2014年02月20日

1年前に傾注に値するクォリティ国家戦略論が提示されていた !


大前研一著 「クオリティ国家という戦略」 (小学館 1500円+税)

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大前研一の著書は、ほとんど読んでいると考えていた。
ところが1年も前に、こんなにも傾注に値する 「クオリティ国家の戦略論」 が提示されていたのですね‥‥。 個人的なスモールオフィスだと、新しい情報を伝えてくれる人が少ない。 そのため、大切な情報を見落していることが多い。
そして、なるべく早く紹介したいと考えていたのだが、このところナマの発信情報が続いたので、1ヶ月半以上も棚ざらしに‥‥。 やっと紹介する機会がやってきました。

安倍内閣が発足して、20年来続いてきたデフレ政策を払拭し、日本の経済力を成長させようと頑張ってくれているのは喜ぶべきこと。 80円台だった為替レートも100円台を回復し、久々に賃上げムードも出てきて、国民全体にホッとした安堵感が漂っている。 もちろん、中小企業や地方にまで均一に賃上げムードが拡がっているわけではなく、国の貿易収支の赤字解消は期待できないようだが‥‥。
ともかく、株が高くなり、地価が再び上昇することが、本当に日本を良くする唯一の方向なのだろうか? という疑問が生まれつつあるのは事実。
安倍内閣は、2020年までに新車販売占める次世代自動車の比率と、木材の自給率を50%に高めるという。 女性の就労の機会を増やし、理系博士課程修了者の完全雇用を実施し、訪日外国人旅行者を2500万人にして、新規に900万人の雇用を産み出すという。
デフレ政策脱却を堅持しているのは良いが、1980年をピークに、日本の工業製品が世界を制覇する力はなくなってきている。 また、日本の人口はこれから急激に高齢化、縮小化してゆかざるを得ない。

それなのに、デフレ政策だけで日本は蘇生出来るのだろうか ?  もっと根源的な改革が必要なのではなかろうか ? 
半導体に続いて家電が中国、韓国、台湾勢などに市場を奪われ、次には太陽光発電もそのマーケットを失おうとしている。 
日本を代表するパナソニック、ソニー、キャノンなどが、日本で販売している製品の大半は、アジアなどの諸外国で生産されたもの。 つまり、日本の大多数の企業は、かつての輸出企業から輸入企業になってきている。 


日本が、かつて高度成長出来たのは、国内に1億人を超す優秀なマーケットが存在したからだという事実は忘れてはならない。 
日本人という繊細で、良品質なものを求めるマーケットがあったからこそ、日本の企業はその要望に応えて量産化を図り、その高い性能と国際競争力を武器に、アメリカやヨーロッパのマーケットを開拓することが出来た。 資源の乏しい日本は 「加工貿易立国」 という国家モデルで、かつては華々しく生きてきた。
今から20年前までは、良質でボリュームのあるマーケットというと、先進国だったアメリカの3億人、ヨーロッパの3.5億人、日本の1億人しかなかった。 
よく譬え話に挙げられたのがスウェーデンのボルボ車。 
いかに優秀な製品であっても、国内マーケットは数百万人。 どんなに力んでも国内市場だけを相手にしていたのでは成長できない。 そこで、スウェーデンのすべての企業は、ドイツの8000万人というマーケットにチャレンジすることによって、国際競争力を涵養してきたのだと筆者は説く。 
つまり、つい最近までは アメリカに続いて日本とドイツが最大のボリューム国家だった。 その7.5億人というボリュームの中で、日本の国家と企業は素晴らしい加工貿易立国という戦略を編み出し、ひところは世界のGDPの18%を占めるまでになった。

