2014年04月25日

EUでは15年から義務化  日本では?  ファイスト博士報告 (下)


さて、ファイスト博士が定義したパッシブハウスは、EU委員会では高い評価を得ている。
そして、かなり多くの国々が2015年から新設住宅に関しては、パッシブハウスの基準を義務化しょうと準備している。 しかし、ヨーロッパの新設住宅戸数は限られている。
ファイスト博士は、「EU委員会は国連の委員のような強い権限を持っているが、各国に強要する権限は持っていない。 それぞれの国がパッシブハウスの基準を採用するかどうかは、各国の国会に委ねられている」 と言ったように、全員が足並みをそろえて 「ヨーイ・ドン」 と行くかどうかは 定かではない。

パッシブハウスは、寒冷地のドイツからスタートした。
夏期が乾期のドイツでは、室外のブラインドで直射日光さえ遮れば、夏期の住宅には冷房の必要性がない。 したがって、当初は暖房負荷だけを問題としていた。 
何度も書いたように、暖房費としては15kWh/u年以下であること。
したがって、6年前に研究所を訪問した時、「暖房だけというのはおかしい。 当然、冷房負荷も問題にすべきだ」 とシニダース博士に糾した。 そしたら次のような返答があった。
「南欧のイタリアやスペインでも、パッシブハウスを取り上げようという動きが、やっと出てきた。 そして、今と同じ質問が出てきている。 したがって、早晩 冷房に関する最低基準も決められるはず‥‥」 と。
その年の暮れに、森みわさんがパッシブハウス研究所を訪れると聞いたので、この点を確かめてもらった。 その結果、暖房負荷15kWh/uのほかに、冷房負荷15kWh/uも決定されたとの報告があった。 ただし、これは建物の器としての性能だという。
そして、森さんが鎌倉で計画しているプランニングでは、冷房負荷15kWh/u年、暖房負荷13kWh/u年、除湿負荷25kWh/u年で、PHPP (パッシブハウス・プランニング・パッケージというソフト) で計算し、研究所の正式認可を得たとのことだった。
つまり、寒冷地の暖房基準だけでは足りず、エリアが拡大するにしたがって冷房だけでなく除湿までもが追加されていった。

しかし、パッシブハウス研究所の言うのはどこまでも顕熱だけで、潜熱が含まれていないのではないかとか、加湿負荷が含まれていないという疑問。 さらには給湯に対する疑問などから、PHPPがこれらを完全にフォローしているのか、との疑義が 当時出されていた。
例えば、鎌倉のパッシブハウス。 除湿負荷25kWh/u年とPHPPで計算したとしても、個別クーラーが据え付けられているだけで、特別な除湿装置を装備しているわけではない。
つまり、暖房負荷、冷房負荷、除加湿負荷、給湯負荷と細かく計算しても、結局は120kWh/u年という一次エネルギーの使用量で拘束しているだけで、実質的な意味はそれほど持っていないのではないかという素朴な疑問。
本来は、PHPPによるシミュレーションと実際のデータを突き合わせて、実態にマッチするシステムに常に改善を加えてゆくのが理想。 高温多湿の夏と過乾燥の冬を持つ日本は、冬が雨期で夏が乾期のヨーロッパとでは気象条件が根本的に異なるのだから‥‥。 
R-2000住宅の時は、カナダの熱負荷計算システムをそのまま日本へ導入出来ないことを、カナダ側に理解してもらうのに一苦労した。 同じことがパッシブハウスにも言えるのかもしれない。

さて、ヨーロッパ生まれのパッシブハウスは、アメリカ・カナダの北米や、日本をはじめとしたアジア各国へも紹介されてきている。 まず、北米や日本と言う先進国で、どれほどの普及を見せるか‥‥である。
北米では、一部の識者に取上げられ、話題になっているのは事実。 しかし、国民的な規模でどのような反響を見せるかだが、アメリカは NAHB (全米住宅業協会) が動かない限りは絶対にムリ。 現時点では NAHB などの動向資料が乏しすぎて、言及できる状態に至っていない。
しからば、北米はともかくとして、日本ではどのようになるか‥‥。
私は過去に、北米のツーバイフォー工法をオープンな形で日本へ導入した経験と、カナダ政府からR-2000住宅を日本へ導入する時に手伝いをした経験がある。 
その経験に照らし、今回のパッシブハウスの動きを客観的に比較して、推定して見た。

