2013年03月20日

酸欠状態こそ最大の消火活動……内部防火の基本理念


もう何十年も昔の話。
日本の木造住宅は頻繁に火災を出し、人々の生命や財産を瞬時に失わせてきた。
そこで当時、日本の防火建築のオーソリティーと呼ばれた東大・星野昌一教授を訪ねて「木造住宅の防火のために取るべき最善の手法は…」 を聞いた。
先生は、いとも簡単な問題だと 次のように言った。

「日本の木造住宅では、火が天井裏へ抜けるがどうかがポイント。 火が天井を抜けると《いわゆる火が走る現象……フラッシュオーバー現象》 が起こります。 このフラッシュオーバー現象が起こったら、一貫の終わり。 その家は燃え落ちる。 絶対に助かりません。 つまり、スギの板目やプリント合板をジカに天井に張ってはいけない。 必ずスレートや木毛セメント板等の不燃材を下地に用いねばなりません。 そして、天井裏へ火が回る前に消火が出来れば、ボヤで済みます」。

そして、その2年後、初めての「アメリカ住宅産業調査団」の40人を引率してアメリカへ渡ってびっくりした。 そこで合理的なツーバィフォー工法に出会うのだが、それ以上に驚いたのはアメリカでは全ての住宅とビルの内装下地材に12.5ミリ厚以上の石膏ボードを採用していたこと…。
防火性能のよいスレートや木毛板ではなかった。
何故石膏ボードなのかという意味が、最初は分からなかった。
いろいろ話を聞いてゆくうちに、石膏ボードは火に当たると水蒸気を出し、裏面温度が450℃以上には上がらない。
木材は直接炎が当たると250℃で燃え上がる。 直接炎が当たらなくても450℃になると燃えはじめる。 スレートや石、コンクリートは熱をよく通すので、裏面温度がすぐ450℃になる。 ところが12.5ミリの石膏ボードの裏面温度が450℃になるのは、火が当たりはじめてから25分後。
つまり、12.5ミリの石膏ボードは25分間の防火性能を持っており、それ以内に鎮火すればフラッシュオーバー現象が起こらず、木造住宅はボヤで済み、貴重な命と財産が守れる……ということがやっと分かった。

そして、1時間耐火が求められる木造3階建のアパートの天井には12.5ミリの石膏ボードを2枚張ればよく、2時間耐火を求める壁や天井には30ミリ以上の石膏ボードを張れば良いことが分かった。 
そして、実際に30ミリ以上もの厚い石膏ボードの存在を目撃した。
私の果たした業績としては、ツーバィフォー工法をオープンな形で日本へ導入したことにあると言われている。 だが、私自身としては石膏ボードを中心としたドライウォール工法を同時に導入し、金融公庫の標準仕様書に全面的に採用してもらえたことの方が、より誇って良い業績だと考えている。

日本ツーバィフォー建築協会は、今まで2度の実物大火災実験を行っている。
1つはオープン化間もない頃の2階建住宅であり、もう1つは3階建住宅の認証を得るための実証実験。
これ以外に、ホームビルダー協会時代の仲間が、2つの実物大実験を行ってくれた。それには私は主催者の1人として参画。
つまり、4つの実物大の火災実験を通じて、火勢とか酸欠状態の驚くような事実、フラッシュオーバー現象がどのように起こるものであるかを実体験する幸運にめぐり合うことが出来た。

4つの実験とも、全てのサッシを閉め、内部ドアも閉めて、LDKの中心に目線まで薪を積み、それに灯油をかけて火を付けた。
4例のLDKの広さがどれほどであったかの正式な記録が手元になく、定かでない。 
そのLDKの広さが大きなカギを握っているのではないかと気付いたのは、ごく最近の 1週間前のこと…。
おそらく火災実験に用いたLDKの広さは、4例とも25帖前後であったろう。
気積は100m3前後の空間。
その空間の中心に山と薪を積み、灯油をかけて火を付けるのだから、メラメラと火は燃え上がり、カーテンや家具を燃やして 圧倒的に怖い火勢になる。
おそらく、着火1分足らずで室内温度は450℃を突破したはず。
この空恐ろしい火勢が10分も続けば天井ボードが抜け、フラッシュオーバーになるのではないかとおののかされた…。

