2013年09月20日

カビは、(m)VOCだという、聞き捨てにならない警告 !!


李 憲俊著 「カビの科学」 (日刊工業新聞 1600円+税)

カビ.JPG

人類の歴史は20万年。
これに対してカビは、その5000倍も昔の10億年前より存在していたそうな‥‥。 
そして、黴 (カビ) は、文字通り黒い微生物で、1000年前の源氏物語に、「かびくさい」 という表現が見られるというから、昨日や今日に始まった付き合いではない。

そして、一般には浴室や台所など湿っぽいところに発生するというイメージがあるが、かなり乾いたモノにも生えることを、私たちは知らされてきた。
例えば乾燥させた穀物、香辛料、素麺、パンなどの食料品。 さらに食べ物だけではなく柱などの木材、クロス、塗料、接着剤、畳などの建材をはじめとして、洋服、靴、本、割り箸、カメラのレンズなどにもカビは生える。
ともかく、人の汗や油のついたものは貴重なエサになるらしく、乾いているからと安心していると、ひどい目に逢うことがある。

この本を読むまでは、現代の科学を駆使すれば、カビはなんとかコントロールできると比較的軽く考えていた。 しかし、それほど甘いものではなく、カビのない家づくりには大変な英知が必要だということを思い知らされた。
何しろ、人体の細胞は60兆個あると聞いて驚いていた。 ところが、人間の身体に棲みついている微生物の数は、60兆個をはるかに上回っているという‥‥。 
目に見えないから許していたけれども、60兆個以上と言われると許すも許さないもなくて、敵は手ごわい存在だということが分かってくる。
「見えないのだから、勝手にしなさい」 と言うしかない。
ところが、それらの微生物の中で、カビだけは一定以上に成長すると、人の目にも見える菌の塊になる。 これは、微生物の中では例外中の例外の出来事らしい。
そして、サッシについたクロカビとか、浴室のタイルの目地を汚す 「汚い」 「気持ちの悪い」 「怖い」 不快イメージが頭の芯にこびりついている。

私たちの周りにいる微生物の中で、細菌、酵母、カビは、その繁殖方法が違う。
細菌は、1〜2ミクロンの一個の細菌が30分で2個に分裂して増え、1時間後には4個に、そして24時間後には温度や湿度栄養などによってスピードは異なるが、なんと約281兆4750億個にもなっている。 とくに大腸菌は、最速20分に1回分裂するという。
前の晩に洗った布が、一晩で1億個に増殖した細菌で臭っていたというのは、ウソではない。
また、酵母は細菌のように分裂して増殖する酵母もあるが、一般には母細胞に芽が生えて娘細胞が生まれ、独立するというのがイースト菌などの増殖方法。 
こうした2分裂法や出芽による増殖法は、新しく生まれた細胞は元の細胞とほぼ同じ形をしている。 これに対して、カビの場合は成長、増殖の段階で、それぞれ形が異なる。 これが、カビの増殖法のもっとも特徴的な点。

カビの胞子は空中を漂っている。 その数は、季節、その日の天気、地域によって異なる。
一般的に自然が豊かな地方の方が、土や植物の葉に由来するカビが多い。 窓を開けたり、気密性の悪い住宅の場合は、外部の浮遊数と室内のそれはほとんど変わらない。 しかし、最近は気密性の良い住宅が増えてきているので、外気の影響を受けない住宅が増加している。
一番良い例が花粉症。 気密性の悪い家では室内にいても花粉にいじめられている人が多いが、C値が0.9cu/uよりすぐれたR-2000住宅クラスだと、室内に居る限りは花粉症の心配から解放されている。

それでは、一般の住宅では、どの程度カビが浮遊しているのだろうか。
この点について、最近では各大学や企業の研究機関がそれぞれ調査をしている。 
著者は、その肝心の調査結果を発表していない。 このため、いささか説得力に欠けるが、毎日掃除している家庭で浮遊カビ数は20〜30個以下/m3ではないかと推測している。
研究室のクリーンルームや、よく消毒されている病院でもその程度だという。
私の知っている気密性能が0.5cu/u以上で、フィルターがきちんと取り換えられている家庭だと、おそらく数個程度/m3だと思う。 
そして、冬季は相対湿度を45%に維持しているのに窓に結露がしたことがなく、室外で洗濯物を干したことがないだけでなく、フトンを天陽に当てなくても常にフワフワで快適だという除加湿が完全にコントロールされているS邸。 このS邸を測定をしたことがないので明言は出来ないが、室内に浮遊しているカビは 0〜2個程度/m3にすぎないはずだと考えている。 
その調査を、大学等の研究機関でやっていただきたいと熱望しているのだが‥‥。

