2014年04月20日

パッシブハウス研・ファイスト博士の5原則と暖房15kWh (上)


ご案内のように、6年前の2008年にバウマンさんの案内で、フランクフルトから20キロばかり南下したダルムシュタット市にあるパッシブハウス研究所を、数人の仲間と訪問した。
その時のレポートは、2008年の10月15日から12月25日まで、なんと15回に亘っている。 その中で、パッシブハウス研究所の報告は11月10日、15日、20日と3回にも‥‥。 
ただその時は、ファイスト博士が不在で、シニダース博士からレクチュアーを受けたので、ファイスト博士の本音を聞くことが出来なかった。 
したがって、待ちに待ったチャンスといえた。

ファイスト-1.JPG

ファイスト博士によると、そもそもパッシブハウスの研究が始まった動機は、今から30年近くも前に、「貧しい中国の寒冷地で暖房費が用意出来なくて大変な状態。なんとかならないか」 との相談を受けたアダムソン博士が、「暖房がなくてもなんとか生活出来る家づくり」 をテーマに掲げたのが発端。
単に後進国・中国だけではなくて、先進国のドイツでも、「高気密・高断熱で、サッシの性能を上げれば、ほとんど暖房費がなくても生活が可能なはず」 と気付いたファイスト博士は、1991年に南面3階建て、北面2階建の実証タウンハウスを建て、本格的な研究を開始した。 (写真などはブログ・今週の本音、2008年11月10日付を参照して頂きたい)
実証タウンハウスを持ったので、研究は順調に進んだ。 そして、得意満面な顔でアメリカのエモリー博士にそのタウンハウスを見せた。
そしたらエモリー博士から、「ファイストさん。貴方の考えは間違っている」 と言われた。
[エッ‥‥」 と博士はとまどった。 悪いことは何もやっていない。 エネルギーがなくても、何とか快適な生活が出来るように懸命の努力を続けているだけ。 文句をつけられる筋合いは一つもないはず。 
心の中で猛反撥をしていたら、エモリー博士から次のように言われた。
「貴方は、論文を書くための、科学的実証のためにこのタウンハウスを建てたのではないでしょう。 貴方がやらねばならないのは、パッシブハウスが量産化され、一定のマーケット・スケールを持つことではないですか。 パッシブハウスを机上の学問にとどめておくのではなく、パッシブハウスというマーケットを開拓することではないですか!」 と。
この言葉でファイスト博士は目が覚めた。
「そうだ。 コスト面までに首を突っ込んでゆくのんが、私の使命だ‥‥」 と。

ファイスト博士のパッシブハウスは、ゼロエネルギー住宅を目指すものではなかった。 
コスト面から考えて、15kWh/uの年間暖房費を覚悟していた。
ただし、冷暖房費・除加湿・換気・給湯・照明などすべての家電の年間1次エネルギーが量が120kWH/u以下で上がる‥‥という厳しい条件が付いていた。
1次エネルギーとは、発電段階でのエネルギー量。
これに、送電等によるロスが非常に大きいので、家庭での段階‥‥つまり2次エネルギーでは約44kWh/uで上げなければならない勘定になる。
仮に120u (36.3坪) の住宅の場合は、電気代に換算して年間5,280kWhで上げられないとパッシブハウスとは言えない。
原発事故以来、日本の電気代はうなぎ昇り。 
仮に1kWh当り32円とすると、年間電気代は 約169,000円。 月平均約14,000円の電気代で、暖冷房・除加湿・換気・給湯・照明などの家電費を賄わねばならない。
それが、達成出来るのがパッシブハウス。

これを達成するために、ファイスト博士は試行錯誤しながら、5大原則を確立していった。
まず第1は、断熱。
床、壁、天井のU値を0.15Wとした。
これは、それほど達成が難しい数値ではない。 
206の壁に熱伝導率0.035のアイシネン140ミリを充填させ、外断熱として0.035のロックウール100ミリを施工すれば得られる。
天井断熱としては、これまた0.035の性能のロックウール240ミリを206の天井根太に施工すれば、簡単に得られる。 
決して断熱材のお化けというほどでもなく、外断熱が落下するという懸念も少ない。
無暖房ということであれば、断熱厚が少なくとも30%は増加し、ドイツでは問題にならない耐震性が 日本では大問題になってこよう。 したがって、コスト面にハネ返ってくる。
床断熱は難しいが、原則として天井断熱に準ずれば良い。

そして、断熱材のこともさることながら、博士が重視したのは 「ヒート・ブリッジ」。
これが第2点としてあげている。
軽量鉄骨造では、スチールの柱や梁のヒート・ブリッジが大問題になる。 しかし、木質構造にあっては、木材そのもののヒート・ブリッジを問題視する考えは少数派にすぎなかった。
またサッシは、ガラス面よりも、枠の木やPVCからの熱の損失が大きな問題であった。
ドイツでは木のヒート・ブリッジにに対する認識は、博士の努力もあってかなり深まってきている。 しかし、日本ではツーバイフォー工法では手間暇を惜しんで、やたらに木材を使う 「材積過多」 の仕様が多くなっている。 そして、204の材積過多の手法が206や208の壁でも平気で用いられている。
ヒート・ブリッジという面からみるならば、由々しき問題。 これに対する自覚が足りない。