しかし、バブルがはじけてからの日本は、デフレ政策を固持して縮んでいただけ。 
自民党も民主党も企業も、加工貿易立国に代わる新しい戦略が描けずオタオタ状態‥‥。
その間に、中国13億、インド12億、インドネシア2億、ブラジル2億弱、ロシア1.4億、メキシコとフィリピンが各1億という 「新・ボリューム国家」 が誕生してきた。 
これらの新興国だけのボリュームで、かつての先進国の7.5億のボリュームの4倍以上の32億にもなる。 アフリカや南米、その他のアジアを含めると50億近くになる。 たしかにかつての先進国のような質の高いボリュームではないが‥‥。
日本は、今までの加工貿易立国の成功例にアグラをかいていて、「ボリューム国家」 としての戦略を部分的に修正するだけで、この危機を乗り切れると考えてきた。 
しかし、新興国がその低賃金と国民所得に見合う 「低コスト商品ボリューム国家」 として登場してきて以来、先進国と国内マーケットだけを相手にしてきた日本の存在価値は薄れた。
もはや、かつての加工貿易モデルの延長線上には 「解はない」 と筆者は力説。

しからば、この 「ボリューム国家」 に対抗出来うる国家とはどんな形か。
2000年の初頭には、国土面積で約30%、人口で42%も占めるブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs・新興4ヶ国が、安くて豊富な労働力、低コスト、資源という面で21世紀の世界経済を牽引すると考えられた。
ところが2010年代に入ると、これ等の国々は工業国として伸びてはゆくが、いずれも曲がり角に来ていると見られるようになってきた。 
BRICsはピークを過ぎたとさえ考えられるようになってきている。
ところが、そういう時代であるにもかかわらず、依然として着実に成長し、高い国際競争力を持ち、1人当りのGDPの高さを維持している国々がある。  筆者はそれを 「クォリティ国家」 と呼んでいる。 
具体例として挙げている国は、国際競争力ランキングで1〜4位を占めているスイス、シンガポール、フィンランド、スウェーデン。
いずれも1人当りのGDPが400万円以上の国。 人件費は高いが、それをカバーする付加価値力と生産性の高い人材を揃えており、世界の繁栄を自国へ取り組むことに非常に長けているという共通性を持っている。

しかし、これ等の国は、いずれも人口が300〜1000万人と少ない。 1億2000万人が住む日本は到底真似が出来ない相談ではなかろうか ?
それに対して、筆者は日本が道州制に移行した場合の、道州と同じ規模だと言う。
ちなみに、筆者はとりあえず日本を10の道州に分けている。
◆140万人      沖縄道
◆400万人      四国道
◆500〜1000万人   北海道・東北道・北陸道・中国道
◆1300万人      九州道
◆1800万人      中部道
◆2200万人      関西道
◆4200万人      関東道
(関東道が韓国並みと飛びぬけて人口が大きいが、これをどのようにするかについては 筆者は触れていない)

そして、筆者はスイス、シンガポール、フィンランド、スウェーデン各国の実態をこの著書で詳報している。 だが、全部を紹介出来るスペースがない。 
このうちシンガポール、フィンランド、ノルウェーは比較的頻繁に日本に紹介されている。 だが、スイスを 「クォリティ国家視する」 考えは、私だけでなくほとんどの人になかったはず。したがって、スイスに関する記述を中心に紹介してゆくことにしたい。

私は今までスイスを2回訪れている。 だが、スイスの永世中立国や国民皆兵制、あるいは銀行・保険大国、観光立国ということは知っていたが、国際競争力が世界で1番強く、1人当たりのGDPが800万円以上で世界第4位であるということは知らなかった。
ともかく、国土は九州と同じで、ほとんどが山岳地帯。 人口は800万人程度。
しかも、公用語がドイツ語 (64%)、フランス語 (20%)、イタリア語 (6.5%)、ロマンシュ語 (0.5%) と4ヶ国語もある。
銀行・保険の金融業と観光産業は強いが、伝統の時計産業は日本に脅かされていたし、国内企業の99.6%は中小企業。 とても見習うべきものがないと考えていた。

ところが著者によると、スイスを代表する光学器械と共に精密機械工業の代表である時計は、今から45年前にセイコーやシチズンのよるクオーツ・ショックで壊滅状態に陥った。 クォーツによって高精度が得られ、30万円のスイス製や3万円の日本製ではなく、3000円の中国産の時計が世界を跋扈した。
この時、単に精度だけでなくデザイン性を重視するスウォッチが誕生して、息も絶え絶えになっていたてオメガ、ブランパン、ロンジン、ラドーなどの有名プラインドを次々に買収し、付加価値の高い機械式モジュールに磨きをかけ、高級品として復活させた。
スウォッチ・グループは、保有している16ブランドを、「プレステージ&ラグジェリー」「ハイ」「ミドル」[ベーシック」の4つのレンジに分け、会社も別々に分けている。 つまり価格競争に巻き込まれないようにブランドごとの特徴を際立たせて、スイスの時計産業を再生させたのである。
たしかに、時計の販売個数からみると、スイスは @中国、A香港、B日本に次いで4番目。

