2014年11月30日

若手フレーマー工の育成減によるツーバイフォー工法の衰退



ツーバイフォー工法を導入した私に求められたのは、ツーバイフォー工法を完全にこなせられる大工さんの育成。 つまり、即戦力になる技能者の育成だった。 
それには、素人の大工さんを1から育てるのではなく、在来木軸で腕の良い 理解度の高い大工さんを教育して、中心戦力部隊になってもらう必要性があった。
もちろん、フレーマーと呼ばれている建て方の大工さんだけではなく、まず設計士と現場監督の教育と研修が欠かせない。 次いで営業マンも‥‥。
それだけではなく、サッシ工、断熱材工、石膏ボードを中心としたドライウォール工、造作大工さんの養成も欠かせなかった。 
配線・配管工事をはじめとした内外装の仕上げ工事業者は、気密性の担保方法など、要点だけをマスターしてもらうだけで間に合った。

幸い、私は延べ60日間ぐらいロスとシスコを中心としたアメリカ西海岸で、単にフレーマー工だけでなく、全ての職種の作業を分析し、その高い生産性と、品質管理のIE (インダーストリアル・エンジニアリング) の技術を、直接タイム測定調査で体得する機会に恵まれた。
それだけでなく、アメリカから3人の大工さんを呼んできて、日本全国10ヶ所をキャラバンして回るという 「建て方実演」 に立ち会えるチャンスもあった。 
つまり、アメリカの大工さんはどこまで分業化しており、例えば建て方のフレーマーだと1階床組から屋根の野地合板を張り終えるまで、40坪の住宅で平均0.23人工しか要していない。 つまりプレハブ化しなくても、3人で3日間で完全に完成させている。
そのためには、どのような施工図が必要か。 段取りや工程管理はどうあるべきか。 また、クギは何センチの長さのものを何本打つべきか。 などを完全に空んじることが出来た。

アメリカのプロのツーバイフォーの大工さんの仕事ぶりを、全国の大工さんに見てもらい、納得の上でツーバイフォーに取組んでもらった。 
こうしたキャラバン以外に、私が直接指導した大工さんは延べ200人近くにも及んだ。 
40年前は、腐るほど大工さんがいた。 
いろんな大工さん教育研修した結果、素人をフレーマーとして育成するよりも、矩計などを完全に会得したプロの大工さんに話を持ちかける方が、はるかに効率的だということが分かってきた。
そして、私が中心的に働きかけたのは青森の大工さん。 
大工さんとしての基本がきちんと出来ているので飲込みが早い。 あっという間にマスターしてもらえた。 中心となる数人には、それなりに時間をかける必要性はあったが、核が出来た後は1ヶ所の現場研修だけでことが足りた。
このため、1ヶ月も現場研修をするだけで、40人近い大工さんはツーバイフォーのプロに変身していただけた。 要は、40人近い大工さんを遊ばすことなく、常に仕事を与え続ければよい。 
私の仕事は、途中からコンスタントに仕事をとるという、営業へとシフトした。

そんなわけで、私は協会が行っているツーバイフォー技能者研修とか検定検査には疎かった。
しかし、北海道支部の運営を任されていた高倉氏などは、この技能者研修と検定検査が、次第に重要性を増してきていた。
職業訓練法に基づき、フレーマーの技能検定が2×4協会で始まったのは、ツーバイフォー工法がオープン化して6年もたった1981年から。 北海道支部のフレーマー技能検定試験は1年遅れの1982年からで、年度毎の合格者の推移は下記のとおり。

1982年 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 
  8人     18    10    18   18    8   30   10   12   22   17   11  
1994年 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 
 19人    22   18    13    19    20    4     8    8     6   22  10  
2006年 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
  7人    10    12     4    4     4    7    3    3    累計395人
ピークとなる30人の合格者を出した年は、応募者は100人で、合格率は30%。 単に学科試験だけでなく、寄棟の配付タルキを斜めカットをして 綺麗に納める技能実技が伴うので、どうしても合格率は30%台になってしまう。
そして、2008年に12人という合格者を出しているが、それ以降は合格者は1桁。 昨年と今年は3人ずつという淋しさ。 過去32年間に395人もの合格者を出しているが、今世紀に入っての15年間に出した合格者は112人。 半分近い年で28.4%しか合格者を出していない。

