2014年05月15日

くまモンの上司・熊本県知事の「県民太陽光発電所構想」


蒲島郁夫著「私がくまモンの上司です」 (祥伝社 1380円+税)

くまモン.JPG

世情に疎い私は、《くまモン》のことはほとんど知らなかった。 「赤いホッぺをした黒い熊が、長いネクタイをしている姿」 を、1度か2度 テレビで見たことはあった。
まして熊本県知事のことなどは、知りたいと思ったことはない。 
赤ヘルのカープ球団同様に、地元の熱狂的なフアンがいたとしても、所詮全国区にはなれない存在だと考えていた。
それなのに、なんでこの本を借りたのかと言うと、例のように図書館をハシゴして探したが、新刊で面白そうな本がない。 この本の著者の経歴欄をみたら、2008年に東大法学部教授から熊本県知事に立候補して当選している。 その経歴にそそのかされて、「しょうがない。 こんな本でも読むとするか」 と借りてきた。
255ページの小冊子。 内容は東大出の政治家らしくまあまあで、スラスラと読めた。
しかし、この本をこのブログ欄で紹介しょうなどとは、毛ほども考えていなかった。 単なる面白本としか考えていなかった。
ところが、231ページと90%近く読み終えた最後に、注目すべき2つの記述があった。 それこそが、私が言いたいことを代弁していてくれていた。

筆者の経歴は凄い。 
満州でで警察官をやっていた父は、敗戦ととも6人の子供を連れて熊本県北部の稲田村の祖母の家へ無一文で引き揚げてきた。 祖母の家は、2反2畝の田んぼと土間と6畳2間、4畳半1間。 計16畳半の小さい家。 そこへ親子8人が押し掛け、さらに筆者をはじめ3人の子供が生まれ、一時は13人が生活していたというから、極貧状況。
筆者は小学校2年生から高校卒業するまでの11年間、兄達とともに新聞配達をして家計を助けている。 勉強が出来るような環境ではなく、完全な落ちこぼれで大学受験とは無縁。 高卒と同時に自動車販売会社に勤めたが、往復7時間もかかる遠距離通勤。 このため1週間で退職。 そして、自転車で10分の地元農協へ勤めたが、農協は農家のための組織ではないと痛感して2年間で辞めている。
その間、派米農業研修生のことを新聞で知り、英語の猛勉強を開始して200人の枠に800人もの応募があった難関を、何とか突破してアメリカへ。 そして12ヶ月の辛い牧場の実習に耐え、今度はネブラスカ大学農学部の生徒に。 しかし、奨学金を貰わねばやってゆけないので夜中まで猛勉強をして全Aの成績。 その上、食費を稼ぐためのアルバイト。 さらに現在の妻を呼び寄せて結婚。 
そしてネブラスカ大学から今度はハーバード大学大学院生に。 ここで、ライシャワー教授をはじめ、日本からの留学生と交友を深め、本来は5年以上かかる大学院を3年9ヶ月で終了。
ハーバード大学院卒といっても、お坊っちゃま育ちではない。
32歳の時に帰国し、ハーバード大学院時代の友人の紹介で翌年から筑波大の講師に。 そして、1996年に後の東大総長の佐々木教授から電話を受け、東大教授に。 
そのポストを惜しげもなく投げ捨てて、既述の通り2008年から熊本県知事に‥‥。

知事選に出馬することには、家族をはじめ東大の関係者はこぞって猛反対。 しかし、本人は、「故郷・熊本のために役に立ちたい」 という想いから、決断したという。 
そして、保守的な熊本では強い地盤を持つ自民党が推薦してくれそうだったが、推薦を固持したという。 筆者は、[選挙の理論」 の研究家。 選挙では圧勝しないと、知事としての手腕が発揮できないことを知っていた。 自民党の推薦を受けると、選挙には勝てるが圧勝は出来ない。 つまり、保守層だけでなく革新層の支持も得なければ、圧勝はあり得ない。 それに、自民党の推薦を受けてカネを受けると、後で便宜を図らねばならず、フリーハンドで独自色を出した政策が執れなくなってしまう。 
単に空理空論ではなく、「理論を実践で実証したい」 という意欲が強かったのだろう。
結果は、5人もの立候補があったのに、全投票の46%という圧倒的な得票を得て圧勝。
これが、その後の知事としての活躍に、大きく貢献している。

