2013年07月15日

説得力に欠ける 科学と歴史を無視したセルローズ断熱の家 (下)


さて、最初に3つの疑問を抱いて体験館を訪れたと書いた。
1つは、55キロが一般的な外壁に73キロのセルローズファイバーを詰めれば、面外に断熱材が膨らんで石膏ボードがまともに張れないのではないかという疑問。

壁.JPG

この疑問には、上の写真がすぐに答えを出してくれた。
現場を見るまでは、4寸柱の表面一帯に不織布を張ってセルローズファイバーを吹き込むのだと考えていた。そうではなかった。 
5寸の柱を使って、その柱の表面ではなく、側面に不織布ではなくズボン生地のような丈夫な繊維を写真のように丈夫なホッチキスできちんと止めている。 これだと、パンパンに張った繊維は73キロのセルローズファイバーを詰めても、面外へはみ出す懸念は一切ない。
外壁の断熱厚を120ミリに抑えているのは、断熱材の内側に配線を行い、スィッチボックス、コンセントボックスを取り付けるためだった。
これは、カネはかかるが 合理的な考え方。
今までツーバィフォー造で、アパートの界床や、木造マンションの界床の吸音や衝撃音に悩まされてきた。この断熱材の入れ方は、衝撃音の吸収には役立たないが、上下階の吸音には大きく役立つ。 一つのヒントを与えてくれたものとして、参考になる。
やはり消音には、25キロ程度で100ミリのロックウールを根太間に挿入する程度では、大きな期待を寄せる方が間違っている。消音は、重量に比例するという原則は無視できない。
ただし、一般の家庭では、ピアノ室などの防音工事を除いては、内壁や床でここまでの吸音を求められるのはごくマレ。 2階の床下地の上に張る消音ボードで、ほとんどの場合は間に合ってしまう。
それを、一般住宅の全ての床をセルローズファイバーで充填すべきだとの主張はおかしい。
全館をワンルーム方式でよいという考えも最近は目立ってきている。
採用すべきは、どこまでも界床。

天井.JPG

しかし、体験館では小屋裏3階の天井には石膏ボードも張らずにむきだしのまま。 写真のようにハリボテにセルローズを施工していた。 「金網を張れば防火上問題ない」 と筆者はうそぶいていたが、本当に火災実験をやったのだろうか。 セルローズは燃えなくても生地が焼け、タルキ材が燃えて、簡単に《一巻の終わり》になる可能性が大のはず。この点でも科学的な裏付けが足りず、信用性が欠ける。

2つ目の疑問は、製材品の斜め張り。
日本TIP建築協会なるものの存在は既に述べた。関心のある向きはネットで探して頂きたい。 
耐震性や気密性、換気の重要性とエンジニアウッドに対して高い理解と関心を持つ北海道や東北の工務店は一社もこの協会には参加していない。 関東以西の誤った理論に翻弄され易い60社弱の工務店が参加しているだけ。
最初に書いたように、この協会は製材品の斜め張りで、高い壁倍率の大臣認定を取ってはいない。 確認申請はスジカイと1.5倍の公庫の斜め張りの製材品基準で取得しているらしい。 そして協会としては壁倍率の保証が出来ないので、あとで《協会認定プレート》を完成各戸に送り、「実験の結果では公庫の○倍の性能があります」 と会員社から消費者へ弁解説明をさせているよう‥‥。
上西元教授は、正式に壁倍率の大臣認定をとり、広く工務店や消費者が使えるようにオープン化してゆこうという考えがなく、小遣い稼ぎのために工務店を誑かせている、私の最も嫌いなタイプの学者らしい。
そして、製材品の斜め張りだけでは耐震性能が低いため、◇形の亜鉛鉄板や△形の構造用合板を端部に入れている。つまり、製材品の斜め張りよりも構造用合板の方が はるかに耐震性が高いことを熟知している。

