2013年12月10日

中年仲間が宇宙ロケットに賭ける情熱‥‥住宅界に見られないロマン


あさりよしとお著「宇宙へ行きたくて 液体燃料ロケットをDIYしてみた」(学研 1300円+税)

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「サイエンス・マンガ」 というジャンルがあるのをご存じでしたか ?
マンガに疎い私は、浅利義遠 (あさり・よしとお) などどいうマンガ家の作品などは、見たことも触れたこともありません。 
1998年に出版された川端裕人著 『夏のロケット』 は、高校時代の仲間5人が 10数年かけて自分たちで作ったロケットを打ち上げると言う小説。 小説といってもサイエンス・小説で、理論的に素人でも製作が可能であることを立証していたし、地球周回軌道に乗せる具体的な性能を備えたものだった。 
この小説を読んだサイエンス・マンガ家はえらく感動した。 そして、現在はロケット開発費に200億円、輸送費に120億円もかかっている現状を打破したいと考えた。 
このままだと、アメリカで募集しているように宇宙ステーションに滞在する宇宙旅行には数十億円もかかり、とてもじゃないが生きているうちに宇宙へは行けそうもない。 
宇宙を目指すには、ロケットの開発費と輸送費を1/100にするしかない。 それには最小のロケットを、自分達の手で作らねばならない。 
そこで、宇宙作家クラブの勉強会に講師として来ていた野田篤司氏に 最小のロケットとはどれ位のものかをシミュレーションしてもらった。 そしたら、「3段式で、全体のボリュームはドラム缶1本分強‥‥全長3.7メートル程度」 という回答が得られた。 
これだと、一般人にも作れる。 そこで、川端氏の許可を得て1999年に描いたのが 『なつのロケット』 というマンガ。

このマンガ本が契機となって、筆者や野田氏のほかに牧野一憲というロケット専門者も後に加わったほか、笹本祐一というSF作家、小林伸光というCGイラストレーター、それに、なんとあの  《ホリエモン》 も加わって 《なつのロケット団》 が結成された。 
ホリエモンが参加した動機や、判決前後の彼の支援行動は、本著を読んでいただくしかない。 ホリエモンの一面が分かって、それなりに楽しめる。
さて、この 《なつのロケット団》 は、単に夢を追って楽しむだけの夢想集団ではない。 プロジェクトとして立派なポリシーと経営目標を持っている。
◆国に頼らず、完全に民間主導で開発を進める。
◆ホームセンターやネットショップで入手できる材料を使う。
◆10年以内を目途に、地球周回軌道に到達出来るロケットを開発する。
◆そのロケットで、安価な人工衛星の打ち上げが可能なビジネスを展開する。
◆そこで得た資金と技術で、有人宇宙船をつくる。
と、筆者は 「100%の実現を前提にしたプロジェクトである」 と強調している。

最初の数年間は、筆者やSF作家、CGイラストレーターの各氏は科学オタクで、宇宙のことに関してはかなり詳しいという自負を持っていた。 ところが、いざロケットエンジンを作る段になると、野田氏から徹底したレクチャーを受けなければならなかった。 
固形燃料にするか液体燃料を選ぶかという一つを取って見ても リアリティさが全く違う。
そして、基本構想という叩き台が出来るまでに、数年間という年月をかけている。
3段ロケットの構想モデルがやっと完成し、「第2段目用ロケットの実験用エンジンの製作」 という具体的な行動時期が到来したのは、2006年の夏。
エンジンは液体燃料を撰び、30kgf。 これは地球上で30kgの物体を持ちあげられる力を持ったエンジンを示す。
推進剤であるエタノールと液体酸素がきちんと噴射し、混合するか。 また、机上計算通りに燃えるかを検証する。 こうした実績を積んでゆくことによって、その後の融資なり、インフラ活用の場面で説得力が全く違ってくる。
本気で真面目に考えている中年オヤジグループであることを、立証してゆかねばならない。

そして、目先の問題としてその実験用エンジン製作のための資金が必要。 この段階では全員のポケットマネーのみ。 「これくらい出しとくわ…」 という筆者の出資金が、最初の段階ではすべてであった。 
次いで問題になったのは開発拠点。 これには、山手線から私鉄で数駅、駅から徒歩3分の筆者の家の台所が当てられることになった。 
ここまでは、順調。 
しかし、野田が設計したエンジンを、金属加工してくれる精密工場が見つからない。 ネットで調べた大手や中規模メーカーは大量生産を前提にしている。 したがって単品で、ロケットエンジンと聞いただけで 「ガシャン」 と電話が切られ、お断りの連続。
しかも、発注する側が個人にすぎず、法人格もなければ政府関係の団体でもない。 
断られて当然というありさま。

