ツーバイフォー工法を導入した私に求められたのは、ツーバイフォー工法を完全にこなせられる大工さんの育成。 つまり、即戦力になる技能者の育成だった。
それには、素人の大工さんを1から育てるのではなく、在来木軸で腕の良い 理解度の高い大工さんを教育して、中心戦力部隊になってもらう必要性があった。
もちろん、フレーマーと呼ばれている建て方の大工さんだけではなく、まず設計士と現場監督の教育と研修が欠かせない。 次いで営業マンも‥‥。
それだけではなく、サッシ工、断熱材工、石膏ボードを中心としたドライウォール工、造作大工さんの養成も欠かせなかった。
配線・配管工事をはじめとした内外装の仕上げ工事業者は、気密性の担保方法など、要点だけをマスターしてもらうだけで間に合った。
幸い、私は延べ60日間ぐらいロスとシスコを中心としたアメリカ西海岸で、単にフレーマー工だけでなく、全ての職種の作業を分析し、その高い生産性と、品質管理のIE (インダーストリアル・エンジニアリング) の技術を、直接タイム測定調査で体得する機会に恵まれた。
それだけでなく、アメリカから3人の大工さんを呼んできて、日本全国10ヶ所をキャラバンして回るという 「建て方実演」 に立ち会えるチャンスもあった。
つまり、アメリカの大工さんはどこまで分業化しており、例えば建て方のフレーマーだと1階床組から屋根の野地合板を張り終えるまで、40坪の住宅で平均0.23人工しか要していない。 つまりプレハブ化しなくても、3人で3日間で完全に完成させている。
そのためには、どのような施工図が必要か。 段取りや工程管理はどうあるべきか。 また、クギは何センチの長さのものを何本打つべきか。 などを完全に空んじることが出来た。
アメリカのプロのツーバイフォーの大工さんの仕事ぶりを、全国の大工さんに見てもらい、納得の上でツーバイフォーに取組んでもらった。
こうしたキャラバン以外に、私が直接指導した大工さんは延べ200人近くにも及んだ。
40年前は、腐るほど大工さんがいた。
いろんな大工さん教育研修した結果、素人をフレーマーとして育成するよりも、矩計などを完全に会得したプロの大工さんに話を持ちかける方が、はるかに効率的だということが分かってきた。
そして、私が中心的に働きかけたのは青森の大工さん。
大工さんとしての基本がきちんと出来ているので飲込みが早い。 あっという間にマスターしてもらえた。 中心となる数人には、それなりに時間をかける必要性はあったが、核が出来た後は1ヶ所の現場研修だけでことが足りた。
このため、1ヶ月も現場研修をするだけで、40人近い大工さんはツーバイフォーのプロに変身していただけた。 要は、40人近い大工さんを遊ばすことなく、常に仕事を与え続ければよい。
私の仕事は、途中からコンスタントに仕事をとるという、営業へとシフトした。
そんなわけで、私は協会が行っているツーバイフォー技能者研修とか検定検査には疎かった。
しかし、北海道支部の運営を任されていた高倉氏などは、この技能者研修と検定検査が、次第に重要性を増してきていた。
職業訓練法に基づき、フレーマーの技能検定が2×4協会で始まったのは、ツーバイフォー工法がオープン化して6年もたった1981年から。 北海道支部のフレーマー技能検定試験は1年遅れの1982年からで、年度毎の合格者の推移は下記のとおり。
1982年 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993
8人 18 10 18 18 8 30 10 12 22 17 11
1994年 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
19人 22 18 13 19 20 4 8 8 6 22 10
2006年 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
7人 10 12 4 4 4 7 3 3 累計395人
ピークとなる30人の合格者を出した年は、応募者は100人で、合格率は30%。 単に学科試験だけでなく、寄棟の配付タルキを斜めカットをして 綺麗に納める技能実技が伴うので、どうしても合格率は30%台になってしまう。
そして、2008年に12人という合格者を出しているが、それ以降は合格者は1桁。 昨年と今年は3人ずつという淋しさ。 過去32年間に395人もの合格者を出しているが、今世紀に入っての15年間に出した合格者は112人。 半分近い年で28.4%しか合格者を出していない。