これは、どこまでも北海道支部だけの話ではなかった。
2x4協会がホームページで発表しているのは、平成元年(1989年)から平成24年(2012年)までの受験者数と合格者数。
http://www.2x4assoc.or.jp/builder/act/approval/approval01.html
2x4協会の報告では、1981年から北海道より2年短い2012年までの累計数は、受験者数は全国で9119人で、合格者数は2634人と発表している。 (合格率29%)
そのうち、今世紀に入っての13年間に合格者数は499人に過ぎず、北海道のように2013年と2014年の合格者を仮に100人とカウントしても599人。 今世紀に入っての合格者の比率は北海道より落ちて22.7%と言う数字にしかならない。
つまり、2x4がオープンして40周年を祝っているが、ツーバイフォーの大工さんは減少の傾向にあるのではないかと、この技能検定の数字から懸念される。

その懸念を裏付けるのが、2005年度に住宅保証機構が行ったアンケートに対する回答社・約3800社に及ぶ工務店の省エネ住宅に対する関心度調査。 
省エネに対する関心度はさておいて、この約3800社が受注している住宅の大きさは平均で40.5坪。 そして、注文住宅の受注戸数は9戸以下が80%を占めていて、受注金額は2億円以下。 
そして、大工さんの年齢は思ったよりも若く、50歳以下が78.6%を占めていた。
この数字がそれからの9年間でどう変わったかに関心が持たれるが、扱っている工法として挙げたのは3800社のうち木軸が96.9%。 鉄骨造が40.2%で、鉄筋コンクリート造が23.2%。
これに対して、ツーバイフォー工法を扱っている工務店はわずかに16.3%。
いずれにしても、これは9年前の資料は古すぎるが、一頃に比べてツーバイフォーの比率が落ちてきているように感じる。

これに対して、今年の1〜3月にかけて、国交省が行った最新の「中小工務店・大工業の実態調査」 がある。 
これもアンケート調査で、回答社は約2800社。
この2800社の工務店・大工業の平均新築住宅の受注戸数は5.3戸。 社員は平均4.4人で、常雇用社員・大工さんは1.4人。 社外大工さんで常にかかえているのが3.6人。
木質構造を主体に扱っている工務店数はハッキリしないが、ある統計によると2001年が9.3万社で、2009年には6.8万社に激減している。 そして、2014年にはおそらく5万社前後になっているのではないかという。

先に、ネットフォーラムで取上げた「財界・さつぽろ」による2013年の道民の 48業種に及ぶ賞与を含めた平均年収の推移。
主な15職種の年間平均所得(単位 万円)と、平均年齢を記すと以下のようになる。
   職  業      賞与を含めた年収      平均年齢
             2011年  2012年  2013年
@ 医    師    1291.5  1381.1  1170.7    43.1歳
A 大学の教授    939.4  836.4  980.5    57.7
B 高校の教員    666.7  593.6  666.8    45.4
C 1級建築士    458.5  517.3  563.1    52.9
D 薬  剤 師    464.7  550.1  536.4    39.0
E 看  護 師    479.3  438.5  480.7    38.0   
F 自動車外交販売員 422.3  386.6  449.9    41.0
Gシステムエンジニア 484.3  480.4  444.0    42.4
H 大型貨物運転者  362.1  411.7  429.6    45.1
I 電  気 工    399.6  449.2  393.5    43.1
J 板  金 工    316.4  339.2  357.2    44.9
K 製  材 工    316.7  265.4  345.3    41.4
L 大  工 業    340.9  390.0  240.3    61.3
M タクシー運転者  204.2  209.5  221.2    59.2
N ビル清掃員     206.9  200.0  201.0    55.0

