2013年11月15日

温度だけではなく結露の予測も読み取れるドイツのWUFIシステム


有名なドイツのフラウンホーファー建築物理研究所では、建築物に単に温度条件だけを入力するのではなく、湿度条件も入力することにより、結露の発生を事前に予測出来るシステム 「WUFI」 を開発し、日本でも実際的な運用を図るために、さる11日から13日までの3日間、有料のセミナーを開催した。

WUFIセミ.JPG

初日の11日は、お茶の水大を卒業してフラウンホーファー研究所の熱・湿度部門に在勤している田中絵梨さんが、「湿気の影響と熱・湿気に関する評価システムの概要」 と題して、延べ3時間余に及ぶ基調講演があったので聴講してきた。
2日目と3日目は、受講者がウィンドウのノート型パソコンを各自持参しての実習研修。
両日ともメイン講師はミュンヘン工科大卒で、フラウンホーファーの熱・湿度部門の部長代理のダニエル・チルケルバッハ氏。 田中絵梨さんが通訳兼補佐役。

2日目の内容は、「WUFI使用のための基礎知識と操作方法の指導」
つまり、・建材の基本データ ・空気層の設定 ・気象条件および初期条件 ・高性能木造住宅での計算と判定方法の実演 ・カビの成長 ・日陰の計算 ・水に接する地下室の壁の実習、という延べ7時間の特訓。
さらに3日目は、「高度な操作や分析方法」
・建材データの編集 ・熱と湿度の発生と消失 ・外断熱外壁の実演 ・内断熱の実演 ・断熱改修工事の計算方法 ・屋上緑化などの実習。
かなり、本格的なトレーニングを伴う実習セミナー。
しかし、私は初日しか出席していないので、システムのデティールや操作について言及する資格は一切ない。 
どこまでも、初日の概略説明と質疑応答を通じて得られた点から、主観的に判断したものを、出来るだけ分かりやすく説明したいと考えている。
私の判断は、例によって 「独断と偏見」 に満ちたもの。 
したがって、かなりの間違いがあるかもしれない。 最初から、眉唾のところが多いと疑いながら読んでいただきたい。

フラウンホーファー研究所は、湿気によるドイツでの建築物の損傷額は、年間約5000億円に及ぶと予測している。 被害を受けている主な部位は、地下部分が全体の52%、外壁が56%、屋根が54%にも及ぶという。
日本の人口はドイツの約1.6倍、住宅の総戸数は1.2倍程度だから、ドイツ流に表現すれば日本の湿度による建築物の年間損傷額は、6000〜6500億円前後になると言える気がする。 しかも、日本は持家の比率が60%以上に対して、ドイツは40%以下。 
だが、日本では居住スペースの大きさを構造体の芯で表現するのに対して、ドイツはどこまでも有効スペースでの表示。 いくら外壁が300ミリと厚くなっても、生活スペースは決して狭くはならない。 しかも、ドイツでは戸建てにしろアパートにしろ、原則として全戸に地下室物置が付いている。 その地下室はプラス・アルファのスペースで、居住スペースには加算されていない。 
さらに、都市生活者のほとんどが近郊に300uのクラインガルデンという家庭菜園を持ち、ラウベと呼ばれる30u程度の小屋を持っている。 このため、ドイツの方が人口が少ないのに実質的な居住スペースは日本を上回っているようにさえ感じる。 
その上ドイツでは、100ミリのロックウールとペア・サッシによる中高層アパートの断熱改修工事が 急ピッチで行われている。 こういった諸点を考えると、やはり日本の方が結露などの被害が多いのではないかと考えてしまう。 
日本では、一部の超高層マンション以外に地下室が無く、しかも冬期の寒さはドイツの方がはるかに厳しいのに‥‥。