実際に阪神淡路大震災でも、中越地震でも、木軸工法で倒壊していなかったのは外壁に面材を張ったスーパーウォール類の家だけ。 住林のスジカイの住宅は、軒なみ倒壊していた。
そして、震度7で2500ガルという直下型の烈震を受けた川口町の渡部建設の現場を隈なく見て歩いたら、外周は合板で救われていたが、内部はスジカイに頼っていたので大荒れ。
豪雪地帯で5寸角の柱。 その1/2から1/3のスジカイと言うと、厚は75〜50ミリ。これは簡単には折れない。圧縮を受けると弓のように曲がって、内部のボードを一つ残らず弾き飛ばしていた。
外壁のスジカイだと、やわい製材品の斜め張りや外装仕上げ材を弾き飛ばしていたことだろう。

日本で無垢材に拘る多くの人々には、天然素材の無垢材の中にも化学物質があることを知ろうとしない。 そして、10数年前のF☆☆☆☆の合板や集成材などによって、有害な接着剤はほぼ追放されたという事実も知ろうとしていない。
コンクリートのPC版に変わって、木質構造のCLTやLVLなどによる中高層建築が、世界中でどしどし建築され出してきている意義を正確に理解していない。
今や世界は、《木質構造材》 の時代。 つまりエンジニアウッドの時代。
孤軍奮闘で、日本に木質構造を蘇らせた故杉山英男先生の 自称門下生の一人として、私は筆者の間違った 《無垢材礼賛論》 には徹底的に抗して行く義務があると考えている。
TIP建築などを有難がり、朝夕拝んでいるような人には、高気密高断熱住宅を語る一切の資格がないことを自覚して頂きたい。

さて、3つ目の外壁0.27WというU値と、2.25Wと悪すぎるQ値 (熱損失係数) 。
これで、無暖房・無冷房を叫ぶのは全くの暴論。 正気の沙汰ではない。
私の知っている多くの消費者は、せせら笑っている。
もう少し科学的なデーターを揃えて、出直して頂きたい。

しかし、私は筆者が提起している問題のすべておかしいとか、間違っているとは思わない。
評価すべき点は3点あると考えている。
1つは、《断熱材はその熱伝導率だけで評価してはならない》 という点。
私の友人のM氏は、それこそ断熱材というか音熱のプロ。
M氏は、20年以上も前から次のように強調している。
「例えば10キロのグラスウール。その熱伝導率は0.05Wとされているが、スカスカのために壁の中で対流が起こり、暖かい空気が壁の上部に溜まり、下部の性能が性能値以下になる可能性が高い。そして、最も悪いのは13〜18キロという天井の吹込みグラスウール。 熱伝導率が0.052Wというが、小屋裏に空気が流れておればドンドン対流で熱が奪われ、いくら300ミリ吹込んだとしてもせいぜい2/3程度の効果しかない。 アメリカでは小屋裏吹込み工法では、対流を抑える工夫の必要性が以前から叫ばれている。 だが、日本では諸先生方がこの問題を真剣に取り上げていない。 それと、単に熱伝導率だけではなく、蓄熱性能の評価と、吸音・遮音性能という面からも断熱材を評価してゆかないと、石油系統の断熱材が不当に過大評価されることになりかねない」 と。
私は、個人的には防火性能面からも65キロ以上のロックウールが好き。とくにラメラは‥‥。 だが、ウッドファイバーやセルローズファイバーも、もっと見直すべきだと考えている。

