2013年12月20日

日本的2×4工法の合理化努力に感心させられた一条の現場 (下)


私は現在、一条工務店の2つの建築現場の進行状況の チェック依頼を受けている。
1つは東京の市部で、施主から依頼を受け、一条の了解をえて i-cube の進捗状況を直接私の目で確かめている。
もう1つは少し遠隔地の自由業の施主が、 i-smart の現場を撮影したものをその日のうちに添付して、私のコメントを求めるという形。 2つの現場写真とも、私のブログには原則として掲載しないと施主に伝えてある。
本来は、アメリカのように現場は堂々と公開すべき。 しかし、アメリカの建築現場は分譲住宅で、建築時には所有者が決まっていない。 これに対して、日本の現場は施主がはっきりしている注文住宅。 プライバシーの関係上、施主の了解なしに公開するわけには行かない。
神戸地震の時にはひっくり返っていたプレハブ基礎や、実質的には倒壊していたツーバイフォー住宅の写真を撮ったが、施主名が分からないので公開しなかった‥‥。 
また、工事中の大手メーカーの現場には疑問視されるものもあるが、施主の了解が得られていないので未公開。 これは襟度。

さて、前回アメリカの大まかな現状を述べた。 木質構造に関するほとんどの技術がオープンにされており、新イノベーションがあるとNAHB (全米住宅業協会) が率先してこれを取上げて普及を図っている。 このため、住宅産業の生産性は 他の産業に比べてもヒケをとらない。
しかも土地の広いアメリカには、新開地が無限にある。 一期の開発単位を30〜40戸として、意欲的な職人を休むことなく回転させてゆけば、生産性は上がるし、共有のオープンスペースの多い 手頃な価格の団地が、陸続と開発されてゆく。
アメリカの住宅に関する技術のほとんどは、こうした分譲住宅を大前提に生まれている。
これに対して日本は、散在する戸別の注文住宅がどこまでも主流。 しかも、電線の地中埋設化が進んでおらず、電線に囲まれた狭小宅地と、そこに到達するまでの狭い道路事情を考えての 「パネル開発」 にならざるを得ない。 
アメリカでは常識となっている長い一体壁とか、幅が7メートルで高さが5メートル以上というバルーン壁は、運搬すら出来ない。

軽量鉄骨造であれ、木造であれ、軸組工法だと軸の間にパネルを挟んでゆけば良いのだから、構造的にはほぼ問題なく処理が可能。 
しかし、ツーバイフォー工法は プラットフォーム・フレーミングという名の通り、一体化した剛な床がポイント。 公庫の標準仕様書では床合板は厚が12〜18ミリ以上で、千鳥張りを求めている。
また、カーペントリーでは外壁も一体化したものを求めている。
同様に吹抜け空間では、206材による通しスタッドで、5.2メートル前後の高いシームレスのバルーンフレーミングをアメリカでは求める。
日本には、NAHBのようなしっかりとしたビルダーの指導機関がない。 そして、前回書いたように1998年の建築基準法の改正で 「性能規定化」 が採用され、公庫の標準仕様書によらなくても、構造設計上安全が確かめられればアメリカの動向に関係なく、かなり自由な設計‥‥時には首をかしげたくなるものが多い‥‥が可能になってきた。
私の、一条工務店のツーバイフォーの建築現場に対する技術的な関心事は、小さなパネルで、どこまでアメリカのポリシーを生かしているか‥‥にあった。
そこで、現場写真は公開しない予定だっだが、下記の1枚だけは公開する。 そうしないと、大都市の散在戸別の敷地条件が、地方の方には理解してもらえないから。