一方、気密性が悪くて掃除をしていない家庭では、浮遊カビの数は500個以上/m3となる。
そして、気密性の良い家でも、浴室の天井から浮遊カビの胞子が大量に発生している住宅などでは、1000個/m3を超える場合もある。 この1000個がカビ発生の指標になり、住人への影響が顕著になってくるという。

さて、空気中を漂っていたカビの胞子が、水分と石鹸水や垢など栄養のあるところへ着地する。 そうすると胞子は発芽してどんどん長く伸びてゆく。 これが菌糸。
菌糸は伸長と分岐を繰り返し、付着した表面だけでなく、タイル目地などの中にも入り、菌糸の集合体‥‥菌糸体となる。 それが空気中へ菌糸を伸ばし、胞子をつくる細胞へ分化する。
このような過程を辿って胞子を作ることを 《無性生殖》と言い、作られた胞子を《無性胞子》 という。 これが、カビの増殖法。

家庭で良く見られるクロコウジカビ。 球形で大きさは5ミクロン前後。
これを寒天培地で培養すると1週間で直径6センチもの円形集落に成長する。 と言ってもミクロの世界のことは実際には理解しずらいので、5ミクロンではなく1000倍の5ミリに拡大して想像していただきたい。
クロコウジカビの大きさは米粒大の5ミリ。 その1粒が1週間で直径60メートルの森になるのだということを‥‥。
この驚くべき成長力があるからこそ、動植物の死骸や排泄物は速やかに分解され、地上にあふれることが避けられているのだ。

こうした驚くほどの成長力というか生命力を持ったカビ。
旧約聖書のレビ記には、カビの発生と対策に関する記述があるという。
ドイツで開業医をやっている医師から、「ドイツでは、夏季は低湿で問題がないが、冬季の全館暖房と毎日続く雨や曇天模様のために、冬季にダニ・カビのアレルギーが大発生していまだに大問題になっている」 と聞いたことがある。 ドイツほどの先進国でも、カビ問題は簡単に解決策が見出せない問題らしい。
室内にカビが大量に発生すると、まず 「カビ臭さ」 が問題になる。著しく不快になるだけではなく、カビの匂いで頭痛、めまい、湿疹、喉痛の症状が出ることもある。 この原因として考えられているのが、なんとVOC (揮発性有機化合物) だと著者は述べている。

住宅関係者は、今から10〜15年前までは、合板やハードボードなどに用いられた接着剤や塗料によるホルムアルデヒドなどのVOCで、さんざ悩まさせられてきた。 いわゆるシックハウス症候群対策。
「そのVOCを、カビが発生させている」 というのだ。 
微生物が作るVOCなので、微生物 (microorganism) の m を付けて mVOC と言うらしい。 だが、これが事実だとしたら、カビ問題は放置しておくことが出来ない大問題‥‥。 もちろんダニ対策も同時に考えねばならない。
また、温暖化による洪水被害で、アメリカなどでは土に由来するスタキボトリスというカビの発生が、健康被害を起こしているという報告もある。

そして、室内カビの意外な汚染源として、浴室の天井が注目されるようになった経緯も詳しく書かれている。 また、浴室に付けられた局所間欠運転の換気扇のようなチャチなものでは、カビ対策としてはあまりにも不備だと強調している。
しかし、筆者は建築に疎い。
高気密・高断熱住宅の実態にも暗く、空調換気システムのことはもちろんのこと、デシカなどによる除加湿換気システムのことなどは想定外の世界。 したがって、カビ対策についていろいろ述べているが、ポイントを外しているように感じる‥‥。

とはいえ、いたずらに筆者を糾弾しても始まらない。 筆者はどこまでも微生物研究者。
氏の指摘を正しく咀嚼して、消費者に対して効果的なカビ対策を用意して行くのが住宅業界と冷凍空調学会に課せられた大課題。
この著作を読んで、私は今までの方針を変更する必要性を一つも感じなかった。 それだけではなく、老骨に鞭打って、さらに同志とひたすらに前進すべきだと痛感した。 
消費者を含めた多くの方々に、この小冊子の一読を奨めたい。


posted by uno2013 at 04:34| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。