2014年02月28日

中国改革派19人が語る 「中国の現実と問題点」


吉岡桂子著 「問答有用‥‥中国改革派19人に聞く」 (岩波書店 2100円+税)

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「問答有用」 という大きな題名が目に入った時、随筆か何かだろうと考え そのまま素通りするところだった。「中国改革派19人に聞く」 というサブタイトルが目に入らなかったら、私のように時たましか朝日新聞に接しない者は、一生目を通すことがなかったろう。
「問答有用」 などとややこしく気取るのではなく、ザックリ 「中国改革派19人が語る中国の現実と問題点」 とすべきだった。 そうすれば、もっと売れたろう‥‥。 
ただ、対談が2012年になされたものが多い関係上、話題の中心が 「尖閣諸島」 と 「反日デモ」 に偏っているのが残念。
そんなことよりも、中国の賢人達が、現在の中国政府と共産党をどのように見ているのか。 また、近い将来民主化されれる可能性があるのか。 その場合、イニシアチブをとるのはどういった層なのか。 私だけでなく、皆がそのことを知りたいと思っているはず。 
その疑問に対して、全員がはっきり答えているのには驚かされた。 想像以上に現実を正しく掌握している。 しかし紙数に限りがあるので、ピックアップするのは4人だけとさせて頂いた。

●郭樹清 (クオシューチン・現山東省長  2012.2.8)
中国が抱えている最大の問題点は、都市戸籍と農村戸籍の二元構造。 
農民が農村戸籍のまま都市で働くと、実際の収入の差は3倍でも、社会保障や、教育、住宅、医療など様々な面で更なる差別を受ける。 富の偏りを示すジニ計数は0.5を超えており、この格差は 社会の安定を保つレベルを突破している。
何故農村戸籍と都市戸籍に待遇を分けたのか。 それは工業化を始めた初期には政府におカネがなかったから。 数が圧倒的に大きい農民戸籍にまで福祉を提供するほどの余裕がなかった。
しかし、もう政府におカネがないとは言えない。外貨準備は3兆ドル、不動産など固定資産への投資額は年30兆元を上回り、財政収入も年10兆元を超えた。 
おカネがないのではなく、うまく配分が出来ていないだけ。

2011年に初めて都市人口が、農村人口をわずかながら上回った。 皆が出稼ぎに行って、消えた村さえある。 誰も農業をやりたがらない。 このため、農地を集約化するなどの土地改革が不可欠に。 ところが、村のほんの一握りの幹部と地方政府が現場を完全に牛耳っていて、農地収用に透明性も平等性もない。 
そして、耕地価格で土地を収用して不動産業者に売れば、天文学的な不労収入が得られる。 この富は政府と業者の懐へ入る。 このあまりにも不合理な事実を、皆が知っている。 したがってイザコザか絶えない社会になった。 
農民に土地の権利を転売することをある程度許さない限り、問題は永遠に解決しない。 環境問題と食糧の安全保障問題も解決しない。

この30年間、平均10%の成長を続けてきたので、中国の富は大きく膨らんだ。 しかし、それは農村と環境を犠牲にした上での成長。 環境だけで言えば、マイナス成長。
環境基準を欧米や日本並のレベルにしょうとしたら、外貨準備を全部使っても足りない。 いや、外貨準備の10倍以上のおカネが必要‥‥。
高度成長過程で、失ったものが無数にある。 それほど、不均衡な発展を遂げてきた。 そして、リーマンショックのあと、さらにインフラを中心に不必要な投資を増やしてきた。 
成長力だけが評価される国になり、国営企業が息を吹き返して民業を圧迫。 各自治体は、鉄鋼や太陽光などの投資競争で深刻な過剰設備に悩んでいる。 電線に乗せられないほどの発電所を造り、大気を汚している。 将来とも自動車が走らないところに高速道路を建設し、使わない体育館も建ててきた。 地方政府が抱える債務の大きさが明るみにされてきている。
言えることは、既得権益者を守るのではなく、もっと市場の力を借りて国を解放してゆくこと。
中国の歴史を見ると、隋も唐も宋もそうだったように、国を開放した時代の方が国が栄えている。 これからどこまで国を開放出来るかに、中国の将来がかかっている。

●呉敬l (ウーチンリェン・国務院発展研究センター   2011.11.12)
たしかに中国は、この30年間に大きく成長した。 しかし、それには日本などのモデル例があったから。 目標が明確だったので、独占的な国家が号令をかけて一気にうまく行ったまで。 しかし、ここまで来ると、国家が産業を管理するモデルでは弊害が大きくなってゆくばかり。
1990年代以降、中国の国営企業は巨額な赤字を抱え、給料すら払えない状態になり、国を挙げて改善に取り組んだ。 国営企業を助けるために独占や寡占問題にも目を閉じてきた。 
そしたら、2004年頃から、既得権益を擁護しょうという国営企業がのさばりだした。 「こんなにうまく行っているのに、何故身を切る改革が必要なのか」 と。 
歪んだ市場で儲けられる立場を、誰が手放すものかと猛抵抗を開始。

そこにアメリカの金融危機が起こり、中央政府は8%の成長の維持のためにどんどん国営企業に公共工事を発注し、富が彼らに集中するという悪循環を造った。
石油、石炭、鉄鋼、銀行、鉄道などの事業に民間企業の参入を許さないだけでなく、小さな企業が持っていた免許まで取上げてしまった。 経済学者が政府に対して、個人出資で民間銀行の設立が出来るように提案したが、一蹴されてしまった。
その最たるものが、温州で起きた高速鉄道事故。 市場を独占する国家事業の典型。
鉄道省は、自分で計画、発注、建設、運航しながら監督もしていた。 事故が起こらない限り誰もチェック出来ない体制だった。 
鉄道省は、景気対策だからと大きな顔をして事業を進めた。 政府が進める事業だからと国営銀行は使いきれないほどのおカネを貸した。 鉄道省は傘下の企業を利用して不動産開発にも手を染め、借金は2兆元を超えた。
鉄道省が開業を急いだのは、路線の拡張が権益の拡大につながり、自分達も出世出来る。 独占的な権力者が巨額な汚染に手を染めたのは必然的な帰結。