11.30ハスユニット.JPG

これは、ユニットバスを吊上げているところ。
まず目につくのは、敷地の前を横切っている9本の電線。
道路の反対側には住宅が迫っているから、5メートル程度の狭い空間を吊上げて敷地の所定の位置に降ろすには、神業のような技能が必要。
電線を引っ掛けないようにするには、最大で35メートル高にもなるクレーンでないと、役に立たない。
そして、途中で 「く」 の字に曲がるタワーリーチのクレーン車でないと、電線を跨ぐことが出来ない。 アメリカの現場にあった腰のないクレーン車は、東京の市街地では使えない。
幸いにも、両方の現場とも建て方の日は風がなかった。
風速5メートル以上の風が吹くと、高く吊上げれば上げるほど パネルは風を受けてグルグル回ってしまい、電線を引っ掛ける懸念が出てくる。 このため、このような現場では、最大2間半程度のパネル幅でないと安心して吊上げられない。
私は4〜5間の大型パネルを求めたが、このような現場ではムリな注文。 つまり、机上の空論に過ぎなかった。

2間半程度のパネルだと、どうしても途中で継がねばならない。 果たしてパネルが一体化出来るのか ?
壁パネルに関しては、2つの答えが用意されていた。
1つは206の外壁と外壁を縫い合わせる部分。
一方の外壁の455ピッチに配された206のスタッド内には EPSの断熱材が充填されておらず、代りに89ミリの赤クギが10センチ間隔に上から下までビッシリと仮止めされていた。 クギを叩きこまないと断熱材の充填ができない。 万が一のミスを防ぐアイデア。
もう1つは、頭つなぎをダブルに入れて、外壁を一体化する方法。 上枠の他に、頭つなぎをダブルに入れる方法は、あちこちで採用されている。 充填断熱だけだと、木のヒートブリッジ部分が増えるので気になるが、プラスの外断熱が用意されている場合は、ダブルの頭つなぎは、小さなパネルの一体化のためには必須条件かもしれない。
これで、私の一つの懸念材料は消えた。

もう一つの懸念材料である床パネルの一体化。
これは、床合板の千鳥張りを含めて、かなり不満が残った。 とは言っても、日本での評定を得ている訳だから、余計なことは言えない。 しかし、側根太・端根太の外壁合板を2重に張って、一体化させようとしている点などは評価は出来た。 
それよりも驚いたのは、235ミリの天井断熱を入れるために 210材で2階の天井を組み、全面的に合板を張っていたこと。 つまり、3階の床を持った構造体になっていたこと。 
その3階床の上に、太陽光を搭載する1.5寸勾配の壁パネルが取り付けられ、206の屋根パネルが施工される。 軒の出がほとんどないので、ハリケーンタイの施工は見落した。
計算した訳ではないので大口は叩けないが、この210による3階床パネルの水平剛性は、それなりに評価出来るはず。
ただ、最近は温暖化が激しく台風が襲うようになってきており、竜巻に近い吹上げ風対策には、同社だけでなく業界全体で、もう少し積極的にチエを働かす必要があろう。 

最後は、吹き抜けの206の通しスタッド。
これについては、依頼を受けた2つの現場とも吹抜け部分がない。 床開口部は階段室だけで、両方とも1間の回り階段。 これだと2-210ないしは2-212の根太材で十分に処理出来る。
したがってこのテーマは、謎のままで終わるのかと見ていたら、2つのプランとも4隅に1階と2階をつなぐホールダウン金物が取付られていた。
基礎と1階の構造体を緊結するホールダウン金物については、10数年前に義務化された。 
福島・いわき市の海岸から200メートルほどのところに2006年に建てられた住宅。 30戸の部落の全部の住宅は、先の津波で流されて瓦礫と化してしまっが、ホールダウン金物がとりついていた住宅だけは、構造体は垂直を維持したまま見事に残った。
安藤直人東大教授は、「3メートルまでの津波だと、ホールダウン金物が付いていると浮力が起こらず、構造体がほぼ無償で残ることが立証出来た」 と解説していた。