まず、ツーバイフォー工法。
北米へ行けば、嫌でも目に飛び込んでくるオープンな工法。
大工さんをはじめ各職人さんの生産性は驚くほど高く、しかも抜群の耐震性能と防火性能を持っている。 たしかに、途中ではぶっつけ仕事のようにも見える時もあるが、仕上がりは鏡のようにフラットで、細部にまで神経が行き届いていて魅力的。
しかも、価格が驚くほど安い。
耐久性もよく、消費者にとっては飛びつきたくなるほどカッコよい。 輸入住宅がもてはやされたのは、無理もなかった‥‥。
しかも、セントラル空調・換気をはじめとした最新の設備機器付き。
この性能にして、この価格。 
そして、建設省では住宅局長をはじめ関係課長や担当者はツーバイフォー工法のオープンな導入に大賛成。 告示の作業に積極的にとりかかってくれていた。
一方、住宅金融公庫は、理事をはじめ部長も担当技術者も双手を挙げて賛同。 建設省の告示に間に合うように、枠組み壁工法の標準仕様書作りが、スパン表作りとともに始まっていた。
カナダ大使館も精力的に動いてくれた。
三菱商事などの商社、三井不動産などの不動産業者、木場を中心とする木材業者、ホームビルダー協会を核とした新進気鋭の地場ビルダー、杉山英男氏をリーダーとする建築・木材関係の諸先生方も惜しまない支援。
中でも大きかったのは、三井不動産がツーバイフォー専業の三井ホームを設立し、同時にランバーの加工会社も同時に設立してくれたこと。 三井不動産が動いたことで、三菱地所、住友不動産、東急も積極的に動いてくれた。
住宅業界で、官学業がこれほど一体化して動いたことはなかった。
こうした怒涛のような動きを見て、私は木質構造の半分近くはツーバィフォーに変わるのではないかと錯覚したほど。 しかし、現実はそうはならなかった。
地方の材木屋と大工さんは動かなかった。 そして、40年近くたった昨年で、全住宅に占めるツーバイフォーの比率は12%で、全木造に占めるツーバイフォーの比率は22%程度にすぎない。
北海道では対木造比率では1/3を超え、とくに十勝地方では50%を上回っている。
しかし、中部以西では木軸が圧倒的なシェアを握っている。 
阪神淡路大震災で古い木軸は軒並み潰れて、1階で寝ていた多くの人々を圧死させた。
木軸工法は絶対的なピンチに陥った。 
その時、耐震性の高い金物工法が開発され、木軸が壊滅状態になるのを助けた。 
だが、この金物工法はクローズド工法で、互換性や共通の仕様書を持っていない。 
また、建て方以降の生産性が驚くほど低い。 したがって、価格的に安くならないという最大の欠点を持っている。
とは言え、ツーバイフォー工法進出の、防波堤として機能しているのは事実。 
つまり、いくら合理的なツーバイフォー・システムであっても、伝統的な古い手法に拘泥する職人と消費者が存在する限りは、上からの改革には限界があることを物語っている。

