2013年07月05日

説得力に欠ける 科学と歴史を無視したセルローズ断熱の家 (上)


山本順三著 「無暖房・無冷房・無結露‥‥究極断熱の家をつくる」 (さくら舎 1500円+税)

無暖房.JPG

消費者の方から、「昨年の8月に上記の著書が出版されている。120ミリのセルローズ壁断熱で、本当に無暖房・無冷房の住宅が可能なのでしょうか? 眉ツバのような感じがしてなりません。 埼玉・朝霞に《体験館》が建っているようなので、ぜひ体験して感想を聞かせていたただきたい」 とのメールをいただいた。
早速、本を買って来て読んでみた。
その結果、大まかに次のことが分かった。

●住宅金融公庫の木軸の標準仕様書などを無視して、石膏ボードの下にベバーバリアを入れず、デュポン社が室内側用に開発したシート、《ザバーンBF》も使わず、室外側用に開発された《タイベック》を室内側にも使っている住宅。 つまり、メーカーの開発意図を無視し、やたらに通気性だけが良い住宅をつくっている。

●セルローズファイバーは、その中に含まれている空気層の存在により断熱性能が担保されている。このため、標準的なkgは25kg、45kg、55kgの3本立て。グラスウールが10kg、16kg、24kg、32kgと4本立てであるように‥‥。したがって、「断熱面で最も効果的な重量は60〜65kg/uではなかろうか」 という学説を読んだことがある。 
その学説を無視して、著者は何と73kg/uを押しこみ、セルローズファイバーの最大の欠点とされている「壁断熱で20%にも及ぶ沈下例がある‥‥」 と言われている沈下懸念は、完全に払拭している。

●しかも外壁だけではなく、1階と2階の界床にもセルローズファイバーを押しこみ、内壁にも可能な限りセルローズファイバーをやたらに押し込んでいる例が多いよう。 このため、遮音性能は格段に良くなり、またセルローズファイバーを通常の2倍近くも吹き込んでいるので、大変に吸湿性の高い住宅が出来上がっている。

●内外装の下地、仕上げにも通気性のある建材を使用し、通気性と遮音性を徹底的に追求した住宅。
ただし、この住宅を正しく判定するには、最低 室内外と壁内の温湿度の推移が分かる 2年間に亘る継続的な実測データーが欲しい。ところが残念なことに、どの研究機関にも依頼しておらず、データーらしいデーターが提示されていない。
そして、著書に示されている唯一のデーターは、昨年2月8日から19日まで12日間の朝6時の室内外温度のみ。しかもこの室温の数値が情けないくらいに低い。
室温が15℃以上の日はたった5日間しかなく、13℃台の日が4日間も‥‥。
筆者は、「暖房を停めてもその程度しか室温が低下しない」 と蓄熱性の良さを言いたかったようだが、この程度の住宅だと北海道をはじめ全国に腐るほどあって 特別視する価値なし。
そして、この程度で無暖房・無冷房と言うのは、明らかに羊頭狗肉。

そして、この本を読んでいて、不可解な点が何点か出てきた。
1つは、55kgが標準なのに、73kgもセルローズファイバーを押しこんだ場合、断熱材が膨らんで石膏ボードが張れないのではないか。

TIP.JPG

2つは著者の推薦する住宅は、上の写真のように外壁に製材品を交互に斜め張りしたもので、耐震性が非常に高いと著者は豪語している。
この構法は東京工芸大学の上西名誉教授が考案したもので、TIP構法という名がついており、「日本TIP建築協会」 なるものが存在している。そのホームページを探ってみたが、壁倍率に関する記述は一つもない。つまり、正式に国の大臣認定をとっていない《モグリ構法》らしい。
製材品の斜め張りでは、公庫の標準仕様書では壁倍率は1.5倍という小さな数字に過ぎない。 例え交互に張ったとしても、最大限見て壁倍率は3倍にすぎないはず。
それなのに著書は、「このTIP構法は東京工芸大での実験で通常 (金融公庫仕様) の4.38倍との結果が出ている。 金物を目一杯使った建物でも3倍前後 (壁倍率のことだと思う) であるから、まさに飛び抜けた性能である」 と書いている。
それなのに、壁倍率の認定書の数値の記述が一つもないという不思議さ。 
こんな記述では、いくら著者を信用せよと言われても出来るわけがない。木造に取り組む以上は、木質構造をきちんと勉強してほしい。

3つは、セルローズファイバーの熱伝導率と、著者が建てている住宅の外壁のU値 (熱貫流率)。
公庫の平成11年度版の熱伝導率を見ても、ハウス・オブ・ザ・イャーの熱伝道率表を見ても、吹込用セルローズファイバーの熱伝導率は、25kg、45kg、55kgいずれもが0.04Wに過ぎない。
いろいろ資料を当たっていたら、下記の中に65kg相当で0.039Wのウッドファイバーの存在を発見。おそらく、セルローズファイバーの65kg相当も、これに準ずるのではなかろうか。
http://wf.talo.co.jp/archives/306
それなのに、著書の93ページにはセルローズファイバーの熱伝導率は0.034Wとなっている。この数値の根拠がどこから出ているかが明記されていない。
そして、グラスウールは16kgで0.045Wとなっている。 これは、意識的にグラスウールを悪く見せるために細工されたものと推定する。 私の知っている北海道をはじめとした先進的なビルダーやメーカーは、グラスウールの場合は高性能グラスウールを採用している。 これだと、16kgで0.038W、24kgで0.036Wであり、性能値では遥かにセルローズファイバーを上回っている。