湿度の影響は、いろんな形で現れる。
まず、建物の外観が汚れることと、藻などの菌類が発生すること。
そして寒いドイツでは、壁や屋根材に浸透した水分が凍結して建材の強度を破壊させるとともに、木材などを腐らせる。
それよりも大きな被害は、結露によるもの。 結露が起こると金属は錆びるし、その他の建材の場合は必ずと言ってよいほどカビが生える。 このカビが、建材の性能を落とすだけでなく、室内の空気質も大きく落として 喘息やアトピーなどを併発する。
ここまでの説明は、改めて言われなくても熟知していたこと。
しかし、「RC造などは、含水率の多寡によってU値が月毎に変わります」 と言われたのにはびっくりした。 
たしかに、水分の多寡は熱伝導率やエンタルピに影響することは知っていた。 しかし、もっぱら人工乾燥材による木造住宅に特化していたので、U値は当初からほとんど不変と考えていた。
だが、RC造は5年経たないと安定したU値が得られない。 U値というのは、決して固定したものではないということ。 
つまり、気密性能が低い建築物の場合は、劣化が進むと同時にU値も劣化するということ。 固定概念は捨てねばならない。

それに、WUFIの優れている点は、畜熱や保熱を含めて、定常計算によるのではなく、非定常計算によって結露や熱移動の計算をしてくれている。 
しかも、そうした非定常計算にによる解析が、実際の数値と合っているかどうかを実物を研究所内に建て、実測して計算値と常に比較している。 その結果、「熱と湿気の同時解析の結果の妥当性が示された」 と豪語。
そういう意味では、新しい建材の開発や、RC造、鉄骨造の場合は、WUFIを最大限に活用することは 大いに意味がある。 そういった面で、設計事務所とか建材メーカーの技術屋さんにとっては、このWUFIは有力な武器として使える。

しかし、木造住宅では、パッシブハウスが求めているような50パスカル時に 換気回数が0.6回転/時という気密性能をコンスタントに出しているのはまだほんの一部。 だが、日本の進んだ地場ビルダーは、0.7〜0.9回転は常時出してきている。 
C値で言うなれば、0.3〜0.5cu/u程度という数値。
日本の遅れた工務店や鉄骨プレハブは、未だに2.0cu/u以下という情けない数字でもたもたしていて、気密性を省エネ基準から外してくれと住宅局に泣きついた。 そして、三井ホームなどの大手ツーバイフォーメーカーでも、うまくいって1.2cu/u程度。 ともかく大手でコンスタントに1.0cu/uを切っているのは、一条工務店の i-cube と j-smart の0.6cu/uだけ。
0.5cu/uの気密性能が確保されれば、つまり石膏ボードの下のべバーバリアさえしっかり施工されておれば、冬期に異常乾燥に襲われる表日本では、冬期の壁内結露は100%と言ってよいほどクリアー出来ている。
冬期に湿度が高く、冬期にダニ・カビの発生に脅かされているヨーロッパの冬の嘆き節は、日本では北海道をはじめとした先進的なビルダーの場合には一切聞かれない。
ドイツの住宅展示場や住宅メーカーの工場を見てびっくりさせられたのは、外壁のすべてが透湿材料でつくられていること。
ともかく地震のない国。 
建築物は鉛直荷重に耐えられればよく、水平荷重は無視しても許されている。

このため、構造用合板とかOSBが採用されているのは皆無で、ほとんどがMDFなどの透湿性のよいチップボード系が用いられている。 そして、仕上げのモルタル材にしても塗装までも、透湿性が最優先に考えられている。
そして、考案されたのが、「インテロ」 というべバーバリア。 冬期は湿度を透さないが、夏期には湿度を透す。 
もし、冬期にインテロというべバーバリアから壁内に湿度が漏れても、その湿度は壁内にとどまることなく、透湿性の良い建材から壁外に排出される。 そこまで考えないと、冬期が雨季のヨーロッパでは、冬期のカビ・ダニの発生が防げない。
しかし、このインテロをドイツと同じ流儀で日本で採用すると夏期に問題が発生するということがわかった。 
hiroさんと鎌倉のパッシブハウスの建築現場を見に行った時、「これだと夏期には換気と同じ量の湿度が天井面や壁面から入ってくる」 とhiroさんが叫んだ。
そこで、インテロ本社の工学博士のMoll社長に連絡をとってもらい、日本ではどう対処したら良いかを聞いてもらった。 博士は、ドイツの建材試験センターに研究を委託した結果として、次のような報告をしてくれた。
「日本では、外壁の外側にOSB並の非透湿性の建材を用いた方がよい」 と。
地震国ニッポン。  そこで最優先しなければならないのは、外壁に構造用合板ないしはOSBを最優先で採用すること。
ただしこの場合、日本では夏期に石膏ボードの壁内側に逆転結露が起こる可能性があることが20年前から指摘されていた。