次はR-2000住宅。
これは、カナダの天然資源庁とカナダ金融公庫の技術者が中心になって、紀元2000年までにカナダで新設される全住宅の断熱性能をR-20以上にしようと考えたもの。 日本のU値で言うならば0.3〜0.35W以上にして、カナダの家庭で使われている燃費を1/4以下にしようという画期的な内容を持っていた。 
気密性能は、50パスカルで1.5回転 (C値でいうならば0.9cu/u) 。
そして完成時には、登録された第3者の 《認定検査員》 が全戸を検査し、消費者にその気密性能を保証する。 いかにも役人が考え出したクソ真面目なシステム。
そして、1.5回転という自主基準を決めた根拠は、強風時などの自然換気の影響を0.5回以内に収めることによって、風の有無に関係なく一定の換気量を確保するため。 当時の最高基準であったスウェーデンのフラットの2.0回転を上回る数値だった。 
カナダの天然資源庁は、カナダ国内でのR-2000需要を喚起するためにも、「このシステムを日本へ無料で提供したい」 と建設省に申し出てくれた。 
建設省は、木材資源の輸入のことも考えて、R-2000住宅の実施機関としてツーバイフォー建築協会を選定し、建設大臣の認可制度とした。
そうした動きの一方で、カナダ天然資源庁は 通産省と建設省に働きかけ、「日加 R&D ワークショップ」の開催を強力に推進した。 その結果、日本とカナダの学術経験者が一堂に会し、お互いの研究成果を発表しあうワークショップが、都合7回もカナダと日本で開催された。 
私が高気密・高断熱住宅の構造以外に、コンセントボックス回りやヒートブリッジによる結露問題、室内空気質および換気ムシステムのあるべき姿、あるいはホルムアルデヒド対策の具体策を学んだのは、このワークショップであった。
ここまでお膳立てが揃えられると、ツーバイフォー協会としては断る理由はない。 
三井ホーム、地所ホーム、東急ホームなどもイソイソと社員を研修会に派遣し、必須条件であった試作棟の建設に取組んた。 ところが、工事を外注している大手メーカーにとっては気密性能が大きなネックに‥‥。
試験棟はなんとか誤魔化せたが、施主立ち会いのもとに行った完成気密検査では、軒並みに性能が担保できずクレーム物件になり、重荷になってきた。
一方、自社施工を掲げていた地場ビルダーは、それまでの204の外壁はやめ、各社ともに206の外壁を選んだ。 そして、べバーバリア工事を完全に行うことで、容易に50パスカルで1.5回転の気密性能をクリアーした。 そして、それまでの 《なんでも屋》 的な性格をやめて、《R-2000住宅専門業者》 へ変身した。 
そうした専門化した地場ビルダーを中心に、年間500棟程度のR-2000住宅が、コンスタントに建てられていった。
面白くないのは大手。 ついに三井ホームはツーバイフォー協会の専務理事を巻き込んで、カナダ政府に対して一方的に契約の解除を申し出て、カナダ政府との蜜月関係を解消した。 
これは、大臣認定制度そのものが廃止されたことが動機であったが、三井ホームを中心とする動きを阻止出来なかった地場ビルダーの結束の弱さ、を物語るものでもあった。
だが、現時点でもR-2000住宅に匹敵する206住宅は、全国でコンスタントに500棟程度は提供されており、カナダ天然資源省の働きかけは 決してムダではなかったことが実証されている。
これ以外でも、日本では《新住協》を中心とする《Q-1.0運動》などがある。 
しかし、いづれも 民間主体の任意な小規模運動に過ぎず、政府や国家を動かすような拡がりと展望が得られていない。