そして、著者は94ページで、それぞれの部位別のU値 (熱貫流率) の目標値を下記に置いていると明記している。
  天井 0.17W、  壁 0.27W、  1階床 0.29W、  開口部 2.9W。
この数値が、まことにもって不可解。
天井面の0.17Wは、誰にでも達成できる。 問題は外壁の0.27WというU値。
外壁の熱貫流率は、断熱材だけで決まるのではない。23%近くを占める熱橋となる木部や、内外装の材料や厚み、外表・内表の熱抵抗などを総合してはじめて得られる。
私の今までの経験だと、206のスタッド (14センチ厚) の壁一杯に、熱伝導率0.036Wの断熱材を充填して、初めて0.27WのU値が得られる。
著者が著書の中で示している外壁断面図だと、120ミリの標準的なセルローズファイバーの場合は、どう計算してもU値は0.034Wにしかならない。 著者が力説する0.027Wを26%も下回ってしまう。

そして、著者の言う部位別のU値で40坪の平均的な住宅の Q値 (熱損失係数) を計算してみると、なんと2.25Wとなってしまった。
次世代省エネ基準が求めている2.7Wのユルフンはクリアーするけれども、トップランナーの1.9Wにも遠く及ばない。ましてR-2000住宅の1.2〜1.4Wや、パッシブハウスの0.8WというQ値とはあまりにもかけ離れ過ぎている。
これで、無暖房・無冷房が達成出来るのであれば、世界中の研究者や技術者は 何一つ苦労する必要がない。セルローズファイバーという魔法の前に跪いて、その礼讃者になればよいということになる。
そんな非科学的なことが許される訳がない。
という次第で、大きな疑問を抱きながらの体験館‥‥というよりは2階が自宅で、1階が事務所兼資材置き場という建築物を訪れた。


さて、ここで暫時、時間をいただきたい。
日本における木造住宅の断熱・気密の歴史について、概略を軽く触れておきたい。 この基本的な認識が欠けていると、往々にして誤った結論を引きだしかねないから‥‥。

ご案内のように戦前から戦後10年間までは、日本の住宅では結露の問題は一切なかった。
なぜなら、火鉢や炬燵の炭火と囲炉裏で暖をとっていた時代は、室内と室外の温度差がほとんどなく、室外が0℃以下の時は、台所にも氷が張った。
雨戸とガラス戸と内障子で隙間風を塞ごうとしたが、それほど成果が得られなかった。
日本で、日本建築の気密性の低さを最初に指摘したのは明大教授。 一切の資料を紛失したので正式な氏名を発表出来ないのが残念‥‥。
この教授は、「日本で最高に腕の良い大工や左官が建てる数寄屋造。木に一本々々丁寧に麻毛を植え、木と土壁との隙間がないように施工したものでも、冬期の乾燥で木や壁が収縮して、20坪の住宅で30センチ角の穴が2つも空いている勘定になる」 と今から50年以上も前に発表していた。
この資料を読んで、初めて気密性に目覚めさせられた。
日本で最高の数寄屋造でそんな有様ということは、一般の庶民住宅の隙間は80センチ角2つ以上の穴が開いている勘定に‥‥。 家の中でラクダの長袖を着用し、股引をはき、その上にドテラを着ていないと過ごせなかったのは、「むべなるかな」 である。

こんな生活に革命をもたらしてくれたのが、石炭から石油への燃料革命。
北海道の一部ではそれまで石炭ストーブが用いられていたが、石油ストーブの便利さには勝てず、1950年代の後半には全国的に普及をはじめた。 当然、室内の酸素を大量に消費する訳だから、酸欠事故が多発するはずだった。 だが、先に上げたように冬期の隙間が大きかったので、室温を大きく引き上げることもなく、また酸欠になる心配も少なかった。
しかし、この燃料革命に続いて起こったアルミサッシ革命によって、日本の住宅は本格的な《結露の時代》を迎えることになる。
池田内閣の《所得倍増計画》が始まったのが1960年。 その頃から不二サッシが住宅用のサッシFKを売り出した。しかし、4年後に控えた東京オリンピックのムード下で、ほとんどのサッシメーカーはビル用サッシにばかりに目を向けていた。
たまたま木製建具の価格上昇と量産化によるアルミサッシの価格下落のシミュレーションをやった私は、「現在の住宅用サッシの需要は年間1万窓だが、3年後のオリンピックの年には年間需要が100万窓にもなる」 という《需要100倍論》を、確信をもって提唱した。 幸いにも私のシミュレーション通りに需要が推移し、3年後には100万窓を記録した。
このため、住宅用サッシメーカーから絶大な支援と広告出稿を頂くことが出来、若輩ながら住宅ジャーナル誌の編集長に抜擢された。そして、住宅用アルミサッシの普及に一役買うとともに、次のステップとしてツーバィフォー工法のオープンな導入に際して中心的な役割を演ずることが出来た。