私は、現在日本で建てられている木質構造で、もっとも地震と津波に強い住宅は、2011年4月5日のこの欄で、[成城学園に出現した木製PC版工法」 として紹介した《自然の住まい社》のCLTだと思う。
CLT (クロス・ラミネーテッド・ティンバー) というのは、ヨーロッパで8階建て以上が可能な木質構造として脚光を浴びているもの。 しかし、自然の住まい社は、もっぱら低層住宅に徹して 日本でゆっくり需要を開発中。 
何しろ17センチ厚もある無垢材を、木のダボで5層以上に積層したパネル。 その壁が土台を跨いで基礎にガッチリ固定されている。
そのほかに紹介はしていなかったが、4隅には長いピアノ線で屋根パネルまでを大地に結んでいる。 価格は坪100万円以上と高いが、Q値は0.9W以上で、壁倍率は8倍の認定をとっており、RC造以上の耐震・耐津波性能を持っている最強の木質構造住宅。
そしてこの住宅が優れているのは、階段室などの吹抜け空間は2階までの一体パネル構成になっていること。

この住宅と比較すると、私が供給してきたツーバイフォー住宅などは赤子。
そして、私は1階と基礎とのホールダウン金物は積極的に採用してきた。 だが、2階の床を挟んで、1階と2階の壁を緊結するホールダウン金物の存在は知ってはいたが、それを使う必要性は夢だに考えてこなかった。 
つまり、1階と2階を繋ぐホールダウン金物を使った経験が、一度もない。 
今まで直接間接を含めて 1万戸以上のツーバイフォー住宅を建ててきたが、206の通しのバルーンフレーミングを採用することで事が足りた。 あの地震の多いアメリカの西海岸の住宅地で、ただの1ヶ所も1階と2階を繋ぐホールダウン金物を見かけなかった。 また、その必要性を強調するスーパーバィザーや設計士に一人も出会わなかった。
それが、一条工務店の現場で連続的に出会ったのである。
正直言って、しばらくは言葉が出なかった。 
別に 「やられた !」とは感じなかった。 「なぜなの‥‥」 と考えさせられてしまった。
そして、私が辿りついた結論は、「一条工務店は、206の外壁に面して吹抜け空間を作る時に、1間か2間 間隔かは分からないが、このホールダウン金物を用いて、一体壁としての強度を確保している。 それが習慣化して、他の住宅にもホールダウンの採用が普遍化したのではなかろうか」 であった。
この件については、一条工務店の責任者に確認していないので、どこまでも私の憶測。
しかし、私がハーティホームの顧問時代に感じた構造設計事務所の横柄さや、他のパネル住宅に比べると、はるかに優れた処置であるのは間違いない。

このほかに、初めて経験したものがいくつかあった。
まず、1階の床材と1階のスタッドは、全て防蟻処理がなされていること。 階段ユニットに平使いされている204材も防蟻処理材。
また、壁を起こした後、各階の大きな造付け家具や、天井・壁用の石膏ボードを事前にクレーンで吊上げて配置していた。 頼めば大型の冷蔵庫も事前に運び込めるかも‥‥。
さらに、2階の床や3階の床を組む時、転落防止のためネットを全ての床面に張っていたこと。
そして、パネルを吊り上げる人とこれを受ける人は、全員が腰に付けた安全ベルトをロープに繋いでいた。 
配線工は一切ドリルを使わずに配線できる。 
配管工は床を貫通する時はドリルを使うが、これまたほとんどドリルを使わなくて施工出来る。 ともかく現場からはノコ屑や木屑の発生が極端に少ない。
極めつけは、ヘルメットを被っていない者は施主と言えども休憩時間以外は現場への立入りは厳禁。 などなど、実に面白い発見が続く‥‥。

全国のビルダー仲間も、もし許されるなら一条の i-cube か i-smart に現場に立ち会われることをお薦めしたい。 アメリカの広大な分譲住宅の現場では見られないいくつかの発見があり、必ずやヒントが得られる。 
散在戸別需要に対するシステムとして、一条工務店のそれは なかなかしぶとく粘り腰。 
固定概念を外して、新しい視点で建築現場を見直してみると、より生産性の高いやり方とシステムが、発見ないしは再確認できる可能性が非常に多いと痛感させられた‥‥。
posted by uno2013 at 07:59| Comment(0) | Q値0.8W以上の住宅 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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