こうした背景からパッシブハウス・ジャパンを見ると、「我こそはドイツのパッシブハウス研究所が認定した唯一の日本の団体」 との声は聞こえてくるが、具体的な展望や将来像がはっきりしない。 つまり、ドイツ政府を通じて日本政府や建築業学界、あるいは環境団体へのアプローチは、現時点では見えない。
私は民間のエネルギーを高く評価する人間の一人。 だが、日本の消費者に安心してもらうには、役所や優遇策はうまく活用すべきだと考えます。(R-2000住宅には、一切優遇策がなかったが‥‥) 
それにしても、掲げている気密性能はあまりにも高すぎる。 マスターベーションをするのは勝手だが、この数値を日本の企業へ強要すれば、全員が腰を引いてしまう。
たしかに、夏期の壁体内結露を防止するためにインテロという特殊なべバーバリアを開発したモル・建築エコプロダック社の気密工事には感心させられた。
それは、室内側にインテロを隈なく施工し、特殊なテーピングで気密性を担保する。
その上に30ミリ程度の横胴縁を施工して、配管と配線とコンセントボックスなどのスペースを確保する。 配管と配線がべバーバリア層を貫通しないから高い気密性能が担保出来る。 
その胴縁に石膏ボードをスクリュークギで止める。 このように、外壁に直接スクリュークギが打たれていない石膏ボードは、耐力壁としてカウントすることは出来ない。
地震のないドイツでは、この内部胴縁方式で問題は一切ない。 
しかし、神戸と中越の直下型の震度7という烈震地を隈なく調査した私には、日本では建築基準法に定める1.5倍の耐震性ではダメで、基準法の最低2.0倍の耐震性が不可欠と考えている。 
それを確保していない住宅は、どんなに見せかけの断熱・気密性能が優れていても、基準法の2.0倍の耐震性が備わっていないと、震度7の直下型地震を受けるとアッという間に気密性を失ってスカスカになってしまう。 
そのような厳しい現実を、神戸と中越の現場で嫌というほど見せつけられた。
胴縁に石膏ボードを止める 「モル・建築の仕様」 の場合は、石膏ボード抜きで基準法の2.0倍以上の耐震性を持っていない限り、絶対に日本では採用出来ない代物。

このような諸条件を考えると、私の個人的な見解では 日本におけるドイツ・パッシブハウス研認定のパッシブハウスの将来性は、必ずしも明るいものではない。
日本での過去数年間の実績‥‥ドイツ・パッシブハウス研の正式認可を得た住宅実績は、14棟に過ぎない。
もちろん、現在は啓蒙の段階。 馴らし運転の時間帯。
だが、パッシブハウスというのは、R-2000住宅や、Q-1住宅よりもはるかに超高性能で割高な住宅。 それがパカパカ売れるとは、どんなに贔屓目に見ても考えられない。 
たしかに、一部の消費者は動き始めている。 
だが、R-2000住宅の時のように、これを専業とするビルダーが誕生してくる気配が 今のところ一向に感じられない。 日本では、パッシブハウス研の本家争いをしている以外のところが‥‥日本の消費者の支持を得て大きく伸びてくると言う気がする。

その代表例として挙げられるのが、一条工務店。
同社の i-cube や i-smart のことは、すでに何度も触れているので省略。 
Q値面では、ほとんど問題がない。 
だが、パッシブハウスに比べると気密性能に難点があり、換気システムでは失格とさえ言える。
したがって、どんなにリキんでもパッシブハウスとは呼べない。
しかし、平均8kWの太陽光発電を、同社の資金負担で搭載し、実質ゼロエネ住宅を すでに年間1万棟のペースで供給している。
世界で、同社に匹敵するゼロエネ企業の存在は皆無。
ドイツ・パッシブハウス研認定住宅は、日本では一条工務店の競合相手になれそうにない。 価格的にもパッシブハウスを遥かに上回る一条工務店が、これからも日本の消費者に多大な影響を及ぼし続けてゆくであろう。

それと、忘れてはならないのが札幌の無暖房研のグループに代表される地場ビルダー群。
札幌市のU値0.5W、C値0.5cu/uのトップランナー方式をクリアーした地場ビルダー。 
彼らは新しい顧客層を得たことによって、急速に古い考えを捨て、社内体制を変貌させてきている。 性能面でも価格面でも、一条工務店に対抗出来るものを十二分に備えている。
彼らが、札幌方式のトップランナー専業企業に、脱皮出来るかどうかは不明。
しかし、パッシブハウス・ジャパンに群がっているビルダーよりは、はるかに頼もしく感じるのは、私の感受性が退化しているせいだけではなさそう‥‥。 

(なお、当日のセミナーではISEPの飯田所長の講演と、パネルディスカッションに参加した軽井沢の施主ケビン・マヤソン氏の話が面白かったが紙面の都合で割愛し、別の機会に譲ります)

posted by uno2013 at 06:40| Comment(0) | 展示会・シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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