2013年08月25日

《木づかいフォーラム》で得られた鮮度の高い感動


私は半年間、安藤塾でいろいろ勉強させていただいてきた。
そのほかに、先生の講演は2〜3回は聞いている。
したがって、他の人よりは《安藤理論》なるものを、理解しているつもり。
しかし今回は、安藤先生が一方的に喋るのではなく、どちらかというと司会役。 つまり、参加者から意見を引き出す役として 《絶妙な技》 を見せていただいた。
もちろん司会者として、フリーアナウンサーの八塩圭子女史が選ばれていた。 なかなかのベテラン。だが、農林水産大臣と林野庁長官が列席するとあって、農林省の担当役人はかなりハッスルせざるを得なかったよう。

林農林大臣.JPG

最初に登壇した林農林水産大臣。
20分の基調講演という名の 差しさわりのない一般論。
どうせ林業白書の焼き直しに過ぎないだろうとタカをくくり、何一つ期待していなかった。
ところが、新しい需要開発として、いきなりヨーロッパで注目を集めている CLT (クロス・ラミネート・ティンバー) が出てきたのにはびっくり‥‥。 もちろん、林野庁のレクチャーを受けての発言だろうが、自分なりに消化して、自分の言葉で発言しているのには感心した。
この CLT 発言により、基調講演は俄かに面白いものに‥‥。 林業白書の焼き直しから完全に脱皮。

しかし最初の計画では、林芳正大臣は基調報告をしてもらって、さっさと引き揚げてもらうはずだった。
ところが、本人は 「トークショーを最後まで聞きたい」 との希望を出した。
役人の発言は毎日聞かされている。 そうではなく、消費者や学者のナマの発言を聞きたいという態度には好感が持てる。
そこで、「折角大臣が残るのなら、トークショーにも出てもらったら‥‥」ということになったらしい。
なにしろ、日経新聞が共催し、500人が集まるフォーラム。
大臣が出席している席で、下手な発言を誘導されて農林省の基本方針がへし曲げられ、ケチをつけられたのではたまったものではない。
そこで、事情に精通した安藤先生を引っ張り出し、綿密な打合わせを役所は行ったらしい。
「最後は、徹夜作業だった。 しかし役所は、黙って任せるべき」 と安藤先生が嘆いた理由が、なんとなく理解出来る。

最近の講演会にしろ、トークショーやパネルディスカッションにしても、写真や分かり易い図がないと人々は感動してくれない。 文字だけを羅列したものには、誰も関心を示してくれない。
講演会の場合は、話す内容を裏付けるデータ集めは、それほど難しくはない。
しかし、トークショーやパネルディスカッションの場合は、参加する人の考えにマッチした写真や図を揃えるのは容易なことではない。 本人の考えと行動を事前に正しく把握していないと、それこそミスマッチになってしまう。
しかも、発言の途中にそれらの写真や図を、タイミングよく写さねばならない。
つまり、経済や社会問題の司会者は、各人に適宜に発言を求めてゆくだけでよい。
ところが、建築や家庭、オフィスにおける新しい 《木づかい》 ということになると、具体的な絵や写真がないと、500人の参加者に納得してもらえない。 観念論ではダメ。
このため、八塩圭子とは別に、安藤教授にも司会役を兼ねてもらうようになった。 そのほかに、映像送りも一任。 そして、トークショーとパネルディスカッションの出席者も兼ねるという 文字通り1人4役という激務‥‥。
脚本家、兼監督、兼舞台装置づくり、兼主役ということに相成った。

スシと木と.JPG

最初のトークショー 《木の魅力の再発見 !!》 の主役は、モデルでタレントの「はなさん」。
(上の写真の右から安藤教授、はなさん、林農林水産大臣、司会の八塩さん。写真の写りが悪いのはご容赦あれ。 何しろ日経の講演会や討論会は、撮影と録音は厳禁。 カラー写真付きのレジメが資料として配布されているのなら我慢が出来る。しかし、最近はレジメのないものが多すぎる。したがって、フラッシュを焚かずに、デジカメで撮影をさせてもらっているが、これは聴く方の正当防衛だと思う。それにしても、フラッシュを焚かないと 恥ずかしいほど写りが悪い‥‥)