評価できる2つは、《気密・断熱工事を従来のように大工にやらせるのではなく、専門工事業者の育成を考えている》 という風に感じられたこと。
とは言っても、筆者は気密性能に関しては完全なる方向音痴。
湿気がスカスカ抜ければ、空気もスカスカ抜けると考えているらしい。 このため、後で紹介するが浴室の換気扇を塞ぎ、わざわざサッシを空けて対応していたのは、お笑い番組。
そういった問題点は多々あるが、生地を柱の側面に張って配線空間を確保し、セルローズファイバーを73キロも吹込むという発想に基づく断熱工事は、普通の大工さんには出来ず、矢張り専門の工事業者の育成を待つしかない。
大手住宅メーカーが、高い気密性能を求めるR-2000住宅やデシカを取り扱えないのは、断熱・気密工事を従来の大工さんに依存し、専門工事業者を育成してこなかったから‥‥。
断熱・気密工事が、専門業種として社会的に最初に認知されてきたのは北海道のBIBを中心とするグラスウールとロックウールの吹込み業者。 専門の機械を持っていないと工事が出来ないので、大工さんはタッチ出来ず、専門業者が独立してきた。
これに次いで目立ってきているのは、内地のウレタンやイソシアヌレートの現場発泡業者。
やはり、専門の機械とドラム缶入りの原料を積んだトラックがないと、仕事にならない。この専門業者の増加が目立ってきている。 この発泡プラスチック系に次いで、増えてきつつあるのがセルローズファイバーの吹込みであり、最近では木の繊維のウッドファイバーも加わってきた。
ただし、内地では圧倒的に有利なのが発泡プラ系だと説く人がいる。 なぜなら、発泡プラ系は原料が嵩張らないから2トン車で都心の現場へ入ることが出来る。 しかし、原料が嵩むセルローズやウッドファイバーの場合は4トントラックが大前提となり、都心の現場へ簡単に入れない。
特に木の繊維の場合は、ボード用の繊維を応用しているだけで、吹込み専用の繊維で90キロに圧縮できるものでないと、輸送コストが割高になるという。
セルローズファイバーも同じ問題を抱えており、内地では発泡プラ系の天下が続くかも知れない。

アルミペア.JPG

評価出来る3つは、《冬期でもアルミのペアサッシで、サッシに結露が生じなかったと言うセルローズファイバーの吸湿性能の高さ》。
正直言って、この言葉には今でも半信半疑。
もしそうだとしたら、室内の相対湿度は20%を切っており、文字通り 「子猫の毛に触っただけでも静電気が起こる」 状態ではなかったかと想像する。
いずれにしても、室内外と壁内の温湿度の記録が皆無なので、一方的に筆者の言葉を盲信するか、冬期に再度訪問して自分で温湿度を確かめ、サッシの状態を写真にとらない限り、絶対に社会的な評価と信頼を得ることは不可能。 
正直なところ、再度訪問したいという気が起こらない体験館ではあった‥‥。

と同時に、セルローズファイバーは新聞印刷のインクの毒を解除するためにホウ酸を多用している。 
ホウ酸は難燃木材にも使われているし、ゴキブリ退治のためにホウ酸ダンゴを奨めたこともある。 一定以下のホウ酸量だと人体にそれほど悪影響がないはず。 しかし外壁に73キロも押し込み、床や内壁にまでセルローズで埋め、40坪の家で2.5トンものセルローズを多用した体験館の場合、本当にホウ酸の被害は皆無だと言い切れるのだろうか‥‥。
また、天然温泉のホウ酸の排出には厳しい基準が課せられつつあるというのに、ホウ酸漬けの住宅の増加で環境が大きく汚染される危機が増大している。 ホウ酸漬けの紙や木は燃えてなくならない。 環境汚染物質として半永久的に残ること、警告を発している学者も少なくはない。
ホウ酸が本当に無害で、環境に負荷がものなら、ウッドファイバーと言わず、あらゆる断熱材にホウ酸が使われ、シロアリ対策および難燃処理剤として使われるはず。 
その使用を自制している各社の姿勢を無視して、一方的にセルローズファイバーの《ホウ酸賛歌》を声高に叫ぶ筆者に、違和感を覚えるのは私だけではないはず。
そういった点も、科学的に解明する義務が筆者にはある。

安いキッチン.JPG
薄い板のキッチン.JPG

ただ一点だけ、筆者の試みで私が感動したものがある。
それは、上の写真のように、安っぽいシステムキッチンに薄い無垢の板を筆者自身が工夫して張り、木目調に変えていた。 これ自体は《マガイモノ》の誕生であり、ちっとも感心出来ないことだが、同じことをユニットバスの壁と天井でも行ったらしい。

浴室.JPG

その結果、NHKの《試してガッテン》でも取り上げられていた、薄い結露膜が天井面に現れ、これがカビの胞子をつくり、床に落ちてカビになるという現象がなくなった。 木の天井材が、水分を吸収し、薄い結露の発生を抑制してくれたのである。
つまり、天井からカビの胞子が落ちて、ユニットバスの床にカビが生えるということがなくなったのである。
ということは、塩素系の洗剤でゴシゴシ浴室を掃除する必要が無くなった。
ダイキンのデシカが求めているデシカ素子を傷つけない絶好の解決方法を、このユニットバスが示してくれている。
これは、画期的な出来事。