これは、48業種を網羅しており、大変興味深い資料。
しかし、赤坂十勝2x4協会長の指摘にあったように、2013年は消費税の駆込み需要があった年で、大工業が前年に比べて150万円も年収が減ったとは どうしても考えられない。
これは、財界・さっぽろの統計の取り方に大きな手違いがあったのではないかと言う。
そして、北海道でのツーバイフォーの戸建住宅の請負価格は、42万円前後。
常用大工さんの実質手取り収入は、札幌・旭川で1.35〜1.7万円、帯広・函館では1.1〜1.3万円/日というのが常識だという。 
したがって、「どう考えても年収240万円というのは納得できない」 という。
しかし、大工の平均年齢が他の業種に比べて特別に高く、60歳を超えて61.3歳となっている。
これに対しては、反論するデータがなく、実態を認めるしかないのかもしれないと嘆く。
それにしても、アメリカの建築職人さんは金曜半ドンで週休2.5日制。
それで、1戸建てないしはオープンスペースが豊かなタンハウスに住めて、社会的な評価も高いジャニーマン。(1人前の職人さん)
日本の木軸を中心とする大工制度そのものが、根本的に問われているのではなかろうか。

さて、建て方のフレーマーは力仕事。 年配の大工さんは、その腕を活かして造作大工に変身することが可能。 しかし、フレーマーには、どうしても若い人材が欲しい。
しかし、先に見たように、日本のフレーマーの検定検査の合格者は年々減少を続けている。
このため、2つの方法がとられている。
1つは、パネル化という形での工場生産化であり、もう1つは外国人の若い建築労働者の導入。
このパネル化という面で、2つの大問題が発生している。
1つは、壁パネルが一体化したものとなっていない点。 この欠点を補うために北海道で広く採用されている2.5〜3.0間毎に金物工法による通し柱を建て、その間に2x4のパネルを嵌め込んでゆくという手法。 20年以上も前に高倉氏に、「北海道で構造認定を取って欲しい」 とお願いしたが、「北海道では当たり前のことで、ワザワザ構造認定をとるまでもない」 と言われ、そのままになってしまった。 
金物工法は、「金物を売ろう」 という意慾が強すぎて、いずれも過剰強度。 やたらと材積を食い過ぎていて安くならない。 木軸とツーバイフォーのパネルの一体化というポイントが、金物工法から見捨てられているのは、消費者の立場から言って大変悲しい事態。 是非とも、何とか再考してほしい。

もう一つは、床と屋根もパネル化されて、合板を千鳥張りするダイヤフラムの利点が等閑視されてきていること。 このために、ツーバイフォー工法の耐震性が落ちてきている。
私は構造設計に弱く、何%強度が落ちてきているかを、数値で表現することが出来ない。
しかし、壁倍率だけがのさばってきている現状には、深く嘆きたくなってくる。 

もう1つの外国人フレーマーの導入。
ご案内のように、第3次産業の極端な人材不足のために、外国人労働者の導入が凄い勢いで進んでいる。
統計によると、2006年は、@韓国・朝鮮 60万人 A中国 56万人 Bブラジル 31万人 Cフィリピン 19万人 Dペルー 6万人であった。
それが、2013年の昨年は、@が中国の65万人に変わり、A韓国・朝鮮 52万人。 そしてブラジルに変わってB位はフィリピン 21万人 Cブラジル 18万人 D位にベトナムが躍進して7万人となってきている。
住宅業界には、何社かがこのベトナムに働きかけているようだが、必ずしも成功しているとは言えない。
これに対して、フィリピンからフレーマーを導入して成功しているのが一条工務店の i-cube や i-smart。