知事になった蒲島氏は、県庁職員に対して折に触れ、「皿を割れ」 とハッパを掛けている。
皿を多く洗う人ほど、多くの皿を割る。 皿を洗わない人は、皿を割らない。 つまり失敗を恐れず、挑戦することこそが大切。 ともかく、「結果を恐れず、何にでもチャレンジしなさい」と呼びかけ続けている。
その 「皿を割れ」 の真価が問われたのが、2011年の3月12日に開通した九州新幹線。
この新幹線は、福岡県や鹿児島県、東国原知事のいる宮崎県には利益をもたらすだろうが、熊本県は通過客ばかりで、集客の効果が無いのではないかと ほとんどの県民が考えていた。
危機感を持った県は、前年の2010年2月に開いた対策委員会で、アドバィザーの脚本家・小山薫堂氏から 「くまもとサプライズ」 という提案を受けた。 その時、ロゴのデザインも一緒に提案があり、そのロゴのマークの脇に書いてあったのが、おまけのキャラクター「くまモン」。 新幹線開業のイベントの時、キャラクターがいた方がやり易いのではないかという提案。
その提案に基づいて職員がくまモンの着ぐるみを作った。 しかし、この最初のくまモンは、細身で頭デッカチ。 お世辞にもかわいいと言えなかった。 
初期のイベントに出したら、子供たちに怖がられた。
職員は、「私たちが思い描いているくまモンはこんなものではない。 ほんものを作らせて下さい」 と訴え、改良に改良を加え、皿を割って現在のくまモンを作り上げた。

そして、くまモンは 県庁の臨時職員に任命され、2011年9月には営業部長に抜擢されている。
その間、大阪で集客のために1万枚の名刺を配ったほか、吉本新喜劇に出演するなどの大車輪の活躍。 それだけでなく、ツイッターやフェイスブックでも大活躍。
ご案内のように、社団法人キャラクター協会主催の 「ゆるキャラ・グランプリ―2011」 では、エントリーがなんと349もあった中で、くまモンがトップになり、そのニュースが全国に流され、一躍くまモンは全国的人気者に。 
そして、心配されていた新幹線の通過客がなくなり、日銀熊本支店の試算によると、2011年11月〜2013年10月までの2年間のくまモンの経済波及効果は1244億円、広告効果は90億円以上に及んでいるという。

このブログは、《くまモン》のことを記すのが目的ではない。
熊本県は、2012年10月に、「総合エネルギー計画」 を策定している。 この策定により今年の2月3日現在で48ヶ所のメガソーラーの立地が決定しているという。 
ところが、メガソーラーは県外事業者の運営が多いため、電気を売った収益は県外へ流失。 加えて新エネルギー導入で電気料金が上がるので、県内の家庭や企業の負担が増えるたけでデメリットだけというのが実態。
ソフトバンクや投機家だけが利するメガソーラシステムではダメ。 そこで熊本県は、「県民発電所構想」を発表している。
これは、県内の事業者が主体となって発電するのが基本。 県民は、その発電所に分相応の出資をしたり、寄附をすることが出来る。
県民は、クリーンなエネルギーを創る事業に参画しているという誇りと夢と安心感が得られる。
同時に事業者は売電収入で潤い、県民は出資に応じた配当を受け取ることが出来る。 その上、地域の活性化が達成出来る。
ヨーロッパに多く見られる地域を主体とした発電所計画が、熊本県が率先して行っていると言う意義は大きい。 こうした、基本的な構想を欠いているのが経済産業省案。
是非とも熊本構想に学んで、メガソーラ構想を抜本的に改正して頂きたい。

もう1つ感心したのは、県独自の農業政策。
田んぼを耕さなくてもおカネが貰えるというのは、パソコンを睨みながらマネーゲームをしているのと同じこと。 働く喜びが自覚されなくて良いのか‥‥から蒲島県政はスタート。
政府の言いなりになるのではなく、熊本の問題は熊本で解決するために独自の補助金を創設。
まず、主食用ではなく、米粉用と飼料用の米を推進する。 
米粉を使った新商品開発や、学校給食で米粉パンの導入を支援する。
飼料用米を低コストで生産し、家畜頭数の多い地域で活用してもらプロジェクトF88事業を開設。
さらに、耕作放棄地を小・中学生が農業体験する場として提供したり、菜の花やレンゲを栽培して美しい農村の景観を創るプロジェクトも好評。
この計画に賛同する農家は年々増え、5ヶ年間で耕作放棄地は1250ヘクタールも減少。
また、TPPに備え農地を集約して大規模化を図るために、「蒲島に農地を貸してください」 と、呼びかけ、集約化推進本部長を発足させ、県知事が本部長を兼任。 このため、年間1300ヘクタール程度だった集約化が、2012年には1780ヘクタールに増えた。 当初は保守的だった県の農林水産部が、今ではもっとも戦闘的な集団に劇変。

このほか、産業廃棄物の最終処理場の建設や、水俣病への果敢な取組みなど、県知事や県職員の「皿を割れ」運動の進展には驚かされる。 札幌市の高性能住宅のトップランナー方式にしろ、くまモンを中心とした熊本県の独自の動きしろ、矢張りこれからは中央集権の時代ではなく、地方の時代だということを、心底から納得させてくれる。



posted by uno2013 at 10:02| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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