はなさんは、林野庁の最初の《木づかい》のポスターのモデルに選ばれ、好評だった。
自身の趣味は、木彫の仏像鑑賞。小さな木彫の仏像を一杯集めており、仏像の話だと延々と続く。
それとお菓子作りを含めた料理づくりが得手。 その料理の一貫として、はなさんは寿司のにぎりを学習した。バックに写っているのはその時にぎった寿司。
この寿司の写真を見て、「この寿司こそが、日本の農林水産業そのものだ」 と痛感させられた。
コメとお茶という日本を代表する農産物。 マグロをはじめとした海産物。 そして、それを載せて供する木のカウンターと寿司下駄は林業。 まさしく林大臣の守備範囲であり、日本人の生活に如何に深く根ざしているかが伺える。

木のお菓子入れ.JPG

また、はなさんは木の加工品が好きで、産地に行く度にお椀などの小物を買ってくる。 バック写真は柿の木で作られた大きなお菓子入れ。 取っ手が柿の枝を表してしるのがよい。 木の蓋は湿気を遮断してくれる。

家事用木の小道具.JPG

次は、はなさんの家の台所にある木で出来た料理用の小道具類。
金属は温度を伝えて熱いし、熱で伸び縮みする。 しかし、木は温度で伸び縮みはしない。 そのものが断熱材になるほどで、箸をはじめとしてどの小道具も熱を遮ってくれる。
木を収縮させるのは、《温度ではなくて湿度》。

胴管の束.JPG

上の写真は木の断面を顕微鏡で拡大したもの。
木の幹は、地下の水を葉っぱにまで届ける導水管の集合体。 つまり管を束ねたものだということが良く分かる。 この管の構成物質によって重さとか用途が変わってくるが、温度より湿度が木に影響を与えるという理由が良く分かる。
今年の初夏にバイオリニストの千住真理子さんが、日経新聞に次のような随筆を発表していた。
「この季節が一番辛い。 バイオリンは湿度が50%を越えると機嫌が悪くなり、60%を越えるとガラガラ声。70%を越えると剥がれて修理が必要になる。ヨーロッパの夏季は何一つ問題がないのに、日本では温湿度計を持ちこみ、バイオリンも2台持ち込んで除湿を徹底せざるを得ない。そうしないと良い音を聞いてもらえない。 これは何もバイオリンに限ったことではなく、ピアノも同じで、湿度による調整の失敗が 演奏を台無しにする例が枚挙にいとまがない」 と。
こうしたバイオリニストや、日本古来の数寄屋造などに拘らない湿度に敏感な女性のインテリアコーデネィターなどかこのトークショーに参加して、その苦労談を披歴してくれたら、木づかいの大切さがもっと浮かび上がっただろう。

なお、この席上で、林大臣から、国交省の太田大臣に、「CLTを国策として早くオープンに使えるように、告示という形での立法化を依頼している。通常は6年かかるところを3年間以内にして欲しいと頼んでいる」 というトピックニュースの発表があった。
林野庁の意気込みが痛感された一幕。

パネルメンバー.JPG

さて、最後はパネルディスカッション 《木づかい。都市から日本の森づくり》。
(上の写真の右から三井物産・木下専務。イトーキ・末宗Econifa開発室長。凸版印刷・今津CSRチームリーダー。日経BP・ビズライフ局長。林野庁・沼田長官。それとトークショーからの連続登板の安藤先生と八塩さん)

物産の私有林.JPG

まずは、主催者の三井物産の森林事業の概要の発表。
物産が、林業と製材業に手を染めたのは、鉄道線路が全国に延びた時、枕木の提供がスムーズに行かなかったから‥‥。そして、現在では全国74ヶ所に延べ44,000haの私有林を持つ民間では3番目の山林地主。しかし、所有地の7割は北海道にあり、私も道の物産の担当者と話をしたことがある。
その44,000haのうち、特別保護林として将来に亘って開発を行わない保護林が4ヶ所ある。
1つは福島・田代山林。国定公園に指定された尾瀬の一環で、トチノキや美しい高山植物の保護のため。

保護林・福島.JPG

2つは、新潟・南葉山林。
全山水源涵養保安林の指定を受けている。 ブナを主体とした広葉樹林で、川に向かって幹が曲がっている姿勢が美しい。

保護林・新潟.JPG

3つと4つは北海道の宗谷山林と沙流山林。
宗谷山林は、1〜1.5メートルにもなる日本最大の淡水魚 《イトウ》 を保護するため。
また、沙流山林はアイヌ文化を保護するため、アイヌ協会平取支部と協定を結び、記念植林を行っている。
このように、保護すべき山林はきちんと保護し、そのほかの人工林は適宜伐採して、若木を育て、CO2の吸収を図るとともに、伐採した木を都市で使い、どこまでもCO2の固定化に役立てて行こうと全社的に努力している。

