2014年05月30日

来年から38条が復活!?  あまりにも変身した枠組壁工法 i-smart (上)



勘違いしないで頂きたい。
私は一条工務店の i-smart が、公庫の標準仕様書に比べて極めて異質なものに変身していることを指摘するためにこのテーマを取上げたのではない。 パネル化のためにチエを絞らされ、変身を促してきたのが告示第1540号、第1541号。  この告示の功罪を検証するために、最も普及している i-smart を 例題として取上げたまで‥‥。


アメリカのプラットフォーム・コンストラクションが、日本で誰でも手掛けることが出来るオープンな工法として制定されたのが40年前。
1974年7月の告示第56号で、「枠組壁工法」 と命名された。
しかし、「いくらオープン化されても、住宅金融公庫の融資が付かないと、地場ビルダーとしては採用したくても出来ない」 と、当時のホームビルダー協会の理事会で大問題に‥‥。
そこで、公庫の若手技術者に相談したら、「大西部長にお願いするしかない」 という結論になり、部長との面談に数人が同席してくれた。
その席上、「公庫融資を付けるには、枠組壁工法の標準仕様書がなければならない。 果たして8月までに仕様書が作れるかね‥‥」 と、大西部長から逆に質問された。 たった2ヶ月しか余裕がなかった。
ここは、間違っても弱音は吐けない。 「間違いなく出来ます」 とカラ手形を切り、公庫の技術者とホテルでの合宿生活が始まった。 

といっても、当時はアメリカの建築現場に明るい人材は限られていた。 また、標準仕様書の参考資料となるものは、アメリカの大工さんと現場監督の教科書である 《カーペントリー》 ぐらいしかなかった。 ダイヤフラム論などはまだ俎上に上っていなかった。
ともかく、そういったあり合わせの資料と、アメリカでの丸2ヶ月間の見聞に基づいて叩き台を作成し、それを公庫の技術者が仕様書に仕立て上げてくれた。 

この最初の時点で問題になったのは、アメリカの4×8フィート (尺) モジュールをそのまま導入すべきかどうかということ。 スタッド間隔はアメリカでは16インチ (約400ミリ)。 
16インチピッチを守るには、4×8モジュールを踏襲するしかない。
しかし、当時は日本には4×8尺の合板や石膏ボードを作れる工場がなかった。 ほとんどが3×6尺仕様で、3×8尺の石膏ボードがやっと作られるようになったばかり。 それと、背が低い日本人に4×8のボード類が振り回せるかということも問題に。
もちろん1メートルモジュールという選択もあるにはあったが、それだとスタッド間隔が500ミリと広くなって危険。 やはり実用性という面から考えてスタッド間隔は455ミリ、3×8ないしは3×9尺モジュールでゆくしかないという結論に‥‥。
アメリカの家庭のあらゆる場で使われているインチ・フィートモジュールが、必ずしも最高の選択だと考える訳にはゆかない。 しかし、枠組壁工法の最初の段階で、3尺ピッチという在来工法化を図らざるを得なかったのはまぎれもない事実。

こうした経緯で出来上がったた標準仕様書だったから、理論面やモジュール面では問題を残していた。 だが、よりアメリカの建築現場の実態を反映させたものであった。 
また、故杉山英男先生の愛弟子の一人の新井信吉氏がアメリカのスパン表を、きちんと日本流にまとめてくれた。 その作成費用を公庫の若い技術者が調達してくれた。 
こうした努力が実って、「大変に分かりやすい」 と大工さんなどの職人さんや現場監督、設計士、消費者からは大好評を博した。
この住宅金融公庫の標準仕様書とスパン表が、以来30年間近くに亘って、日本の木質構造をリードしてきたのはまぎれもない事実。
 

変化が起きたのは、2001年の告示第1540と第1541号。 (第1541号は2007年に改正)
この告示が出される前に、新井信吉氏から 「アメリカでは、構造計算さえしっかりされておれば、工法的にはかなり自在。 例えば12ミリの合板に打ち付けるクギをCN50ではなくCN65にし、クギのピッチを100ミリではなくもっと狭くすれば、壁倍率は3倍ではなく5倍にすることが簡単に出来る。 つまりアメリカは性能規定の時代に入っている‥‥」 と何回となく聞かされていた。
告示第1540号と第1541号はアメリカを見本にした、より前進した規定だと確信していた。
そして、この性能規定化に伴い、それまであった38条の 「建設大臣の認定制度」 が廃止された。 このため、R-2000住宅の認定制度はなくなった。 そして、それまで大臣認定制度を支えていた建築センターが財団法人に変更されて民営化され、林野庁の住木センターも次第に影が薄くなっていった。
本来は、この動きは歓迎すべきものであったはず。