年に5万戸以上の住宅でアルミサッシが採用されるようになり、単板ガラスだったが気密性が格段に良くなったことと石油ストーブの普及で、室内外の温度差が10℃以上あるようになった。 かくて、日本全土の窓で結露問題が発生しはじめた。
しかし、結露はアルミサッシの普及で初めて発生したのではない。 1953年の北海道での「寒冷地住宅建設促進法」の発足とともに発生している。
寒冷地の北海道では、最初は冷気を侵入させないということが主命題が置かれた。だが、次第に断熱の必要性が認識されてきた。 しかし、当時は断熱材として相応しい資材が見当たらず、候補に上がった断熱材というとモミガラとか木毛セメント板。 それと火山灰土を使ったブロック造しかなかった。
このブロック造建築は隙間がなく暖かかったが、石油ストーブの上にヤカンを載せ過乾燥に対処したので壁一面にびっしりと結露が‥‥。
そして、グラスウールが登場したのが1958年。 最初は25ミリ厚。
これが最初は公営住宅に使われ、結露が集中的に発生した。
ともかく、RC造の公営、公団住宅をはじめとして、民間の木造住宅に至るまで、以来20年以上に亘って日本のすべての住宅で結露が発生し、カビ、ダニ問題に悩まされ続けてきた。
いろんな研究チームが組織され、懸命に解決策が模索されたが、誰一人として解決策を用意出来なかった。
この結露問題の未解決が、戦後の粗悪な建築資材の普及とともに日本の住宅の短命化をもたらした。

そこへ、「ベバーバリア」 という概念を持ち込んだのがツーバィフォー工法。
ツーバィフォー工法が、オープンな形で日本へ導入され、告示されたのが1974年。
それから2年ぐらい経った時、旭川で「ツーバィフォー壁内氷柱事件」 が発生した。
当時は北海道でも耳付きのグラスウールを充填するのが常識。 常識的な工事をしたはずなのに 室内へ水が漏れてきた。 ボードを剥がしてみたら、耳付きグスウールが結露で凍結し、氷柱になっていた。
大問題の発生 !!!
その報告を受けた私も、どう対処したらよいか分からなかった。 各方面に対処方法を聞いたのだが、確かな返事が得られない。 困っていた時、東京・富田建設の設計部長の渡辺氏が、アメリカの文献から耳寄りな情報を発見してくれた。
アメリカでグラスウール断熱材が使われるようになったのは戦時中の1942〜1943年頃だったらしい。
そして、寒冷地を中心に壁内結露を起こし、大問題になっていた。
そこで兵役を免れていた全研究陣が動員され、徹底的に対処法が検討された。
その結果、冬期に暖かい湿った空気を壁内へ入れるべきではないとの結論に達した。 つまり、ベバーバリアの考えが戦時中のアメリカで生まれた。 そして、アメリカでは寒冷地を中心に幅広のポリスチレンフィルムによるベバーバリアが、瞬く間に普及していった。

そのベバーバリアが、防湿層と名を変えて、やがて公庫の標準仕様書にも採用された。
しかし、公庫の仕様書では、気密性で一番問題となるスィッチやコンセントボックス周りの記述があいまいで具体的でなかった。 このために施工精度に問題が残り、残念ながら冬期の壁内へ湿気の侵入を抑えることが出来ない現場が多かった。
その時、北海道で開発されたのが《外壁通気構法》。
壁内へ多少の湿気が漏れても、外部合板の外に通気層があると、湿気は壁内にとどまらず12ミリ合板の23uh・mmHg/gという透湿抵抗を抜けて外部に排出されることが判明。
ちょうどその時、絶好のタイミングでデュポン社がポリエチレンフィルムによって、湿度は透すが水は透さないという《タイベック・ハウスラップ》を開発してくれた。
それまで用いられていたのはアスファルト系の防水材。これは透湿性がなく、結露を起こすもう一つの主役だった。
最新鋭の透湿性のある化学物質の登場で、結露問題で困窮していたほとんどのメーカーと地場ビルダーは、タイベックと北海道生まれの通気工法に飛びついた。
かくて、20年余に亘って日本を悩ませてきた冬期の壁内結露問題は、ほぼ解決された。そして、R-2000住宅などの気密性・断熱性が高い高性能住宅の寿命は、60年から100年間に飛躍的に向上した。

しかしタイベックは、日本の住宅の全ての結露や空気質問題を解決してくれたわけではなかった。


posted by uno2013 at 07:46| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大変参考になるご意見でした。
断熱性と結露の課題を解決過程の歴史をお示しくださいましてありがとうございました。
Posted by 先山 隆久 at 2016年03月08日 14:45
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。