保護林・宗谷.JPG

保護林・沙流.JPG

その中で、驚いたのはあのスチールデスクでお馴染みのイトーキ社が、スチールではなく木で床などの内装材を施工し、ウッド家具の生産に乗り出していたこと。
Coniferという針葉樹という単語とEcoをドッキングさせて、Econifa という造語の開発推進室をつくり、下記の物産本社のオフィスや応接室を一変させてきている。

物産のオフィス.JPG

この設計を担当したのがアメリカのデザィナー。
木の家具にしても北欧はデザイン力で抜きんでている。 日本の針葉樹の良さを活かすには、このようなデザイン力が不可欠。
つまり、いくら口で「オフィスにもっと木を‥」と叫んでも、デザイン力がそなわっていないと焼け石に水。 高価な北欧の木製家具が、デザインというソフトな技術力で売れていることを忘れてはならない。

各種カートカン.JPG

これに匹敵するくらいに面白かったのは、凸版印刷が開発した新しい飲料容器のカートカン。
コーヒーとかビールなどはアルミかスチール製の缶に入っているものだという先入観がある。しかし、これを木の繊維に置き換えて行こうと言う試みが10年ぐらい前から続けられていた。
言うならば特殊な紙を開発し、コーヒーやジュースをその中に入れようと言うもの。
日本の外材輸入の半分をしめているのが紙の原料としてのパルプ。 このパルプの一部の国産化を図って行こうとする狙いが込められている。
凸版が開発したカートカンの場合は、間伐材の利用を含めて国産材の比率が30%まできている。 しかも、売上の一部は森林育成事業に寄付されている。 そして、業務用は何回も再利用が出来るし、家庭から出たカートカンは、トイレットペーパーとして再利用される。
文字通り、リサイクルの優等生だが、カートカンそのものがなかなか普及しなかった。
しかし、物産はセブンイレブンに対して発言権を持っている。そして、コンビニでも採用されるようになり、年間1臆7000万本を売れるようになったという。
まだまだ、1家庭では年間3本という需要に過ぎないが、これからはコーヒーやジュースという飲料には限らず、ヒールなどの酒類にも進出してゆける技術的見通しが得られたという。
また、スープやお汁粉など食品関係の開発も予定している。
私は、当日に初めてカートカンのお茶を飲んだが、悪くはない。 皆さんも、是非コンビニでカートカンを探していただきたい。

ドーム.JPG

秋田出身の麓さんは、自分が誕生した時に両親が植えた大きな森林と、大館市の木製の大ドーム 《大館樹海ドーム》 などを紹介した。

間伐・前後.JPG

そして、林野庁沼田長官は、豊富な資料を駆使して説得力のある説明を行った。
中でも上の、間伐前には光が差し込まない暗い森が、間伐後は下草が生えている明るい森に変身している写真が、参加者の心に強い印象を残した。
そして、戦後は日本の山は禿山。 木の使用の制限が叫ばれ、建築学会は今から61年前の1952年に、公庫の木造の標準仕様書が出来た時点で、「木造よさようなら !  RC造・鉄骨造よこんにちは !!」 という大転換を余儀なくされている。
以来、木造は大工さんの勘任せで、いい加減な住宅の提供がなされてきた。
この木質構造に科学の光を当てたのがツーバィフォー工法。 杉山英男先生を中心にスパン表などの重要性が再認識された。 1974年にツーバィフォー工法はオープン工法として日本で採用され、木質構造全体の見直しが始まった。
しかし、円高で国産材は割高ということもあって、日本の山の木は伐採されず、おかげで日本は世界で3番目の木材資源所有国になった。

CO2固定.JPG

そして、木材重量の半分はCO2。
この木材を構造材として、また造作材などの内装材、あるいは家具や調理などの道具、さらにはカートカンとして採用され続けば、CO2がそのまま固定した形で残る。
例えばチップとして燃やしても、元の状態に戻るだけで新規にCO2を増やしているのではない。いわゆる 《カーボン・フリー》 として世界的に容認されている。
日本は、いよいよ本格的に、伐って、使って、植えるという時代を迎えている。
とくに伐って、大都市で使う、ということが最重要。
その使うと言うことで、いくつかの新しい動きが見えた。
これが、今回のフォーラムの最大の成果であった。










posted by uno2013 at 13:43| Comment(0) | 展示会・シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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