三浦 展著「日本の地価が3分の1になる!」 (光文社新書 880円+税)
久しぶりに面白い本に出会いました。
ご案内のように、戦後の日本の地価は過去4回、大きく値上がりしました。
第1回目は、1950年代の半ば。 いわゆる高度成長期で、工場用地の需要が急速に高まったことから工業用地を中心に地価が急上昇。 人口の都市への集中も進み、商業用地と住宅地も便乗して値上がりが‥‥。
2回目は1972年に、田中角栄が提唱した 「日本列島改造論」 が発端になり、地方で住宅価格が上昇。 大都市でも60年代に大都市圏に流入した人口の持家意慾が地価を押上げた。
3回目は、1985年から1990年にかけてのバブル期の商業用地の急騰。 第2次産業から金融、不動産、情報などの第3次産業へのシフトが進み、商業地とオフィス需要が高騰。
4回目は、2007年を山としたファンドバブルと言われるちょっとしたピーク。 海外から資金が流入したもの。
ところが、2011年からは日本が高齢化と人口減少によって、2050年には日本全体が経済破綻した夕張市のようになるのでは考えられ、海外の投資家から敬遠されるようになってきた。
住宅地価の変動は、人口の増減と深く関わりを持っている。 とくに、人口に関する3つのポイントの中で、「総人口」 とか 「依存人口比率」 ではなく、日本では 「現役世代負担率が大きく物を言う」 という前提で、地価未来を予測している。
この著書の最大の特徴は、現役世代の負担率の大小で、未来地価を予測している点。
総人口は、2010年に約1億2800万人だったものが20年後の2030年には1100万人減の約1億1700万人、それがさらに10年後の2040年になると700万人減の約1億800万人、さらに10年後の2050年になると1100万人も減って約9700万人になってしまう。
問題なのは65歳以上の老人の人口の割合が増えて、19〜64歳の生産年齢人口が減ること。 老人を支える生産年齢人口の比率を、現役世代負担率という。
つまり、2010年には19〜64歳までの生産年齢人口が約8170万人 (64%) いたものが、2030年までの20年間に1400万人も減って約6770万人 (58%) に、それから2040年までの10年間で980万人減って約5790万人 (54%) に、さらに2050年には890万人減の約4900万人 (51%) になってしまう。
これに対して65歳以上の老人は増え続け、2010年の現役世代負担率は0.36と、3人で1人の老人の面倒を見るだけで済んだものが、0.75と 4人で3人の面倒を見なければならなくなってくる。
人口問題研究所の長期統計資料によって、2010年の総人口が2040年には各都道府県別に何人なるか、という資料を提示している。
詳細な資料は、すでに新聞などで見ておられると思うので省くが、2010年に比べて2040年の人口が減るワースト10の%だけを挙げると次の通り。
@秋田 64% A青森 68% B岩手 71% C高知 71% D山形 72%
E徳島 72% F島根 72% G福島 73% H長崎 73% I山口 74%
上位に、東北と四国、九州のなどの各県が入っている。 この数字の中で、福島は原発災害以前のものだから、どこまでも参考数値。
逆に、総人口が減らないベスト10を挙げると以下。
@沖縄 99% A東京 94% B滋賀 93% C愛知 93% D神奈川 92%
E埼玉 88% F福岡 86% G千葉 86% H宮城 84% I広島 84%
いづれも東京を中心とした大都市圏だが、沖縄、滋賀、宮城県の健闘ぶりが目に付く。
問題は、2010年に比べて2040年に65歳以上の老人比率がどれだけ増えるか。
つまり、支えなければならない人口が増加すると、地価は安くなるというのがこの著書の特徴。
そこで、ワースト10を挙げると、以下のようになる。
@沖縄 71%増 A神奈川 60%増 B東京 53%増 C埼玉 50%増 D愛知 47%増
E滋賀 47%増 F千葉 46%増 G福岡 37%増 H宮城 36%増 I大阪 35%増
これに対して、秋田、島根などは65歳以上の人口がわずかだが減少し、岩手、山形、和歌山、高知などではほとんど横ばいで変わらない。 そして65歳以上の人口増加が10%台の県が14にも及んでいる。
ということは、43%の県ではすでに高齢化が進んでいて、これ以上の高齢化が自然に抑えられているということになる。
反対に、現在若者の比率が多い沖縄をはじめ、大都市圏ではこれから急激な高齢化が進んで、これに伴って現役世代負担率が急激に上昇し、地価が大きく下落すると予測している。
これは、1975年から2010年までの35年間の人口変動・経済成長要因が、住宅地価格の変化に与える影響度を法則化して、シミュレーションしたもの。
その結果、2010年を100とした場合の、2040年の指数の高い順に47都道府県を並べると、下記のようになる。
(1)岡山 0.473 (2)大分 0.451 (3)熊本 0.432 (4)滋賀 0.424 (5)佐賀 0.422
(6)島根 0.421 (7)山口 0.419 (8)愛知 0.417 (9)宮崎 0.412 (10)鹿児島 0.410
(11)三重 0.410 (12)広島 0.402 (13)石川 0.399 (14)長野 0.399 (15)東京 0.395