これは、どこまでも北海道支部だけの話ではなかった。
2x4協会がホームページで発表しているのは、平成元年(1989年)から平成24年(2012年)までの受験者数と合格者数。
http://www.2x4assoc.or.jp/builder/act/approval/approval01.html
2x4協会の報告では、1981年から北海道より2年短い2012年までの累計数は、受験者数は全国で9119人で、合格者数は2634人と発表している。 (合格率29%)
そのうち、今世紀に入っての13年間に合格者数は499人に過ぎず、北海道のように2013年と2014年の合格者を仮に100人とカウントしても599人。 今世紀に入っての合格者の比率は北海道より落ちて22.7%と言う数字にしかならない。
つまり、2x4がオープンして40周年を祝っているが、ツーバイフォーの大工さんは減少の傾向にあるのではないかと、この技能検定の数字から懸念される。
その懸念を裏付けるのが、2005年度に住宅保証機構が行ったアンケートに対する回答社・約3800社に及ぶ工務店の省エネ住宅に対する関心度調査。
省エネに対する関心度はさておいて、この約3800社が受注している住宅の大きさは平均で40.5坪。 そして、注文住宅の受注戸数は9戸以下が80%を占めていて、受注金額は2億円以下。
そして、大工さんの年齢は思ったよりも若く、50歳以下が78.6%を占めていた。
この数字がそれからの9年間でどう変わったかに関心が持たれるが、扱っている工法として挙げたのは3800社のうち木軸が96.9%。 鉄骨造が40.2%で、鉄筋コンクリート造が23.2%。
これに対して、ツーバイフォー工法を扱っている工務店はわずかに16.3%。
いずれにしても、これは9年前の資料は古すぎるが、一頃に比べてツーバイフォーの比率が落ちてきているように感じる。
これに対して、今年の1〜3月にかけて、国交省が行った最新の「中小工務店・大工業の実態調査」 がある。
これもアンケート調査で、回答社は約2800社。
この2800社の工務店・大工業の平均新築住宅の受注戸数は5.3戸。 社員は平均4.4人で、常雇用社員・大工さんは1.4人。 社外大工さんで常にかかえているのが3.6人。
木質構造を主体に扱っている工務店数はハッキリしないが、ある統計によると2001年が9.3万社で、2009年には6.8万社に激減している。 そして、2014年にはおそらく5万社前後になっているのではないかという。
先に、ネットフォーラムで取上げた「財界・さつぽろ」による2013年の道民の 48業種に及ぶ賞与を含めた平均年収の推移。
主な15職種の年間平均所得(単位 万円)と、平均年齢を記すと以下のようになる。
職 業 賞与を含めた年収 平均年齢
2011年 2012年 2013年
@ 医 師 1291.5 1381.1 1170.7 43.1歳
A 大学の教授 939.4 836.4 980.5 57.7
B 高校の教員 666.7 593.6 666.8 45.4
C 1級建築士 458.5 517.3 563.1 52.9
D 薬 剤 師 464.7 550.1 536.4 39.0
E 看 護 師 479.3 438.5 480.7 38.0
F 自動車外交販売員 422.3 386.6 449.9 41.0
Gシステムエンジニア 484.3 480.4 444.0 42.4
H 大型貨物運転者 362.1 411.7 429.6 45.1
I 電 気 工 399.6 449.2 393.5 43.1
J 板 金 工 316.4 339.2 357.2 44.9
K 製 材 工 316.7 265.4 345.3 41.4
L 大 工 業 340.9 390.0 240.3 61.3
M タクシー運転者 204.2 209.5 221.2 59.2
N ビル清掃員 206.9 200.0 201.0 55.0
これは、48業種を網羅しており、大変興味深い資料。
しかし、赤坂十勝2x4協会長の指摘にあったように、2013年は消費税の駆込み需要があった年で、大工業が前年に比べて150万円も年収が減ったとは どうしても考えられない。
これは、財界・さっぽろの統計の取り方に大きな手違いがあったのではないかと言う。
そして、北海道でのツーバイフォーの戸建住宅の請負価格は、42万円前後。
常用大工さんの実質手取り収入は、札幌・旭川で1.35〜1.7万円、帯広・函館では1.1〜1.3万円/日というのが常識だという。
したがって、「どう考えても年収240万円というのは納得できない」 という。