私は、i-cube や i-smart は、ツーバイフォー工法としてカウントされているものだと信じていた。 たしかにカウントされているかも知れないが、確認申請上は個別認定のプレハブ工法として扱われているらしい。
同社の i-cube 及び i-smart に関しては、1階床組までは在来の木軸工法と同一。
フィリピン人のフレーマーがやるのは1階の壁組、2階の床及び壁組と、小屋掛けだけ。
フレーマーの管理と指導、それと日本における生活に関する一切の面倒は、日本人の大工さん出身者がチーム毎に行っているらしい。
ご案内のように、看護師などは日本の国家試験に合格しなければ日本で仕事をすることが出来ない。 この国家試験をクリアーするために 日本語をマスターすることが、大きな壁になってきている。
しかし、日本のフレーマー検査検定試験というのは、その資格を得なければ日本で働けないというほどの強制力は持っていない。 
一条工務店では、フィリピンでフレーマーの募集を行い、徹底した研修を行い、試験に合格した者だけを日本へ送っている。
だが、技術的に優れているからと言って、来日出来るわけではないようだ。
言葉や日本の文化、道徳、礼儀作法、仲間とのコミュニケーションも評価の対象になる。
つまり、日本の技能士とは異なった見方で適性が判断されている。

こうしたことを踏まえ、日本で建設業に携わる外国人の技術と処遇を改善してゆくということは、容易なことではない。
日本のフレーマーの検定制度を、そういったグローバルな立場で見直す必要が生じてきているのだと思う。


posted by uno2013 at 14:09| Comment(0) | 産業・経営 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月25日

多摩地域で、40坪でQ値が0.8W前後住宅のモニター募集!!



私のホームページの読者の半分近くは、一般の消費者だと思う。
そして、住宅の性能に対する関心の高い消費者が多く、この3年間に建てられた消費者の60%近くは一条工務店で建てられた方が多かったように思う。
ともかく、「Q値が0.9W以上の性能住宅を、坪60万円台で建ててくれる」 ということで、今までプレハブメーカーしか選択肢のなかった消費者に、ツーバイフォー工法で大きな可能性を開拓してくれた。 この先進性には感謝している。 
札幌市などでは、「ドイツのパッシブハウスを上回る Q値が0.5Wという超高性能住宅」 が20棟以上も建てられている。 しかし、産業規模でいうならば、一条工務店並に数をこなし、一般のサラリーマンにも手が届く住宅であってほしい。 
そういった意味では、年間30〜200棟をコンスタントにこなしていた R-2000住宅の時のような元気な地場ビルダーの存在が、絶対的に不可欠。
私は、「一条工務店を上回る性能を、一条工務店並の価格でこなせるビルダーの誕生こそが待たれる」 と、3年前から叫んできている。 
たしかに、北海道の道東ハウスなど無暖冷房住研のビルダーを中心に、たくましく育ってきている地場ビルダーも多い。 そして、「一条工務店と相見積になっても怖くはない。 私どもの性能と価格で十分に勝てる」 ときっぱりと答える。 
しかし、全国的に見ると、こうしたビルダーの存在はまだまだ例外的。

一条工務店を、性能面でも価格面でも上回ることは、確かに難しい。 いい加減なシステム作りでは対抗できない。 しかし、絶対に不可能だということではないはず。 とくに、一条工務店の現場を数棟チェックしてきた私には、「一条工務店の i-cuve とか i-smart は、在来木軸の欠点を抱えており、北米のツーバイフォー工法から見ると正統派とはいえない面が強い」 との印象を、残念ながら持たされてきた。
つまり、プロのツーバイフォー業者が、心底から推薦出来ない点が残っている。
しかし、勘違いしないでいただきたい。
私は、「北米のツーバイフォー工法に比べて、ダイヤフラム理論面やドライウォールという実務面、さらには換気の実務面で、一条工務店は客観的な大きな視野での勉強不足が目立っていると言いたいだけ。 
個別認定工法として見た場合は、i-cuve にしても i-smart にしても、ミサワホームのパネル住宅や、鉄骨プレハブメーカーの気密性がスカスカの情けない住宅に比べると、はるかに性能が高くて良心的。
「どうせプレハブ住宅を選ぶなら、一条工務店の i-cuve とか i-smart を選んだ方が、はるかに得だ」 と、確信を持って断言出来る。