しかし、天井面の胞子を原因とするカビが生えないからと言っても、24時間連続排気をしないとやはりカビは生える。 木は一時的に表面の結露は防いでくれるが、裏にあるのはプラ系のユニットバス。 湿度を透過し、外壁から外へ吐き出すというわけにはゆかない。 このため、サッシを開放しつづけねばならないという喜劇が‥‥。
だが、筆者のやみくもな実験は、一つの光明をもたらしてきているのは事実。


こうした部分的な面白さはあるが、この体験館は換気と計画的除加湿コントロールという点で致命的な欠陥を持っている。したがって、私にはマイナス評価しか出来ない。
夏期の過剰な過湿度と、冬期の異常な過乾燥を考えると、ゾッとする。
いずれにしても、きちんとデーターをとり、科学的な裏付けを行わないと、まともな消費者と、まともなビルダーと、まともな研究者は相手にしてくれない。
「データーなくして発言権はない」。
毛沢東語録のような結語しか述べられないが、いたずらに力んで敵をつくるのではなく、地道な努力で改善を続け、味方を増やしていってほしい。
その場合に、相談できる研究者として、山下恭弘先生を紹介したい。 
ご案内のように先生は信大を定年退職なさって、一般社団法人・住建物音熱環境推進協を主宰されていて、安価で多面的にサポートしていただける最適任者と考える。
最近、疎遠が続いているが、せめて先生を味方に出来ないようでは、筆者は単なる 《ほら吹き童子・断熱屋》 で終わってしまうであろう。

posted by uno2013 at 07:35| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
私は素人なのでいちいち正確に反論する能力はありませんが、山本さんの著作をもう少し丁寧にお読みになった方が良いような印象を受けました。
何か根本的に話がかみ合ってない中で批判されている部分もあるように思います。

結局のところ
「高気密はそもそも必要ないんじゃないか」
というのが山本さんの基本的な立場ですから、話が合わないのも仕方ないことですね。

もうとっくに絶版だと思いますが、2003年の「この本を読んでから建てよう」と2006年の「無暖房・無冷房の家に住む」などもお読みになっていただく方が、より山本さんの主張が伝わるような気がします。
ご存知のとおり山本氏の発言・表現はかなり独特で風変りなところがあるので、私もこれらの本を何度も読みなおしてようやく、氏の言わんとするところが大づかみに理解できたような気がしております。


たとえば、風呂場に換気扇が要らないのは本当なんですよ。
うちも夏は風呂の窓を開けてますが、換気のためではなく単に暑いからです。
(うちは北海道なのでクーラーは無し。さすがに真夏は北海道といえど暑いです。冬はもちろん暖房あります。無暖房なんてさすがに良い過ぎですね。)
風呂場に換気扇はあるけど、ほとんど使う必要はありません。
ただし特に冬場は換気扇内部まで湿気でびしょびしょになっているはずなので、それを乾かすために入浴後に5分ほど動かします。
換気扇のための換気です(笑)
何のために換気扇付けたんだかわからない始末ですが、換気扇が濡れないようふさいでしまった山本さんの気持ちがよくわかります。
なんで排気が不要かというと、風呂のドアを開けてれば勝手に乾くからです。
もちろんユニットバスの床面だけはいつも入浴後にさっと拭き上げるようにはしています。床がびしょびしょだとさすがにすぐには乾きませんからカビも生えると思います。

とにかく風呂のドアを開けっぱなしにできる家であることがこの話の勘所かと思います。
わが家は冬はちょっと乾燥しすぎで湿度30%くらいしかなくて加湿器が欠かせないのですが、そんなわけで室内干しでも洗濯物はよく乾くような状態です。
だから浴室も換気扇で排気し続けなくても、家全体が風呂場の湿気を吸い取って放出してしまうということのようです。
体験館もそういう話です、というか、うちが体験館の真似をしている訳ですけど。
Posted by 稲葉 幹人 at 2016年09月27日 05:30
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