ファイスト-2.JPG

第3点はサッシなどの開口部。
当時、ドイツで手に入ったのはLow-Eのペアガラスサッシ。 
どんなにリキんでも、U値は1.5〜1.7W程度であったろう。
ところが、ファイスト博士は、なんと最初から0.8Wのサッシを求めた。
当然、ガラスはトリプルで、そんなガラスを造っている工場は皆無。 当然トリプルガラスを収めるには枠の幅が大きくなり、枠の断熱性も一段と高くしなければならない。 
私などはこんな難問に遭遇すると、最初からギブアップしてしまう。 ところが、博士はその実現に邁進し、サンゴバンに手造りのトリプルガラスを作らせ、中小のサッシメーカーを口説き落して0.8Wの特注サッシを入手したと言うからすごい。
そして、ドイツをはじめヨーロッパでは、現在では0.8Wのトリプルサッシが、大変こなれた価格で誰もが入手出来るようになってきている。
日本でも、一部0.8Wのサッシが入手出来るようになってきている。 しかし、大きな開口部は入手が困難で、一般化していないために価格もリーズナブルというわけにはやゆかない。 
しかし、博士の引いた路線に従って、多くのメーカーがトリプルサッシに参入してきており、世界的に見ると最大の障害はなくなったと考えるべきであろう。
(写真はパッシブハウス研が描いた、世界各国の温度から必要とされるサッシの種類を示した図。しかし、ガラスのμ値だけでなく、遮熱性能が叫ばれるようになってきている)

第4点は、気密性。 つまり、エアータイト。
私は、何故パッシブハウスが、50パスカル加減圧時で、0.6回転 (C値で言うならば0.3cu/u以上) という超気密性能を求めているかが、今もって不可解。 ご案内のように、R-2000住宅では50パスカルで1.5回転 (C値で言うならば0.9cu/u)。
この気密性でも、三井ホームや地所ホーム、東急ホームの大手はクリアー出来ず、撤収してしまった。 まして、スカスカの鉄骨プレハブや住林などは最初からお呼びではない。
それなのに、パッシブハウスが R-2000住宅の3.0倍近いシビアーな気密性能を求めている真の理由が理解出来ないでいる。
たしかに第3種換気だと、ショート・サーキットを起こさずに給排気を完全に行うためにはこの程度の気密性能が必要。 しかし、パッシハウスは第1種換気を大前提にしている。 私の認識では、50パスカルで0.7回 (C値で0.4〜0.5cu/u) で十分だと考えている。
この疑問を、直接ファイスト博士にぶつけるチャンスは、今回もなかった。
ただ、博士は 「暖房費を少なくするためには気密性が高いことに越したことはない」 というだけで、必ずしも科学的な根拠を示して説明してくれなかった。
(つまり、50パスカル時に0.6回転だと暖房費は○○kWh/uで、0.7回転だと○○kWh/u、さらに0.8回転だと○○kWh/uだと示し、したがって0.6回転を選んだ‥‥と説明してくれたわけではない。 したがって、パッシブハウスを盲信する人にとっては0.6回転という数値は、絶対的な数値としてのしかかっている。 一条工務店でもクリアー出来ない数値で、日本ではこの数値が足かせとなって、パッシブハウスの普及が大きく制約されると考えられる)
ただ、「構造躯体にカビを生やさないために気密性が重要」 と博士は付け加えた。 意外な発言にとまどったが、なるほどとうなずける面もあった。 それだけに、この防カビ対策という面でも科学的な根拠も示してほしかった。

最後は換気。 フレッシュ・エァーの重要性。
博士は、換気とか熱回収は単に省エネと言う面だけではなく、人々の健康を保持するという面でも重要だと説いた。 とくに台所、浴室、トイレ、作業室などダーディゾーンからの排気の必要性と、フレッシュ・エァーの重要性を強調した。
今回は、アースチューブには一切触れなかった。
アースチューブによ依らなくても、90%以上の熱回収が可能な換気システムがどしどし開発されてきたからであろう。
しかし、森みわさんの14作品のパッシブハウスがそうであるように、採用されているのは全て顕熱交換機。 そうでなくては、全ての排気を浴室・台所・トイレなどのダーディゾーンから行うことは不可能。 また、給気口と排気口は、きちんと分けて設置されている。
つまり一条工務店は、断熱というQ値面ではパッシブハウスの性能をクリ―している。 太陽光発電の設置で、ゼロエネルギーという面から考えると、パッシブハウスを上回っていると言っても過言ではない。 
しかし、気密性能はせいぜいC値が0.6〜0.8cu/uで、明らかに下回っている。 また、ダーティゾーンからの24時間排気もなく、給気口と排気口は隣あわせ。 
パッシブハウスとは似て非なるもの。
ここらあたりの適切な指摘が、講演者の誰からもなかったのが残念。





posted by uno2013 at 15:37| Comment(0) | 展示会・シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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