自分が商売をやっていた時は、誰もが採用していなかった平行弦トラスを標準仕様として採用してダクト工事を飛躍的に簡便化出来た。 また、関東地域では誰よりも早くペアガラスサッシを採用して窓の結露を防止してきた。
これは、モデルハウスを持ち、顧客の信頼を得ていたから可能だったこと。
それが今では、「一条工務店を上回る性能を、一条工務店並の価格で‥‥」 と叫んでも、ほとんどの地場ビルダーは、「また、勝手なことをホザキおって‥‥」 と相手にしてもらえない。
そんななかで唯一、私のつぶやきをまともに受け止めてくれたのがエイ&エムカーペントリー社の梅林社長。 ツーバイフォー工法の初期からの付き合いで、アイジョイスト工業会の会長をやっている。 新井信吉氏が第一線を退いたので、ツーバイフォーをはじめとする木質構造に関してまともな議論が出来る唯一の友でもある。
昨年春、同社から、「多摩湖の湖畔町で210のIジョイストパネルによるQ値が0.87Wというゼロエネルギー住宅を建てている。 時間があったら是非見て、意見を聞かせて欲しい」 との電話があった。
早速飛んで行って、その内容をこの欄で、[なぜTJI壁パネルの肩をもつようになったのか」 と2013年4月5日号と4月10日号の2回に亘って、紹介した。 (ブログ「今週の本音」のカテゴリ「ゼロエネルギーハウス」の(5)をクリックしていただくと、たどり着けます)

私が驚いたのは、210のIジョイストを使用し、サッシを取付けた5間という長大パネルで施工をやっていたこと。 電線の有無にもよるが、パネルの長さは6.5間まで大丈夫とのこと。 とくに重いトリプルサッシのことを考えると、これからは都心以外の現場では長尺パネルへの期待度は大きくなってゆく。
そして、210の両側に9ミリのOSBボードを張り、中にウレタン断熱材を工場で注入していた。 さらに内側のOSBに38ミリの204材を割いて縦胴縁として使い、その胴縁内の空隙を利用して配線・配管工事を行っていた。 パッシブハウスの仕様ををそっくり真似ていた。
つまり、一般的な204の壁に比べると193ミリも壁が厚い。 その分だけ、外側へ壁をフカして処理していた。 
高性能住宅にするには、206の充填断熱材だけでは足りない。 どうしてもプラス外断熱が不可欠のように誰もが感じていた。
具体的に3つの代表例を上げると、下記のとおり。
●一条の i-smart      140充填+50の外断熱  計190ミリ  外壁のU値は約1.9W
●北洲のアルセコ      140充填+80の外断熱  計220ミリ  外壁のU値は約1.8W
●KMブラケット        140充填+100の外断熱  計240ミリ  外壁のU値は約1.6W
これに対して、Iジョイストを使っているので、スタッドは38ミリ厚ではなく、合板厚分しかヒートブリッジにならない。 私の手計算では、U値は1.6W。 
つまり、KMブラケット100ミリの外断熱と熱貫流率も外壁の厚みもほぼ同じ。 その性能の良さに驚かさせられた。

高性能住宅に取組むと、充填断熱材だけでは足りなく、どうしても外断熱が求められてきた。
しかし東京で商売をやってきた私は、外断熱があまり好きにはなれない。 その理由は、直下型の震度7の大地震が、30年以内には必ず東京を襲うと言われているから‥‥。
まず、耐震性。 
厚い断熱材だと、外壁の保持力が問題になってくる。 KMブラケット以外では、安心出来るシステムが限られている。
そして、猛烈な火災の怖れ。 
たとえ防火性能に優れていると言われるEPSでも、安心は出来ない。 
本来は、充填断熱も外断熱もロックウールにすべきだろうが、充填断熱材だけならばウレタンの吹付けでも許してもらえるだろう。 もちろん、石膏ボード張りが大前提で、どこまでも天井石膏ボードの先張りが大原則。
エイ&エム社は、OSBの内側に縦胴縁を入れ、その上から壁石膏ボードを施工しているが、どこまでも天井ボードが先張り。 だから防火の面では安心できる。
しかし、210の壁はいかにも厚い。 このため川崎のM邸の場合には、210ではなく208を用いて外断熱を省略させてもらった。 そして、私は梅林社長に、「208のIビームを開発して欲しい」 と、執拗に迫っていた。

