2013年08月05日

プーチン時代の今こそ、北方領土問題を解決するチャンス !?


石郷岡 建著「ヴラジーミル・プーチン‥‥現実主義者の対中・対日政策」(東洋書店 1900円+税)

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アメリカ大統領だって賞味期限は長くて8年間。
それなのに、プーチン大統領は2000年にエリツィンから指名を受けて8年間大統領を務め上げ、それからさらに4年間首相の座にあり、2012年に再び大統領の座についた。
しかも任期が6年間に延長され、2期務めた場合は24年間もトップであり続けると言う、空前絶後の長期政権の可能性が‥‥。
これだけ居直られると、好きとか嫌いとかではなく、誰もがプーチン像を知りたくなり、最低2〜3冊は「プーチン伝」を読まされることになる。

日本では、戦後の政治家で、何だかだと言って一番多く著作の対象になった政治家は吉田 茂、田中角栄、それに悪役に過ぎなかった小沢一郎。
3人とも過去の人になってしまった。 これからは安倍信三が中心になろう。 しかし、寿命は長くても6年間。 プーチンの1/4にすぎない。
さすがに1年毎の日替わり首相時代の悪弊に日本人が気付き、安倍政権は 最低数年は持ちそう。
安倍首相は良くても、首相を支える自民党の守旧派勢力‥‥医師会や農協、ゼネコンなどの既得権を持った者が手放そうとせず、イノベーションを拒む勢力が派閥のもとで跋扈するのは、ご免被りたい。

さて、日本で出版されているプーチン伝は、それほど多くはないと考えていた。
ところが長期政権だけあって、調べてみたら40冊近くもある。 中にはA5で520ページにも及ぶ「メドベージェフVSプーチン」 (6,825円) という分厚いものまである。
私が今まで読んだのは、池田元博著「プーチン」(新潮新書) と、NHKスペシャル「揺れる大国 プーチンのロシア」 (NHK出版) と、名越健郎著「独裁者 プーチン」 (文春新書) だけ。
これではとてもプーチンを語る資格がない。
だが、今まで読んだ本の中では、「何故ソ連の計画経済が破綻し、市場経済への移行がうまくゆかなかったのか ? 」 とか、「プーチンの対米・対中政策の中で、どのような対日政策を用意しているのか ? 」 ということが、この著ほど明確に教えてくれたものはなかった。

著者は、早稲田大文学部を中退し、モスクワ大学物理学部天文学科を卒業して毎日新聞社へ入社。ソ連やロシア特派員を2回も経験している。
しかし、著者の最大の強みは、学生時代にモスクワに滞在し、ゴルバチョフからエリツィンへの移行劇を直接体験していること。
したがってとおり一遍の政治談議ではなく、実態を目撃しており、新聞記者という分析力も加わって非常に明快で、説得力を持っている。

1991年に「ソ連は崩壊した」と簡単に言われているが、何がどうして崩壊したのかを正しく言える人は少ない。筆者は3つが連続して崩壊したと強調している。
まず、最初に崩壊したのは経済。《ソ連型の中央集権指令型の計画経済》が機能不全事態に陥った。この機能不全から崩壊まではかなりの時間がかかったが、結局は救済策がなく 崩壊するしかなかった。 計画経済が崩壊したので、次いで《共産党の独裁政治》という政治が崩壊しはじめ、最後にはソ連という《連邦国家》が崩壊した。
このほかに、《社会主義》という思想が崩壊した。 中国には社会主義という概念が残っているかもしれないが、もはや《ソ連型社会主義》はどこを探してもない。 また、これは議論のあるところだが、《帝国》という概念も崩れ去った。

計画経済は、軍事や宇宙開発と言う膨大なムダの経済には強かったが、消費者が求める消費財生産やハイテク技術が求められる生産財の生産には非常に弱かった。
つまり、自動車や電子機器、工作機械、機械設備など世界へ輸出出来る商品と技術がなく、世界へ輸出出来たものは石油・ガスなどの地下資源だけ。
オイルショックで一時的にソ連は救われたが、石油価格が低迷しだしてから経済が停滞し、どうにも動きがとれなくなった。
そして、1985年にゴルバチョフが登場し、「大改革」を始める。 ペレステロイカというのは、「ちょっとした改革」という意味だが、農業生産がうまくゆかず、穀物の輸入増は軍事費とともに国家財政を圧迫して《火の車》にした。
このため、全面的な立て直しの《大きな改革》が必要になり、共産党による経済組織監視が撤廃され、これが引き金になって共産党の組織瓦解が始まった。 そして、クーデターによるゴルバチョフ軟禁事件が起こり、クーデターを排除したエリツィン大統領の時代へ移行していった。

ゴルバチョフとエリツィンは、権力をめぐる対立よりも思想的な対立の方が大きかったと言う。
ゴルバチョフは社会主義制度を維持しながら、市場経済の要素を少しだけ導入してゆこうと考えていた。
これに対してエリツィンは、共産党独裁の社会主義は壊すしかないと考えていた。
そしてエリツィンの時代になった時、ソ連には市場も、市場を動かす法律もルールも何一つなかった。
ソ連という国では、個人的な身の回りの所有物以外はすべて国有。
工場などの生産手段や土地などの生産財はすべて国有。それを、公平に個人や企業の所有にする法律もルールもないまま市場に移行された。
ソ連時代から権力者にコネクションを持っていた一部のエリートが、国有財産の利益、賃金、資産を盗みまくった。エリツィンはその泥棒行為を容認した。

