2013年07月10日

説得力に欠ける 科学と歴史を無視したセルローズ断熱の家 (中)


室内側の石膏ボードの下にベバーバリアを入れ、透湿・防水材のタイベック類を構造用合板の外側に張り、縦胴縁で18ミリ以上の通気層を外装仕上げ材の裏で取れば、冬期型の壁内結露はほぼ完全に回避することが可能になった。 
そして、それを忠実に守ったR-2000住宅などの高性能住宅の寿命が格段に向上した。 
そこまでを、前回紹介した。
この仕様決定に、坂本雄三、土屋喬、吉野博、小峯浩己、須貝高の諸先生をはじめ国交省、金融公庫、建研をはじめ多くの機関の研究者の協力があったことを強調しておきたい。 

しかし、これが決定した時点の1990年 (平成2年) 当時から、夏型の「逆転結露」問題が早くも俎上に載っていた。 
つまり、ベバーバリアの断熱材側に、夏期に結露が生じるかも知れないと言う懸念。
それを一番痛感していたのは、学者先生よりもR-2000住宅に真剣に取り組もうとしていた民間の断熱材やビルダー側だった。
なぜなら、R-2000住宅の事前の視察研修会で、初夏のカナダ・トロントの現場を訪れた時に、建築途中の現場のベバーバリアに、薄い結露が発生しているのを目撃したから‥‥。 
たしかにその結露は一時的なものであり、カナダの寒冷地では夏期に何一つ問題を起こしていないことを、カナダの技術者が嫌がるほどの質問を浴びせて、確認した。 
そして、北海道などの寒冷地では、冬期用の通気層が夏期にも効果を発揮して、逆転結露の心配がないことが諸先生の研究結果から分かった。 
だが、東京以西の温暖地では、大きな《研究課題》として残された。

一番慌てたのは私だったかも知れない。 
なにしろ、首都圏おけるR-2000住宅第一号として、故玉置宏邸の着工が決定していたから‥‥。
当時は、ザバーンがまだ開発されていなかった。 
定常計算をすると、夏期はベバーバリアを入れない外壁には全く結露が生じない。 
しかし、ベバーバリアを入れると、どうしても定常計算上わずかだが結露の可能性が出てくる。
何度か計算させているうちに、ふと思いついた。
当時石膏ボードの裏に10ミリの硬質ウレタンを張り合わせたボードが市販されていた。 それを使ったらどうなるかと定常計算させてみたら夏期の結露が防げることが判明。 
ただし、R-2000住宅が求めるC値0.9cu/uの気密性能が担保出来るか‥‥という施工面の課題が残った。 コンセントおよびスィッチボックス周りと、下枠部分の納まりに特別の工夫が求められた。
そこで、町田で建築中だったモデルハウスに、急遽 石膏+ウレタンとのジョイントボードを採用することを決め、気密テストを行った。 結果はC値が0.7cu/u。 これなら行けるとの確信が得られ、1991年に制定された2×4協会の 「R-2000住宅の設計・施工マニュアル」 にその詳細断面を書き込んだ。 東京以西の誰でもが採用出来るようにするために‥‥。

しかし、結果的には玉置邸では石膏+ウレタンのボードは採用しなかった。
というのは、築6年のモデルハウスの解体と、築9年の引渡物件でボードを剥がして外壁の実態を調査するチャンスが偶然重なって到来したから。 
当時はスタッドに純白のドライのスプルースを採用していた。 その純白のスプルースにも、またピンクのグラスウールのいずれにも、東西南北の外壁のただの1ヶ所にも変色が認められなかった。 つまり、年間を通じて結露の痕跡が皆無。
定常計算では結露の可能性が出てくるが、実際には東京エリアでも外部に通気層があると夏期の逆転結露は心配しなくてもよいらしい。 
もちろん、玉置ご夫妻には経緯を説明し、納得頂いた上で一般的な仕様で施工した。 万が一逆転結露が発生した場合は、「全面的に石膏+ウレタンボードに変更します」 との約束の上で‥‥。

なお、その後においても日本で夏期型結露に関するいろんな研究が発表されている。
「建築技術」誌の2002年8月号の別冊号、「結露の完全克服マニュアル」 では、東洋大・土屋喬雄氏の「内部結露の防露の考え方」と北九州私立大 (現京都府大) ・尾崎明仁氏の「夏季の逆転結露はあるのか」のシミュレーションはなかなか読ませた。
また、同年暮に発刊された西方里美氏の著書「外断熱が危ない」 の中で、初めてデュポン社の「ザバーン」 が紹介されており、「調湿シート・ザバーンは透湿抵抗が20〜30で、外部合板よりやや高い程度であるため、夏型結露が防げる」 と、夏型結露防止の決め手の登場を歓迎していた。
そして、2003年6月につくば市で行われた第6回日加住宅R&Dワークショップで発表された「建物外皮における結露防止のためのガイドライン」 は、それまでの議論を総括するものとして 一読しておくだけの価値がある。ただ、ザバーンに関連する研究発表は無かった。
さらに翌2004年の「建築技術」1月号に発表された坂本雄三氏の夏型内部結露に対する見解が、それまでの議論に一応の終止符を打ったものとして注目された。
「本州以南で夏型の内部結露が確認されている。 だがこれは、晴天日の昼間にしか発生しない現象であることも確認されている。 そのせいもあって、この型の結露は水量としてはごく微量で、木材を腐朽させたという報告はない。したがって、現時点では《実害がない》ということで許容されている。しかし、実害という言葉は非常にあいまいで、カビは不潔であっても実害がないというのが共通認識。はたして、これで良いかどうかはわからない‥‥」と疑問を投げかけていた。