このような経緯があったので、外断熱を避けるには208の壁しか方法がないという先入観に取り憑かれていた。
そんな時、梅林社長から、アメリカやヨーロッパへも輸出している上海のウレタン公司の、硬質ウレタンフォームを紹介してくれた。 日本の試験場で試験したところ、0.023Wの高い熱伝導率が得られたと言う。 
ご案内のように、アイシネンは0.035W。 これだと206ではどうしても断熱性能が足りず、208材を使わねばならない。 
しかし、0.023Wだと、話が違ってくる。
「ただし、現場発泡も可能だが、硬過ぎてアイシネンのように現場で吹きすぎた分を削ぐというわけにはゆかない。 現場発泡の場合は、外壁には120ミリ以上厚くは吹けません」 と、命令するように言われた。
そこで、外壁は120ミリ、天井は150ミリ、床は90ミリ吹いたとして、例の通り私がいつも使っている132.5u (40坪) の住宅で、簡単にQ値計算をしてみた。
この場合、204に比べて外壁は95ミリだけ外側へフケる。 スタッド間隔は455ミリで、外壁のU値は約0.21W。
●サッシのU値が0.8Wの場合   Q値は0.83W
●サッシのU値が1.0Wの場合   Q値は0.89W
●サッシのU値が1.3Wの場合   Q値は0.98W
この場合、サッシはスタイルテック社製とし、U値が0.8Wは同社のトリプルサッシ。 1.0Wはドイツ基準によるトリプルサッシの評価。 なお、1.3Wというのは、同社のペアサッシで、最近はこの数値が出るようになったというので、試みに記したもの。
私としては、外壁の断熱厚が120ミリだから、サッシはトリプルを選び、Q値は0.9Wを切りたいものだと熱望している。

これとは別に、エイ&エム社では、206の両面9ミリ4×8のOSBを張り、あっという間に隅々にまで100%断熱材を注入するシスティマチックな方式を考えている。 そして、内側に38ミリの縦胴縁が入って配線・配管空間となる。 その場合、私が手計算したQ値は下記。 
この場合204に比べて外壁は142ミリ外側へフケる。 スタッド間隔は610ミリを考えており、外壁のU値は約0.18Wで、i-smart よりは良くなって、北洲・アルセコの206+80ミリの外断熱並となるので、侮ることは出来ない。
●サッシのU値が0.8Wの場合   Q値は0.78W
●サッシのU値が1.0Wの場合   Q値は0.84W
●サッシのU値が1.3Wの場合   Q値は0.93W
このパネルの最大のメリットは、両面に9ミリのOSBを張るため、クギの長さとクギ打ち間隔にもよるが、壁倍率は8倍近くになる。 なにしろ硬質のウレタンは硬くて潰れず、しかも木部に対する接着力も強い。 このため、8倍の壁倍率が期待できると言う。
梅林社長は、その耐震実験を来春2月までには終えたいとしている。
私個人の意見では、壁倍率は7倍で十分。 これだけの壁倍率があれば、ほとんどのプランが外壁の耐力壁だけで間に合う。 しかも、外壁と内壁には壁倍率1倍の石膏ボードが隈なく施工されるのだから大変に丈夫。 
40年前に故杉山英男先生に、12ミリの合板と12.5ミリの石膏ボードを張った実物大住宅の耐震テストをやってもらったことがある。 合板へのクギは50ミリで、外周間隔は100ミリピッチ。
「実際には5倍の壁倍率しかあげられませんが、最低で見ても7倍の強度はありますね。 ツーバイフォーの石膏ボード張りは、想像以上の強度があるのですね‥‥。本当にビックリさせられました」 と、杉山先生が呆れておられた顔を想い出す。
そして、もし8倍の壁倍率を得たとなると、今度は基礎との緊結が大問題になってくる。
梅林社長は、「とりあえず基礎から2階の壁までの20ミリの通しのボルト (タイロッド) で緊結することを考えている」 と言う。 これがなされると、耐震性だけではなく津波や洪水に対しても威力を発揮すると考えられる。
もちろん細部のディテールは、得られる壁倍率によって左右する。