ところが、その火勢はいつまでも続かず、2〜3分で次第に弱くなってくる。
火が燃え続けるには酸素が必要。
ところが、100m3程度の気積では、酸素が瞬く間に使い果たされる。
資料が紛失したので確言出来ないが、4例とも酸欠状態のために、6〜8分以内に自然鎮火した。 
この自然鎮火というのは、煙が一つもなく……つまりくすぶっているところが一つもなく、どこに触っても火傷をしないという完全鎮火。
ツーバィフォー住宅の気密性の良さと、石膏ボードの耐火性能が、フラッシュオーバーを起こす前に酸欠で自然鎮火させた絶好の見本例。
2011年の日本の1件当たりの火災被害は約1000万円なのに対して、アメリカはその1/20以下の50万円以下。 つまり、火災の発生率は おっちょこちょいのアメリカ人は日本の10倍近くも発生させているが、いずれもボヤで済んでいる。 
酸欠という強力な消火機能が大きく物を言っている。

さて、ここまで辿ってきて思い出したのが 4例に採用していたサッシ。
いずれもアルミサッシで単板ガラス。
カーテンがあっという間に焼き落ちるほどの火勢ではあったが、アルミサッシには何一つ損傷がなかった。
つまり、6〜8分で自然鎮火する程度の火勢では、アルミの単板ガラスを破壊するほどの力を持っていないことが実証されたのだと思う。
別の言葉で言えば、100m3の気積の酸素量だと、アルミサッシは損傷せず、サッシを閉めた状態のツーバィフォー住宅だと自然鎮火すると断言してよい。

だが、6〜8分間の自然鎮火で火災実験を中止したのでは、わざわざ集まってきた観衆にとっては面白くない。 
そこで、サッシを空けてフラッシュオーバー状態にして新鮮空気を導入し、再度燃焼させて 4例とも何とか倒壊にまで持って行ってお開きに…。 
当然のことながら開けたサッシ開口部から上部へ火舌が延びて2階を類焼させたが、天井石膏ボードを貫通して2階へ火が移ったのはいずれも25分以降。 石膏ボードは言われていた通りの性能を立証してくれた。

しかし、最近は居間の上が大きな吹き抜け空間になり、あるいは居間空間に階段室が設けられて2階の空間と一体化している住宅が多くなってきている。 
100m3ではなく、なかには200m3もある空間が増えてきている。 
この200m3の気積がある住宅の場合の自然鎮火は、何分だろうか ?
これはどこまでも推定だが、おそらく10〜14分程度ではなかろうか。
その場合、自然鎮火前に単板ガラスが損傷を起こすのではなかろうか ?
ガラスが破れると新鮮空気が次々に侵入してくる。  
したがって、自然鎮火はあり得なくなる。
その問題点を、鮮明に提起してくれたのが、1年前につくば市で行われた木造3階建校舎の実物大火災実験ではなかったろうか ? と1週間前に気付いた。

第2回出火室.JPG

この予備実験で着火されたのは、上の図の1階の職員室。
推定気積は450m3程度。
おそらく、この実験の場合も職員室に薪を積み、灯油をかけて着火したはず。
ところが気積が大きすぎて……つまりは酸素量が多すぎて、一気に上昇した火勢が、2分余でアルミサッシのガラスを破ってしまった。
ガラスが破れたということは、フラッシュオーバー現象そのもの。
自然鎮火の希望は一切なくなり、開口部から抜けた火勢は外側から上階へ類焼して、予想の数倍も早い倒壊になってしまった。 
これが、つくば市での余りにも苦い経験。

この450m3と推定されるつくば市の例から考えるならば、8〜12分以内に自然鎮火して、
単板ガラスが破られることがない気積は、150m3が上限ではなかろうか ?
つまり、気積が150m3をオーバーする住宅の場合には、最低でペアガラスを用いる必要があるのではなかろうか ? 
アメリカでは寒冷地だけではなく 温暖地でもペアガラスが普及してきているのは、単に省エネということではなく、防火という面からの配慮からではなかろうか ?  これはどこまでも推定に過ぎないが…。
中越地震の時、烈震地の川口町の渡部建設の現場で、2枚の引き違いのペアサッシ窓が2階の枠から外れて土の上に落下しているのを目撃した。驚いたことには、どのペアガラスにも一つの損傷もなかった。 2階から放り出してもペアガラスは簡単には割れない。

そして、300m3を超える気積空間を持つ住宅は、単なるペアガラスではなく、防火認定を得たペアガラスを採用すべきだと考える。 ダクトに防火ダンパーを設置するよりも、こちらの方の重要度がはるかに高い。
もちろん校舎建築では、防火サッシを用いることが木造、鉄筋コンクリート造を問わず、子どもたちを火災被害から守る最低限の条件のはず。 類焼の防火が目的ではなく、内部発火の防火が目的。 つまり酸欠による自然鎮火を図るため。
いかに鉄筋コンクリート造といえども、ガラスが破れると簡単に上階に類焼する。
とくに外断熱では、RC造の場合でもヨーロッパではEPSの採用が制限されている。とくに開口部上部はロックウールに限定されている。

