漁業協組の数は約980にも及ぶという。
2008年の収支を見ると、約70パーセントは本業が赤字。 
農協と一緒で、マリンバンクやガソリンスタンド、直売所の利益で赤字を埋め合わせているという。 そのなかでも不透明なのが配当金とか政府の補助金。 この調査は、身内の監査機関ではなく、第三者の公認会計士にやらせるべきだと筆者は福田内閣、麻生内閣、菅内閣の時に主張したが、いずれも農林水産省の反対で閣議決定が出来なかったという。
ともかく、船が無いのに漁港を建設したりという予算のムダが やたらに多い。
知られているように、宮城県は知事の強い意向もあって、民間資本を導入する漁業権の復興特区制度を提案した。 これに対して、水産資源を我が物にしておきたいと考える漁業協組が猛反対して、復興事業を大きく遅らせた。 
筆者は、水産特区利用で活気づいている石巻市桃浦地区の《かき養殖》の成功例を挙げているが、既得権に依存する漁業協組は、農協同様に解体の対象にすべきなのだろう。

それよりも、筆者が強調しているのは、ヨーロッパやアメリカにおける経済学者の活用。
つまり、漁獲量を決定するには、身内の意見だけではダメ。 厳正中立の立場で、正しい判断を下してくれる経済学者などの知識と経験に学ばねばならない。
科学的な漁業の先進国と呼ばれるノルウェー、オランダ、デンマーク、アイスランドの各国。
そして、この30年間でメキメキと力をつけて漁業先進国の仲間入りを果たしたアメリカ、オーストラリア、ニュージランド。 各国とも水産資源崩壊の危機を乗り越えて、漁獲量を回復させる改革を実行してきている。
そのポイントは、各船に対する漁獲高の個別割当制度 (Individual Quota) と、割り当てられれた漁獲枠を譲渡出来る制度 (Individual Transferable Quata) にあるという。
日本だけが、この個別割当制度を採用していない。 日本が採用しているのは総量規制で、早い者勝ち制度 (Total Allowable Catch)。
この日本の制度には以下の4大欠点が指摘されている。
@この総量規制は、科学的な根拠に基づいて決められるが、ヨーイ・ドン方式で、先に量を確保した者の勝となる。 このため、社会科学的な配慮より、より漁業者の声が優先されてしまう。
A早い者勝だから、試合終了の合図の前に偽って少な目に漁獲高を申請するので、往々にして乱獲を助長することになってしまう。
B早く多くの量を確保するには、大型漁船の方が有利。 したがって、ほとんど遊ばせておくことになるのだが、船への過剰設備投資が嵩み、これが漁業者の収益を著しく圧迫している。
C総量が決まっているため、需要に関係なく水揚げにのみ神経が集中。 したがって、同時期に大量の魚が出回ることになり、漁業者にとっては 「骨折り損の、くたびれ儲け」 となる。

いずれにしろ、日本では役人の数も限られており、実行のある取り締まりが実施されていない。
漁船が水揚げしても、水産庁の職員が立ち会って、計量することはない。 実際に何トン水揚げされたのか、誰一人として知っていない。
これが、日本の沿岸から魚が姿を消し、多くの中小水産業者が商売を辞めざるを得ない状況に追い込まれる原因。
つまり、欧米のように、漁船に対する割当てだったら、オリンピックのようにヨーイ・ドンと走り出す必要がない。
漁獲量が少ない時を待って、ゆっくり船を出せばよい。
そして、やたらに大型の船を買うよりも、若い漁業者に喜ばれるれるような施設が揃った船を選んだ方が、従業員の定着率も良くなる。
日本の海の水産資源が回復し、水産業も栄光を取り戻せる。 
生産者も消費者も、流通・加工業者もハッピーな漁獲高の個別割当制度。 この制度が、何故日本だけに普及せず、嘆き節だけが横溢しているのか。
この疑問に対して、著者は下記の3点を挙げている。

第1点は、個別船への割当制度を導入するには、各国の制度を綿密に研究せねばならず、日本へ導入するためには現場の問題点や実態を把握しなければならない。 つまり、反対意見を説得してゆかねばならず、行政官にとっては、「面倒くさい仕事」。
このため、不都合なデータを揃えて、行政官は自己正当化を図っている。
第2点は、補助金漬けの仕事に慣れきっていること。
漁業の場合は、例えば燃油費が上ったとか、外国水産物の輸入が増えて魚価が下ったとか、東日本大震災で経営難に陥った場合は、補助金が投入される。 理由がなんであれ、漁獲高が落ちれば膨大な補助金が投入される。 その安易さに慣れ、経営の抜本的改善策が先送りされてきた。
ノルウェーやニュージランドは、経営不振の補助金は一切廃止し、科学的根拠で個別船への割当制度を導入した。 その結果、漁業者は計画的、安定的に事業を行えるようになり、ヨーイ・ドン方式の他船に勝ことだけを考える習慣を捨て、水産資源も回復出来た。 このよき見本となる事例があるのに、日本は補助金ドップリで、沈没しょうとしている。
第3点は、政治家の情熱と勉強不足。 漁業協組から要求があると、反射的に予算を付ける行動に走る。 アメリカ、オーストラリア、ニュージランドの政治家は勉強して、改革を推進した。
この差は大きいと筆者は説く。

新潟県は、知事のリーダーシップで、とりあえず《ホッコクアカエビ》の漁業で、個別割当方式を採用し、成果を出してきている。 
この制度を消費者の強力な支援の基に、日本の全漁業に普遍化してゆくことこそがポイントだ、と説く筆者の説得力に、感銘するのは私だけではないはず。





posted by uno2013 at 08:28| Comment(1) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Posted by at 2014年06月20日 23:06
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。