(16)岐阜 0.394 (17)沖縄 0.393 (18)香川 0.388 (19)京都 0.388 (20)福岡 0.386
(21)福井 0.386 (22)富山 0.385 (23)島根 0.383 (24)愛媛 0.383 (25)山形 0.378
(26)兵庫 0.378 (27)新潟 0.377 (28)群馬 0.375 (29)大阪 0.368
(30)和歌山 0.368 (31)高知 0.368 (32)静岡 0.366 (33)宮城 0.361
(34)岩手 0.359 (35)神奈川 0.355 (36)茨城 0.352 (37)徳島 0.351
(38)長崎 0.349 (39)埼玉 0.347 (40)奈良 0.347 (41)山梨 0.346 (42)栃木 0.339
(43)千葉 0.339 (44)福島 0.329 (45)北海道 0.306 (46)秋田 0.306
(47)青森 0.289
少し、この整理に時間が取られ過ぎた。
次に県庁所在市とと政令指定都市で、地価の下落率の激しい都市のベスト20を挙げよう。
@秋田市 0.259 A青森市 0.261 B札幌市 0.304 C相模原市(神奈川) 0.304
C奈良市 0.313 D仙台市 0.317 E徳島市 0.317 F宮古市(岩手) 0.323
G長崎市 0.326 H福岡市 0.327 I盛岡市(岩手) 0.33 J千葉市 0.335
K高知市 0.336 L宇都宮市(栃木) 0.342 O横浜市 0.343 P鳥取市 0.348
Q高松市 0.354 R鹿児島市 0.355 S宮崎市 0.355
ともかく、上位に相模原市とか横浜市、千葉市などが顔を並べているのだから驚く。
そして上位50市が、2010年比で40%そこそこの数字でしかない。 50市以上が60%近く下落すると言うのだから驚く。
しかし、私が最も驚いたのは上の図を見た時。
東京で、奥多摩とか檜原村、青梅市の地価が安くなることには、納得できる。
真っ赤に塗ってある地域は、2010年に比べて地価が0.3未満の地域。 つまり、7割も地価が下がる地域。
その真っ赤な中に、多摩市や福生市に並んで、なんと杉並区・練馬区が入っているではないか。
私は、てっきりミス・プリントだと考えた。
しかし、画面をよく見ると、あの人気の高い吉祥寺のある武蔵野市・国立市、渋谷区・港区・中央区も、赤に準じる茶色になっている。 つまり、0.3未満ではないけれども、0.3〜0.34も地価が下がる地域に。
そして、そのほかの東京は全体的に黄色。 これは地価が2010年比で0.35〜0.44の地域。
東京も、ずいぶん安く見られている。
そして、2040年の地価が0.45以上と言うのは、新宿・江東・墨田・台東・荒川・北区しかない。
都心に近くて、交通費がかからない。 とくに羽田などの飛行場に近いので、外国人労働者に人気のある地域。 家賃もそれなりで、所得が低くても住みやすいところであることは間違いない。
しかし、私のような地震過敏症の人間には、絶対に住みたくないところ。 何しろ震度7の直下型地震が、30年以内には襲ってくると保証付きの地域。 もし、木造が燃え上がるということになったら、命は保証されない。
また、雨が強い日には、下町を走る地下鉄に乗っているだけで、非常に不安になってくる。
「集中豪雨に見舞われた時は、どこへ避難したらよいのだろうか?」 と。
つまり、この著は、そうした住民の意識を全く無視して、現役世代負担率だけで地価を計算している。
これは、素晴らしい考えのように見えるけれども、耐震や耐集中豪雨被害という基本的条件を無視したシミュレーションだと断言出来る。
それと、強調しておかなければならないことがある。
それは、現在の65歳以上が老人で、非生産人口だという考え方。
65歳以上を高齢者と定義したのは、今から54年前、つまり半世紀以上も前の1960年。
当時の男性の平均寿命は、65歳だった。 だから65歳以上を高齢者と決めたことは意義があった。
しかし、この半世紀のうちに、食料事情と医療制度が抜群に良くなった。 喫煙者も減ったし、健康に留意して歩く人も多くなった。
このために、男性の平均寿命は、80歳を超えてきている。
65歳で高齢者扱いにされることに反発を感じている人も多い。 まさか昔のように、「平均寿命が80歳だから、高齢者も80歳以上にしよう」 と言うのでは、社会的な反発を喰らうだろう。
しかし、生産年齢を74歳に引き上げて、働く意欲のある人、あるいは働きたい人に働いてもらうことは、私は大いに意義があることだと考えている。
もちろん、65歳を過ぎれば、週5日制は辛いかもしれない。 日に8時間働くのも無理かもしれない。
そこいらは、フレキシブルに考える必要があろう。 もちろん、年金制度をどのようにアレンジするかということも重要なポイントになってくる。
そして、もし74歳にまで労働人口が増えた場合には、現役世代の負担率も2010年並になるという。
そうすると、地価はほとんど安くしなくても良いと書いている。
この辺りのロジックに、私も完全に同意しているわけではない。 しかし、現在の外国人労働者を200万人から400万人に倍増する案よりは、多くの日本人の納得と賛同を得られるのではなかろうか。
そういった読み方も出来るという意味で、この著はなかなかのもの。
しかし、くだらないグラフが目障りになるという面も持っている。