その後、地球の温暖化が激しく続いているなかで、建築学会が夏型結露に関してどのような研究を行っているかについては、残念ながら不勉強の私は知らない。
そして、2008年にドイツへパッシブハウスの調査に行く前に、初めて《インテロ》という全く新しいベバーバリア (透湿層) が開発されていることを知った。
これは、冬期は湿度が壁内に入るのをシャットアウトするが、夏期は湿度を透過させるという、今までのベバーバリアに対する固定概念を根本から覆す新素材の登場。
相対湿度の高低によって湿度の透過率が変わるという画期的なシート。 
相対湿度が低い冬期はほとんど湿度を透過させないが、相対湿度が高い夏にはオープンと言って良いほど湿度を透過させる透湿材。
したがって夏型結露は、逆立ちしても起こらない。 
ただし、広く流通しているドイツでは安価だが、日本ではなかなか高くて安易には使えないことが難点と私は嘆いていた。
ところが、2009年7月にhiroさんと一緒に森みわさんが鎌倉に完成させたパッシブハウスの蓮見邸を見に行った時、壁と天井一面にインテロが使われているのを見て、hiroさんが大きな声を出した。
「これだと、0.5回の換気回数以上にインテロ面から湿度が侵入してくる ! 」と。
そこで、日本代理店のバウマン氏を通じてインテロ社の工学博士のMoll社長にその旨の質問状を出してもらった。そしたらドイツの試験センターに依頼した丁寧な返答があった。
その解答は余りにも専門的すぎるので、分かり易く要点だけを記すと次のようになる。
「外装下地材にOSB程度の透湿抵抗の大きな資材を使わないと、高温多湿な日本の夏では 室内が湿度過多になる可能性が大」 というもの。

今さら 私の科学音痴ぶりを披歴してもはじまらないが、OSBは合板に比べて湿度を透しにくい資材。同じ厚みだと透湿抵抗値は合板の2倍くらい。しかもOSBは厚みが自由に変えられ、組成によっては合板の2倍どころか3倍から10倍近い透湿抵抗を持っているものが存在する。
ということは、外壁下地や天井下地に合板ではなくOSBを採用しない限り、インテロを日本で採用すると夏は湿度過多になる可能性が高い。
逆説的に言えば、「外壁下地材に合板ではなくOSBを用いれば、冬期に壁内に侵入した湿気はOSBを透過して通気層へたどりつくことが果たして出来るか」 との問題提起でもある。
そして、これと同じ湿度過多現象が、タイベックを内側に採用している住宅にも 激しく起こっているはず。
冬期の異常乾燥と夏期の湿度過多は、いくら2トンのセルローズファイバーを用いていたとしても、解決できるような安易な問題ではないはず。

第一線を退いた私には、諸先生方や研究機関に問題を提起して、実験やシミュレーションを行ってもらう《場》を提供することが出来なくなった。
この《場の提供》は、メーカー、地場ビルダー、設計事務所に課せられた義務だと私は考えている。
それは、常に新しいテーマと同時にそれを試す場を大学や研究機関へ提供することによって、研究を促進させ、国民の共有財産を増加させて行くことになるから‥‥。
これは、民間企業が果たさねばならない義務。

私が 最初に《高気密住宅》に関心を持ったのは、「花粉症から身を守る家‥‥つまり、花粉の入ってこない家づくり」であった。
国際基督大学付属高校の教授で、物理教育実践サークル・ガリレオ工房を主宰されていた滝川先生は極端な花粉アレルギー症。その先生に頼まれて花粉のない家造りに挑戦したのが30年前。
最初は、スウェーデンから輸入されている花粉フィルターは驚くほど高価で 使用に耐えない代物だということが判明し、まずフィルター探しから始まった。
そして、開口部をはじめとした躯体そのものの気密性能を高めない限り、花粉の侵入が防げないということが分かってきた。そして隙間相当面積が1.5〜2.0cu/u程度の家にたどり着いた。
そして、その花粉対策の家の花粉が如何に少ないかを実証するため、在来木軸の家、普通のツーバィフォーの家、花粉対策用高気密の家の3軒を用意して、東邦大・佐橋研にお願いして花粉の実測調査による比較テストをやってもらった。
ただしこの時、1時間毎に測定のため学生さんが3軒の家へ入る折に、外で髪や服についていた花粉を振り払うのを忘れた。 このため、施主の滝川先生の測定では花粉がゼロだったのに、学生さんの記録ではわずかだが花粉がある報告になり、この貴重な資料は学会発表や論文には使えず、幻の記録にとどまった。