話が脱線するが、昨年11月25日に岐阜・下呂市で行われた2度目の火災実験では、下の写真のようにガラスが破れても外から上階へ火が回り難くするために、新しくバルコニーを設けている。 バルコニーを設けるよりもフラッシュオーバーの時間を稼ぐ方が児童の避難には最重要。 したがって防火サッシの採用であるべき…。

第2回外観.JPG

そして、1時間準耐火構造が求められているのに、柱や梁を現しとしているのは良しとするが、小梁までも現しにしている神経は 世界の常識から考えて理解出来ない。 
参加している木軸メーカーの要望であったとしたら 正に切腹もの。

小梁も現し職員室.JPG

それにしても、1回目に懲りて2回目は薪を積んで灯油をかけ、着火するのを避けている。フラッシュオーバー現象を出来るだけ長く見せるため、チョロチョロと火を付け、火勢が拡大しないので50分後にガラスを割って松明を投入し、再着火させるという姑息な手段を弄している。 これが研究者の態度だとするといただけない。
校舎建築で自然鎮火を図るには、ペアガラスでU値1.5W程度の防火サッシを採用すると共に、上吊りレールで引き戸が自然に閉まるものを採用し、最大でも300m3の気積ごとに区切ることではなかろうか。 そうすれば、もし夜中に発火したとしても、自然鎮火してしまう。


さて、話を戻そう。 この問題を取り上げたのは、フレキシブルダクトの安全性に対する質問に応えるため…。
残念ながら、日本では換気用の100φや空調用の150〜350φのダクトを装備した住宅で、ダクトの実物大火災実験は、やったことがない。 
このため、確定的なことは言えない。
ご存じの通りアメリカやカナダでは 新築住宅の95%がフレキシブルダクトによるセントラル空調換気システムを装備している。 1階と2階を結ぶダクトは10本以上ある。
そして、あの訴訟社会のアメリカで、フレキシブルダクトが原因でフラッシュオーバー現象が起こって全焼し、ホームビルダーが敗訴し、セントラル空調換気システムそのものに疑問が挟まれたという話しは一度も聞いたことがない。 
もちろん、防火ダンパーの必要性を唱える声は聞いたことがない。 むしろ、あのダイキンが如何に力んでも、アメリカでは個別エアコンはモーターイン以外ではなかなか採用してくれないという泣きごとは聞こえるが…。
 
私のささやかな経験から言えることは、酸素を燃やしつくす火勢は本当に凄まじい。 
数分間で100m3の酸素をガブ飲みして 飲み尽くす。 その後に0.5回転の新鮮空気の換気量が入ってきても、籠ったCO2の膨大な量からみれば 相対的にハナクソ程度の微量なものでしかない。 
酸欠という完璧な消火能力のすごさは、実物を見た人でないと絶対に理解することが出来ない。
火勢をよみがえらすには、0812以上の大きなサッシ全開し、再点火するしかない。

さて、仲間からの質問に対する私の返答は、下記のようになる。
給気口が天井面、とくに2階の屋根裏に大きな空間がある天井面に付いている場合は、何とも言えない。
だが、壁に給気口がある場合にはそこから天井裏へ火勢が潜り込み、フラッシュオーバー現象を起こすことはあり得ないはず。
しからば、台所の天井に付いている排気口はどうか ?
台所が出火場所であれば、初期の火勢の強い炎が一部潜り込んでダクトを焦がすかもしれない。しかし、直ぐに酸欠状態の空気が送り込まれるので、これまたダクトが原因でのフラッシュオーバー現象は起きないはず。 問題はフラッシュオーバー現象が起こるかどうか。 
ダクトによって簡単にフラッシュオーバー現象が起こらないからこそ、北米では安心してフレキシブルダクトシステムを採用しているのだと思う。 だが、いくつかの施工面での約束事はあるはず。 むしろ、それを確かめる方が近道かもしれない。

もちろんこれはどこまでも想定であって、実際には実物大実験が必要。
しかし、ダクトによるフラッシュオーバーの可能性の試験をやり、その上でダクトに取り付けるダンバーの有効性がどれほどあるかの実証試験を自発的にやってくれる会社とか研究機関は、残念ながら今のところ心当たりがない。
したがって、現時点ではこれ以上のことは言えない。



posted by uno2013 at 06:45| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
木材の発火点は、250℃前後で炎は要らない。
石膏ボードは水蒸気を出すので最高温度は100℃。
どこから、450℃が出てくるのか・・・。
基本が間違ってるので、続く文章にも説得力がありません。
Posted by 建築屋 at 2013年03月23日 19:44
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