ところが売上げランキングを見ると、@ロレックス、Aカルティエ、Bオメガ、Cフィリップ、Dロンジン、Eホィヤー、Fティソ、Gスウォッチ、Hプレゲ、Iビゲと上位のトップ10をスイス関連グループで独占。 つまりスイスはブランドに特化して輸出個数というボリーュムを減らして、価格ベースで世界のトップになった。
これこそが「クォリティ国家」。 日本は時計産業だけでなく、自動車も、家電も、食品も、1つの会社の中で多品種生産をして、ブラインド化を促す政策がまことにもってヘタクソ。

スイスは連邦共和国。 26のカントン (州、準州) と2889のコミューン (市町村) から成り立っている。
そして、外国からの企業や人材、資産家を迎え入れるために、税の敷居を低くしている。
細かい説明は省くが、日本の40%の法人税に比べてスイスはカントン、コミューンを合わせても20%強と半分。 相続税はなく、新規に設立した企業には最長10年間の法人税減免制度がある。
こうした税制以外に、スイスの国際競争力が強い秘密として、著者は3点を挙げている。

まず第1点は、「国が企業を支援しないこと」 だという。
スイスには企業に対する補助金制度は全くない。 弱い企業を救済しないから潰れて、結果的に強い企業だけが残る。 潰れた会社の社員に対するセフティ・ネットが張られ、再雇用のための研修訓練が行われて、新しい生産性の高い企業への人材移行が容易。
また、国内人口は800万人だから、必然的に外国へ出かけて稼ぐグローバル化しかない。 
日本のような長期優良住宅補助金制度などはなく、大手プレハブメーカーが潤うことも、地場ビルダーが補助金目当てに狂奔するというバカげた現象もない。

第2点は、クラフトマン (職人芸) 制度の充実。
スイス人は、最低ドイツ語、フランス語、英語の3ヶ国語は喋れる。 南部ではドイツ語、イタリア語、英語の3ヶ国語。 日本のように語学は大学で教えるものではない。 日常的に全ての国民が喋れることが、人材力。
そして、スイスには国立大学はチューリッヒ工科大とローザンヌ工科大しかなく、大学進学率は30%以下だと言う。 逆に言えば、国民の70%は3ヶ国語は喋れるけれど、時計、機械、薬品、観光などの専門職か農民。
大学を卒業して仕事を覚えるには10年かかる。 中学から職能教育を始めれば、高校を卒業して20台半ばでエキスパートになれる。 このギルド制度が今もスイスやドイツで脈々と息づいているから産業の国際競争力が強い。 また、企業が潰れても、再教育によって再生され、一生食べてゆける。

第3点目は移民。 スイスの人口の30%は移民だという。

ともかく、人件費が高いと失業率が増え、補助金がないと企業が潰れると日本のエコノミストや政治家、官僚、企業人、左翼系の人々は言う。 しかし、スイスは人件費がて高くて補助金は一切なくて、国際競争力が強く、失業率は世界一低い。
国内に優秀なマーケットを持っていた日本は、住宅産業界を見ても一目のように、国際競争力がなくてもやってこれた。 現在の制度とシステムを守ろうとする守旧派が産業界を支配し、住宅局や学者を籠絡して生き延びるべく画策を図っている‥‥。
そうした国内需要に甘えてきた日本人のすべてが、最低2ヶ国語をマスターして、均一な国土の開発ではなく道州制で、大統領制を導入して独自の道州として発展してゆけるのか ?  
それには、教育制度の抜本改革をはじめとしてやらねばならないことが山ほどある。 
そして何よりも先に、多くの国民の意識改革こそが肝要。
と考えてくれば、日本がクォリティ国家として再生するのは容易ではないことが分かる。
しかし、その方向性を示してくれたということで、この冊子を高く評価したい。



posted by uno2013 at 08:30| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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