しかし、大工の平均年齢が他の業種に比べて特別に高く、60歳を超えて61.3歳となっている。
これに対しては、反論するデータがなく、実態を認めるしかないのかもしれないと嘆く。
それにしても、アメリカの建築職人さんは金曜半ドンで週休2.5日制。
それで、1戸建てないしはオープンスペースが豊かなタンハウスに住めて、社会的な評価も高いジャニーマン。(1人前の職人さん)
日本の木軸を中心とする大工制度そのものが、根本的に問われているのではなかろうか。
さて、建て方のフレーマーは力仕事。 年配の大工さんは、その腕を活かして造作大工に変身することが可能。 しかし、フレーマーには、どうしても若い人材が欲しい。
しかし、先に見たように、日本のフレーマーの検定検査の合格者は年々減少を続けている。
このため、2つの方法がとられている。
1つは、パネル化という形での工場生産化であり、もう1つは外国人の若い建築労働者の導入。
このパネル化という面で、2つの大問題が発生している。
1つは、壁パネルが一体化したものとなっていない点。 この欠点を補うために北海道で広く採用されている2.5〜3.0間毎に金物工法による通し柱を建て、その間に2x4のパネルを嵌め込んでゆくという手法。 20年以上も前に高倉氏に、「北海道で構造認定を取って欲しい」 とお願いしたが、「北海道では当たり前のことで、ワザワザ構造認定をとるまでもない」 と言われ、そのままになってしまった。
金物工法は、「金物を売ろう」 という意慾が強すぎて、いずれも過剰強度。 やたらと材積を食い過ぎていて安くならない。 木軸とツーバイフォーのパネルの一体化というポイントが、金物工法から見捨てられているのは、消費者の立場から言って大変悲しい事態。 是非とも、何とか再考してほしい。
もう一つは、床と屋根もパネル化されて、合板を千鳥張りするダイヤフラムの利点が等閑視されてきていること。 このために、ツーバイフォー工法の耐震性が落ちてきている。
私は構造設計に弱く、何%強度が落ちてきているかを、数値で表現することが出来ない。
しかし、壁倍率だけがのさばってきている現状には、深く嘆きたくなってくる。
もう1つの外国人フレーマーの導入。
ご案内のように、第3次産業の極端な人材不足のために、外国人労働者の導入が凄い勢いで進んでいる。
統計によると、2006年は、@韓国・朝鮮 60万人 A中国 56万人 Bブラジル 31万人 Cフィリピン 19万人 Dペルー 6万人であった。
それが、2013年の昨年は、@が中国の65万人に変わり、A韓国・朝鮮 52万人。 そしてブラジルに変わってB位はフィリピン 21万人 Cブラジル 18万人 D位にベトナムが躍進して7万人となってきている。
住宅業界には、何社かがこのベトナムに働きかけているようだが、必ずしも成功しているとは言えない。
これに対して、フィリピンからフレーマーを導入して成功しているのが一条工務店の i-cube や i-smart。
私は、i-cube や i-smart は、ツーバイフォー工法としてカウントされているものだと信じていた。 たしかにカウントされているかも知れないが、確認申請上は個別認定のプレハブ工法として扱われているらしい。
同社の i-cube 及び i-smart に関しては、1階床組までは在来の木軸工法と同一。
フィリピン人のフレーマーがやるのは1階の壁組、2階の床及び壁組と、小屋掛けだけ。
フレーマーの管理と指導、それと日本における生活に関する一切の面倒は、日本人の大工さん出身者がチーム毎に行っているらしい。
ご案内のように、看護師などは日本の国家試験に合格しなければ日本で仕事をすることが出来ない。 この国家試験をクリアーするために 日本語をマスターすることが、大きな壁になってきている。
しかし、日本のフレーマー検査検定試験というのは、その資格を得なければ日本で働けないというほどの強制力は持っていない。
一条工務店では、フィリピンでフレーマーの募集を行い、徹底した研修を行い、試験に合格した者だけを日本へ送っている。
だが、技術的に優れているからと言って、来日出来るわけではないようだ。
言葉や日本の文化、道徳、礼儀作法、仲間とのコミュニケーションも評価の対象になる。
つまり、日本の技能士とは異なった見方で適性が判断されている。
こうしたことを踏まえ、日本で建設業に携わる外国人の技術と処遇を改善してゆくということは、容易なことではない。
日本のフレーマーの検定制度を、そういったグローバルな立場で見直す必要が生じてきているのだと思う。