そこで、解決策を生みだしたのが北海道の通気層工法。
これは、冬期にべバーバリアから漏れた湿気が、いざという時は合板裏に縦胴縁で作る通気層があれば、壁内結露が防げると考案されたもの。 それが夏期の逆転結露にも効果があることが知られ、広く日本全土に普及した。
私は、築5年以上の、グラスウールを充填した外壁と、ウレタン現場発泡の外壁を それぞれ3 体以上調べている。 ボードを外して見ると、いずれの壁も木材は新築時の鮮度と色を保っており、グラスウールにも一切の変色が見られない。 逆転結露の懸念が皆無だった。 
べバーバリアの施工が完璧で、R-2000住宅の気密テストに合格した物件であれば、通気層さえあれば冬期の結露も、夏期の逆転結露の心配も不要だ、との結論を出した。
しかし、これらの実態調査は、いずれも10年前以上のもの。 昨今の温暖化が進んている時に、「R-2000住宅の気密性と通気層があれば、関東地域では逆転結露は心配ない」 と言い切れるかどうか?
逆転結露の問題に関しては、9年前の坂本雄三氏の論文で、議論が停止している。
「本州以南で、夏期の壁内結露が確認されているものの、晴天日の日中にしか発生しない現象であることも確認されている。 結露水量は微量で、木材の腐朽被害の報告はない。 カビがあっても、それが《実害》と言えるかどうかは分からない‥‥」。

今年の夏は暑かった。 温暖化が進んでいると実感できた。
そんな中で、9年前の議論で停止していて良いのかどうか‥‥。 
私は、外壁に構造用合板を張った上で、べバーバリアはインテロ機能を持つ物に変えてゆかざるを得ないのかもしれないと考えている。
そして、こここそは WUFI の出番だと思った。 
だが、発表されたデータは鹿児島の気象条件下で、ドイツの透湿性のよい外壁の非定常の計算例だけ。 たしかにこれだと、壁体内部には結露は生じていない。しかし、室内は多湿でやりきれなくなるはず。 その肝心の報告がなかった。
つまり、日本の実態に沿ったシミュレーションではなかった。 この点は、至急本部で確認したデータを出すようにと、注文を出しておいた。 
いくら優れたシステムであっても、日本の実態を理解していないと、宝の持ち腐れになってしまうという好例。

WUFI は、このほかに空気層が挟まった2重断熱材に対応できる WUFI-2Dがある。
また、部位の熱・湿度計算だけでなく、室内で使用するエネルギー量まで計算出来る WUFI-プラスがある。
さらには、パッシブハウスに温度面だけではなく湿度面でも対応可能な WUFI-Passive もある。

そこで、田中さんが、「パッシブハウスの条件の1つとして、50パスカル時に換気回数が0.6回転以下であること」 と言ったので、その根拠を聞いてみた。
しかし、これは彼女の本業でないので答えられなかった。 
たまたま4年前に 「ドイツのエネルギーパス制度」 に関する著書を翻訳出版していたアンドレアさんが同席していて、代りに答えてくれた。
「これはエネルギーのロスよりも、結露防止を目的にして定められた規定だと考えます」 と。

いよいよもって 日本の住宅局の間違えが、炙り出されそうな雰囲気に‥‥。


posted by uno2013 at 10:37| Comment(0) | 展示会・シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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