このような強力な耐震性とQ値を持った住宅の、モニターになってくれる人をエイ&エム社は募集している。 同社は、最終的には自宅を建替えることを計画しているが、これだと現場の都合で年末になってしまう。 なんとか、来春早々に多摩地域で40坪前後の住宅の計画がある人に名乗りを上げて欲しい、と希望している。 
価格はモニター価格で、一条工務店に準じるとのこと。
ただし、いろいろ間取りやデザインなどの希望があろうから、場合によっては設計料を払って設計事務所を紹介することも可能。 
Q値は先に上げた3タイプの中から自在に選んで欲しいとのこと。
そして、私も片棒を担いでいる関係上、プラン作りや現場管理面で、全面的に協力させていただくつもり。 お客様の許しが得られれば、この欄で進行状況の写真などを公開掲載して、最後まで責任をもって見届けたい。
全国各地からさまざまなメールを頂いているが、来春でしかも多摩地域に限定されるということだから、条件に合う人は限られる。 計画のある方は、気軽に相談ください。 よろしくお願い致します。


posted by uno2013 at 07:22| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月20日

高倉氏の葬儀。R-2000住宅に触れる人がなかったのが残念



昨日、高倉俊明氏葬儀に参列してきた。
昨日は大安。 忙しい業界人は前夜の通夜に参列したようだが、所要があって私は通夜には参列出来ず、昨日は3時半に起き、6時25分の飛行機で駆けつけ、やっと間に合った。 
そして、十勝から泊まりがけで参列していた赤坂十勝2X4協会長をはじめ、多くの仲間と高倉氏の業績を偲ぶことが出来た。

今年、ツーバイフォーは 「オープン化40年」 を迎えた。
協会をはじめカナダのCOFI等でいろんな行事を行ってくれている。 
今年の春、高倉氏に会った時、「何とか盛大に40周年記念をやりたい。手伝ってくれないか」 と頼まれた。
しかし、言っていた40周年記念と言う内容ではなく、12月15日にホテル・ポールスター札幌で14:30〜17:00まで 「道産材と枠組壁工法」 というセミナーが計画されている。 道産材のツーバイフォーを使った場合に、住宅支援機構のフラット35の融資が優先的に受けられるようにしたのを記念したもので、有馬孝禮東大名誉教授の記念講演と、石井祐二、平井卓朗北大教授をはじめ、産業界の有志が参加したパネルデスカッションに期待が持たれている。

私が高倉氏と会ったのは、ツーバイフォーがオープン化される前で、44年前のこと。
彼の実家は札幌で建材販売店・よねくらを経営しており、後を継ぐべく東京の建材店に丁稚奉公に出されていた時のことだった。
北米のツーバイフォー工法の生産性の高さと価格の安さに目覚めた彼は、札幌へ帰って仲間作りを始めてくれた。 しかし、建材販売店の立場でいくら工務店に働きかけても、なかなか工務店は簡単に動いてはくれない。
つまり、いくら良いツーバイフォー工法であっても、「実際に建てて見せ、利益を出して見せない限り工務店は簡単には動けない」 ということを悟った。
そこで彼は、建材店とは別に、新規に「よねくらホーム」 というビルダーをベンチャー企業として立ち上げた。
そして、ツーバイフォー工法がオープン化した1974年に、「北の杜団地」 という48区画のツーバイフォー工法の分譲に乗出した。
土地の取得には、三菱商事の神保木材部長が資金面で全面的に支援。 
そして、北海道では初めてのタウンハウスを建設するなどして、札幌にツーバイフォー工法を根付かせてくれた。 
また、ツーバイフォー工法の北海道支部長としての活躍も目覚ましく、とくに十勝ツーバイフォー協会のフレーミング検査員として、毎年新しい指導者育成に出かけ、多大な貢献を果たしていた。