しからば、プーチンはどうであったか。
ゴルバチョフの社会主義的経済思想。 エリツィンの資本主義的な経済思想に対して、プーチンは《社会主義への復帰》はあり得ないが、《市場主義の賛美》もあり得ないと言う、中間的な現実主義の立場を一貫して貫いている‥‥と筆者はいう。
つまり、ゴルバチョフの社会主義的な《公平、平等》でも、エリツィンの市場市議的な《富と繁栄》でもない。 プーチンの理念は、国家主義的と言える《国家と社会の安定の追求》だという。
大きな夢を語るのではなく、これ以上国家を混乱させ、社会秩序を乱し、経済的な混乱を避けたいというのがプーチンの基本的姿勢。

どさくさにまぎれて国有財産を入手した新興財閥は、エリツィンを利用して政治にも口を出し、ロシアの社会を牛耳りはじめた。これを苦々しく思っていたのがプーチン。
2000年の大統領選に勝利したプーチンは、直ぐに新興財閥関係者を呼びだして通告した。
「今後、政治には一切介入するな」 と。
その代わり、「民営化の見直しは行わない」 と約束した。 つまり、おとなしくしている限りは、これまでに入手した利権は取り上げない‥‥との交換条件をつけた。
この通告に従わない者は、容赦なく逮捕し、弾圧した。 市場経済導入時のビジネスマンの法律違反行為は、探せばいくらでもあった。
KGB出身のプーチンにとって、検察・司法ににらみを利かせることは朝飯前‥‥。
こうして、6財閥7人衆のうち、1人が国外追放に、もう1人が刑務所送りとなった。
新興財閥に対して怒りの感情を持っていた国民は大喝采をし、プーチンの支持率は急伸した。
ロシアのレヴァダセンターという調査機関の、「ロシアにとって民主主義と秩序のどちらが重要か ? 」という径年的な調査によると、次第に秩序よりも民主主義という意見は増加傾向にはあるが、2010年の時点でも秩序と答えた人が56%。 そして、民主主義と答えた人が20%強。 残りは分からないという答え。
ソ連邦崩壊前後の混乱が、いかに国民にとってトラウマになっているかが分かる。
そして、2009年にアメリカの金融危機を発端に起こったロシアの中産階級の危機で、モスクワなどで大規模なデモが発生した。
日本の報道機関は、「アラブの春」 に続いて、「ロシアの冬」 の到来を告げるものが多かった。「独裁者 プーチン」 という新書が出版されたのもこの時期。
ところが、2012年の大統領選挙でのプーチンの得票率は、63.6%という高いものだった。
名越健郎という拓大教授の著作を読まされた私は、危うくその偏見に迷わされるところだった‥‥。

さて、著者は幼年時からKGB時代を含めて、プーチンの人となりとその戦略を明確に提示してくれているが、矢張り気になるのはこれからの対中、対日政策。
ともかく、20年前まではアメリカとソ連が世界を2分していた。最盛期はそれぞれ5万発の核兵器を抱えて睨みあっていた。
現在ではロシアが1万発、アメリカが8500発に縮小されている。 しかしフランス300発、中国240発、イギリス225発、インドおよびパキスタンが80〜100発、北朝鮮が12〜23発も持っていると言うから、日本の平和憲法はアジア各国から脅かされている。
2011年のドル換算の国防費のベスト10は、@アメリカ 7128億ドル、A中国 764、Bイギリス 565、C日本 528、Dフランス 426、Eロシア 414、Fドイツ 412、Gインド 384、Hブラジル 347、I韓国
254億ドルとなっている。なんと日本が4位で、ロシアが6位。
一方、兵力数では、@中国 229万人、Aアメリカ 156、Bインド133、C北朝鮮 119、Dロシア 105万人で、100万人を超えているのは以上の5ヶ国だけ。 なかでも北朝鮮が大国ロシアより4万人も上回っているのは脅威。
しかし、核兵器を含めた総合的な軍事力では、@アメリカ、Aロシア、B中国、Cインド、Dイギリスで、日本は台湾と同程度のP位にすぎない。
こうした軍事力から見て、私どもは往々にしてロシアを社会主義国のボスとして高く評価し、中国を低く評価しがち。
しかし、下図を見ると、人口、軍事費、GDPのいずれをとってみてもロシアは中国の属国化してきつつある。この危機をプーチンはどう打開しょうとしているのか ?

人口.JPG

軍事費.JPG

GDP.JPG

ロシアが国際的に売れるものは石油とガスしかない。
ソ連時代に築かれたヨーロッパへ売るパイプライン網は、ウクライナとの対立関係もあって崩壊寸前。
また、ロシアの中にあってシベリア・極東ロシアは衰退の一途を辿っている。その極東に活を入れたいと考えているプーチン。
こうした中にあって、覇権国家を狙う中国とどう関わりあってゆくかというのが、プーチンに課された大きな課題。対等な立場を維持したいが、下手すると従属国家になる懸念もある。
そのために、プーチンが見出した方式は、二国間関係ではなく多国間関係の中で中国とのバランスをとってゆくという方針だと筆者は説く。
この多国間の中にアジア各国はもちろんのこと、日本も含まれている。
日本は領土問題ではいろいろ言ってくる五月蠅い存在だが、直接対決関係にあるわけではない。
東アジアとのエネルギー関係の戦略カードの一つとして、日本の技術力を活用するメリットもある。
筆者は、《焦るロシアと、意外にモテる日本》 との関係を多面的に分析している。 それを紹介すると長くなりすぎるので省く。

日本が果たす大きな可能性に目をつけて、ウィンウィンの関係を築きたいと考えているプーチンと、どううまく日本が接触してゆけるか ?
シェルガスの問題も熟慮して、プーチン時代に北方領土問題に一つの解決策を用意することこそが、日本のためになるように感じられる好著。




posted by uno2013 at 05:57| Comment(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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