続いて行った調査は、大規模なものだった。 
高温多湿の首都圏で 最初にR-2000住宅を計画した時、各大学の先生をはじめ、空調メーカーや研究機関の全技術者から、「東京の夏に、R-2000住宅という超高気密・高断熱住宅のメリットが立証されることは、絶対にあり得ない」 と猛反対された。 つまり、東京の夏には、どう贔屓目に見ても高断熱高気密のメリットは考えられないという先入観が蔓延していた。
そこで、三菱総研に動いていただき、通産省から研究費をつけてもらい、東京電力の高架線の空き地の提供を受けて27坪の一般的な在来木軸の家、次世代省エネ基準のQ値2.7Wのツーバィフォーの家、Q値1.4WのR-2000住宅の家の3棟を、ビルダーの負担で建てた。 
そして、一年間に亘って三菱総研に比較のデーターをとってもらう一方、他の諸先生方の研究の場としても活用いただいた。
この成果が、1996年カナダ・オタワで開催された「第3回・日加住宅R&Dワークショップ」 で、三菱総研の吉田部長から 「東京におけるR-2000住宅の省エネ性能の検証」 と題して発表された。
以来、あれほど猛反対していた学会や技術者から、東京におけるR-2000住宅の夏に対する一切の批判はピタリと影を潜めてしまった。
このほかに、東洋大・土屋研には、7種類に及ぶさまざまな形状の壁断熱の省エネ測定をお願いしたし、千葉工大・小峯研と北里大・石川研にお願いしてホルムアルデヒドの実証研究もお願いした。
こうした民間からの自発的な研究依頼があってこそ、大学などの研究機関は今日的なテーマで研究を開始することが出来る。
もし、ザバーンやインテロという新素材について各大学や各種研究機関で実証実験が行われていないとするならば、その研究を委託する義務を 企業側が怠っていることになる‥‥。 
せっかくの《場の提供》を怠り、研究機関を活用することなく、遠吠えで一方的に研究者を貶しているなどという行為は、企業人として最も恥ずべき行為だと私は思う。

高気密爆破.JPG

さて、体験館での体験報告を行う前に、もう一つだけ指摘しておきたいことがある。
それは山本氏から、氏が記述した「《高気密》を爆破する」 という小冊子を手渡されたから‥‥。
私の名刺が、「高気密健康住宅研究所」 となっていたことが、余程気分を害させたらしい。
この小冊子は、その内容について紹介しょうという考えがさらさら起こらないもの。
ただ、山本氏は化学製品のポリエチレンフィルムのタイベックを2重に囲んだ体験館を、「高気密住宅ではない」 と信じているらしい。 この初歩的な間違いだけは指摘しておかねばならない。

北海道に高級住宅の提供社として名が通っており、年間数十棟こなしている「ケントハウス」がある。
残念ながら私は実物を見たことがない。
仲間の話では、山本氏よりも早く、石膏ボード下のベバーバリアの代用品としてタイベックを使い、合板の外側へも防水シートとして2重にタイベックを施工した住宅が売り出している。
このケントハウスも年間を通じての室内外、壁内の温湿度の推移グラフを取っていない。
ただ体験館と違う点は、断熱材にセロローズファイバーではなくロックウールを採用していることと、北海道では必ずQ値とC値の数値提供を消費者から求められるので、気密測定を行っていること。
ケントハウスのQ値は1.3W程度で北海道としては最低クラスの数値でしかない。
これに対してC値は1.0cu/uを軽く突破していると仲間は話してくれた。

たしかにタイベックは、「透湿性と防水性」 しか謳っていない。 気密性能は謳ってない。
もし、気密性能を謳うとしたら、施工精度を高め、ジョイント部分は単なる重ね施工ではなくテーピング処理を施さねばならない。それをやったのでは幅広く売れないということが分かっていたから、あえて気密性能を謳わなかった‥‥というのが本当らしい。
しかし、そんなタイベックでも重ね代をとって2重に入れると、C値が1.0cu/uを上回ることをケントハウスが証明してくれている。
そうだとしたら、体験館もよほどいいかげんな工事でないかぎり、R-2000住宅並みの気密性を持った立派な気密住宅であるはず。
山本氏が、「断熱屋」 と自称する以上は、断熱性能だけではなく最低の義務として気密性能にも明るい 「気密屋」 であらねばならない。そうでないと、世界ではプロとして通用しない。 気密のことを知らない断熱屋などを相手にするもの好きは世にいない。
 
今からでも遅くはない。 体験館の気密測定を行って、その数値を公表して頂きたい。
そうすれば、「高気密を爆破する」 と宣言した以上、いの一番に体験館を爆破しなければならなくなるはずだと考えるのだが、如何‥‥。



posted by uno2013 at 05:26| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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