このように、北海道の初期のツーバイフォー工法の普及期には、高倉氏の存在を無視してツーバイフォーを語ることはできない。 
しかし、私にとってはッ―バイフォー工法の高倉氏という立場よりも、ツーバイフォー協会R-2000部会長としての氏の活躍の方が、はるかに大きく印象に残っている。
カナダの資源エネルギー省からR-2000住宅が日本へ紹介されたのは今から26年前の1988年。
このR-2000住宅というのは、紀元2000年までにカナダの全新設住宅のR値を20にしょうというもの。 Q値で言うならば1.3〜1.4Wという高性能にしょうというもの。
札幌のたかくらホームと仙台の北洲ハウジングでは、1988年の時点で、カナダ大使館から資料をもらい、いち早くR-2000住宅に着手していた。 
この両社の活躍ぶりに動かされて、私が関東地域で初めてQ値1.4W、C値0.9cu/uという高気密高断熱住宅に取組んだのが翌1989年。
日本の高気密高断熱住宅は、このR-2000住宅をもって嚆矢とする。

そして、高倉氏に尻を叩かれて、日本の環境にマッチした 「R−2000住宅の設計・施工マニュアル」 を完成させ、建設大臣認定制度として、ツーバイフォー協会の正式な事業として軌道にのせたのが23年前の1991年。
このR-2000住宅は、当初は価格が高く、なかなか軌道にのせることが出来なかった。
しかし、日本とカナダで連続7回に亘るワークショップの開催で、高気密高断熱と、換気に関する共通の理解が深められてきた。 そして、断熱材とPVCのペア・ガラスの供給体制がやっと揃い、日本によねくらホーム、北洲ハウジング、ハーティホーム、マイスターハウスなどの専業住宅業者がスクスクと育ってきた。
片手間でやっていたのでは、お客満足度が得られない。 「専業ビルダーの存在なくして高気密高断熱住宅はあり得ない」 ということが、誰の目にも明らかになり、年間500棟以上のR−2000住宅が提供されるようになった。
しかし、何でも屋だったツーバイフォーの大手住宅メーカー。
三井ホーム、三菱地所ホーム、東急ホームは、何でも屋であるがために、施工を代理店に任せていた。 このため、C値0.9cuという気密性能が担保出来なかった。
完成時に気密テストをすると、いづれも0.9cuをオーバーして、大きなクレームを抱える破目になった。 このため、ツーバイフォー大手メーカーのR-2000住宅離れが進んだ。

折しも、建設大臣認定制度が廃止され、三井ホームの働きかけで協会の専務理事がR-2000住宅に反旗を翻して、カナダ政府の無償行為に後足でドロをかけてしまった。
こうした大手住宅メーカーの謀反行為もあって、R−2000住宅がツーバイフォー協会の認定事業に格上げされてから7年目の1998年に、心痛も重なって、高倉氏は肺ガンを患い入院を余儀なくされた。
ただ、不幸中の幸いだったのは、看護婦の妹の示唆で手術を避けたこと。
だが、トップの入院というアクシデントに見舞われたことで、よねくらホームから次第に生気が失われていった。 
彼が復帰した2000年の年末に札幌へ呼び出されて、銀行筋を一緒に回らせられた。 しかし、効果がなく、翌2001年の1月によねくらホームは閉鎖に追い込まれた。

そして、高倉氏はビルダー時代に築いた人脈を生かして、一時は北海道電力に勤めていたが、2005年には 「北海道住宅の会」 を発足させ、自ら事務局長兼専務理事として、道材によるツーバイフォー材の開拓に渾身の努力を払ってきた。
その一つの成果として、「道材によるツーバイフォー工法への、フラット35の優先的採用」 という成果を今年の秋に獲得している。
そこで、氏の寿命が尽きた。
「法名 光明院釈俊雄」 に合掌。


弔辞を読む北海道住宅の会林理事長.JPG

写真は、弔辞を述べる北海道住宅の会・林理事長。



posted by uno2013 at 14:46| Comment(0) | 産業・経営 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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