ところが、日本の在来木造の知識しかない者‥‥アメリカのバルーン工法、プラットホーム工法、ポスト&ビーム工法、ヘビーティンバー工法、ログハウスという5つの代表的な木質構造全体の関連性に対する理解力がなく、現場にも精通していない者が翻訳したので、内容はさっぱり理解出来難いものとなってしまった。
そして、最大の欠陥は構造計算の根拠が明示されていないこと。
このため、Aという機関へ持ち込んで非適合判定しか得られなかったものが、Bという機関に持ち込めば適合判定が得られることもあったらしい。
また、より多くの企業が任意評価を受けてくれた方が審査機関としては利益になるので、どちらかというと適合判定の基準が甘くなってこざるを得なかったよう。
当初の告示第56号を熟知している者は次第に居なくなり、告示第1540、第1541号を生かじりでしか理解していない者ばかりとなってきた。  そして、いいかげんな適合判定の増大で、消費者からの訴訟が増大し、裁判沙汰が多発するという深刻な事態に‥‥。
木質構造と現場の事情に明るい人間に変わって、CADが描いた図面がそのまま横行する時代に。
木質構造のことを知らないCAD屋さんが、大手を振っている。 つまり、誰もが責任を取らない‥‥というよりは、責任がとれない無政府状態になってきているよう‥‥。

私は、告示第1540、第1541号が出た直後に第一線から身を引いたので、これほど問題が深刻化しているとは、恥ずかしながら知らなかった。
ただ、第一線からは退いたが、ハーティホームの現場のチェックを一任されていたので、当初は全ての現場を見て回っていた。 ところが、206の通し柱のバルーン工法に依らない吹抜けの現場が急増して、耐震性の面で責任が持てなくなってきた。 このため、幹部陣に強く改善を求めた。 しかし、「ナイスが認定している構造設計事務所に委託しているので問題はない」 と一蹴された。

そこで、杉山英男先生の判断を仰ぐことにした。 
建築と農学の両方の博士号を持ち、「木質構造の生き神様」 とまで言われた杉山先生。
「構造計算さえすれば、何でもOKだという風潮になってきているのは、大変に困ったものですね。 プラットフォームというのは剛な床がなくてはダメな構造です。 貴方が問題視している吹抜け空間は、206の通し柱のバルーン・フレーミングによらねばならないと文献には書かれていない。 しかし、アメリカでは現場の貴重な体験値として、絶対にそうしなければならないと伝えているのでしょう。 貴方や日本の大工さんの経験に照らしても206の通し柱方式が良いと考えているのでしょう。 だったら、それを貫くしかないね。 妥協してはだめですよ」 と言われた。 
そして、私はハーティホームの技術顧問の座を降りた。 

その直後に発生した直下型の震度7の中越地震。 
川口町の烈震の跡を3回に亘りつぶさに調査した結果、告示第56号より厳しい基準でないと、「気密性能が担保出来ない」 という新しい大問題が浮上していることを知らされた。 それほど川口町の烈震地の被害はすさまじく、教訓的なものだった。 
この重大な報告を杉山先生にしようと考えていた矢先、先生の訃報を知らされた。


一条工務店の i-smart は、公庫の標準仕様書にある枠組壁工法と原則として同じはずだろうと、つい最近まで私は考えていた。 そして、このところ連続して一条工務店のいくつかの現場をチェックする機会が得られた。 
ただし、私は最初に施主に断ってからチェックを引受けている。 それは、「個別の内容と性能については納得の上で契約されたのだから、そうした合意点に関しては一切の発言権は私にはない。 私が出来るのは仕様と同じかどうかという点と、一般的なツーバイフォーの約束事に忠実であるかをチェックするだけ。 それでいいですね」 と。 
そして現場へ入ってみたら、i-smart の現場は告示第56号や公庫の標準仕様書とは全然別のものに一変‥‥在来工法化しているのにびっくりさせられた。

そのことを、木質構造に明るい仲間に話をしたら、「今ごろ気が付くとは遅すぎるよ。 枠組壁工法は、告示第1540号、第1541号以来、急速に在来工法化してきている。 そうした適合判定を認定機関が出しているのだから、一条工務店には何一つ責任がない。 問題は、単に一条工務店の問題ではなく告示そのものにあるということ。 アメリカの基準をいい加減に翻訳した者と、その制度を導入した国の責任‥‥」 と軽くあしらわれた。
「君自体が、シーラカンス化しているのだ」 と言わぬばかりの指摘。

告示第56号と公庫の標準仕様書で、私が特にこだわった点は、アメリカの著名な建築家、スーパー・インテンデントと言われる上級現場監督、ベテランの大工さん等の全てが異口同音に強調していた以下の6点。
(1) 1、2階の床、ならびに屋根下地材ダイヤフラム理論に基づき限りなく剛にすること。
(2) 横架材は必ず2級以上のグレーデングされた材を使用すること。
(3) 外壁は、原則として一体壁として建て起こすこと。
(4) 吹抜け空間は206の通し柱によるバルーン・フレーミングを採用すること。
(5) たるきと外壁の緊結には、ハリケーンタイを使用するなど金物の重要性を知ること。
(6) ドライウォール工事のすばらしさを強く認識すること。

これらの諸点が、告示第1540号、第1541号で、具体的にどのように変質していったかを、つぶさに見てゆくことにしょう。

posted by uno2013 at 09:55| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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