中国はいま、とても危ない状態にある。 権力を持った人間が、改革を拒み、権限を悪用して暴利をむさぼる。 庶民は、腐敗や不当に生まれた格差に不満を募らせている。
これを解決する方法は、唯一国家が持つ権限を手放してゆくしかない。
資源、通信、交通、金融は寡占状態。
地方政府は土地を支配し、その販売で得た収益をどう使うかで巨大な権限を持っている。 価格から営業許可まで、行政指導だらけで 役人の裁量権は無限と言えるほど。
中国の改革は、硬い岩盤にぶつかっている。 
目指さねばならないのは「国家資本主義」でも、「官僚資本主義」でも、「権貴資本主義」でもない。 公正なルールに基づいてた 「市場」 をもっと取り入れるべき。
中国の所得格差は、市場経済の進化で生まれたものではなく、社会に公正なルールが欠如し、機能していないところから生まれたもの。

●茅干式 (マオユイシー・天則経済研究所名誉理事長   2012.4.17、5.1、5.11)
毛沢東を神格化する危険な動きが出始めている。 カリスマを創ろうとし、一切の批判を許さない文化大革命の二番煎じ運動‥‥。
毛沢東は、デタラメな経済政策で3600万人もの死者を出した男。 これは自然災害だったと言っているが、明らかに人災。 戦時中にも、これだけの死者を出した例は歴史上皆無。 
そして1966年から10年続いた文化大革命という茶番。 これを許した半分の責任は、私ども中国人にある。 アメリカや日本では絶対に許さないことを中国人は許してきた。
それなのに、いま再び毛沢東を持ち出そうとするのは、貧富の差の激しい現社会の不公平さを痛感している人が多いから‥‥。 みんな揃って貧しかった毛沢東時代を懐かしむ気持ちがあるからだろう。 
しかし、現在の不公平や格差は、自由な競争の結果ではない。特権が生んだ格差だということを忘れてはならない。
しかも、身分が固定化する傾向にある。 役人やその周辺の子供は豊かになることを約束されているが、農民や貧しい都市生活者は 孫の時代になっても何一つ改革されないのではないかと考えている。 そういった人々を束ねて、自分の権力基盤強化に利用しょうとしている者がいる。
私の毛沢東批判に対して、当局から何一つ圧力はない。 毛沢東はご先祖だから正面切って批判しづらい。 かといって私を批判すれば、毛の崇拝者が勢いづく。 共産党にとっては毛沢東は扱いにくい存在だということ。

私は共産党を批判しているが、この30数年の歴史は 中国数千年の歴史の中でも最高だと思っている。 経済成長のおかげで何億人もの人が貧困から抜け出せたのは事実。
私が民主化を進める政治改革の必要性を強調しているのは、この国をもっと良い国にするため。
民主化と市場化は表裏一体。 経済は、公正なルールのもとにおカネ、もの、情報を自由に交換することで経済が発展する。 現在のような不公平なルールのもとでの競争だと、特権を持っている強いものが勝つに決まっている。
したがって、政治改革が欠かせない。
しかし、あと数年もすると共産党も少し変るかもしれない。 本格的に外国と交流し、学びあった人たちが指導部へ入ってくるから。 それが、中国が変わる契機になるかもしれないと期待したい。

●何 示乍○ (ホーツオシウ・中国科学院理論物理研究所   2013.9.16)
中国は、2008年に約7000万キロワットの原発を持っているが、2030年までにはこの3倍の100万キロワットの原発を200基、2050年までには400基相当まで増やそうと計画していた。
まず最初に、私の立場をはっきりしておきたい。 私は中国で原発を全廃すべきだとは言っていない。 でも、このような原発計画には断固として反対。
中国では、原発のことを良く知っている人が居なかった。 
福島の事故か起きた時、「塩が放射能に効く」 というデマが拡がり、買占めのパニックが起こったほど。 それほど原発のことは知らされていなかった。
しかし、日本が処理に手間取っているというニュースが入ってきて、これは大変な事故だという認識が行き渡ってきた。 あの日本でさえこんなに手間取っているのだから、中国がノホホンとしては居られる訳がない。
日本だけではなく、中国も地震国。 他の災害も考えられるし、テロによる襲撃も考えなければならない。 中国でも安全基準の見直しが進められた。

中国で一番問題になるのは、四川省など内陸部におけて数十の原発計画があること。
政府は2015年までの凍結を宣言して、現在は沿岸部だけでの稼働しか認めていない。
私は内陸部での原発に対しては絶対的な反対論者。 政府に反対するのではなく、そのような計画をする人の無責任さに猛反対している。
たしかに、中国には大河はある。 しかし、水がない。
夏には干ばつが度々起こるし、人々の飲料水や工場用水が圧倒的に足りない。
それなのに、大量の冷却水を必要とする原発を、上流に造るかね ?
しかも、事故があったら更に水が必要だし、事故処理で使った水が流れてくる地域に住んでいる人々の飲料水と安全性は一体どうするんだい。
だから内陸部に原発を設けることは、最初から諦めるべき。
中国で1基目が稼働したのが1990年の初めで、わずか20年の経験しか持っていない。
それなのに建設中を含めると40数基ある。 最終廃棄場の建設も含めて、もっと真剣に議論すべきだと思う。



posted by uno2013 at 06:02| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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