困っていた時、仲間内で強力な技術ネットワークを持っている蒲田・M工場を見つけて紹介してくれたのが 釈放されていた堀江氏。 
早速に訪問したら あっさり受注してくれ、ベースプレート(基部)、インジェクター(噴射装置)、チャンバー(燃焼室)を発注。
この発注を契機に、野田氏は自身がOBであるWASA (早大宇宙研) のK君の協力を得て 実験に使う電子制御プログラムを組んだり、配管設計を始めていた。 基幹の配管材は神田の専門店に発注していたが、その他の材料集めの指示が筆者などに回ってきた。 
窒素ガスボンベの手配はなんとかなったが、レギュレーターという部品はどこで売っているか想像すら出来ない。 いろいろ聞いて、やっとネットオークションで入手することが出来た。 
そして、部品の中で一番高くついたのが推進剤の流れる方向、圧力・流量の制御に使うバルブ。 これはアメリカのS社からの購入するというはなれ技。 
このほか、テストベンチを台所に組む作業にも苦労させられた。
そして、やっとM社から注文品が届いた。 3つの部品を組み合わせれば実験用エンジンとなる。 組み立てて見ると ネジ止めをしなくてもベースプレートにインジェクターが吸いついて落ちない。 面と面との精度が高く、密着している。 改めて日本の中小メーカーの技術力の高さを痛感させられた。

2006年の年の暮れに、筆者の家の台所で 推進剤の液体酸素の代りにタンクに水を流し込む予備実験が始まった。 
ところがタンクに水が入らない。 
直径1センチの穴へ大きな漏斗を差し込み、水を注いだらあっという間に溢れだし、床を濡らした。
皆で議論した結果、タンクに水を入れるには中の空気を抜いてやらないとダメだと分かった。 何回かの試行錯誤の結果、真中に空気抜きの細いパイプを入れ、パイプの先が水面に着かないようにビニールコードで固定することによって、2リットルの水をタンク一杯に入れることが何とか出来た。
そして、換気扇を回していよいよ水流しテストと衝突テスト。
それぞれ何度となく失敗を繰り返し、水漏れをハイテク素材で塞ぐなど、2月まで都合4回の水流しテストを行った。 この結果、混合の様子や流量、圧力値の測定などのデータはほぼ取得出来た。
次は、水ではなくエタノール、液体酸素を使っての燃焼試験。 
この実験は火を使うし、衝撃波が出る。 当然のことながら、住宅地の筆者の家でやるわけにはゆかない。
堀江氏と野田氏が中心になり、廃工場などに目星を付けて探し回ったが、これはという候補地がなかなか見つからない。

候補地が見つかったのは07年の5月下旬。
房総半島の鴨川市の避暑地の別荘。 3方が山に囲まれていて、前が海。ベランダの下が広めの半地下室。 隣家までは100メートル以上離れている格好の秘密基地。
この別荘を購入し、オーナーとなって提供してくれたのが控訴審を待っていた堀江氏。
ここでバルブのリモート制御が作られた。 
そして、またもやタンクに入らない液体窒素とエタノール。 この解決策にさんざ悩まされたが、インジェクター単体燃焼試験は成功した。 
さらに結露対策やパーツの改良、チャンバー付き燃焼試験も成功。
鴨川の秘密基地での1年余の間に、実験に次ぐ実験を重ねて、次はいよいよ打ち上げ実験の段階に進んで行った。 
しかし、一方では筆者が焼死する寸前という危険な事故も起こった。 この苦い経験から、綿密な作業管理のための 《手順書の作成》 という貴重な成果も上げていた。 この手順書については、別の機会に取り上げたい。

アメリカでは、NASAの方針転換によって宇宙開発は国家主導から民間主導にシフトして、多くの民間企業が参入している。
アメリカには8ヶ所もあるという民間宇宙港。 なかでもカリフォルニアのモハベ砂漠は、20社以上の宇宙ベンチャーが拠点を構え、シノギを削っているという。
これに対して、日本にはそんな民間宇宙港はない。
唯一、それに近いのが北大・永田晴紀教授グループと赤平市にある植松電機という町工場。 2004年頃から共同でCAMUIという小型ハイブリッドロケットを開発し、打ち上げ実績も積み、《なつのロケット団》よりは先を走っていた。 
2009年の春に、野田と牧野と堀江が植松電機を訪れた。
最初は警戒心が強かった植松努専務だったが、《なつのロケット団》 が同じ志を持った仲間と分かり、胸襟を開いてくれた。

http://aerospacebiz.jaxa.jp/jp/offer/interview/09/p1.html

そして、開発基地を赤平市に移し、何回かの爆発事故を経験しながら、2011年3月26日には、「はるいちばん」の500メートルという打ち上げに成功し、以来4回も連続して打ち上げに成功している。
だが、今年、2013年3月29日の5号機 「ひなまつり」 は、ランチャーから離床せず炎上爆発してしまった。 
そのリベンジを兼ねて、今年の8月10日にフライト用として新設計された500kgfのエンジンを搭載した6号機の 「すずかぜ」 は、あっという間に視界から消えたが、電子機器が刻々と飛行データを送ってくる。 計画通りに飛翔し、上空で開傘して着水、回収するという完璧な快挙を成し遂げている。

しかしこれ等は、あくまでも2段目のロケットでの実験に過ぎない。
3段ロケットを開発し、有人宇宙船を開発する目処は まだついていない。
著者の自宅の台所にテストベンチを組んで はや7年。 
それでも筆者らは、一途に安価な宇宙旅行の開発計画にまい進している。 まさに、これからが民間主導の勝負どころと考えている。

この著書から、住宅業界が学ばねばならない点が、やたらと多いという風に痛感させられた。

posted by uno2013 at 08:11| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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